百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで 作:流石ユユシタ
冬休みとは普段の休みより、長期の休みである。故に普段なら行けない場所に馳せ参じるのが普通である。
それに去年も行ったのだから今年も行くと言うのは至極当然だ。
「沖縄に旅行に行こうか」
「おおー! 行こう行こう!」
「よし、もう予約してあるからレッツゴーだ! ホエールウォッチングとか色々楽しもう」
「おおー! カイト大好き!」
千秋はもう猛烈に喜んでくれる。大好きとか言ってくれて普通に嬉しい。
「魁人さん、旅行はいつ頃行くのでスか……?」
「うむ、明日からだな」
「あ、明日?」
「サプライズしようと思って黙っていたんだ。すまんな」
「い、いえ」
「よし、全員で荷物を纏めるぞ」
「は、はいっス」
千冬が驚きできょとんとした表情になる。ちょっと前に色々してくれたからな。サプライズ返しである。
「ほら、アンタ達。準備するわよ。全く、浮かれ過ぎよ♪」
千夏はセリフと足取りが全く合っていない。やれやれと言う感じを表面上は出しているがスキップしながら二階の自室に準備をしに上がって行った。それについて行く千秋達。
俺も準備をするか!
◆◆
羽田空港から、那覇空港。二時間以上、時間はかかるが飛行機内は映画やドラマ、多少なりともゲームもできるのでそれほどストレスを感じる事もなく沖縄に到着した。
一月の上旬。埼玉の所沢は肌寒くてたまらないと言うのに、沖縄はそれほど寒いと言う印象は無い。
お兄さんがあれやこれやと、準備をして、予定を見通しを立てて組み立てているから、スムーズに空港についても移動が出来ている。こうやって導いてくれるから安心する。いつもの事のような事だけど……
何だか、お兄さんを安心して、この人について行こうと考えられている事に素直に驚いた。千秋と千冬は勿論だが千夏も一切怪しんでいる事もない。テクテク、お兄さんの後ろをついて行きながらキョロキョロ周りを見渡して目を輝かせている。
好奇心旺盛な千夏の可愛らしさにうちもニッコリである。妹の可愛らしさに辺りの景色が全く入って来なかったが暫く道を進んだ。
◆◆
俺達は徒歩、交通機関を用いて今日の夜、泊まるホテルに荷物を置いた。このホテルは温水プールもあるからあとで一緒に泳ぐなどの予定を話し合いつつまずはホエールウォッチングに向かった。
船に乗って、オレンジ色のライフジャケットを見に付けながら海の上を漂う。
「あ、魁人さん」
「どうした? 千冬?」
「あそこに、クジラいまス!! すごーい!」
千冬がこんなに声を上げて反応するなんて、ちょっと驚いた。遭遇率98%だけど、こんなにすぐに見つかるとは驚きだ。
「ねぇ! あそこにいるわよ! 秋!」
「おおー、クジラってどんな味するのかなー」
「あ、なんかクジラが離れていったっス……」
「もう! 秋! こういう時にそう言う事を言わないでよ。もう、まぁ、写真に収めれてれば別にいいけど」
「それなら、うちがちゃんと撮ってたよ」
「そう? ありが……って、クジラの写真が一枚もないじゃない! 全部、秋と冬と私だし!」
「クジラとか興味ないんだよね」
「ばかぁ!」
千秋がクジラの味を気にするような言動するとクジラが察したのかどんどん船から離れていった。そして、クジラではなく、姉妹をカメラに収める千春。何処に行ってもいつも通りで安心した。
クジラの写真なら俺が撮っておいたから安心してくれ。ホエールウォッチングを終えた後はお昼後の時間になったので昼食に向かった。
◆◆
俺達はお昼はタコライスとか、サーターアンダギーとかを食べた後はパラセイリングとか、色々遊んで時間を潰した。ビックリするくらい充実した時間を過ごせたなと感じて、四人も楽しそうにしていたから尚更よく感じた。
だが、まだまだ遊び足りない千秋と千夏の様子が見えたので、夕食まで時間が中途半端に余ってしまったのでホテルの温水プールでひと泳ぎすることに……。
海パンをはいて、更衣室の鏡の自分を見る。
どうして、もっと筋肉のトレーニングをやっておかなかったんだ……。こう言う時が来ても良いようにどうして、トレーニングをしておかなかったのか。どうして……
何度も頭の中で公開を繰り返す。別にそこまで贅肉がついているわけではない。だけど、物凄い引き締まっているわけでも無い。娘の前では格好のつく姿を見せないといけないのに……。いつもは服を着ているからな、見せることもないし、必要も無かった。
でも、今見せることになってしまった。あー、まぁ、仕方ない……。身だしなみと言う一種の物にカテゴライズされるのか微妙な所だが、今後はトレーニングを重ねていこう。
一人で一喜一憂しながらも更衣室を抜けて、温水プールに向かった。まだ四人は来てはいないようだ。ふと周りを見ていると物凄いムキムキな筋肉を持った父親が小さいお子さんと奥さんを連れて歩ているのが見えた。
何というか、輝いて見えた……
何処に出しても自慢できる保護者とか、父の存在はやはりカッコいい。やはり、今後は筋力のトレーニングも必須にしないと……。と考えてると、後ろから声が聞こえてきた。
「カイトー」
後ろから千秋の声がする。振り向くと千秋がこちらに手を振っていた。千冬や、千春、浮き輪を抱えている千夏。全員青色のスクール水着だ。そう言えば前世でも今世でも小学生くらいの時に同じクラスの女子がこんな感じの格好で水泳の授業受けてたような……。
記憶が少し、あやふやになっているけど……
ちょっと懐かしいような気がした。
「カイト! あっちで泳ごう! 競争しよう!」
「分かった。ただ、俺はかなり速いぞ」
「おー、望むところだ」
千秋にそう言われたら、断れない。今でも泳げるか不安な所ではある。何年くらい泳いでいなかったっけ……。どうでもいいか。そんなことは……。流石に小学生の千秋よりは泳げるだろうし……泳げるよな……?
勝負はあまり本気を出しすぎると千秋が怒ってしまうのでほどほどにしておこう。以前のトランプなどの勝負で俺は学んでいる。
◆◆
「魁人さんの秋がクロール対決してるわね」
「……そうっスね」
「冬? 何怒ってるのよ?」
「別に、怒ってないっス」
「そう?」
ツインテールをほどいて長髪になった千夏がぷかぷか浮き輪の上に乗って浮きながら、千冬にそう聞いた。
千冬は怒っていないと言うが明らかに眉にしわが寄っている。そんな顔したら可愛い顔が……可愛い顔が……全然台無しじゃないね。可愛さのバリエーションがええね。
うん、ちょっと不貞腐れても可愛いなんて。うちの妹は凄い。あー、可愛いー。写真撮りたい。でも、今手元にカメラがない。こんなにも悔やまれることがあるだろうか。
「秋って、魁人さん好きよね」
「そうっスね……」
「やっぱり怒ってるでしょ?」
「別に……そんなこと……」
少し、遠くで競争し終わって千秋がもう一回と悔しそうな顔をしているのが見える。なんだかんだでお兄さんが勝ったようだ。お兄さんって手加減とかあんまりしないんだよね……。
千秋が手を抜かない真剣勝負を望んでいるからそうしてるんだろうけど……。
遠くでお兄さんと千秋が仲良さそうに話して、再度レースの準備を始めた。その様子を千冬は嫉妬の表情で千夏は少し遠い目をしながら見ていた。
「やっぱりさ……魁人さんって信用、出来るわよね……」
「そう、っスね……」
「前にも言ったと思うけど……私、
うちも以前、千夏に相談されたことがあった。超能力の事を言っても良いかと。うちはどちらでも良いと答えたけど。
「秋にだけは、まだ、聞けてないんだけどさ……。あの感じなら、良いって、そうしようって言うだろうし……そしたら、
「……うん、なれると思うっスよ。もしなれたら、千冬も敬語やめて……崩して、馴れ馴れしく、話したいっス」
「うん。私もいい加減敬語やめるわ。春は、本当に言って大丈夫?」
「大丈夫だよ。うちは三人を尊重するから」
「……そう」
含みのある返事を千夏はした。何か訴えるような目でうちの目を見る。首をかしげて、どうしたのかと目線で聞き返すと千夏は何でもないと視線を逸らした。
「じゃあ、秋に聞いて良いって言われたら今日の夜言うわよ」
「ええ!? きょ、今日に言うんスか!?」
「そうよ! こういうのは言っちゃったほうがいいわ!」
「も、もうちょっと先でも」
「ダメよ! 言うわ!」
千夏の確固たる意志の前に千冬は何も言えず、従うと言う選択しかない事を悟ったようだ。
「う、ううぅ、で、でも……」
千冬はいきなり過ぎて心の準備が出来ていない。千冬の気持ちも分かるけどね、多分、千夏は止まらないよ。
「今日よ、今日の夜。お腹いっぱい夕食食べて、その後、寝る前に告白して、清々しい気持ちで睡眠するってもう決めたのよ!」
うん、やっぱり……。今回は千夏に譲るしかないね。どうにもこうにも自分の考えを譲らない。
「よーし! やってやるわ!」
千夏がぷかぷか浮く浮き輪の上で覚悟を決めながら拳を突き上げる。うちは別に否定はしない。千夏がそうしたくて、千秋と千冬も納得していればそれでいい……はず。
でも、何だが心がざわつく。否定をする材料など何一つありはしないのに。
……本当に言うのかな? 言ったら……どうなるの? 本当に受け入れてくれる? 疑心暗鬼になってしまう自分の感情はどうでもいい、はずなのに……。どうしてもそれを気にしてしまう。
なんだろう……この感情は……。落ち着かない心に違和感を拭う事が出来ずに時間は過ぎて行った。
◆◆
ご飯を食べ終わり、温泉に浸かって一日の遊び疲れを取った後、うち達は五人でトランプゲームをして夜の時間を過ごしていた。同じ部屋の一つのベッドの上に全員で座ってそこで娯楽の時間を過ごす。
ババ抜き、大富豪、神経衰弱色々していくうちに時間は九時を回る。
「ううぅー、また、負けた……もう一回!」
「でもな、千秋。もうすぐ寝る時間だぞ?」
「やだ! 負けっぱなしじゃ眠れない!」
千秋が広げられたカードを再び集める。何度やっても千秋が最下位になってしまうからムキになって勝つまで絶対やめないと言う状況になってしまう。誰もが苦笑いの状況の中、お兄さんのスマホに電話が掛かってくる。
「あー、すまん。ちょっと抜けるな」
「分かった。次の準備しておくから戻ってくるんだぞ!」
「お、おう」
負けず嫌いの千秋の眉を顰めた顔に苦笑いしながら一旦、お兄さんは電話に出る為に部屋を出て行った。今は四人、丁度いいと千夏が千秋にあのことを聞こうとする。温泉の時とか、四人きりになれる場所はあったけど、周りの目とか色々あるから中々適した場所が設けられなかったのだ。
今が最適だと千夏は思ったのだろう。千冬も少し緊張した顔になる。
超能力の秘密をお兄さんに言っても良いのかと、千秋に確認を取る。もし、それで了承が取れたら話す。
それだけなのに異様な緊張感が漂う。
「ねぇ」
「ん?」
「その、さ。私」
「なに? ちゃんと言って」
「うん。単調直入に言うわね」
「うん」
千秋はカードを集めながら千夏の話を聞く。特に目を合わせずなんてことないと言う雰囲気で話が続く。
何だろうか。この胸騒ぎは。千秋はきっとそうしようと、お兄さんなら信じられると言って肯定をして、支持をするはずだと思うのに。
「私はね……魁人さんに、超能力の事を話そうと思ってるの」
「……」
「それでね、もう、春と冬は了承してるって言うか。だから、あとは、秋だけ……。秋がそうしようって言ったら満場一致で魁人さんに……ねぇ? 聞いてる?」
――カードを集めていた、千秋の手が止まった
怒っているわけでも、悩んでいるわけでも、迷っているわけでもなければ、悲しんでいるわけでも無い。虚無のような眼が、千夏に向いた。
「意味、……分からない……、なんで、そんなことするの?」
「何でって、そんなの、決まってるじゃない。本当の家族になりたいから」
「なんで? ……超能力の話すこと……が本当の家族の証に……なるの?」
「……そ、それは。でも、秘密をいつまでも隠しておくのが筋じゃないわ」
「秘密くらい、……誰でもあるよ……、カイトだってあるよ……」
静けさ。それがどんどん際立っていく。千秋のこの感じは以前の、西野が告白したときと同じ……。
「だとしても、私は知って欲しい、そして、受け入れて欲しいの」
「そうなんだ……」
「魁人さんならきっと、話したら、受け入れてくれるわ」
「……なにも、分かってないね」
「なんですって?」
千夏が少し、不機嫌そうな眼を千秋に向ける。
「カイトが話したら受け入れてくれるなんて、知ってるよ……、ずっと、分かってた……。千夏より先に、
「……」
「でも、そうじゃないよ。カイトは優しいから……受け入れてくれる、それがどんなに突拍子が無くても摩訶不思議でも、
「だから、それをしようと……」
「話すのと、実際に見て、感じるのは全くの別物だよ……。見たら、恐怖するかもしれない……最初は大丈夫でも、ずっと居たら、いつしか、急に恐怖に変わるかもしれないんだよ……」
「それでも、その時は、皆で、分かり合えば、いいじゃない……」
「……そっか……この気持ちは、私にしか分からないんだね……。カイトは優しいから、笑顔で受け入れてくれる、恐怖を抱いてもきっと一緒に居てくれるんだよ。でも、その時、一歩下がるかもしれないの。カイトが……」
「……」
「
千冬も、うちも口を出せなかった。千夏もそれ以上口を出せずに、固まってしまう。
「カイト、そろそろ、戻ってくるから……。変な事言わないでね」
そう言って、再びカードを集めてそれをケースにしまった。もう、遊びはしないと言う事なのだろうか。それと同時に部屋のドアが開いた。
「あー、すまん。佐々木のやつが……なにかあったのか?」
「うんうん、何でもないぞ! それより、カイト、今日は一緒に寝よう!」
「え、あー、でも、俺隣の部屋を」
「いいから! 気にしないぞ!」
とんとんとベッドを叩く千秋。先ほどの虚無感はどこかへ行ってしまい、いつものニコニコの可愛らしい笑顔に戻っていた。
「い、いや、でもな……」
「シクシク、我悲しい……」
「くっ、分かった……」
「わーい!」
困り顔でお兄さんはベッドに一旦腰を下ろす。そうすると千秋がお兄さんに抱き着いた。
「ど、どうした?」
「うんうん、なんでもないの、なんでもないから……だから、一緒に寝て?」
「? あ、うん、分かったけど……千夏、千冬、千春、なんかあったのか?」
「いえ、なにも」
「ないでス……」
「気にしないでください、お兄さん」
「そうか……」
お兄さんも若干の違和感を覚えているようだったが、それ以上は何も言わなかった。いつも以上に強く抱きしめる千秋にも、違和感を覚えているようだったけど、何も言わずに、横になった。
そして、その後は、誰も話さなかった。
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