百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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81話 六年生前

 懐かしい夢を見た気がする。記憶が混同していて、あまりよく覚えていないが僅かに過去の自分を見た気がしたのだ。

 

 目を開けて、天井をぼんやりと見上げる。そして自身の手の平を見る。これは、俺の手……だよな。いつも、の手だ。

 

 少しの間、ぼんやりとした時間を過ごす。何もせずボケっとしてはいたが、大事な事を思い出す。朝ごはん作らないといけない……俺には今はやることがあると。そう思って体を起こす。

 

 せわしない感じで飛び起きたが、それと同時に部屋のドアが開く。そこにはエプロン姿の千秋がドドンとドヤ顔で腕を組んで登場した。

 

「おおー、カイト起きたか!」

「おはよう。千秋」

「今日は我が朝ごはんを作ったぞ! さぁ、早く食べよう!」

「そうか、ありがとうな」

 

 こんなことを思うのはあれだが、千秋が俺より早く起きているなんて珍しい。いつも寝坊助で寝起きも少し悪いと言うのに……。それにジッと俺の目を見ているのが少し気になる。

 

 目を見ていつでも話せるのが千秋の良いところではあるけど……いつもの事なんだが、今までとの瞳の強さが違うのがハッキリと分かった。

 

 

「どうしたんだ? カイト。朝ごはん……」

「ああ、うん……」

 

 

グイグイと手を引っ張って部屋から俺を連れ出す。階段を下りてリビングに入る。部屋には既にご飯のいい匂いが漂っていた。千冬と千春も既に起きているようで挨拶を交わして席に着く。朝食は味噌汁と……卵焼き……そして……

 

「えっとね、今日は朝からこのシラスと海苔とネギと我が作った、この特製の甘タレをかけた特製丼ぶり。名づけて……アルティメットご飯!! この味には勝てんぜ……カイトは……」

「そ、そうか。ありがとうな」

「朝からスタミナつけて!」

 

 

ニコニコ笑顔でそう言われる。俺の体を案じて朝からスペシャルな朝食を用意してくれるなんて……これは確かに勝てないな……。

 

 

「さぁさぁ! 食べて食べて!」

「いただきます」

 

 

目をキラキラさせながら急かすように言う千秋。俺は手を合わせてそう言うと、箸を持って千秋特製の朝ご飯を口に入れた。

 

 

 

 

◆◆

 

 朝からうちには驚くべきことのオンパレードだった。まず千秋が早起きして朝ごはんを作っていたのだ。千冬よりも早起きして……。

 

 いつもいつも、寝坊助さんの千秋が……。そのせいで、うちの朝のルーティーンである可愛い千秋の寝顔を見ると言う事が果たせなかった。

 

 そして、千秋のお兄さんを見る眼が変わっていた事にも驚いた。前より強い意志をその目に宿して、お兄さんを起こして、朝食を振る舞っている。隣でうちと千冬も食べてはいるけど、今は何よりも千秋はお兄さんを優先していた。

 

「美味しい……」

 

 

 千秋の朝食を食べたお兄さんが驚愕の表情でそう言った。お兄さんが驚いた表情をするのは新鮮だ。それほどに、お兄さんの予想を超えるほどに美味しかったのだろう。

 

 

「ふふふ、我、カイトの事考えて真心込めて作ったからな!」

 

 

そう言いながらドンッと胸を叩く千秋。そしてドヤ顔で胸を張る。前より胸の強調が強くなっている気がする。成長を続けている千秋。きっとその進化は光よりも早いのだろう。精神的にも身体的にも。

 

 

「そうか……ありがとうな」

「えへへ……どういたしまして! 我、今日からカイトの()()()()()になる! 沢山願いを叶えるからな!」

 

 

そう言う千秋に面食らったような表情をするお兄さん。朝からそんな発言をされるとは思ってもみなかったのだろう。隣で千冬がライバル!? っと慌てたようにあわあわしているのが目に入る。

 

 

千秋。本当に急にどうしたんだろう……。昨日までとは全然違う。

 

その後もずっと、お兄さんに尽くしまくり。ネクタイとか、お皿洗いとか、自分から全部をやって行く。お兄さんにお礼を言われるたびに華のような可憐な笑顔を浮かべる千秋。

 

千秋って、尽くされるより、尽くす方が好きなのかな。

 

 

慌ただしい朝が過ぎて行った。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 今度の小説大賞にはどんな小説を送ろうかしら……。私は考える人のポーズで必死に頭を回していた。教室を見渡してネタがないか探す。うーん……

 

「メアリー、どうしたの?」

「うん、ネタがないか探してたの」

「ふーん」

 

 

 千秋がこちらに気づいてあたしの席の前に登場する。この子は意外とあたしの小説のネタを一緒に考えてくれるのでありがたい。

 

「次はどんな主人公が良いと思う?」

「うーん……」

「優しい感じの人が良いと思ってるのよ」

「じゃあ、カイトみたいな感じの主人公が良いと思う!」

 

 この子、相変わらず魁人って人が好きなのね。今みたいに事あるごとに魁人の話するし。あまりに話すから、もう、あたし会ったことないのにその人の事知り尽くしてるんだけど……

 

「本当に好きね。魁人さん……」

「うん!」

 

 なんて、屈託のない笑顔。自信満々に保護者をこの年代で大好きって言う人あんまり言える人が居ないのに言えるのは素直に凄いわ。

 

 いや……保護者……ではないわね……

 

 異世界転生の鑑定眼のようなスキルは持っていないけど、それなりの時間を過ごしていれば馬鹿でも分かる。この子の好きと言う気持ちは明らかに親に向けるような物ではない。

 

「ねぇ、魁人さんの事、好きって言うけど……それってどういう好き?」

「……? 好きは好きだぞ? でも、うーん……」

 

 

 あ、これ自覚してない奴ね……。あんまり分かってない……。うーん……どうしたものかしら……。多分だけど千秋の妹の千冬も魁人さんの事好きでしょ? 姉の千夏は……あたしの恋のスカウターには反応ないわね……。長女の千春は……どうやら反応ないわね。気を隠している可能性もあるけどそれは今は置いておきましょう。

 

 

 

 まぁ、この四つ子姉妹。全員嫌いではないけど……あたしとしては、やっぱり一番親友として千秋に幸せになって欲しい。もし、全員がその魁人さんって人を好きになってしまったら昼ドラみたいにドロドロするかもしれない。それはないとしても、誰かに盗られて千秋が泣くって事も……

 

 

 これは……あたしが恋を押すしかない。

 

 

「もしかしてさ……千秋は魁人さんの事……恋愛的な意味で好きなんじゃない?」

「え……? わ、我が、カイトを?」

「そうよ。思ったことない? 手を繋いでデートしたいとか」

「う、うーん? で、でも、よく一緒に買い物行くから……良く分かんない」

「キスしたいとかは」

「き、キシュ!? ちゅっちゅは恥ずかしいぞ!」

 

 

あ、好きとか堂々と言うくせにこういう事は恥ずかしいんだ……

 

 

「じゃあ、お付き合いしたいとかは思わない?」

「うーん……それはない、かな?」

 

 

あれ? もしかしてあたしの勘違いだった? 実は恋愛的な意味の好きじゃなくて、家族的な意味での好き?

 

 

なーんだ、あたしの勘違いか……まぁ、そうよね。そうそうラノベみたいなシチュエーションの恋が現実にあるわけが……

 

 

「でも、カイトと結婚するのは良いかなって思った事はある」

 

 

 

――事実は小説より奇なり!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

なにそれ! 絶対抱くことのない感情ジャン!! これ、見たらわかる、好きな奴じゃない!!!!

 

 

「そ、そう……け、結婚……そこまで……恋飛び越えて……愛じゃよ、愛ってこと……ええー、嘘……」

「でもね、我はカイトと結婚しなくてもずっと一緒に居て、側で誰よりも支えたいの。だからこれは、恋ではないような……気がする」

 

 

 恋より、とんでもない形で昇華した愛……ね。ちょっと迷ってる感じはするけど、多分もう答えは出ているのね……。恋を応援するとは決めたけどあたしの出る幕はないかも……。マリカーで例えるなら、明らかに千秋がトップ。

 

 あたしが出るだけ邪推……いや、でも、最後の最後の長女がキラーに乗って異常な追い上げてくるかもしれない。次女が青甲羅投げたり、末っ子がスターで追い上げしたり……

 

 

 やっぱり、恋の応援……いえ、愛の応援をしましょう。

 

 

「あたしはアンタを応援するわ!!」

「う、うん? 良く分からないけど分かった……うん、じゃあ……そろそろ卒業式の全体練習始まるから廊下に並ばないと怒られるぞ……?」

「そうね。行きましょう」

 

 

あたしに任せておきなさい。ありとあらゆる二次元恋愛を分析をしてきたあたしが絶対アンタをメインヒロインの千秋√を確立してあげる!!

 

 

 

 




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