「私の家族も助けてください!」
渓谷に少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら自分1人だけではなく、仲間も彼女と同じ様、窮地に陥っているようだ。
とっとと先に進みたいと思っているハジメはこのままでは拉致があかないと思い、シアのウサ耳を握ると“纏雷”を行った。
「アバババババババアバババ!?」
シアのうさ耳が“ピンッ”と立ちうさ毛が“ゾワッ”っと逆立っている。ハジメが“纏雷”を解除すると、痙攣しながらずるずると崩れ落ちていった。
「・・・・・」
「行こうぜ飛羽真」
「お、おう」
容赦ないハジメの行動に飛羽真は引きつった笑みで返事を返し、車に乗り込もうとすると、
「に、にがしませんよ~~」
痙攣していたシアがゾンビの如く起き上がり飛羽真の脚にしがみつく。
「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力を出したんだけど・・・何で動けんだよ?」
「本当は兎人族じゃなくて、ゾンビだったりして」
「・・・不気味」
「うぅ~~何ですか!その物言いは!さっきから、手刀とか電撃とかちょっと酷すぎると思います!断固抗議しますよ!お詫びに家族を助けてください!」
怒りながら、さらりと要求を突きつけるシア。案外余裕そうである。
「ハジメ、このままじゃ埒が明かないから話だけでも聞いてやろうぜ」
このままでは先に行くことが出来ないと思った飛羽真が話だけでも聞こうと提案する
「・・・・分かったよ」
「っと、言うことだ。話を聞いてやるからいい加減離れろ。つーか、さり気なく俺の服で顔を拭くな!」
話を聞くと言われ、笑顔になるシアは、これまたさり気なく飛羽真のコートで汚れた顔を綺麗に拭っていた。いい性格をしているシアにイラっときたのか、飛羽真は本日2度目の手刀をシアの脳天に叩き込んだ。
「はぎゅん!?ま、また殴りましたね!父様にも殴られたことがないのに!よく私のような美少女を、そうポンポンと・・・もしや、殿方同士の恋愛にご興味が・・・だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね!そうでっあふんっ!?」
「誰がホモだウザウサギ。って言うか何でそのネタを知ってるんだよ。ユエと言いお前と言い、どっから仕入れてくるんだ?」
「飛羽真、話が脱線するからそれは取り合えずおいておけ」
「そうだな。お前の誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのは、お前より遥かにレベルの高い女子が6人もいるからだ。俺としてはこの6人を見て堂々と誘惑出来るお前の神経がわからん」
「で、でも!胸なら私が勝ってます!そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」
“ペッタンコじゃないですか!”“ペッタンコじゃないですか!”“ペッタンコじゃないですか!”
ユエを指さしながらシアが言った言葉が渓谷に木霊する。前髪で表情を隠したままユラリとサイドカーから降り、ゆっくりと歩み寄るユエ。
「あ~あ」
「いっちまったな~」
命知らずなシアの発言にハジメは天を仰ぎ、飛羽真と共に無言で合掌する。見た目からは解らないがユエは着やせするタイプで、それなりにある。だが、他の面々に比べると少々控えめで、夜な夜な恵理から教わったバストアップマッサージを行っているらしい。
「あ、あ、あ」
震えるシアのうさ耳に囁くようなユエの声がやけに明瞭に響いた。
「・・・・お祈りはすませた?」
「・・謝ったら許してくれたり」
「・・・・」
「死にたくなぁい!死にたくなぁい!」
「“嵐帝”」
「あっーーーーーー!?」
突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が渓谷に木霊し、きっかり10秒後に飛羽真達の眼前に墜落した。
「・・・まるで犬〇家だね」
恵理は映画にもなった推理小説の人物と同じことになっているシアを見てそう呟く。
「完全にギャグだな」
その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女であるシアを見て飛羽真はそう呟く。遠目で軽い修羅場となっているハジメとユエを眺めながら、犬〇家になっているシアを助けようと動こうとしたとき、痙攣していたシアの両手が地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしていた。
「アイツ動いてるぞ・・・・・本気でゾンビみたいなやつだな頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが・・・」
視線をさまよわせていたハジメもそれに気づき、軽く引いてしまう。
「うぅ~~~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに」
涙目で、しょぼしょぼとボロボロになった布を直すシアは、意味不明なことを言いながら飛羽真達の下へ這い寄ってきた。
「(まるでホラー映画だな)」
シアのことを見ながら飛羽真はため息を吐き、量子ボックスからタオルケットを取り出し、シアに被せる。
「え?」
「色々と目のやり場に困るし、約1名、お前のとある部分を見て睨んでるからな羽織っておけ」
「あ、ありがとうございます」
飛羽真の優しさに涙を流しながらお礼を言うシア。
「はぁ~~、お前の耐久力は一体どうなってるんだ?尋常じゃないぞ・・・何者なんだ?」
ハジメの胡乱な眼差しに、ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。飛羽真達の前で座り込みまじめな表情となる。話を聞くため車からゼシカ達も降りてくる。
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は・・・」
それからシアは自分達のことを語りだした。
シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。聴覚や隠密行動に優れているものの兎人族は他の亜人族に比べればスペックが低くと、突出した物がないので亜人族の中でも格下と見られていた。性格は温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国等に捕まり奴隷にされた時は愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に農紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかかった白髪だったのだ。しかも、亜人族にはないはずの魔力まで有しており、直接魔力を操る術と、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族としてあり得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、トータスに住む全種族にとって不俱戴天の敵なのである。過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたと言う記憶がある。また被差別種族と言うこともあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情等持っていないのだ。
故に、ハウリア族は女の子を隠し、16年もの間ひっそりと育ててきた。だが、、先日とうとう彼女の存在がばれてしまったのだ。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族事、樹海を出たのだ。
行く当てもない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが帝国や奴隷商に捕まり、奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼らの試みは、その帝国により潰えた。樹海を出てすぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。そして、女子供を逃がすために男達が追っ手の妨害を試みるが失敗し、半数以上が捕らわれてしまい、全滅を避けるために逃げ込んだ渓谷では魔物に襲われ、渓谷の奥へと逃げるしかなかった。
「・・気が付けば、60人いた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けてください!!」
最初の残念な感じとは打って変って悲痛な表情で懇願するシア。どうやらシアはこの世界の例外と言う者らしい。特に、ユエと同じ、先祖返りと言う奴なのかもしれない。
話を聞き終えたハジメは、飛羽真達が何かを言う前に、
「断る」
っと、特に表情を変えることなく端的に答えた。