「「・・・・・・」」
「そんなにかきこまなくてもお代わりならまだあるからもうちょっとゆっくり食え。あ、ゼスト、飯お代わり」
「畏まりました」
2週間ぶりに風呂に入ってすっきりしたハジメと恵理はかきこむように白米を食べる。
「品のない食べ方ね」
「2度と食べることが出来ないと思ってた米が食べれているんだ、それくらいは大目に見てやってくれ」
「飛羽真様、どうぞ」
「お、サンキュー」
2人の品のない食べ方にゼシカが顔をしかめるが、飛羽真がそれをフォローし、ゼストから茶碗を受け取り、数日前に作ったイカの塩辛を乗せて食べる。
「う~~~ん、カプセルハウスを引けてラッキーだったぜ。食材はあっても、それをいれておく冷蔵庫とかがないとこれは作れないからな~」
久々に食べる、塩辛をのせて食べる白米に飛羽真はご満悦の様子。
「・・・・・」
「ユエ様?先程からあまりに食べておりませんが・・お口に合いませんでしたか?」
「・・・そんなことはない、おいしい。でも、これよりももっと食べたいものがあるだけ」
ゼストの問いにハジメと恵理が助けた少女 ユエは首を軽く横に振ってこたえた。
「もっと食べたいもの。確か貴方は吸血鬼でしたね。なら食べたいものとは」
「・・・ん、血。ハジメと恵理の血が飲みたい」
シュテルの問いにユエが頷いて答えると、白米をかきこんでいた2人の動きが止まった。
「・・・2人の血はとても美味だった」
「び、美味って」
「わ、私達の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎてまずそうな印象しかないんだけど」
「・・・熟成の味。何種類もの野菜や肉をじっくりと煮込んだスープのような濃厚で深い味わい・・」
にじり、にじりと舌なめずりしながら近寄るユエに2人に後ずさる。
「・・・美味」
「「勘弁して/くれ」」
ユエの発言にハジメと恵理は魔物より厄介なものを解き放ってしまったのではないかとおもい、げんなりした表情で力なくつぶやいた。
「反逆者が作った迷宮?」
食事を終え、この迷宮に封印されていたユエにここがどの辺りなのか?ほかの地上への脱出の道はないのかを尋ねた飛羽真達だったが、ユエも分からず申し訳ない表情で答えた後、今いるこの迷宮を作ったであろう者達のことを語ってくれた。
「反逆者・・神代に神に挑んだ神の眷属の事。・・・世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」
ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した7人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。その果てというのが現在の七大迷宮と言われている。このオルクス大迷宮もその内の一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているとかなんとか。
「・・・そこなら、地上への道があるかも」
「神に反逆した者達・・・か」
脱出への道が見え、頬が緩んでいるハジメ達とは違って飛羽真はユエの語った反逆者という言葉が気になっていた。
「(世界を滅ぼすために神に挑んだ・・・本当にそうなのか?)」
手に入れたスキル『直感』がユエの言ったことが違うと言っており、飛羽真は何で神に挑んだのか不審がる。
「飛羽真?どうかしたのですか?」
「いや、何でもない。あぁ、中村」
「何?」
「これをお前に渡しておく」
飛羽真は量子ボックス内からハジメの持っているショットライザーとベルト、ラッシングチータープログライズキーを取り出し、渡す。
「これって、ハジメ君が持っているのと同じ」
「そう。俗にいう女性ライダーに変身するためのツールだ。まぁ、南雲と違って生身でここまで戦ってこれたお前には必要ないかもしれないが」
「うんん、ありがとう八神君。大事に使わせてもらうね」
その後、ハジメの予備のカプセルハウスを渡し、別れて夜を過ごした。
その翌日、メンバーが7人となった一行は大迷宮の最下層にある反逆者の住まいを目指し、探索を始めた。薄暗い場所では夜目を持つハジメと恵理を先頭にして進み、それ以外の場所ではハジメよりも高性能の気配探知を持つ飛羽真を先頭にして進む、さらにシュテルのサーチャーで階層内を調べることで効率よく下へ続く道を探し、あっという間に10階層ほど降りることが出来たのだが、
「・・・今度は樹海か」
「密林もあったからそこまで驚かないが、本当に迷宮内なのか疑っちまうな」
十メートルは優に超える木々に、男子高校生の平均身長ほどある雑草、うっとおしいにもほどがある。
「それに・・」
地響きと共に巨大な爬虫類型の魔物が7人の前に現れた。
「ティラノサウルスだな」
「あの頭の上にある花は何だ?」
「・・・ちょっとかわいいかも」
「「え?」」
その言葉に飛羽真とハジメは恵理の感性を疑ってしまった。そんなことなど露知らずティラノは飛羽真達を食べようと口を大きく開けて迫ってくる。食べられるきは毛頭ないので斬ろうと飛羽真が太刀に手を添えたとき、ユエが前に出て手を掲げる。
「緋槍」
掲げた手の手元に現われた炎が渦巻に円錐状の槍となってティラノに撃ち放たれ、大きく開けていた口の中へと入る。槍は突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。
「相変わらずの凄い威力だな」
「やっぱりこっちの魔法は私の覚えている魔法より便利ね。落ち着いたら教えてもらおうかしら?」
「魔力が少なくなってもハジメ様と恵理様の血を吸うことで回復出来るとはいえ迂闊すぎですね」
「確かに世の中には限度という言葉がありますから。そういうことでユエ。今後、よほどのことがない限り、高位の魔法の使用は禁止です」
「・・・私、役に立つ」
無表情ながらどこか得意げな顔をするユエに、
「貴方が役に立つというのはここにいる全員が知っています。ですが、大分前に魔力が枯渇するまで魔法を使い、戦闘中だというのに倒れたことを忘れたのですか?偶々恵理が近くにいて、血を吸ったおかげで事なきを得ましたが、そんな偶然は何度も続きません。先程も言いましたが魔力と同じで2人の血にも限度というものがあります。血を吸われすぎて戦闘中に2人が倒れてしまったらどうするつもりなのです?」
「・・・とっても困る」
「そうです。貴方にとっても私達にとっても困ることになるんです。なので言った通り、高位魔法の使用は控えてください、いいですね?」
「・・・・・ん」
シュテルに論破され、ユエは頷いて答えた。
「反論を言う暇すらなく論破した」
「シュテルは頭がいいからな反論させることなく相手を論破させるなんざ朝飯前だろう」
「見たところ、ユエ様はハジメ様と恵理様に依存しているように思います」
「聞いた話じゃ300年間ずっと一人だったようだからな。動くことも死ぬことも出来ない地獄のような時間から解放してくれたんだ。依存してもおかしくない。それより・・・」
ゼストの言葉に飛羽真が自分の考えを言うと、太刀を抜く。
「(数は・・・10か。囲まれる前に1体を倒して有利な場所に移動したほうがいいな)囲まれる前に何体か倒して有利な場所に行くぞ」
生い茂った木の枝を太刀で切り払って飛び出すと、体調2m強の爬虫類、ラプトルに似た魔物がいた。そして、その魔物もさっき襲ってきたティラノと同じで頭にチューリップを生やしていた。
「・・流行りなのか?」
「知らん」
風貌に似つかわしくない花を頭上に生やしながら魔物は咆哮を上げながら飛羽真達に襲い掛かる。左右に散らばることのよって魔物のその鋭い鉤爪を躱す。だが、それだけでは終わらず、ハジメはここに来るまでに食した得た魔物の固有能力の一つである“空力”を使い、三角跳びの要領で魔物を頭上を取ると、ショットライザーではなく錬成で作った銃“ドンナー”を使って頭上の花を撃った。
花が四散すると、魔物は一瞬、痙攣したかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。静寂が辺りを包む中、全員が一か所の集まって魔物と散った花を見る。
「死んだのかな?」
「いや、生きてるっぽいけど」
恵理の問いにハジメが答えると、ピクピクと痙攣した後、魔物はムクっと起き上がり、辺りを見回し始める。そして、地面に落ちている花を見つけると近寄り、親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。
「何だ、この反応は?」
「悪戯されたのでしょうか?」
「いや、そんな背中に張り紙つけて騒ぐ小学生じゃねぇんだから・・・」
「やけに具体的な例だね」
魔物の反応に飛羽真達が困っている中、魔物は一通り踏みつけて満足したのか、天を仰ぎ鳴き声を上げる。そして、ふと気がついたように飛羽真達のほうへ顔を向け驚き、硬直した。
「「今気づいたのかよ」」
「それだけ夢中だったってことなのかな?」
「・・・やっぱりイジメ?」
ツッコミをいれると共に呆れる飛羽真とハジメ。恵理はそれだけあの花に恨みがあったのだと理解し、ユエは同情したような眼差しで魔物を見る。暫く硬直していた魔物だったが、直に姿勢を低くして牙をむきだにして唸り、飛びかかってこようとするが、
「無の呼吸 水ノ型 水面斬り」
魔物が飛びかかるよりも早く、神速の踏み込みで魔物の懐に入り込み、太刀を振るって魔物の首を斬り落とした。
「やっぱり八神は人間をやめてるな」
「何度も言ってるが南雲、俺はまだ人間を超えていない」
「「「「「「それはない」」」」」」
「・・・泣いてもいいか?」
飛羽真の言葉に全員がそれを否定し、飛羽真は心に深いダメージを負う。魔物の包囲網がかなり狭まって着ているのを感じた飛羽真達は有利な場所を探し、移動していく。
程なくして直径5mはありそうな太い樹が無数に伸びている場所へと出る。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合って、一種の空中回路のようであった。
「ここなら迎撃するのにぴったりだな」
「私とハジメ君はさっき使った空力で上がれるけど」
「・・・私は風魔法で飛ぶことが出来る」
「私は飛行魔法を覚えているので問題ありません」
「私もシュテル様と同じで飛べるので問題ありません」
「私はテレポートの魔法を使って上に上がるわ」
「じゃあ、残る問題は」
全員の視線が飛羽真へと向く。
「大体、5mって所か。この程度の高さなら行けるな。武技『能力向上』」
全員の視線を無視して飛羽真は武技で身体能力をさらに向上させるとしゃがみ、ひと跳びで太い枝へと跳び乗った。
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
「ボーっとしてないで早く上がって来いよ。もう少しで魔物に集団がやってくるぞ?」
飛羽真に言われ、慌てて頭上の太い枝へとそれぞれの力や魔法を用いて飛び乗り、魔物の迎撃準備に入る。5分もかからないで次々と魔物が現われたのだが、その姿を見て飛羽真達は固まる。なぜなら、
「何でどいつもこいつも花つけてんだよ!?」
「・・・・ん、お花畑」
「ばか」
現れた全ての魔物は頭部に花をつけていたのだ。思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して魔物達が上を見上げる。そして、襲い掛かろうと跳躍の姿勢をとるが、
「ストーンエッジ」
「アル・ドライファ・ウィンドカッター」
「・・・緋槍」
「パイロシューター」
ゼストが魔法で刃のようにとがった石を地面から隆起させ、魔物の足を貫き、動けなくさせそこに風の刃、火の槍、無数の火球を放ち、魔物達を一掃した。
「・・・八神、気づいてるか?」
「あぁ。この迷宮の魔物にしては弱すぎる。単純な動き、他の魔物みたいな固有の攻撃も無し。殺気はあっても機械的で不自然な動き」
「それに花が取れた後の花に対するあの怒り。慎重に進んだほうがいいな」
「そうだな。・・・・おいおい」
「どうかしたの?」
飛羽真の慌てようにゼシカが尋ねる。
「30、いや、40以上の魔物の大群がこっちに向かってこっちに向かってきてる」
「この動き、誰かが指示をだしているっぽいね」
飛羽真と同じように“気配感知”を持っている恵理は魔物に統一された動きに指示を出している者がいること悟る。
「・・・逃げる?」
「いや、この密度だとすでに逃げ道がない。一番高い樹を見つけて、天辺から殲滅するのがベターだろ」
「だな。シュテル、この周囲で一番高い樹は何処にある?」
「6時の方向、距離は10m先です」
「よし。行くぞ」
高い樹の場所を聞くと飛羽真達は高速で動いて、シュテルが見つけた樹へと向かい、天辺にある枝に飛び乗ると、飛羽真は斬撃を飛ばして魔物が登って来にくいように枝を斬り落とした。
「・・・来たな」
迎撃準備を終え、待っていると魔物の第1陣が登場する。
「ラプトル型に加え、ティラノ型もいるのか。あの巨体で体当たりされたらこの太い樹でもすぐに折れちまいそうだな。・・・ゼスト」
「お任せください」
飛羽真に言われ、ゼストは魔法で岩を隆起させ、城壁を作り上げる。ティラノは壁を壊そうと何度も壁に体当たりし、ラプトル型は仲間の背を使って跳躍して城壁を跳び越えるが、銃と魔法による狙撃で撃ち落とされていく。ティラノ型も壊そうとしている岩壁から鋭利に尖った岩が弾丸のように撃ち出され、ティラノ型を撃ち貫いた。
「まだ来るぞ」
1陣を倒し一安心と思った矢先、魔物の第2陣、続けて第3陣が登場する。
「・・・どうだ、中村、シュテル?」
「・・もう少し」
「・・・・・・・ユエ、今です」
「ん!凍獄」
シュテルの合図でユエが魔法を発動。飛羽真達がいる樹を中心に眼下が一気に凍りつき、魔物の氷像が出来上がった。
「太古の昔に絶滅した恐竜もこんな風だったのかね~」
「う~~ん、どうなんだろう?」
そんなことを考えていると、
「・・・・飛羽真」
「言わなくても解る」
「いくらなんでもおかしいだろう。たった今、全滅させたばかりだぞ?なのに・・また、襲撃って・・・まるで強制されているみたいに・・・あの花・・・まさか」
「・・・・寄生」
ユエの推測に全員が肯定するかのように頷く。
「だとしたら本体がどこかに居るはずね」
「だな。花を取り付けている何かを倒さない限り、俺達はこの階層の魔物全てを相手にすることになる」
ゼシカの言葉に飛羽真が頷く。
「・・・俺達が囮を務める。南雲、中村とユエを連れて操っている本体を探せ」
「・・・俺がそのまま恵理とユエを連れて下の階層に行くってことは考えないのか?」
「考えたが、お前はそうしないと思ってな。樹海まで存在するこの迷宮、生きて地上に出るために必要な戦力をやすやすと捨てるお前じゃないだろう?」
「・・っは、お見通しってわけか。まぁ、他の奴らならいざ知らず。八神を見捨てる気はさらさらねぇけどな」
「何でだ?」
「・・・地球でもこっちでも俺の為に色々としてくれてたし、危険を承知で探しに来てくれたしな」
「・・・本体は任せた・・ハジメ」
「あいよ。死ぬなよ、飛羽真」
返事を返すとハジメはユエを抱えて恵理と共に本体を探しに行った。
「1匹たりとも逃すつもりはないが、3人とも仕留めそこなったら倒してくれ。後、空を飛んでおくように」
飛羽真は樹の枝から飛び降り、地面に着地すると、量子ボックスから1本の杖を取り出した。
「使いどころが難しい武器だが、1対多の時にはこれが1番役に立つんだよな」
飛羽真が地面に降りてしばらくすると100体以上の魔物が登場し、飛羽真に襲い掛かる。
「・・・星の杖(オルガノン)」
シュテル達がちゃんと飛んでいることを横目で確認した後、飛羽真は小さくも力強い声で呟く。すると、杖に5重の光の環が浮かび上がり、飛羽真を中心に同心円状に広がる。空中でそれを見ていたシュテル達は広がったあの円に一体何の意味があるのかと首を傾げるが、次の瞬間、100体いた魔物の半数とユエの氷魔法によって氷像と化した魔物、さらには周りにあったすべての樹が両断された。
「い、いったい何が」
「・・・見えない何かに斬られた・・っとしか言いようがありませんね」
「分析をする前に飛羽真様の援護を・・・」
半数の魔物を一瞬で斬り捨てたとはいえ、魔物はまだ残っており、飛羽真へと襲い掛かっているのを見たゼストは援護しようとするが、それよりも早く、見えない何かが次々と魔物を斬って行く。かろうじて斬られなかった魔物もいたが、飛羽真の間合いに入った途端、
「無の呼吸 水ノ型 打ち潮」
杖に仕込まれた刃でばらばらに斬り裂かれた。
「倒しても、倒しても湧いてきやがる。まるでGだな」
いくら斬ってもGのように湧いてくる魔物の軍団。疲労こそ少ないが精神的に参っていた。
「え~~と、これで何体目立ったけっか?300手前までは数えてたんだが・・・だめだ思い出せない」
飛羽真の周囲には斬られた魔物の亡骸が沢山あり、どれだけの数の魔物が押し寄せたのかを物語っている。
「飛羽真、また来たわよ」
「・・・少しは休ませて欲しいんだけどな」
ゼストが魔法で作ってくれた椅子で小休止を取っていると次の団体さんがやってきたとゼシカが伝えた。だが、
「あれ?」
「どうした?」
「魔物達についていた花が落ちていってるわ。これってもしかして」
「・・・そのもしかしてです。3人が魔物を操っていた本体を見つけ、倒しました」
サーチャーで様子を見ていたシュテルが無事に魔物を操っていた本体を倒したことを伝える。
「んじゃ、3人と合流したら、今日の探索は終わりにするか。さすがの俺も精神的に疲れた」
その後、無事にハジメ達と合流した飛羽真達。300体以上を1人で倒したことを話すとドン引きされ、心に深い傷を負うことになったが、シュテル達と電話で事情を知ったフェイト達の必死に慰めでどうにか持ち直すことが出来たとさ。