Ice Time   作:アイスめぇん

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コロナ、仕事、大雨その他に振り回されてました。

久しぶりの更新ですが、今回は日常回です














22

 刻一刻と寒さの増していく季節。

 

「便利になったわよね、アンタの術式」

「むしろ、こんな事に術式使うような術師は居ないんじゃないかな」

 

 高専の隅にて、集めた落ち葉を基にして火の弾ける音が響く。

 薄く煙を上げる火の傍にしゃがみ込み、両手を翳すのは釘崎だ。その近くでは、アルミホイルで巻いた何かを準備している雨里が居た。

 

「……お前ら何やってるんだ?」

「あ、伏黒君。ちょうど呼びに行こうかと思ってたところだよ。虎杖君はどこに居るか知ってる?」

「焚火よ、焚火」

「焚火?あと、虎杖がどこに居るかは知らねぇ。部屋じゃないのか」

「そっか……あ、ちゃんと、夜蛾学長に許可は貰ったから、大丈夫。いや、元々はオレの術式反転の訓練をしようと思ってたんだけどさ」

「アンタが、サツマイモが美味しいとか言うからでしょ」

「いやだって、本当にサツマイモはこの時期が旬なんだよ。近々味噌汁でも作ろうかと丁度買ってたから出ただけだし……」

「ほら、焼くわよ」

「……お前ら、病み上がりじゃないのか?」

 

 伏黒の疑問はそこだ。

 彼もそうだが、一年生の面々は少なからず酷い手傷を負っていた。

 当然と言えば当然で、特級呪霊と特級呪物の呪肉体を相手にして五体満足でこうして生き残っていること自体が最早奇跡なのだから。どこぞのGLGが、先輩に自慢していたとか、いないとか。

 

「オレは、大丈夫だよ。術式反転が使えるようになったから、反転術式の方も自分に掛けるだけなら何とかなるし」

「アンタ、本当に便利よね。一家に一人、雨里京平って所かしら?」

「家電とかが便利になった今の時代には必要ないんじゃないかな……さ、そろそろ焼いていくよ」

 

 火の様子を確認した雨里は、そう言うとアルミホイルでキッチリ巻いたサツマイモを焚火の中へと埋めていく。

 

「どれ位かかる訳?」

「うーん……一時間ぐらいかな?焼け頃になったら連絡しようか?」

「……良いわ。待ってるもの」

「そっか……伏黒君は、どうする?焼き上がったら、連絡しようか」

「……いや、大丈夫だ」

 

 そう答えると、伏黒は近くの木に背を預けて腕を組んだ。

 彼が迷うのは、あの時の事を二人に伝えるか、否か。一つ確定しているのは、このことを虎杖には伝えないという事だけ。

 左手を炎へと変換して火が消えないように落ち葉を確認する雨里と、一切の躊躇なく炎の中に手を突っ込む同級生に若干引いた目を向ける釘崎。

 伏黒の目から見て、二人はまず間違いなく善人といえる。釘崎は苛烈な面があり、気が強すぎる気がしないでもないが。

 伝えておくべき。伏黒恵はそう判断した。

 

「お前らに話しておくことがある」

「やっとね」

「それは、さっきまでムッツリ考え込んでたことかな」

「……」

「アンタって表情少ない割には分かりやすいのよ。八十八橋の後辺りからずっと考え込んでたでしょ……で?その内容は?」

「……共振は、分かるか?」

「理系の話、って訳じゃないよね?宿儺の指関連?」

「八十八橋の呪霊は、いつ動き出してもおかしくはなかった。ただ――――」

「虎杖の受肉が切欠ってこと?」

「呪殺が始まったのは、六月。時期的にもぴったり合う……そもそも、受肉はアイツ自身が望んだことじゃない。俺を助けるための最終手段でしかなかった」

「……オレ達の所で、この話は止めておくべきだと思うな。こんなことが知られたら……」

「俺もそう思う。だから、言うなよ」

「言わねぇよ。レディの気遣い舐めんな」

「同じく。虎杖君は納得しないだろうけど……これ以上、追い詰めるような事は起きてほしくないと、オレは思うよ」

 

 沈黙。しかし、それは避けようのない結果だった。

 伏黒も釘崎も雨里も、虎杖悠仁の根明な部分と同時に優しさを知っている。善人であることを知っている。そして、その過酷すぎる運命も。

 優しい彼に、世界は優しくない。そして、子供たちには、何かできるだけの力は無い。

 少なくとも、()()

 

 東京校一年面々が、ある種の秘密を共有していた頃、京都では別の問題が浮上していた。

 禪院真希、パンダ、雨里京平、釘崎野薔薇、伏黒恵、虎杖悠仁の六名が、冥冥並びに東堂葵の二名による1級術師の推薦が行われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 術式反転を習得している術師は、そう多くない。これは前提として、反転した呪力であるプラスのエネルギーを生み出す技量が必要となるからだろう。

 

「ッ……」

 

 左手を指鉄砲で構えその下に右手を添えた雨里が睨むのは、少し離れた窓。

 呪霊が出る廃ビルの一棟。その外で、雨里はその瞬間を待っていた。

 果たして、窓ガラスを突き破る様にして現れるのは、2級相当の呪霊。瞬間、彼の指先が僅かに光り、放たれるのは炎の弾丸だ。

 螺旋回転をしながら直進したソレは、正確に呪霊を捉え焼き尽していった。

 

「まだまだ制御が甘い、かな」

 

 厳しい評価かもしれないが、雨里にしてみればそれは感覚の話。

 使い慣れた氷の術式に対して、炎の術式反転は使い慣れないというのが現状だった。本能的に使い方を近く出来るとは言え、その精度まで初見から完璧とはいかないのだ。

 とはいえ、任務はこれにて落着。帳も晴れていく。

 少し待てば、建物内に乗り込んでいた三人が出てきた。

 

「任務完了だね。三人は、これからどうする?」

「帰る」

「私は、買い物かしら。折角、街の方まで来たんだもの。こういう時に買っとかないと損でしょ」

「あ、俺観たい映画があるわ」

「見事にバラバラ……まあ、オレ達らしいと言えば、らしいかな」

 

 苦笑いする雨里だが、彼も彼で街に来た手前買いたいものがあり、それさえ買えばその後は直帰するつもりであったりする。

 という訳で、その場で解散。四人は散り散りとなって街に紛れ――――

 

「――――どういう状況?というか、何でオレ呼ばれたのかな」

「野郎の事なら、野郎に聞くべきでしょ?」

「……伏黒君が居るのなら、オレは要らないんじゃないかと思うんだけど」

 

 呼び出されたファミレスの角席を前にして、雨里は首を傾げて一つ息を吐いていた。

 買いたかった本とその他色々を買い込んで、さあ帰ろうと高専へと足を向けていた彼なのだが突然の釘崎からの呼び出しを受けてここまでやって来た。

 そして、辿り着いた先で待っていたのは釘崎に伏黒、それから明るい髪色の見知らぬ同年代程の女性。

 

「伏黒にも聞いたけど、虎杖って彼女とかいないわよね?」

「え?……まあ、多分?東堂先輩と盛り上がったらしいし……というか、状況がよく分からないんだけど」

「あ、そうよね。この子、小沢優子。虎杖と同じ中学だったらしいの」

「ど、どうも……」

「はあ……えっと、つまり()()()()()で良いのかな?」

「察しが良いじゃない。ま、そういう事よ」

「うーん……」

「とりあえず、彼女は居ねぇと思う。急に東京に行くって事になっても特に困って無かったし、部屋にグラビアのポスターとかも貼ってたからな。相手とか嫌がるだろ」

「伏黒って女子の前だけでカッコつけてブラック飲むタイプ?」

「俺の話を聞きたいから呼んだんだよな?ツーか、コーヒーはいつもブラックだ、俺は」

「確かに、伏黒君はそうだね。そういえば、虎杖君の好みって、確か背の高い人だったはずだよ。東堂先輩と同じく」

「!それ、本当よね?」

「ほ、本当ですか!?」

「えっ、う、うん……東堂先輩がこの前メールで言ってたから」

「アンタ、あのゴリラとメル友な訳?……まあいいわ。優子!虎杖召喚するわよ!」

「はい!」

 

 盛り上がる女性陣。その一方で、伏黒は興味が失せたのか本を広げ、雨里は苦笑いしながら適当なホットスナック系の注文をしていた。

 程なくして虎杖がやって来る。パチンコの景品を抱えて。

 

「あれ?伏黒に雨里も居んじゃん」

「おう」

「さっきぶり、虎杖君……何もってるのさ」

「あ、コレ?換金所探すの面倒だったから、景品交換しちゃった。欲しいのあったらやるよ」

 

 虎杖の持ってきた景品の入った紙袋を覗き込む二人。

 一方で釘崎は若干焦っていた。

 今回出会った小沢の見た目は、半年で大きく変わっていた。そして、彼女は虎杖に対して憎からず思っている。

 だがしかし、出来る男虎杖。ここで釘崎の心配を超えてみせる。

 

「虎杖!!この子は――――」

「――――小沢じゃん、何してんの?」

 

 挙がる十点札。が、しかし、その一方で小沢の胸中には言いようのない暗い気持ちが湧きだしていた。

 中学時代から大きく変わった容姿。自信が芽生えた所での、思わぬ再会。

 舞い上がっていたのだろう。それこそ、虎杖が気付かずに、「誰?」と聞かれたのならば、寧ろその分を足掛かりにすることも出来たかもしれない。

 だが、虎杖は初見で気が付いた。どれだけ見た目が変わっても、小沢優子が小沢優子であると気が付いた。

 その事実が、彼女の心に影を落とした。

 

 少女は一つ大人になり、そして戦士たちは羽を休める。

 

 そして、運命の日は直ぐそこにまで迫っていた。

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