Ice Time   作:アイスめぇん

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『えー、開始一分前となりましたが、ここで京都校引率の歌姫先生からありがたいお言葉がありまーす』

『はあ!?ちょ、いきなりそんな―――――』

 

 気の抜けるようなやり取りがスピーカーより響く。その内容は、どこぞの小学生のいたずらの様な子供っぽさが滲む。

 

「………五条先生って、割とこういうところあるよね」

「………」

「ガキから成長しきれてないのよ」

「てか、五条先生と京都の先生って知り合いなのな」

 

 教え子たちも微妙な表情。一番付き合いの長い伏黒はジト目であるし、釘崎は小学生かよ、と引いている。雨里は苦笑いで、虎杖に関してはそも着眼点が違う。

 結局、五条としては単に庵を揶揄いたかっただけらしく、どうにかこうにか詰まり詰まり言葉を紡いでいたのを遮り、スタート合図をかます。

 始まる団体戦。両校揃って集団で、行動開始。

 

「ボス呪霊ってどこにいるかな」

「放たれたのは、東京校と京都校のちょうど中間って話だけど、まあその場に留まっちゃいないだろうな」

 

 一定の区画と言えども、決して狭い範囲ではない団体戦の会場。大規模な術式を発動しても余りある範囲であるのだが、それ以上に見るのが探索能力である。

 呪術師の仕事は呪霊を祓う事、呪詛師の捕縛もしくは抹殺。どれも、探索能力が無ければ苦戦するだろうし、不意打ちなども受けやすくなるだろう。

 程なくして、前を行く玉犬が一声吠えた。見れば、蜘蛛のような見た目の3級呪霊の姿が。

 それぞれが構える、がそれよりも更に無視できない相手が迫っていた。

 

「―――――いよぉーしッ!全員、居るなァ!」

 

 樹木をへし折り現れる東堂。その目に映るのは呪霊、ではなく対戦相手である東京校の面々。

 相手は単独。待ち伏せの様子も無ければ、彼らが取るのは作戦通りの行動だ。

 真っ先に飛び出したのは、虎杖。前までの彼ならば、掴みかかってその場に縫い留めるか、殴りかかるという選択肢を採った事だろう。

 だが、今の彼は違う。死線を超え、失ったという経験が変化を与えていた。

 繰り出したのは、顔面への膝蹴り。その身体能力をいかんなく発揮しての加速は、ある程度向上した呪力コントロールのバフも受けて東堂は反応できずに直撃を貰う。

 この間に、残りの面々は左右を駆け抜け森を進む。

 パンダ、狗巻、釘崎のグループと、伏黒、真希、雨里の組み合わせだ。

 

「東堂一人でしたね」

「やっぱ、悠仁に変えて正解だったな」

「容赦の無さも増してたよ。前の虎杖君なら、出会いがしらの顔面膝蹴りの選択は無かったんじゃないかな」

 

 伏黒を先導として駆ける三人はそんなやり取りをしながら先を進む。

 現状、1級術師であり、尚且つ特級呪霊討伐の実績がある東堂がこの交流戦において最も強いと言っても過言ではない。少なくとも、一人が足止めに徹さなければ全滅する可能性もあるほど。

 そんな相手の足止め役であった雨里は今、呪力を練り上げ両手を組んでいた。

 

「凍結呪法・凍骸(とうがい)

 

 駆けながら冷気を纏うその背より並走するように現れるのは四体の氷人形。

 

「随分と、様になったじゃねぇか京平」

「雑魚狩りは人形に任せましょう。一応、1級相手でも早々に壊されない事を目指してますから、3級程度の相手なら大丈夫なはずです」

 

 ニヤリと笑う真希を尻目に、雨里は氷人形へと指示を飛ばす。

 無意識の黒閃の経験。そして、先達である夜蛾からの指導を経て完成した氷人形による呪骸に与えられる命令は、呪霊狩り、呪術師の警護など。更に、遠方で破壊されても術者自身が知覚できる点もアドバンテージであった。

 虎杖を残して進む三人。だが、ここで両グループの索敵担当が気付く。

 

「変です」

「伏黒君?」

「京都校が一ヶ所に……虎杖と東堂を残した辺りに集まってます」

「あん?その辺りに、ターゲットが居るって事か?」

「いえ、2級程度なら玉犬が気付きますから、それは無いはずです………」

 

 立ち止まり振り返った伏黒の表情は硬い。彼の脳裏をよぎるのは、とある可能性。

 

「………アイツ等、虎杖殺す気じゃないですかね」

「あり得るな。宿儺の器、上層部は処理したいだろうしな」

「で、でも、京都校の人達が自分からそんな事、しますかね?」

「楽巌寺学長の指示だろ。あの爺さんは、悟が散々に言ってる上層部の一人だからな」

 

 呪術師の世界は腐敗しきっている。特に、権力を持ちその椅子に長年噛り付いている上層部などは顕著だ。

 そんな彼らからすれば、自分たちの力が影響しない最強(五条悟)は目の上のたん瘤どころか、悪性腫瘍扱い。同時に、彼の庇護した両面宿儺の器(虎杖悠仁)はいつ爆発するか気が気ではない爆弾そのもの。

 彼らの保身は留まる事を知らない。

 

「………戻りますか」

「だな。つっても、私ら全員が戻る必要ねぇだろ。京平は、このまま呪霊狩りに行くべきだな」

「え」

「パンダたちも気付いてんだろ。多分、棘を別行動にする。その方が、都合が良いからな」

 

 狗巻の呪言は、その場に居ても居なくても厄介。気を散らせることが出来るからだ。そして同じく、雨里の氷も不意打ちに向いている。死角から相手の首から下を氷漬けにも出来るだろう。

 雨里自身も、組み分けをせねばならないことに関しては理解しているし、納得もしている。だが、それでもやはり心配になるというもの。それも、ついさっきまで死亡扱いであった虎杖がターゲットともなれば猶更。

 

「戻るぞ、恵」

「………すみません」

「なに謝ってんだ。仲間が死んだら、交流会も何もねぇだろ。京平、お前は呪霊狩り任せるぞ」

「………了解です。真希先輩たちも無茶しないでください」

 

 思うところがあれども、雨里は頷く。

 そうして来た道を戻っていく二人を見送り、彼は前を見た。

 

「とりあえず、別行動した方と合流かな。真希先輩の考え通りなら、単独行動は狗巻先輩だろうし。まあ、一人の方が周りを気にしない点じゃ良いんだろうけど」

 

 右手に冷気を纏わせて、行動開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合は流れ、時計の針は進む。

 虎杖と東堂の肉弾戦は、何やら指導の様な流れ。真希は三輪より刀を奪って無力化、真依との姉妹対決も制した。伏黒は加茂とぶつかり交戦中。パンダはメカ丸との戦いを制す。釘崎は西宮を押すも、真依の狙撃により一時気絶にまで追い込まれた。

 そして、あぶれる形の狗巻と雨里と言えば呪霊狩りの体を取りながらの、牽制の役割もはたしていた。

 

「『眠れ』」

 

 玉犬が持ってきた携帯を通して三輪を眠らせる狗巻。その傍らでは、両手で耳を抑えた雨里が居た。

 

「………終わりました?」

「しゃけ」

 

 自分の問いに頷きが返ってきたことを確認して、雨里は手を下ろす。

 伏黒たちと分かれてから、彼は呪霊捜索をしつつ同じくパンダに呪霊狩りを任された狗巻との合流を果たしていた。

 

「『戻れ』」

 

 携帯を持ってきた玉犬へとそう狗巻が声を掛ければ、その体は崩れる。伏黒の下へと戻されたのだろう。

 

「とりあえず、ターゲットを探しましょうか」

「しゃけ。ツナマヨ?」

「いえ、オレは索敵がそこまで得意じゃないんですよ。ですから、これを使います」

 

 言って、雨里は右手の人差し指を立てる。すると、その先端に霜が降りキラキラと輝く空気がその周りに形成されていく。

 これは術式の応用に行き詰った際に、テレビで見た光景をもとにして生み出した術の一つ。

 

「凍結呪法・銀風(ぎんぷう)………この風に触れた呪霊は、触れた個所を凍結される事になります。この風を撒いて、炙り出していきましょう」

「すじこ、明太子」

「大丈夫です。術師、というよりも人間には効力を発揮しないような縛りで作りましたから。触っても、少し冷たく感じるだけで済む………筈です」

「高菜~?」

「だ、大丈夫ですって。行きますよ」

 

 狗巻へと言葉を返しながら、雨里は指先に集めていた煌めく風を一吹きする。すると、ビー玉程度の大きさからは想像できないほどに、一気に風は広がっていく。

 原理としては、風に凍結の種を混ぜ込んで威力の代わりに広範囲のカバーを目的とした術式だ。

 狙った通りに広がっていく風を確認した雨里と、応用の範囲の広い後輩の術式を眺める狗巻。

 そんな二人の背に、猛烈な違和感が襲い来る。

 ほとんど反射的に構えながら振り返れば、異変の下は一本の木。その後ろの方から発せられているらしい。

 

「こんぶ………」

「ターゲット、ですかね」

 

 口元のジッパーに手を掛ける狗巻と両手に霜を纏わせて口から吐く息を白く染める雨里。

 二人の感じている違和感。それは、明らかに木の裏より発せられる雰囲気が2級呪霊程度の力ではないという点か。

 呪術師の階級として、狗巻は準1級、雨里は2級。2級呪霊程度ならば容易く祓えるだろうし、そうでなければこの階級には至らない。

 果たして、現れるのは禿げ上がった落ち武者の様な呪霊の頭部。

 二人の間に緊張が走る。だが、出現の直後に呪霊は白目を剥くと、その頭は首の一部と一緒に地面に転がり塵へと消えていく。

 そして現れるのは、異形の人型。

 昆虫の様な頭部の外骨格に、目に相当する部位から生えた二本の木。白い体色に黒いライン状の文様は走り、右腕に相当するであろう場所は大きな布によって包まれていた。

 雰囲気からして、格上。何より、その気配は雨里にとって苦い思い出を思い出させるには十分すぎた。

 

「………五条先生の言ってた特級、ですね。呪詛師と組んでる筈の」

「しゃけ」

「とにかく、撤退が先決。五条先生の所まで下がるか、とにかく連絡を取るしかないですね」

 

 その隙があれば、と雨里は内心で続ける。思い出していたのは、あの日の少年院。

 ほとんど遊ばれるだけだったあの時の宿儺よりも、もしかすると上かもしれない相手だ。自然と、呼吸も浅くなるというもの。

 後輩の変調。敏感に感じ取った狗巻が一歩前へと出る。

 

「しゃけ、いくら、明太子」

「―――――」

 

 悪意は既に入り込んでいる。

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