Ice Time 作:アイスめぇん
呪術高専姉妹校交流会。一日目の競技は団体戦。
これは、一定の区画内に放たれた2級呪霊を討伐することを競うというもの。討伐目標以外にも3級呪霊などが幾つか放たれており、制限時間内に決着がつかなかった場合は、討伐数の多い学校の勝利となる。
「勿論、妨害行為などはありだ。ただ、あくまで君たちは呪術をもって呪霊を祓う呪術師。ともに轡を並べ戦いに臨むこともあるだろう。交流会は、仲間を知り、力を知ることで互いの理解を深めるという目的もある。相手を殺したり、再起不能にするような怪我を負わせる様な事は無いように」
教育者としての立場からの訓戒を述べながら、夜蛾はサプライズ()をかましやがった
一応、五条自身も黙っていた事には思うところがあるのか甘んじて罰を受けているし、生徒もそして教員も彼らを助けるようには動かない。
そんな中で手が上がる。
「あの、夜蛾学長」
「なんだ、京平」
「いえ、虎杖君が入ると東京は七人で京都校より多くなりますけど。いいんですか?それとも、一人抜けた方が良いですかね?」
雨里の疑問。それは、公平さを加味してのものだった。
人数の差というのは、それだけ出来る事の差が増すという事。呪術師ともなれば、呪霊を祓うにしろ、足止めに徹するにしろ手札が増える。
しかし、
「別に気にすることないよ、京平。呪術師の戦いで公平さがある場合なんてまずゼロなんだから」
技を掛けられる最強教師は、一笑に付した。一段階技のキメが強くなる。
そして、五条が痛めつけられる様を楽しんでいた庵が一歩前に出た。
「貴方、名前は?」
「え?あー、えっと、雨里京平です」
「そ………………あの男の教え子の割にかなりマトモよね」
「ええっと、庵先生?」
「まあ、良いわ。雨里、貴方の言いたいことは分かる。でもね、交流会で公平な勝負何て今までも無かったのよ。そこの男みたいに、どれだけ数が居ても意に介さない奴とか居たからね」
一瞬、五条を睨む目がものすごい鋭さになったのは気のせいではないだろう。
ただ彼女の言うように、術師の術式は千差万別。同じ術式でも、使用者の技量次第でその破壊力も規模も大きく変わる。
何より、後日の個人戦はともかく、団体戦では人数違いのあった試合も過去になかったわけではない。
「ま、その辺は気にしないで」
「はあ……」
「京平。その辺りは教師の領分だ。お前の気にすることじゃない」
「わ、分かりました」
頷く雨里を確認し、夜蛾は続ける。
「他に質問はないな?では、団体戦開始の正午まで解散」
この一言を皮切りに、生徒たちはそれぞれの学校で纏まり散っていく。
その背を老獪な瞳が鋭く睨んでいた
*
東京校側ミーティング。
土間に正座させられた虎杖は、その手に黒い額縁を持たされ宛ら遺影のような恰好を強いられていた。
「あのぉ………これは、見方によってはいじめにでも見えるのでは………………」
「ウルセェ、しばらくそうしてろ」
「あ~、雨里?」
「まあ、始まるまでの辛抱だよね」
そっぽ向く釘崎と傍観している伏黒は助けてくれないと判断しての雨里という選択肢だったが、当の彼には呆れたような笑みを向けられて有耶無耶にされてしまう。
虎杖が生きていたことを、彼らは疎んでいるわけではない。むしろ、生きていたことを喜べる程度には吉報だ。
だがしかし、それはそれ、これはこれ。言えない理由があったと説明されようとも、それでも一報位は欲しかったというものだ。
一年面々の気持ちは推し量れる。推し量れるが、だからといってギスギスした空気のままではこの後の作戦行動にも支障を来す。
という訳で、割と機微を読み取れるパンダが割って入ってくる。
「はいはい、そこまでそこまで。野薔薇もその辺にしときなさいって。説明もされたろ?いうに言えない事情があったって」
「しゃけ」
「今更だけど、パンダが喋ってる……それに、しゃけ?」
「パンダ先輩と狗巻先輩だ。狗巻先輩は呪言師で、言霊の強制・増幅だから安全面を考慮して語彙を絞ってんだ」
「それって『死ね』って言ったら相手も死ぬってこと?最強じゃん」
「いやいや、そう上手い話でもねーんだよ。強い言霊は、相応に反動がある。実力差とかもな。だから、語彙を絞るっていうのは棘自身の身を守るためでもあんだよ」
「ふーん」
納得したように頷く虎杖だが、呪術師として見るならばあまりいい顔はされないだろう。それこそ、釘崎などは渋い顔。
「人の術式ペラペラしゃべるってどうなのよ」
「まあ、棘の場合は仕方ねぇよ。野薔薇や恵、京平の術式みてぇに注意云々じゃどうにもならねぇからな。それよりも、悠仁」
「うっす」
「屠坐魔返せよ。悟に借りたろ?」
言って、右手を出してくる真希。
少しの間を空けて、虎杖の額を冷や汗が伝った。
屠坐魔というのは、最初の実地訓練の折に五条より貸し出された剣鉈の様な呪具の名称だ。そして、彼の頭の中ではとある図式が浮かぶ。
要するに、五条は真希より呪具を借り受け、それを虎杖に貸与。そして呪具は、虎杖が死亡した少年院にて特級呪霊により破壊された。
知らなかったとはいえ、破壊の結果を導いてしまったのは虎杖だ。
「ご、五条先生が、持ってるよ………」
選択したのは、矛先をずらす事。思惑通り、真希の矛先は五条に向いた。そして、屠坐魔がどうなったのかを知る伏黒の冷たい視線が虎杖へと向けられる。
だが、虎杖の立場であったならばその場を逃れたいと思う心理も理解できるのではないだろうか。
そうして話題も一段落。本題へと向かう。
「それより、どうする?悠仁が入って数は有利でも、作戦とかは修正だろ?」
「まあな。悠仁お前、何ができる?」
「殴る、蹴る」
「そういうのは間に合ってるんだよなぁ」
呪術師の戦闘による肉弾戦が少ない訳では無い。むしろ、呪霊との戦いでフィジカルを求められることは珍しくない。
ただ、今回の場合であると少し毛色が違う。フィジカル面では、真希とパンダが居る。伏黒と雨里も術式との併用になるが、体術面はある程度マシになった。
故に求められるのは、狗巻の様なトリッキーさ。場を攪乱できる手札が増える方がよかったのだ。
しかし、そこに待ったをかけるのは伏黒。
「いや、仮に京都校含めて呪力無しの肉弾戦なら、虎杖が勝ちます。こいつが今まで何してきたのかは分かりませんけど、肉体面では東堂よりも上だと思います」
言い切った彼に、真希は眉を上げた。
「へぇ、
「はい?」
「現状、東堂とやり合ったのは、お前と恵だけだからな。お前はどう見る?」
「そう、ですね………単純な肉体面なら、多分虎杖君の方が上です」
それは太鼓判、の様に見えてその実含みのある肯定だった。
体術の授業などである程度知る虎杖の身体能力と、これまた全力ではない東堂との手合わせ。雨里にしてみれば中途半端な材料しかない状態での判断だがそう下した。
ただ、その言葉の中には技術という点が抜けている。
手合わせの経験から、雨里は東堂が単なるフィジカルゴリラではないことを知っている。いや、鍛えられた肉体の馬力は無視できないものではあるのだが。
体術は、ただ肉体が強ければ制することが出来るほど温くない。
故に、伏黒の様に勝てる、とは明言しなかった。
言葉の裏が通じたのか、通じていないのか少しの間を置いて、真希は頷く。
「よし、東堂の相手は悠仁、お前に任せる」
「オッス!」
「んで、京平は別動隊。私らの方に入れ。呪霊狩りだ」
「了解です」
それぞれの返答。そして、時計の針は進み正午が近づいてくる。
開始地点へと向かう道すがら、雨里は肩を回していた。正確に言うと、関節のメンテナンスと若干の緊張をほぐすためでもある。
本気でなくとも、互いに術式をぶつけ合う事になるだろう交流戦。若干の硬さを覚えても仕方がないだろう。
かくして始まる呪術合戦。だが、暗雲は直ぐそばに迫っていた。