Ice Time 作:アイスめぇん
残暑が蔓延る九月の某日。
制服にそれぞれ身を包んだ伏黒と雨里の二人は、手ぶらで集合場所へと向かっていた。
「………そろそろ、寒くなってくるかな」
「嫌そうだな」
「そりゃあ、嫌だよ。冬はあんまり好きじゃないから。あ、でも、夏日の冷房もあんまり好きじゃないかも」
ピーコートに厚手のマフラーという真冬の格好をした雨里は、穏やかな目で空を見上げた。
穏やかな晴天だ。雲が所々に確認できるが、それも白いもので雨雲ではないだろう。
「東堂先輩の相手、伏黒君がやりたかった?」
「………それを決めるのは、俺じゃない。交流会は、集団戦だからな。術師同士の戦いよりも、呪霊を祓う方に専念すべきだろ」
「まあ、そうかもね」
話題はもっぱら、交流会について。大まかな作戦は、動きの読めない東堂を雨里が足止めして残りの面々は、感知が得意な伏黒とパンダを主軸にして呪霊狩り。作戦の肝は、狗巻を単独で動かす事。
もっとも、作戦だなんだと言ってもそれぞれの臨機応変さが求められることは否めない。
東堂が速攻で雨里を潰してしまうかもしれないし、京都校全員が呪霊よりも先に術師を潰しに来るかもしれない。最悪、狗巻が呪言を放つ前に戦闘不能にされてしまう可能性もある。
交流戦と呼ばれるものの、結局のところ術師の戦闘だ。生死に関わらなければ、後遺症が残らない程度に呪い合う。
程なく集合場所へと辿り着けば、既に二年生の面々がそろっていた。
「遅いぞ、一年共ー……野薔薇はどうした?」
「おはようございます、真希先輩。釘崎さんは一緒に来たんじゃないんですか?」
「いや?ちょっと体動かしとこうと思って私は早く出たんだよ。時間は教えてるし問題ないだろ」
肩をすくめる真希に、それもそうかと雨里も頷く。
そして、釘崎の話題が出た所でそういえば、と彼は顔を上げた。
「そういえば、伏黒君。釘崎さんの事なんだけどさ」
「なんだ?」
「いや、この頃彼女と話してて妙に嚙み合わないな、と思ったんだ」
「噛み合わない?………そ―――――」
「何で皆、手ぶらな訳!?」
伏黒の言葉を遮ったのは、合流してきた釘崎の悲鳴のような驚きの声だった。
五人が声の主へと目を向ければ、何やら大荷物な、それこそこれから旅行にでも行くのではないかと言わんばかりにスーツケースを引きずった釘崎の姿が。
「………噛み合わない訳だね」
「だな」
野郎二人が頷いた。代表して、パンダが問う。
「オマエ、なんだその大荷物」
「え、だって………これから京都に行くんじゃないの?」
「えっと、釘崎さん。これから、交流会だよ?」
「だから、京都
「京都
「うそでしょ~~~~!?」
パンダの説明に、ようやく勘違いが解消された釘崎の悲鳴が木霊する。
一方で、ここ最近の疑問が解消されたのは、勘違いしていなかった面々。
「まあ、紛らわしいっちゃ紛らわしいわな」
「日本語って、難しいですよね」
「俺も雨里も勘違いは無かったけどな」
「教えてあげればよかったかな………そういえば、先輩たちは去年は出てないんですか?」
「まあな。元々、交流会は二年、三年のイベントだし」
「つっても、去年は憂太の奴が出た。里香の解呪前だったから、圧勝だったらしい」
「おのれ、乙骨憂太ァ!許さんぞォ!」
「釘崎さん、しっかり………それにしても、凄いですね乙骨先輩って。去年ってことは東堂先輩も居たってことじゃないですか」
四つん這いに絶叫する釘崎の傍でおろおろとしながら、雨里は感服する。
京都の先輩、東堂の実力は実際に戦って身に沁みってわかっている。だからこそ、そんな相手のいる京都校に圧勝する乙骨という先輩への驚きがあった。
その後、四つん這いで項垂れる釘崎をどうにかこうにか宥めすかしていれば、真希が来客に気が付く。
遠目にもわかる奇抜な集団。いや、呪術師の格好は大抵どこか奇抜であるのだが。
「来たな」
京都校の面々も、そのパンチは東京校の面々に勝るとも劣らない。
大柄な東堂。見た目平安な加茂憲紀。魔女っ娘な西宮桃。完全ロボットな究極メカ丸。普通な三輪霞。そして真希の双子の妹である禪院真依。
「お出迎え?気色悪いわね」
「乙骨居ねぇじゃん」
煽ってくる真依と、露骨に顔しかめる東堂。
一方で因縁のある、というかどちらかというと血の気が多く短気な釘崎が食って掛かる。
「おう、菓子折りよこせや。はよ出せコラ。八つ橋、葛切り、そばぼうろ」
「しゃけ」
「腹減ってんのか?」
「完璧に、チンピラのカツアゲだよ釘崎さん」
中指立てそうな勢いの釘崎と、そんな彼女を止めない狗巻。
彼女が睨むのは京都側。より正確に言うならば、少し前に一悶着あった真依に対してだ。
「怖っ………」
「一年三人、カ。ハンデが過ぎるんじゃないカ?」
「呪術師に歳は関係ないよ。特に伏黒君。彼は、禪院家の血筋だが……宗家の人間よりもよっぽど出来がいい」
「チッ」
「何か?」
「別に。何でもないわよ」
京都校の全員も仲良しこよしではない。というよりも、加茂がナチュラル煽りスト。典型的な空気を読むことが苦手なタイプで、同時に大切なところで言葉が足りない。
纏まりに欠ける面々。そんな彼らの引率はというと、
「はーい、そこまで。内輪で喧嘩するんじゃないの」
遅れて階段を上ってきたはかま姿の女性、庵歌姫。彼女は問題児の多い自分の生徒に一つ息を吐く。
「で?あのバカは?」
「悟は遅刻だ」
「あの
「誰も、馬鹿が五条先生の事だなんて言ってませんよ」
これだけ見ても、五条悟という呪術師の尊敬とか人徳の値が分かるというもの。少なくとも、その実力などは信用信頼されていても、尊敬されていない。主に、七海と似たようなもの。
ただ、件の彼というのはタイミングを見計らっていると言われてもおかしくないような時に現れる。
今回もそうだ。
「おっまたせーーー!」
台車を押して、
「いやー、僕って少し前まで海外出張してましてね。タイミングがタイミングですし、京都校の皆さんにはこうしてお土産を買ってきたわけですよ」
「なんか語りだしたぞ」
「ほらほら、これ見て。どっかの民族が作ってるお守りね。あ、歌姫のは無いから」
「いらねぇよ!」
「んで、こっちは東京校のみんなへのお土産となります!」
気炎を上げる庵を無視して、五条は機嫌よく台車に乗った箱を東京校の面々の下へと持ってくる。
ただ、先程のお土産を見たばかりであるからかその期待値は最底辺といったところ。むしろ、ここでそこまで喜べるようなお土産が出てくるなど、少なくとも彼らは期待してはいなかった。
だからこそ、
「故人の、虎杖悠仁君でぇーす!」
「はい!おっぱっぴー!」
空気が死んだ。楽しそうなのは、サプライズ()をぶちかました二人のみ。
「………あれ?」
虎杖、気づく。全く受けてない、と。再会を喜んでくれそうな、同級生三人すらも情報が全く完結しないのか変な顔で固まっている。二年生も言わずもがな。
そして、京都校側へと目を向ければ、そっちはお土産に夢中。誰も彼を見ていなかった。
「………………はぁ~~~………」
動いたのは、雨里だった。両手で顔を覆って大きく息を吐きだしながら、その場に座り込んでしまう。
キャパオーバーだった。もう色々と精神的につらかった。そして、そんな彼の肩にパンダと狗巻が慰めるように手を置く。
崩れた雨里に代わり、動いたのは釘崎。
少し強めに虎杖の入った箱を蹴る。
「おい、何か言う事があんだろ?」
「え」
言われ、固まる虎杖だが彼女の目には若干の涙の薄い膜が張っており、固く結ばれた口は何かをこらえているように見えた。
自然、その口は言葉を紡ぐ。
「その………生きてるの、黙っててすいませんでした……」
かくして役者は揃う。交流会に波乱を添えて。