樹海の案内を頼む見返りとして兎人、ハウリア族の護衛を引き受けた飛羽真達一行はシアの案内の下、彼女の部族が隠れている場所へと向かっているのだが、遠くからでも分かるほどの悲鳴と怒号が渓谷に木霊する。
「・・・やばい状況みたいだな」
開けていた窓から聞こえてくる悲鳴と怒号を聞き、飛羽真はシアの家族が危機に瀕しているのを理解すると、バイクと車の速度を上げる。そして、走ること2分。最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。
「あ、あれは、ハ、ハイベリア」
上空を旋回しているワイバーンによく似た魔物“ハイベリア”を見たシアは声を震わせながら名を口にした。
「獲物の品定めをしているみたいだな。行動を起こすのも時間の問・・・あ」
上空のハイベリアの対処を考えているうちに6匹のうちの1匹が遂に行動を起こした。大きな岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で1回転し遠心力がたっぷりと乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出てくる。ハイベリアは待っていたと言わんばかりに、その顎門を大きく開け、無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは2人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。
廻りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には2人の家族が無残にもハイベリアの餌になる所を想像しただろう。しかし、それはあり得ない。何故なら、この場には彼らを守ると契約した、奈落の底より這い出た化物達とかつて神に挑むために立ち上がった解放者の1人がいるのだから。
渓谷に2発の乾いた破裂音が響くと同時に2条の閃光が虚空を走る。そのうちの1発は、今まさに2人の兎人族に食らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わずに貫き、頭部を爆散させ、蹲る2人の兎人族の脇を勢いよく土煙を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。同時に後方で凄まじい咆哮が響いた。呆然とする暇もなく、そちらに視線を向けた兎人族が見たものは、片方の腕が千切れ大量の血を吹き出しながらのたうち回るハイベリアの姿。
「い、一体何が」
子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリアと、後方でのたうち回っているハイベリアを交互に見ながら呟いた。
すると、更に発砲音が聞こえ、のたうち回っていたハイベリアを幾条もの閃光が貫いていく。最後に甲高い咆哮を上げたハイベリアは地響きを立てながら崩れ落ち動かなくなった。
仲間の死に激怒したのか、残りのハイベリア達が一斉に咆哮を上げる。それに身を竦ませる兎人族達の優秀な耳に、今まで1度も聞いたことのない異音が聞こえた。甲高い上記が噴出するような音に今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、高速でこちらに向かってくる4人の影と、荷車よりも大きな物。
4人の影の内、1人は見覚えがありすぎる者だった。何故ならそれは今朝がた、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子だからだ。
「みんな~~~助けを呼んできましたよぉ~~!」
「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」
その聞きなれた声音に、兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。兎人族がシアの名を呼んだと同時に、車の屋根から1つの影が砲弾の如く、上空で怒りの咆哮を上げているハイベリアへと突っ込んでいった。
「無の呼吸 水の型 水車」
ハイベリアへと突っ込んでいた1つの影 飛羽真は空中で1回転し、遠心力も加わった一閃で正確にハイベリアの首を斬り落とすと、魔力で足場を作って着地し、方向転換。足場に付与されている加速の恩赦で一気に加速する。そして、
「武技『六光連斬』」
6つの斬撃を同時に放ち、残りのハイベリアを斬り捨てた。瞬く間に残っていた全てのハイベリアを斬り捨てた飛羽真は絶妙のタイミングで落下地点にやってき、停止した車の屋根に危なげなく着地すると、刀を振るって刀身に付いたハイベリアの血を拭うと刀を鞘に納めた。
断末魔を上げる暇すらなく、力を失って地に落ちていくハイベリア。シアを襲っていた双頭のティラノモドキ“ダイヘドア”と同等以上に、この谷底では厄介な魔物と知られている彼らが、何の抵抗もできずに瞬殺された。有り得べからざる光景に、硬直する兎人族達。
「いつまでボォーーっとしてるんだ、さっさと正気に戻れ」
「・・・っは!?シ、シア!無事だったのか!!」
「父様!」
いつまで経っても正気を取り戻さない兎人族達にイラついたのか、ハジメが空に向かって銃を発砲する。その発砲音で真っ先に正気を取り戻した、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。
「「(うさ耳を生やしたおっさんって、誰得だよ))」」
シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間にシアと父様と呼ばれた兎人族は話が終ったようで、互いの無事を喜んだ後、飛羽真達の方へ向き直った。
「ハジメ殿に飛羽真殿で宜しいか?私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助けいただき、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力してくださるとか・・・・父として、族長として深く感謝致します」
そう言うと、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。
「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ?」
「それより、随分あっさりと俺達のことを信用するんだな?亜人は人間族にいい感情を持っていないだろうに・・・」
亜人族は被差別種族である。実際、渓谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族である飛羽真達に頭を下げ、しかも助力を受け入れるという。あまりにもあっさりとしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱く飛羽真。
「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから・・」
カムは、それに苦笑いで返した。
「感心半分呆れ半分ですね。1人の女の子の為に一族事故郷を出て行くくらいですから情の深い一族だとは思っていましたが、初対面の人間族相手にあっさりと信頼を向けるとは警戒心が薄すぎます」
「はは、昔の彼らを見ている気分になるよ」
警戒心の薄さにシュテルが呆れ、オスカーは昔の仲間を思い出し笑みを浮かべた。
「えへへ、大丈夫ですよ、父様。飛羽真さんは女の子に対して少し容赦がないし、対価がないと動かない人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです!ちゃんと私達を守ってくれますよ!」
「はっはっはっ、そうかそうか。つまりは照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」
生暖かい眼差しで飛羽真を見ながら頷く他の兎人族。
「(尚文さんもこんな気持ちだったのかね~)」
かつて共に旅をした本物の勇者だと思っている人も今、自分に向けられている視線を浴び、自分と同じ思いを感じていたのかと考える。
「ほれ、世間話はそこまでにしてさっさと移動するぞ。また魔物が集まってきたら面倒だからな」
向けられる視線に耐えきれなくなったのか飛羽真は足早にその場から離れる。そんな飛羽真の背を苦笑いで見つめながら一行はライセン大渓谷の出口目指して歩を進めた。
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