Ice Time   作:アイスめぇん

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 呪術高専姉妹校交流会。例年通りであるならば、一日目は団体戦、二日目は個人戦となる。もっとも、今年は団体戦で襲撃があった為に一日の休みを置いて、二日目が開催される事となっていた。

 

「プレイボール!」

「なぜ、野球?」

 

 左手を三角巾で首から吊ったままの雨里はベンチ席の端っこで首を傾げる。

 事の発端は、目隠し着けた最強の一声からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――っつーわけでさ。人死にも出てるしどうする?続ける?交流会」

 

 生徒たちを集めた場で、五条はそう切り出していた。

 彼の持論ではあるが、教師が一方的に決めるよりも生徒たちの自主性に任せる為の今回の措置。

 もっとも、関係ないかな、というような顔している者も居ない訳ではないのだが。

 

「加茂先輩、大丈夫なんですか?」

「ああ、問題ない。君の応急処置が良かったんだろう、家入さんの治療でほぼ完治したよ」

「なら、良いんですけど………頭の包帯は大丈夫ですか?目のあたりまで覆ってますけど」

「問題ない。寧ろ、私よりも君だろう。その左腕は折れているのかい?」

「折れてますね。綺麗に折れたらしいんで、反転術式で直ぐに治せるらしいんですけど………まあ、無理をした罰らしいです」

「それは、当然だろう。連絡手段が無かったとしても、君は一人で向かうべきじゃなかった。寧ろ、腕の一本で済んだことが奇跡だ。その幸運に感謝すると良い」

「そうですね」

 

 階段の三段目辺りに立って壁に背を預けた雨里は頷く。交流会の二日目でも腕は治さないと家入に既に言われた彼は、個人戦は出ない。いや、術式的に戦えない訳ではないのだが、それでもやはり相手による。東堂などとぶつかれば、左腕を粉砕されかねない。

 そんな彼を見下ろすのは、左目のあたりまで頭に包帯を巻いた加茂と若干不貞腐れたようにも見える西宮だ。

 加茂の怪我も決して軽くはない。折れた両腕に、建物へと突っ込んだ際に頭を切った。今は、両腕は完治しているし、頭の傷もほとんど塞がっているが割と派手に血の流れる部位である部分も加味して包帯が巻かれていた。

 一方で西宮が若干不機嫌なのは、自分のカワイイ判定を下した後輩が無茶して腕を一本折ってきたから。特級相手にこの程度で済み、尚且つ補助監督などを救出したことは褒めるべきであっても、それを飲み下せるかどうかは別の話という事。

 それから、東堂が交流会の続行に肯定を告げ他の面々も大なり小なり頷いた。

 個人戦のつもりであったのだ。それは両校の学長と生徒も共通認識だった。であるのに、どこぞの最強様の独断により内容変更。

 そして、場面は冒頭へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 術式の補助があれば出来る事の幅が広い雨里だが、今回は見学。元々、東京校の方がメンバーが多い為公平性を保つための措置でもあった。

 東京校側は、ピッチャーが真希、キャッチャーは虎杖というフィジカルコンビが担当している。

 先攻は京都校。一番バッターの西宮が出塁し、二番バッターは三輪。そして何故だかノリノリで審判をしている五条が二度目のプレイボールをかけていた。

 

「五条先生、ルールはっきりと理解してないよね、うん」

 

 ダメだこりゃ、とつぶやく雨里だが彼だった別段野球に詳しい訳ではない。現に三輪が打ち上げフライとなり、その前に走っていた西宮がアウトになった様を見て首を傾げていた。

 続く加茂が三振を取られ攻守交替。

 

「こっちの順番ってどうなってたっけ?」

「私が一番よ!」

 

 バット片手に意気揚々とバッターボックスへ向かうのは釘崎だ。

 

「東北のマー君とは、私の事よ」

「東北のマー君はマー君だろ」

「つーか、マー君投手だろ」

「釘崎さんなら………クーさん?ノーさん?」

「ジュースと、何か拒否してる奴だな」

「くぅおら、男どもォ!この、野薔薇様の応援をしやがれ!」

 

 やんややんやとヤジの飛ぶ味方ベンチへとバットを突き付け吠える釘崎。

 ぶつくさ文句を垂れながら、バッターボックスに立ち相対するのは、

 

「―――――ちょっと待て!ピッチングマシンじゃないのよ!」

 

 ピッチャーメカ丸(ピッチングマシン)の姿だった。手書きで顔が書かれ、その下にメカ丸とマジックで書かれたその見た目はやっつけ感が半端ない。

 メットとバットを放り出して詰め寄る釘崎。始まりかける乱闘。相手するのは、煽りストな真依である。

 

「スペアよ、スペアメカ丸。一昨日、そっちのパンダが壊したから直ぐに用意できなかったのよ。ピッチング……マシン?っていうのはよく知らないけど、貴女詳しいのね、オタクなの?」

「よくもまあ、そこまでペラペラ喋れるわね………良いわ、上等よ。かっ飛ばしてやろうじゃない」

 

 反りが合わないというのは確かにあるのかもしれないが、それでも真依に煽られると、釘崎はどうしても乗ってしまう節があった。

 試合再開。放たれた一球目に対して、釘崎渾身のフルスイング。

 二番は、伏黒。手堅く送りバントで釘崎を次の塁へと進める。三番はパンダ。パワーのある一打で難なく一塁へと到達。

 そして、四番を務めるのはピッチャーの真希だ。

 弾丸も見切れる彼女にしてみれば、ピッチングマシンからの投球など見極める程度容易い。

 バットの芯で捉えてフルスイングすれば、ボールは内野を高々と超えてホームランの軌道を描き、

 

「―――――ほいっ」

 

 ()()()()()西宮によって捕球されてしまう。

 というのも、人数の関係上で外野手一名の呪術使用が許された野球なのだ。むしろ、かっ飛ばすよりもヒット性の当たりを量産する方が点につながったりする。

 結局、釘崎が塁に戻る前に刺されて攻守交替。打席に入るのは、東堂だ。

 

「ふっ、キャッチャーとは言わばチームの司令塔。まさに、俺の親友(ベストフレンド)にふさわしいポジションと言えるだろう」

「東堂……!」

「だが!俺が望むのは、ピッチャーとしてのお前との真剣勝負!」

「………お前がピッチャーすればいいんじゃねぇか?」

「無理よ。今は、メカ丸がピッチャーしかできないんだから」

「約束してくれ、虎杖(ブラザー)。俺がここでホームランを打ったなら、次回お前がピッ―――――!?」

 

 グダグダと気障な話し方をしていた東堂の顔面を襲った剛速球。

 常の彼ならば、躱すか迎撃できたかもしれないが、意識の大半がキャッチャーである虎杖に向いていたために一切の反応することもできず左頬に直撃をいただくことになった。

 

「ナイスピッチー」

「ナイッピー」

「ナイッピー」

「真希さん、ナイッピー!」

 

 そして、ナイスピッチングのコーラスが敵味方問わず響くという追い打ち。

 東堂の上体を持ち上げる虎杖も、流石に気付く異常事態だ。

 

「東堂、お前………嫌われ過ぎじゃね?」

「まあ、東堂先輩はエキセントリックだからね」

「あ、雨里」

「とりあえず、冷やそうか。腫れてるし。東堂先輩、氷です」

 

 いつの間にか寄って来たのか、掌大の氷をハンカチに包んだ雨里がそこに居た。

 そして、ダウンした東堂を右肩で支える様にして立たせると、向かうのは京都校側のベンチ。

 

「とりあえず、庵先生。東堂先輩の代走お願いします」

「そうね………なら、三輪。お願いできる?」

「は、はい!」

 

 代走の指示を庵が飛ばす傍らで、雨里はてきぱきと片手でありながら東堂をベンチに寝かせてボールのぶち込まれた顔へと氷嚢を押し当てる。

 

「別に、彼放っておいても良かったんじゃないの?一応、対戦相手よ?」

「オレは、今日は何もしてませんから。救護係程度はやるべきでしょう?」

 

 少し突っかかってくる真依を軽くいなした雨里。

 彼にしてみれば、この程度は労力のろの字にも当たらない事なのだから。

 割と、変人を見るような目で京都校側から見られることになるのだが、彼は知った事ではない。

 ちなみに、姉妹校交流会の結果は、東京校の勝利で幕を閉じる事になる。

 

 

 

 

*小話*

 

 

 

『呼び方』

 

「そういえば雨里って、あのゴリラも先輩って呼ぶわよね。その辺どうなの?」

「うん?何が?」

「ほら、アンタって真希さんの事は、真希先輩って呼ぶじゃない?パンダ先輩たちの事は、パンダ先輩って呼んでるし」

「うーん………オレとしては、京都校とか東京校とか関係なく、呪術高専っていう学校の中で上の学年の人は一括りに先輩って呼んでるだけだから………特別深い意味はないんだけど」

「ふーん」

「あ、でも、オレは多分皆ほど、東堂先輩を嫌ってないっていうのもあるかな。あの人の呪術に関する認識って分かりやすいし」

「はあ!?あのゴリラが!?」

「うん。ほら、呪術師って呪力を流してるよね?その流すっていう認識を各部位で分けて考えるから呪力の流れに速度の遅延が起きるってさ」

「………つまり?」

「つまり、実力者ほど呪力の操作が呼吸するように自然なんだって。そんな話を聞いたからかな、オレはあの人嫌いじゃないんだ」

 

 

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