“大賢者”と“ガチャ”を得た転生者の冒険譚   作:白の牙

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第21話

 

 

 ハジメが運転する魔導バイクを先頭に渓谷を進む飛羽真達一行。現われる魔物はハジメと一緒にバイクに乗っている恵理が銃で撃ち殺すか、束が製作した大型キャンピングカーに搭載された兵装で撃ち抜かれていた。

 

 「キャンピングカーという名の装甲車だなこれは」

 

 映し出される映像を車の中で見ていた飛羽真が呟く。ガチャでゲットした卵を膝に乗せて、撫でており、偶に卵に乗っているピナの事も撫でる。

 

 「おまけにオルクさんの覚えていた“空間魔法”。それのお陰で40人は余裕で入れる空間になった。あれだなスーパー戦隊の一つの拠点兼足に使っていた車の強化改修版だな」

 

 「でも、こういう場所は揺れると思ってたんだけどそうでもないのね?」

 

 「本来なら揺れる。だが、車体底部に作った錬成機構が悪路を整地しているんだ」

 

 「成程、だから揺れないのね」

 

 飛羽真の説明に納得したゼシカはカップに淹れられたお茶を一口飲むと、テーブルにおいているチェス盤を見る。

 

 「それ持ってきたのか?」

 

 「えぇ。娯楽があったほうが気晴らしにもなるだろうし。それに、負けたままなのは嫌だもの」

 

 ゼシカが真剣に見ているのはオスカーが生前作ったチェスだ。駒がやられるたびに昼ドラのような愛憎劇や骨肉の争いが起こるがそれ以外は至って普通のゲームなのだ。

 

 「オルクさん、何であんなゲーム作ったんですか?」

 

 「最初は実際の戦争をモチーフにした物だったんだが、うちのリーダーが余計な設定を追加して今のドロドロなストーリーが繰り広げられるようになってしまったんだ」

 

 飛羽真は製作者である本人に尋ねると、オスカーはため息をつきながら答えた。

 

 「およ?魔物の咆哮が聞こえてきたね?」

 

 打ち上げた衛星と同時に世界へとばらまいた小型のスパイロボから送られてくる映像と情報を処理していた束が聞こえてきた咆哮に作業の手を止める。

 

 『こっちでも聞こえた。放たれる威圧からして、この谷底の魔物の中で上位に位置するのかもしれないな。30秒もしない内に会敵するな』

 

 「・・オルクさん。あの崖を回り込んだら車を止めてください。シュテルはランチャーをいつでも撃てるよう準備しておいてくれ」

 

 「了解だ」

 

 「解りました」

 

 先に先頭を走っているハジメが崖を回り込む。それに続くように車が崖を回り込み、停車すると、大迷宮で対峙したティラノサウルス型の魔物がいた。1つ違うとすればその頭が1つではなく2つだということか。

 

 更にその魔物の近くには、

 

 「・・・何だあれ?」

 

 ぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女がいた。

 

 「・・・・兎人族?」

 

 「何でこんなところに?兎人族って谷底が住処なの?」

 

 「・・・聞いたことない」

 

 ユエがその少女の種族を言い当てると、恵理が何でその種族がここにいるのかを尋ねるも、ユエ自身も何でいるのか分からなかったらしい。

 

 「犯罪者として落とされたのかもしれないね。元々、ライセン大渓谷は重罪を犯した者達を処刑するために使われていたからね」

 

 「・・・悪兎?」

 

 車から降りてハジメ達と逃げ回る兎人を見ていたオスカーがライセン大渓谷の事を話すとユエが小さく呟いた。

 

 どうしたものかと飛羽真達が悩んでいると、少女が飛羽真達を発見する。双頭ティラノに吹き飛ばされ、岩陰に落ちた後、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま飛羽真達を凝視する。

 

 そして、再び双頭ティラノが爪を振るい隠れた岩事吹き飛ばされ、地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と飛羽真達の方へと逃げ出した。それなりに距離があるのだが、少女の必死の叫びが渓谷に木霊する。

 

 「だずげでぐだざ~い!ひっーー、死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~~!」

 

 「うわ、モンスタートレインかよ」

 

 「・・・迷惑」

 

 少女が連れてきた双頭ティラノに全員が嫌な顔をする。

 

 「彼女を助けるかい?」

 

 「無視してもいいんですけど、何処までも追って来そうな気がするんですよね~。付きまとわれるのも嫌ですし、斬っておきますか」

 

 「キュル~~」

 

 「ピナ?」

 

 双頭ティラノを斬るため飛羽真が刀に手を添えたとき。頭に乗っていたピナが飛羽真の額を叩いて何かを訴えてくる。

 

 「キュル、キュルル~」

 

 「お前が倒すっていうのか?」

 

 「キュル」

 

 飛羽真の言葉にピナが鳴きながら頷く。飛羽真はしばし考えた後、

 

 「分かった。念のために俺の魔力を少し送る」

 

 飛羽真とピナは見えないラインのようなもので繋がっている。ラインを通して飛羽真の魔力をピナに送ることが出来、能力を上げたり、放つ技の威力を上げることが出来るのだ。

 

 「(このぐらいでいいかな?)行け、ピナ」

 

 「キュル!」

 

 飛羽真の指示にピナはその場で大きく息を吸い込む。そして、

 

 「キュル~!」

 

 可愛い鳴き声と共にレーザー如きブレスが放たれ、少女に追いつき、食そうとその大きな口を開けていた双頭ティラノの口内を突き破った。

 

 「っへ?」

 

 自分を食べようとしていたティラノの片方の頭が亡くなったことに少女が目を丸くする。そして、力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

 

 その衝撃で、少女は再び吹き飛ぶ。そして、狙いすましたように飛羽真の下へと向かっていく。

 

 「きゃぁああああああ!た、助けてくださ~い!」

 

 眼下の飛羽真に向かって手を伸ばす少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。例え、酷い泣き顔でも男なら迷いなく受け止めるだろう。

 

 「・・・・・」

 

 いつでも服を変えることが出来るとはいえ外に出て早々着替えるのは面倒だと感じた飛羽真は1歩横にずれた。

 

 「えぇーー!?」

 

 受け止めてもらえると思っていた少女は驚愕の悲鳴を上げる。来るであろう痛みに少女は目を瞑るが、いつまで経っても痛みはこず、何かに受け止めら、浮遊感を感じ取った。恐る恐る、少女が目を開けると地面に座っていた。

 

 「・・・おぉ」

 

 「おみごと」

 

 少女は目を閉じていて知らないだろうが、少女が地面と衝突する数秒前、飛羽真は片腕で少女を受け止めると、コマのように回転して勢いをころし、少女を地面に座らせたのだ。その動きにユエと恵理は思わず拍手をした。

 

 

 一方、双頭ティラノは絶命した片方の頭を、何と自分で喰い千切りバランス悪目な普通のティラノになった。ティラノはその眼に激烈な怒りを宿して咆哮を上げる。その叫びに座っていた少女は跳びはね、直立で着地すると涙目になりながら、素早い動きで飛羽真の後ろに隠れた。

 

 「人を盾にするな!服を掴むな、離せ!」

 

 「い、いやです!今、離したら見捨てるつもりですよね!」

 

 「何で、余計な騒動を連れてきた見ず知らずのウザギを助けなきゃならないんだ」

 

 「そ、即答!?何が当たり前ですか!貴方にも善意の心はありますでしょう!いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないんですか!それに、見ず知らずというなら、あそこにいる私と同じ兎人族を助けているんですから、今更でしょう!」

 

 飛羽真の服を掴み、しがみつきながら少女は束を指さす。

 

 「残念だが、あの人は人間だ。あの頭に着けているうさ耳はアクセサリーみたいなもんなんだよ。つぅか、自分で美少女言うなよ」

 

 「な、なら助けてくれたら・・・そ、その貴方のお願いを、な、何でも1つ聞きますよ?」

 

 頬を染めて上目遣いで迫る少女。あざとい、実にあざとい仕草だ。涙や鼻水とかで汚れてなければ、さぞ魅力的だっただろう。並みの男なら、例え汚れていても堕ちるだろう。だが、

 

 「いらねぇよ。ていうか汚い顔を近づけるな。服が汚れるだろう」

 

 飛羽真には全くと言っていいほど効果がなかった。

 

 「き、汚い!?言うことかいて汚い!あんまりです!断固抗議しまっ『グゥガァアア!』ヒィー!お助けぇ~!?」

 

 少女が飛羽真の言葉に反論しようと声を張り上げた瞬間、“無視すんじゃねぇ!!”とでも言うようにティラノが咆哮を上げて突進しようと身をたわめた。

 

 「飛羽真様が動くことが出来ません離れてください」

 

 「絶対に離しませぇ~~ん!」

 

 情けない悲鳴を上げながら掴む力を更に強める少女。ハジメがいるため問題はないだろうが、何が起こるか分からないのが戦場。見かねたゼストが少女を飛羽真から引きはがそうとするが、引きはがされたら終わりと思っている少女は死に物狂いで飛羽真にしがみついているため引きはがすことが出来ない。

 

 その様子を見てコケにされていると感じたティラノは一層怒りを宿した眼光で飛羽真達を睨み、遂に突進を開始した。

 

 「(しゃーない)星の杖(オルガノン)」

 

 少女が腰にしがみついているため刀を抜きづらいことを知ると、飛羽真は量子ボックスないから杖を取り出し、起動した。すると、突撃してきたティラノがばらばらに斬り裂かれ、肉片が地面に落ちる。

 

 「し、死んでます・・・あのダイヘドアが一瞬で」

 

 自分を食べようと追いまわしていた双頭ティラノ“ダイヘドア”の死骸を呆然としたまま硬直してみる少女。その間、飛羽真にしがみ付いており鬱陶しく感じた飛羽真は少女の脳天に手刀を叩き込む。

 

 「へぶぅ!?」

 

 呻き声を上げ、両手で頭を抱えて地面をのたうち回る少女。それを冷たく一瞥した後、飛羽真はハンドサインで先に行くぞとハジメ達に合図を送る。ハンドサインを見たハジメはバイクに魔力を注ぎ、他の面々は車に乗り込む。

 

 その気配を察したのか、今まで地面を転がっていた少女は物凄い勢いで跳ね起き、再び飛羽真の腰にしがみついた。

 

 「(此奴、打たれ強すぎないか?)」

 

 「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの1人、シアと言いますです!取り合えず私の仲間も助けてください!」

 

 そして、中々に図太かった。


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