Ice Time   作:アイスめぇん

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 死滅回游の総則(ルール)。要は、呪術を用いた大規模な、デスゲーム。一種の蠱毒的な要素もはらんでいるかもしれない。

 

「四番目のルールも、単純ですけど、厄介ですね」

「殺しだからか?」

「いえ、それだけじゃなく……」

 

 それぞれが死滅回游の総則を確認する中で、雨里が示すのは四つ目の生命を絶つことで点を得るというもの。

 だが、彼が気にするのは殺しという点ではない。

 

「……オレは、人の行動には経験と状況が重要だと考えてます。一歩目が億劫でも、二歩目、三歩目は流れでいけますから」

「つまり、君は結界(コロニー)内ではすでに殺しが行われている、と?」

「オレ達呪術師は、法の外に居ると言っても過言じゃない。元は非術師で虐げられていた人が、急に力を得て、その上警察機構が役に立たないとしたら……」

「――――復讐に走る」

 

 善悪問わず、人間の突発的な行動というものは感情に直結している。

 今、羂索によってばらまかれた術師には、自分が生き残るための、という免罪符と警察すらも自分を縛る事が出来ないという、事実の二つがある。

 第一の殺人を自分が助かるため、と行い。結果成し遂げ、ポイントを獲得し、同時に法的機関が自分を縛る事が出来なかったならば、第二、第三と続くにつれてその難易度は劇的に下がっていってしまう。

 そしてこれは、あくまでも一般人に当てはめた場合だ。より利己的な人間や、自尊心の塊、サイコパス等ならばそれら一切を苦にせず、只管己の目的のために邁進する事だろう。

 雨里が懸念するのは、そこだ。人の理性は簡単に投げ捨てられる。

 

「……全員がそうじゃねぇだろ」

「確かに、そうかもしれない。でも、結界(コロニー)の中で何が起きてるのか分からない現状、最悪の状況は常に想定しておく必要があると思う」

 

 雨里とて、こんな事は言いたくない。言いたくないが、渋谷では諸にその楽観的な部分が悪手となって表に現れていた。

 自他共に認める最強が敗れる(封印される)など想定もしていなかった結果が、あの惨状。

 

 それからも幾つかの情報交換、並びに意見交換が行われる事になるがその落着は、結局のところ死滅回游への参加に他ならない。

 だが、それに際しても全員が全員同じ行動をとる訳ではなかった。

 

「私と、京平は禪院家に行ってくる。ジジイからの呼び出しでな。まあ、本題は呪具の回収だけどな」

「どうにか、有用そうな物を見繕えるようにするよ」

「……大丈夫なんですか、ソレ」

「ぶっちゃけ、大丈夫じゃねぇな。ジジイも厄介だが、アイツはアイツで京平と面識がある。問題は、その他の屑どもだよ。あの家に、話の通じる人間は居ねぇ」

「ダメじゃないですか……」

 

 あんまりな物言いに、げんなりと眉を顰める伏黒。彼もまた、五条の横槍が無ければそんな伏魔殿に放り込まれていたのだから他人事とは言えなかった。

 その一方で、雨里もまた先程から考えていた事を知識人二人に問う。

 

「そういえば、さっきお話で出てきた禪院……甚爾さん?は禪院家の人なんですよね。真希先輩と同じフィジカルギフテッドの」

「ああ。だが、彼は彼女とは違い、完全に呪力が0だった。その代わり、生半可な呪力で肉体を強化した術師以上のフィジカルに加えて、鋭敏過ぎる五感はそれだけで呪霊を捉えてみせたんだ。もちろん、呪力が無いから祓う事は不可能だったけれどね。呪具があればその問題も解決。特級呪具があれば、同じく特級の呪霊だろうと討伐出来ただろう」

「はあ……」

「私の()()()だからな」

 

 真希が話に混じってくる。そこで、雨里には新たな疑問が湧いていた。

 

「……さっきも聞きましたけど、天与呪縛って変わるものなんですかね?」

「勿論さ。その一つに、魂の形を変えるというものがある。想像してみてくれ。呪術師、非術師問わず、正常なのが、完全な円だとする。天与呪縛はこの円の一部が欠ける、或いは凹んでいる状態。この凹みや欠けの分だけ何処かが尖り、その尖った部分が呪縛の代償、恩恵となる。君ならば、温感、この場合は冷感、それから発汗作用。代わりに、術式の精度と呪力の出力が増しているだろう?」

「そう、ですね……前に資料で見たんですけど、呪術的に双子は一人の人間として見るんですよね?」

「急に飛んだな……まあ、私らも凶兆だとか何とかさんざん言われてきたけどよ」

「ふむ……」

 

 要領を得ない雨里だが、その当人は何が気になるのか再び考え込んでしまう。

 首を傾げる真希。気になるところではあるのだろうが、今は一分一秒が惜しいのもまた事実。

 

「さっきから、どうした」

「……いえ、まあ……少し思いついたというか……気になったというか……」

「いったい何が気になるんだい?」

「いや、真希先輩の場合は呪力が非術師レベルで残ってるんですよね?で、真依先輩の場合は術師として最低限ギリギリの呪力だけでしたよね?」

「おう」

「……それって、おかしいんじゃないかと思ったんです」

「おかしい?」

「はい」

 

 頷く雨里。

 興味をひかれたのか九十九は、彼の言葉の続きを促した。

 

「いったい、何がおかしいんだい?」

「いえ、呪術的に見て、双子は一人として見るんですよね?なら、この場合だと真希先輩と真依先輩は二人で一人という事になります。なら、術師としても二人で一人として成立しませんか?」

 

 彼のその言葉に、別の意味でこの場に沈黙が起きた。

 目線で更に続きを促されれば、雨里は両手で先ほど九十九が示したように円を作ってみせる。

 

「ええっと、つまりこの円が真希先輩と真依先輩になります。それで、現状から考えると、真希先輩はフィジカル面を、真依先輩は術師面をそれぞれ担ってると思うんですよね」

「……続けて」

「あ、はい……それでですね。先輩たちがいまいち本領発揮が出来ていないのは、不完全だからじゃないか、と思うんですよ」

「不完全?」

「はい。太極図ってあるじゃないですか。あれと同じ形で、真希先輩には僅かな呪力が、一方で真依先輩には僅かなフィジカル面が、それぞれに残っているからこそ完成しないんじゃないか、と……いや、すみません。こんな時間の無い時に」

 

 今更ながら注目を浴びて語っていた事が恥ずかしくなったのか、左手を挙げて雨里は目を逸らした。

 が、聞いていた側はそうではないらしい。

 

「天元。確か、そういう呪具があった様に思うんだけど」

「橋渡しだね……これがそうだ」

 

 獄門疆の裏を取り出した時の様に、天元が取り出したのは二つの腕輪。

 

「これはその昔に存在した呪具、そのレプリカだ。本体はある術師の亡骸と共に永久に失われている」

「橋渡し、とは言ったがこれは二人で扱う呪具でね。“親”を着けた術者に対して、“子”を着けた術師の呪力を供給し続けるというものなんだ。橋渡しという名でありながら、その実態は一方的な搾取となる。全盛期には、複数の“子”が存在し“親”を着けた術師は相当な力を誇ったらしい」

 

 呪具の等級としては、オリジナルならば特級相当であるのだが、レプリカのこれらは1級と少々格落ち品となる。

 流石に、ここまで真面に取り合ってもらえるとは思わなかったのが、雨里だ。

 彼は止めようと一歩前へと踏み出して、その前に天元の手より呪具が火傷を負った手に回収されていた。

 

「ッ、真希先輩……」

「京平が言った通りなら、私も願ったり叶ったりだ」

「……でも、机上の空論です。オレには、その手の知識は、無い……」

「呪術なんて物自体、非術師のとっちゃ机上の空論だろ。もしくはお伽噺の産物じゃねぇか。それに、折角頼りになる後輩からの提案だ。無下にはしねぇよ」

 

 言って、真希は空いた方の手で、未だに不安そうに眉間を歪める雨里の髪を掻きまわした。

 彼女自身、己の力不足は理解していた。それは、陀艮戦でより明確に浮き彫りとなった事でもある。加えて、漏瑚相手には即戦線離脱してしまった。

 最後まで残って自分に何が出来たかは分からない。分からないが、結果として目の前の後輩は最後まで戦い抜いて、その結果として腕を失う事になる。

 虎杖だけではない、あの時渋谷の一件に参加した東京校の面々は大なり小なり、雨里の腕の事を気に病んでいるのだ。

 呪術師を続ける以上、五体満足でいられない可能性が常について回る事は分かっている。しかし、だからといって見て見ぬ振りが出来る程彼らは薄情ではない。

 それぞれがそれぞれで、事態解決へと動く中、その裏でもまた様々な事が起きていた。

 

 総力戦にもなりかねない現状、味方は多い方が良いのだから。

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