樹海の案内を頼む対価として渓谷からの脱出と護衛を引き受けた飛羽真達一行は42人の兎人族を引きつれて渓谷内を歩いていた。
歩いて渓谷を脱出すると言った際、シアが飛羽真達が乗っていた車に面々を乗せて行けばいいのではないかと提案するが、空間魔法で内部を広くしているとはいえ42人も乗せる事は出来ないと言い、歩いていくこととなったのだ。
引きつれて歩いていれば数多の魔獣が当然のように絶好の獲物だと思い、こぞって襲ってくるのだが、ただの1匹もそれが成功したものはいなかった。例外なく、兎人族に触れることすら叶わず、接近した時点で閃光が飛び頭部を粉砕されるか、頭部と胴体が分かれるからである。
乾いた破裂音や雷が落ちた際に鳴り響く踏み込みから音と共に閃光が走り、気が付けばライセン大渓谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物であるハジメと飛羽真に対して畏敬の念を向けていた。もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るう2人をヒーローだとでも言うように見つめている。
「・・・・・」
「ふふふ、飛羽真さん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」
前の世界で似たような眼差しを受けたことのある飛羽真は心を無にしてやり過ごそうとしていた所に、実にウザイ表情でシアがちょっかいを掛ける。
「・・・・(ピキ)」
そのちょっかいにイラついた飛羽真は額に青筋を浮かべ、量子ボックスから特性のゴムボールを取り出してシアに向けて投げた。直線のため戦闘経験のないシアでも簡単に避けることが出来たのだが、飛羽真が取り出したボールの真骨頂は此処からだ。大迷宮内の中でも特に弾力性に優れた魔物の素材を使って作られたこのボールは跳ねれば跳ねるほど速度が上がっていくのだ。
「あわわわわわわわっ!?」
少しづつ速くなっていくゴムボールをワタワタと回避するシア。道中何度も見られた光景に、シアの父、カムは苦笑いを、ハジメ達は呆れを乗せた眼差しを向ける。
「た、たすけてぇ~~」
「はっはっは、シアは随分と飛羽真殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて・・・シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、飛羽真殿なら安心か・・・」
「すぐ傍で娘が攻撃されてるのに・・呑気だね~~」
「・・・ズレてる」
「天然も入ってるじゃない?」
何処かズレているハウリア族に呆れる飛羽真達一行。その後も、同じような事が何度かあったが、遂にライセンス大渓谷から脱出できる場所に辿り着いた。“遠見”で見たハジメ曰く、岸壁に沿って壁を削って作ったであろう階段は、50ⅿほど進む度に反対側へと折り返すタイプで、階段のある岸壁の先には樹海も薄らと確認できたそうだ。
「帝国兵はまだいるでしょうか?」
シアが不安そうにハジメに話しかける。
「ん?どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰っている可能性も高いが・・・」
「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら・・・飛羽真さん達は・・・どうするのですか?」
「?どうするって何がだ?」
「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵・・・・人間族です。皆さんと同じ。・・・敵対できますか?」
意を決したようにシアが飛羽真達に尋ねる。周囲の兎人族も聞きウサミミを立てている。
「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」
「はい、見ました。帝国兵と敵対する皆さんを」
「だったら、何が疑問なんだよ?」
「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと・・・」
シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔つきで飛羽真達を見ている。小さな子供達はよく分からないといった顔をしながら不穏な空気を察してか大人達と飛羽真達を交互に忙しなく見ている。
「それがどうかしたのか?」
「え?」
「俺としては今さらそんな質問をされるとは思わなかったな」
疑問顔を浮かべるシアにハジメと飛羽真は特に気負った様子もなく世間話でもするように話を続けた。
「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」
「そ、それは、だって同族じゃないですか・・・」
「お前等だって、同族に追い出されてるじゃねぇか・・・」
「それは、まぁ、そうなんですが・・・」
「大体、根本が間違っている」
「根本?」
シアや周りの兎人族は首を傾げ、疑問顔を浮かべる。
「いいか?俺達は滞りなく樹海探索をする為にお前達を雇った。目的を達成するまで死なれちゃ困るから守るんだ。断じて、お前らに同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりは毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」
「うっ、はい・・・・覚えています」
「だから、樹海案内の仕事が終るまでは守る」
「それを邪魔する奴は魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」
「な、成程」
ハジメの物騒な考えに苦笑いしながら納得するシア。
「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」
カムは快活に笑う。正義感を持ち出されるよりもギブ&テイクな関係のほうが信用に値したのだろう。
ハジメを先頭、飛羽真を最後尾に一行は階段を順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは非常に軽かった。
そして、遂に階段を上りきり、飛羽真達はライセン大渓谷からの脱出を果たす。そんな彼らが最初に見たのは、
「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」
30人の軍服を着た兵士だった。
「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対に殺すなよ?」
「小隊長~~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっっすよねぇ?こちとら、何もないところで3日も待たされたんだ。役得の1つや2つ大目に見てくださいよぉ~」
「ったく。全部はやめとけ。2,3人なら好きにしろ」
「ひゃっほ~、流石、小隊長!話が分かる」
言動と怯える兎人族の覚えようからして目の前にいるのが話していた帝国兵なのだと理解する。すると、兎人族だけ見ていた小隊長と呼ばれていた男はようやく、飛羽真達の存在に気づいた。
「あぁ?お前等誰だ?兎人族・・・じゃあねぇよな?」
「ああ、人間だ」
飛羽真が一行を代表して答える。
「はぁ~?何で人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも渓谷から。あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけてきたと?そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
勝手に推測し、勝手に結論付けた小隊長は、自分達の言うこと聞いて当たり前と信じ切った様子で飛羽真達に命令したが、
「「「「「「「「断る/わ/りします」」」」」」」」
その命令を飛羽真達はばっさりと断った。
「・・・今、何て言った?」
「断るって言ったんだよ。国に帰った仲間同様、さっさと国に帰れ」
返ってきた不遜な物言いに、小隊長の額に青筋が浮かぶ。
「・・・・口に利き方には気を付けろよ。俺達が誰か分かっているのか?」
「知らないし、興味もない」
飛羽真の言葉に表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で飛羽真達を睨んでいるが、飛羽真とハジメの後ろにいる恵理達を見て、女性の兎人族に向けていた下卑た笑みを浮かべた。
「あぁ~成程、よぉ~く分かった。てめぇらが唯の世間知らずな糞ガキ共だってことがな。ちょいと世の中の厳しさってやつを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達もえらい別嬪じゃねぇか。てめぇらの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
「・・・つまり敵になるってことでいいんだな?」
「あぁ!?まだ状況が理解できてねぇのか!てめぇらは、震えながら許しをこッ!?」
最後まで言うことなく1発の銃声と共に小隊長の眉間が撃ち抜かれ、そのまま後ろに倒れた。
何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。ハジメのクイックドローで6人の帝国兵が小隊長と同じように眉間を撃ち抜かれ倒れる。
突然の小隊長を含めた仲間の謎の死に半ばパニックになりながらも飛羽真達に武器を向ける兵士達。
「無の呼吸 日の型 日暈の龍・頭舞い」
兵士達が行動を起こすよりも早く、幾つもの円を繋ぎ龍がうねるような動きで駆け巡った飛羽真、たった1人を除いて残りの兵士達をすれ違いざまに斬り捨てた。
「ひ、ひぃ!?」
抵抗をする暇もなく自分を除くすべての仲間が一瞬で殲滅された光景を見た兵士はその場にへたり込み、それを行った飛羽真とハジメと目が合うと、体を震わせ、這いずるように後退る。だが、
「はい、動かないでね」
いつの間にか兵士の後ろに移動していた恵理が笑顔で威圧しながら兵士の眉間に銃を突きつける。
「い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!!」
自分の額に突きつけられているのが仲間達を撃ち抜いたのと同じものだと解ると命乞いをする。よほど怖いのか、股間からは液体が漏れてしまっていた。そこに飛羽真とハジメも合流し、情報を聞き出すためわざと殺さなかった最後の兵士に銃口を向け、首筋に刀を添える。
「た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから!頼む!」
「何でもか・・・か。なら、他の兎人族がどうなったのかを教えてもらおうか?結構な数がいたはずだが・・・全部、帝国に移送済みなのか?」
飛羽真が質問したのは、100人以上居たはずの兎人族についてだ。結構な数な為、移送にはそれなりに時間が掛かるだろう。もしまだ近くにいて道中でかち合うようなら序に助けようと思ったからだ。
「・・・は、話せば殺さないか?」
「貴方、自分の立場を分かってる?別に、どうしても欲しい情報じゃないんだよ?今すぐ他の兵士さんと同じ末路をたどらせてあげようか?」
「ま、待ってくれ!話す!話すから!・・・多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから」
恵理の威圧に恐怖した兵士は話した。
「絞った・・ねぇ」
それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。その様子をチラッとだけ見た3人は直に視線を兵士に戻す。
「他にも何でも話すから!帝国のでも何でも!だから、だから・・・」
必死に命乞いをする兵士。そんな兵士に飛羽真が問いかけた。
「じゃあ、この質問に答えてみろ。今のお前と同じように必死に命乞いをしてきた兎人族にお前らは何て答えた?」
「・・・へ?」
飛羽真の問いかけに兵士は呆然したのち、他の兵士と同じように、恵理に眉間を撃ち抜かれ、絶命した。
「これが答えだよ」
息を飲む兎人族達。あまりに容赦のない行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。
「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは・・」
それは飛羽真達に声をかけたシアも例外ではなくおずおずと尋ねた。
「・・・1度、剣を抜いた者が、結果、相手のほうが強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合がよすぎ」
「そ、それは・・・・」
「・・そもそも、守られているだけの貴方達がそんな目をハジメ達に向けるのはお門違い」
「・・・・」
ユエは静かに怒っているようだ。守られておきながらハジメ達に向ける視線の負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。
「ふむ、飛羽真殿、ハジメ殿、恵理殿、申し訳ない。別に、貴方達に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな・・・少々、驚いただけなのだ」
「ハジメさん、飛羽真さん、恵理さん、すいません」
シアとカムが代表して3人に謝罪する。3人は気にしてないという様に手を振るった。すると、飛羽真は無傷で手に入った馬車や馬を見ていう。
「せっかくだ有効活用させてもらうか」
束に頼んで馬車を車を連結させて貰うと。馬に乗る物と馬車に乗る物に別れて貰い、一行は樹海へと進路をとった。因みに帝国兵の死体は飛羽真とゼシカ、シュテルの火魔法で焼却し、残った骨はゼストの土魔法で地面に穴を開けて、そこに埋めた。
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