Ice Time 作:アイスめぇん
焦土。少なくとも、日本有数の繁華街の様相は、完全に変わり果てていた。
「……くひっ……くははは……」
倒壊し、粉砕されたビル。めくれ上がったアスファルト。
ソコは最早街としての機能の一切を失った場所。
荒廃しきったその場所で、悪鬼は一人嗤う。
「暇潰し程度にはなった、か。噛み締めるがいい、小僧」
それだけを言うと、宿儺の体より浮かび上がっていた紋様が薄れて消えていく。
代わって表に出てくるのは、虎杖だ。
眠っていた、もとい気絶よりの目覚め。敵方である呪胎九相図の受肉体、脹相に敗れてから今の今まで意識が無かったのだから、頭が追いつかない。
だが、意識回復の直後に己の体を使って宿儺がやって来たことが鮮明に再生されていた。同時に、目の前の惨状に対する理解も追いついてくる。
宿儺の顕現。呪詛師であった少女二人を殺しかけるが、間一髪で氷の壁がソレを阻む。
そこから始まった、同期と呪霊の二人がかりを相手に完封。両者の大技を完璧に見切り、呪霊はそのまま祓われた。
そして、宿儺が執心する伏黒の呼び出した式神と、これまた同期の戦い。それが終わる直後に、呪詛師の一人を殺害、伏黒は仮設医療テントへ。
最後は、
「雨里……!」
既に立つ事すらも儘ならなかった同期渾身の一撃を前にほとんど拮抗させる事なく打ち砕いた
結果として、今立っている場所を中心とした扇状に巨大な破壊痕が広がり、ビルの残骸と捲れたアスファルトなどが残れども、ほとんどは荒廃した更地のようになってしまっていた。
「あ、ああ……」
膝が抜けたと錯覚するほど、虎杖はストンとその場に崩れていた。
現状、五条悟の居ない今、誰かがこの貧乏くじを引かなければならなかった。仮に無視すれば、この渋谷の人的被害は計り知れないものになっていた筈だからだ。
それは少なくとも、伏黒、釘崎、雨里の三名ならば誰でもありえた事で、今回偶々その中の一人が戦っただけ。
だがしかし、事はそう簡単に割り切れるものではない。
「……行かないと」
地面を掻き毟り、呪詛を垂れてもどうしようもない。
真っ暗ともいえるほどに黒く濁った目をした虎杖は、幽鬼の様に立ち上がると最初の目的地であった渋谷駅の地下へと足を向ける。
同期を手に掛けた。その事実が体全体を重くするが、しかし虎杖には立ち止まる事は許されない。少なくとも、彼自身が自分自身に対して許さない。
駆ける、駆ける、駆ける。罪の意識と、己への自罰的意識を抱えて、それら全てから少しでも目を逸らすように走り抜ける。
地下へと足を踏み入れた虎杖を出迎えるのは、数多の改造人間たち。
呪霊と見分けがつかないほどに改造を施され、最早助かる見込みのない者たち。その無機質なガラス玉のような目が駆け込んできた虎杖を捉えた。
「ッ、退けェッ!!」
それは、血を吐くような叫びでもあった。
最初の遭遇の折に、家入は改造人間の死はショック死であると言った。体を異形に改造された結果によるものだと。
だが、虎杖も馬鹿ではない。少なくとも、己の手で奪った命に関して分からないほど鈍感ではなかった。
呪力で強化し、加えて元のフィジカルが天与呪縛持ちと同等か、それ以上の彼の拳は呪霊のレベルで表すと3級から準2級程度の改造人間の肉体を容易に破壊していく。
肉を打つ感触。皮膚を貫く感触。骨を砕く感触。
生々しいそれらは、濃密なまでの血のニオイも相まって虎杖の精神をまるで鑢でもかけるかのように削っていった。
「はぁ…………はぁ…………」
人一倍どころではない体力の持ち主である筈の虎杖の肩が、呼吸で大きくなる。精神的負荷はそれだけ、肉体に大きな影響を与えるのだ。
血だまりの中に立つ虎杖。そんな彼の元に、一つの拍手が届いた。
「いやー、なかなかやるじゃん。結構な数ここに置いといたんだけど」
「真人……!」
因縁の相手。人の負の感情により発生した継ぎ接ぎの呪霊、真人。
「
「ッ、オマエ……!」
「まあ、元気じゃなきゃ俺としても殺し甲斐が無いしさ」
人間同士が恐れ憎むような感情から生まれた彼は、殊更人間が苦しむ様というのが愉しいらしい。
特に、数ヶ月前の一件から因縁の生れた虎杖悠仁という存在が執着の対象となっており、彼を苦しめて殺す事を目的として行動している節があった。
「それにしても、アイツも馬鹿だよね?勝てる訳も無いのに、無駄に命張るとか……ぷふっ、思い出しただけでも嗤えてくる」
「……!」
虎杖の目が血走った。
宿儺がやった事とはいえ、だからといって割り切れる問題でもない。
何より、
「オマエが、
友人を語られる筋合いはない。
駆け出した虎杖に対して、真人もまた迎え撃つ構えだ。
真人の術式、無為転変は触れた対象の魂を自由に変える事が出来る。相当強力であるし、特級呪霊としてのポテンシャルも相まって並大抵の術師は瞬殺。1級以上であろうとも相性次第もあれども完封できるだろう。
だがしかし、体の内に両面宿儺という別の魂を抱える虎杖には通じない。彼は、自身の魂を無意識的にも把握しており魂の形を保ててしまうから。
一応、その他の攻撃が無意味な訳ではない。訳ではないが、変形は広げ過ぎると的を広げるだけとなり、同時に強度も落ちてしまう。
だからこその改造人間。真人の手が動き、指で弾ける程度にまで圧縮変形させられたソレが虎杖へと向けて弾かれた。
地下鉄の床につく前に変形。“つ”に似た形に変形させ、長い方の出っ張りは突っ込んでくる虎杖の顔面を刺し貫かんと伸びた。
勢いはある。だが、所詮は伸びるだけだ。身体能力と動体視力に優れた虎杖にとってはその程度は躱す事に難儀はしない。滑り込む様にして突起を躱し、同時に突起部分より下へと伸びてきた無数の追撃を躱す。
しかし、この間に真人は移動済み。変形させた改造人間を足場にして、滑り抜けた虎杖とは反対側へと降り立っていた。
その手には、二つの改造人間が。
「――――多重魂『撥体』」
二つの魂を無理矢理合わせ、その時に発生する拒絶反応によって魂の質量を無理矢理跳ね上げて敵への攻撃へと転化するこの技。
速度と攻撃範囲に優れ、宛ら乗用車が突っ込んでくるようなものだ。
が、これを虎杖、正面から押し留める。若干押し込まれたものの、呪力で強化されているとはいえその身体能力は流石と言えるだろう。
だが、
「――――ばぁ」
「ッ、ぶっ!?」
その止めた改造人間の口より現れた真人によってその顔面が殴り抜かれる。ご丁寧にも、振るった拳には剣のような突起が作られ、虎杖の顔には大きな切り傷が刻まれていた。
「もうちょっと踏ん張りがきけば、顔面貫けたかな?」
「ッ……」
「あ、これ?んーと……ほら、磁石ってあるじゃん?同じ極同士だと反発しあう、アレ。魂も似たもんで無理矢理合わせると弾ける訳。んで、これはその応用。ま、使えるものは使っていかないとさ」
「……どうして、オマエは笑ってそんな事が出来るんだ」
「あん?」
「何度も、何人も……!人の命、弄びやがって……!!」
「……ふはっ」
憤る虎杖に、しかし真人は嗤う。
「それじゃあ、指折り数えて、苦悶の表情でも浮かべて殺せば満足?なら、今度からはそうしようかな。それにしても――――」
ニタリ、そんな音が鳴るような醜悪な笑み。
「――――オマエって本当にペラッペラだな、虎杖悠仁。本当に、ウスッペラだ」
「あ?」
「オマエは俺だよ」
呪霊は嗤う、嘲う。
そもそも、根本的な思考回路が違うのだ。人間と呪霊が、同じ尺度で会話を交わそうとすれどもそこには決定的な差異がある。
何より、虎杖悠仁は弱っていた。それが魂を見る真人には手に取るようにわかる。
その毒牙は、この渋谷で未だに戦う者へと向けられていた。
正直、とあるキャラの扱いに困ってます、はい
一応考えてはいるんですけども、最終的には突っ走る形に落ち着くかと思います