随分遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
今回は本郷とアルゴスの面々と初対面する話です、
そして最近気づいた……BETAの中で唯一アニメ化されなかった奴がいたことを…
マーク達が去ってから数ヶ月たった日本では、純国産戦術機として開発された不知火の強化改修を行なおうと研究を続けていた。
しかし不知火は元々日本で早期に第三世代の戦術機を開発するための要求を無理強いして開発された機体であり、機体性能を優先しすぎたため、拡張性を犠牲にしてしまったのだ。
そこで改良計画の一環で開発されたのが【不知火・壱型丙】だったのだが、主機や跳躍ユニットの高出力化と近接格闘能力と生存性を向上させた反面、機体の稼働時間が低下を招くことになった。
この問題に燃費・出力などを担うOSを導入して燃費を押さえることができたが、今度は操縦性に問題が生じ、一般の衛士が乗り込んだ場合、通常の不知火よりも扱いがよりピーキーになり、改修前のレベルの能力すら出ない機体になり、結局ベテラン衛士向きの戦術機になってしまった。
BETAとの戦いが激しくなる中、自国の純国産戦術機の開発が遅れている事を感じ始めた国防省の高官達は、不知火の改修計画を取り止め、外国機の導入を検討し始めていた。
だが、帝国軍技術蔽所属の【巌谷 榮二】中佐は日本と米国の共同開発で不知火の改修強化を行なおうと【XFJ計画】を軍上層部に持ち掛けた。
軍上層部にXFJ計画の承諾を受けた巌谷中佐は、計画の行われるアラスカ・ユーコン基地に自分の友人の娘であり、自国の戦術機開発に情熱を注いでいる【篁 唯依】中尉に特殊任務としてXFJ計画の日本側の責任者として赴任させることを決め、唯依も承諾した。
唯依がXFJ計画の話を聞いた時、巌谷中佐は不知火の改修強化計画の他にもう一つの任務を唯依に話していた。
「篁中尉、不知火の改修と共に“もう一機”の評価試験も行ってもらう」
「もう一機…ですか?」
巌谷中佐の言葉に唯依は首を傾げる。そして唯依に差し出された一冊の計画書……そこには【97式吹雪強化試作型計画】と表紙に書かれていた。
「吹雪の…強化試作型……ですか?」
「ふむ。篁中尉はマーク殿達の機体…あれを間近で見たことがあったな?」
「えっ、はい。あの人達の機体には驚きを隠せませんでした」
手渡された計画書を見ながら巌谷中佐の質問に唯依は答える。忘れもしない自分や上総、安芸、志摩子、和泉の五人が初陣を飾った京都防衛戦……
そこに突然現れた真紅の機体ガーベラ・テトラ改を駆るラナロウ。京都駅で墜落してしまった上総の瑞鶴に群がる戦車級の前に現れ、傷一つ負わずにBETAを駆逐したバンシィに乗るエリス。
明星作戦では要撃級や要塞級に切りかかり、見事な剣捌きで次々と撃破していくソードカラミティを操るエルフリーデ。その他にも彼らジェネレーションズの運用していた機体は現存している戦術機とは掛け離れた性能を有していた。
「実はこの吹雪・弐式は彼らの技術、そして貴様の“あの機体”を参考に考案されたものだ」
「考案って……そんなことが可能なのですか!?」
「…とは言っても、お蔵入りしていた不知火試作五号機を吹雪のように無駄な部分を外して、各種パーツに試作パーツを組み込んだ機体なんだがな」
吹雪・弐式がジェネレーションズの技術を応用できる機体と聞かされ驚く唯依だが、実際は不知火の開発過程で量産試作機の五号機を吹雪のように練習機として不必要な部分を削ぎ落として、さらに各種関節などのパーツを横浜基地から取り寄せたMSのパーツを組み込んだ機体と巌谷中佐から説明された。
説明を受けた唯依は少しがっかりしてしまうが、自分の知っているあの機体の使われている技術を戦術機に応用できるかどうかがこの吹雪・弐式で証明できれば、自国の戦術機の性能は飛躍的に上昇し、佐渡島ハイヴ攻略も夢ではないと感じていた。
「それとバックパックのコストダウンと簡易型を図った新装備の試験テストも同時に行ってもらう」
「コストダウンを図った新装備ですか?」
「ふむ。さすがにあの三つの装備は戦術機で運用するのにコストが掛かり過ぎると会議で出され、一先ず三種の神器を模した装備は武御雷装備を前提にして斯衛軍で運用するようにし、横浜基地に簡易型の試作型の要請をした」
唯依が行なっていた仮想訓練での吹雪が装備していた【鏡】【剣】【玉】の三つのバックパック兵装の火力など性能は申し分ないが、戦術機に搭載するには過剰すぎるもので、火力や性能が高ければそれだけコストがかかる。
それ故にコストのかかる装備の維持は困難と判断され、一般の帝国軍などでも運用が容易であるコストダウンと整備性を優先したバックパック装備を発注し、その試作装備を吹雪・弐式で運用試験を実施し、調整を重ね、ゆくゆくは帝国軍全体へ……そんな計画も兼ねていた。
「そこで、この吹雪・弐式の運営に際し、テストパイロットを紹介しておこう。本郷少尉、入ってこい」
「はっ!了解であります!!」
巌谷中佐の声に扉の向こうから声が聞こえ、扉が開かれると唯依と同い年くらいの青年が一人入室して来た。
「篁中尉、紹介しよう。今回、吹雪・弐式の開発衛士(テストパイロット)を任せることになった【本郷 彰】少尉だ」
「帝国軍第28部隊所属、本郷 彰少尉であります!!」
巌谷中佐から紹介を受けた本郷は唯依に向かって敬礼し、唯依も敬礼を返す。
「この度、篁中尉殿と共に帝国の……いえ!今後の日本の未来に繋がるという大役を仰せつかることができ、光栄でありますッ!!」
「ほっ、本郷少尉……少し声を小さくしてもらえないだろうか?」
「はっ!!申し訳ありません!中尉殿」
敬礼したまま、部屋の外にまで聞こえやしないかという程の本郷の大音量の声に唯依は耳を押さえながら注意してみるが、耳を押さえていても本郷の声が唯依の耳に響く。
「はははっ、さすがの中尉も本郷の声には驚いただろう。だが、コイツの戦術機操縦技術は帝国軍の中でも良い方だぞ?」
「はっ、はあ……」
巌谷中佐は笑い声をあげながら資料を持って椅子から立ち上がり、本郷の肩に手を置く。そして唯依に手にしていた資料を手渡した。
「それでは篁中尉、本郷少尉。貴様らに与える任務に全力で取り組んでもらう」
『了解ッ(であります)!!』
巌谷中佐の言葉に唯依と本郷は敬礼で返した。
そんなこんなで再び戦術機空挺輸送機【アントノフAn-225 ムリヤ】の機内の中……唯依はアラスカの広大な自然を見て興奮している本郷を他所に、巌谷中佐から手渡された吹雪・弐式の資料を見ていた。
(吹雪・弐式……試作型不知火の五号機をベースに吹雪の要素を維持しつつ、各種パーツにあの人達の使っていた機体のパーツを組み込んだ機体……か)
弐式の資料を眺めながら唯依はこの機体に使われている新造パーツに着目していた。
吹雪・弐式に使われているパーツの一部には現存する戦術機には使われていない未知のパーツが組み込まれているが、現在の帝国軍でも未だ稼働している撃震や陽炎などの第三世代戦術機以前の機体にも使用されており、このパーツを組み込むことで第一世代戦術機でも第2.5世代戦術機と同等の機体性能に向上できることが判明。
それにより帝国軍の中でも一部のエリート部隊に新造パーツ内臓の戦術機を配備し、斯衛軍専用機でもある武御雷(主に上位機種)にも使われている。
この新造パーツこそマーク達ジェネレーションズの使用しているMSの駆動系パーツなどのパーツであることは明らかであるが、このパーツが横浜基地で製造されていることは帝国軍及び斯衛軍の中でジェネレーションズと関わりを持っている一部の人間しか知らない。
故に新造パーツが何処へ発注し、何処から運ばれてくるのか……その事を唯依は知らない。
『これより当機はアラスカ・ユーコン基地への着陸態勢に入ります。乗客クルーの方々はシートベルトを着用してください』
輸送機の機長からの機内放送が流れ、目的地であるユーコン基地へと近づいていることを知った唯依と本郷は、椅子に腰かけ、シートベルトをする。
暫くした後、輸送機は無事ユーコン基地の滑走路へと着陸し、唯依と本郷は機内から外へと出て来た。
「すまんな、少尉。荷物を持たせてしまって……」
「いえ、お構いなく中尉殿!!」
最小限の手荷物を持つ唯依は、他の荷物を幾つも持っている本郷に謝罪するが、当の本人は全く気にしていないようで相変わらずのデカイ声で返事を返す。そこへ一台のジープが現れ、運転していた女性が降りて来た。
「日本帝国斯衛軍(インペリアル・ロイヤルガード)所属、篁 唯依中尉と日本帝国軍所属、本郷 彰少尉……ですね?」
唯依と本郷の二人に声をかけてきたのは、このユーコン基地の最高責任者の秘書官を務めている【レベッカ・リント】少尉だった。
「お迎えに上がりました。統合司令部までご案内いたします」
レベッカ少尉の用意してくれたジープに唯依と本郷が乗り込み、レベッカ少尉はジープを走らせた。
基地内を走るジープから見渡す光景に唯依と本郷は目を見開いた。そこには各国の数多くの戦術機が立ち並び、整備士やこれから出撃しようとしている機体など……見る者を驚かす光景が広がっていた。
「いかがです?ここでは世界中の国々から先端技術と優秀な開発衛士が集い、日々研鑽を重ねているのです。人類の刃たる戦術機……それを鍛え上げるために」
レベッカ少尉の説明を聞いている唯依と本郷の耳に戦術機の跳躍ユニットのエンジン音が近づいてくるのに気付いた瞬間、自分たちのいる場所に影ができた。
「あっ、あれは!F-15?いや…でも形状が若干違う?」
「どうやら、F-15の改修機のようだな」
二人の頭上を通過していった一機の戦術機。一瞬第二世代戦術機の傑作戦術機と呼び名の高い【F-15Cストライクイーグル】ではないかとも思われたが、機体の形状が変わっていることから唯依はF-15の改修された機体ではないかと推測する。
「ソ連とアメリカが国境を接するこの地で、東西の陣営を越えて技術交流を深め、戦術機開発を促進する……それが『プロミネンス計画』なのです」
プロミネンス計画……1996年にユーラシア諸国がオルタネイティヴ計画に対する案として国連軍司令部が先進戦術機技術開発計画を提唱したことで始まった。
「……帝国の皆にも見せてやりたい。このような光景を見れば誰もが思う筈だ……人類はまだ、戦えるのだと……」
「そうでありますな!中尉殿!!」
国の隔てを越えて人類の刃たる戦術機を開発する計画…その本拠地とも言えるユーコン基地に並び立つ世界中の戦術機……唯依と本郷はこうして共に戦術機開発を行なっている光景を祖国である日本の人々が知れば、人類はまだBETAとの戦いを続けることができる……と、そう感じていた。
「それでは本郷少尉、荷物の方は任せたぞ」
「了解です!」
その後、統合司令部のある建物の前に停車したジープから降車した唯依は、本郷に荷物を任せ、唯依はレベッカの案内で建物の中へと入って行った。
「本郷少尉は随分優秀な方なんですよね?」
「まあ……戦術機の操縦技術については評価しますが…声が大きいのは考え物です……」
「そっ、それは……そうですね」
統合司令部の建物の廊下を歩くレベッカは本郷の印象について唯依に話すと、本郷の操縦技術については評価に値している唯依だったが、如何せんあの大声だけは慣れようにも時間を有すると話すとレベッカは苦笑する。
「ハルトウィック大佐、篁 唯依中尉をお連れしました」
「うむ。入れ」
暫く廊下を歩いていると、レベッカは扉の前で足を止めてノックする。すると室内から威厳ある男性の声が聞こえ、唯依は室内へと入って行った。
「遠路はるばるご苦労だったな。私がプロミネンス計画を預かるクラウス・ハルトウィックだ」
「XFJ計画開発主任として着任いたしました、篁 唯依中尉です」
室内には、このプロミネンス計画の総責任者である【クラウス・ハルトウィック】大佐が唯依を待っていた。唯依は敬礼しながら自己紹介する。
「…貴国の切迫した状況は聞き及んでいる。独力での国産機開発……それがどれだけ困難なことかは理解しているつもりだ。極東の要衝たる日本の防衛に貢献できるのであれば尽力は惜しまんよ」
「光栄です、大佐」
「……ここにいる多くの者にとって、守るべき国土が残されているという事は大きな意味を持つ」
ハルトウィックの心遣いに唯依は感謝するばかりだった。
(ドイツ系の名前……そうか、大佐の祖国もすでに……)
唯依は彼の名前に思うところがあった。彼の出身は西ドイツであり、ユーラシア大陸の真ん中辺りに落着したオリジナルハイヴによってBETAの侵攻を最初に受け、そこにいた人類はアジアを追われ、欧州を落とされ、インドを…中東を奪われた。
唯依は国内にハイヴを抱える祖国日本……その日本のハイヴをこのプロミネンス計画の一環であるXFJ計画を成功させることは自分達だけの問題ではなく、ここで開発された戦術機のデータが、彼らにとってもユーラシア奪還の第一歩になるのでは…と考えた。
「彼らの希望を示すためにもXFJ計画を成功させ、日本の防衛を成し遂げることが必要なのだ。貴官の努力に期待する」
「はッ!!」
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唯依がハルトウィックと対話していた頃……本郷は唯依と自分に宛がわれた部屋に荷物を置いた後、特にやることが無かったのでユーコン基地内を見回ることにした。
さすがプロミネンス計画の中核を成しているユーコン基地……格納庫の前には各国の代表する戦術機が並び立っていた。そこには統一中華戦線の【殲撃10型】や欧州方面軍で使用されている【トーネードADV】などなど……様々な戦術機が並び立っていた。
「あっ、そうだ。愛機の搬入は済んでいるだろうか。確か……」
本郷は自分の愛機である吹雪・弐式が搬入予定地のあるハンガーの位置が記されている用紙を片手に歩き出した。
「おい、何だよ?この機体」
「さあな……見たところ日本の機体みたいだが……」
「そういえば、今日付けで搬入されてくる予定のある戦術機が一機あるって聞いていたけど……」
その頃、吹雪・弐式が搬入されたハンガーにて、先程の飛行演習を終えて帰還して来た衛士三人が見慣れない機体の前で見上げていた。
「それにしても、随分骨太な図体してんな。ただの第一世代機の改造機なんじゃないか?」
小柄な褐色肌の少女衛士が吹雪・弐式を見た第一印象を口にする。確かに見た目は吹雪だが、普通の吹雪に比べると若干大きく、ゴツゴツした印象からして、第一世代機の機体を改造した感が見て取れた。
「あっ、ようやく見つけた!」
そこへ随分大きな声が格納庫に響き、三人の衛士は声のあった方へ一斉に振り向く。そこには用紙を片手に本郷がやって来た。
「あれ?あなた方は?」
「あら?そのウイングマーク……あなたがこの機体のパイロット?」
「はっ、はい!吹雪・弐式のパイロット、本郷 彰少尉であります!!」
「うおっ!?」
「こっ、声がでけぇ!!」
見事なグラマーボディの金髪女性衛士の質問に本郷は自身の自己紹介をいつもの大声で発すると、格納庫内に反響する声に髪の毛がワカメのように長い長身の男性衛士と褐色肌の少女衛士は耳を塞いで驚く。
「い~~耳が痛ぇ~」
「随分と大きい声で喋るのね、アナタ」
「はっ!声が大きいのは生まれつきであります!!」
「だぁぁぁぁっ!!でけぇ声で喋るな!!もう少しボリュームを下げろ!」
「あがぁ?」
三人の衛士と話をする本郷だったが、さすがに本郷の声には参ったらしく、褐色肌の衛士は本郷を蹴り飛ばす勢いで跳び蹴りをかまして黙らせた。
「そっ、それで……あなたは何処の軍から来た衛士かしら?」
「はい!日本帝国軍よりユーコン基地に派遣されてきました」
「日本?ああ、確か国内にハイヴを抱えた国だっけか?」
「はい。祖国の未来を担う戦術機を開発するためにここへ来ました」
「それが、この機体ってことか?」
金髪の女性衛士の質問に本郷は答え、男性衛士は目の前にある吹雪・弐式を見上げる。
「そういえばまだ自己紹介をしてなかったな。俺はヴァレオ・ジアコーザ…イタリア共和国陸軍から来た。階級は少尉」
「私はステラ・ブレーメル…スウェーデン王立陸軍から来たの。階級は少尉よ」
「あたしはタリサ・マナンダル、ネパール陸軍の少尉だ」
ヴァレオ、ステラ、タリサ…この三人と本郷はそれぞれ握手を交わすと突然タリサが大声を上げた。
「あっ!!やっべぇ!!もうすぐブリーフィングの時間じゃねぇか!!」
「何!?そりゃまずい!!」
「急ぎましょっ!」
どうやら演習後のブリーフィングの時間が迫ってきていることに気づいたのか、大慌てで三人は駆け出していく。その際にタリサは「じゃあな」と言って本郷の背中をバシッと景気よく叩いていった。
「……どうやら、ここでの生活も退屈せずに済みそうですな」
去っていく三人を見送りながら本郷は吹雪・弐式を横目に笑みを浮かべていた。