大迷宮の入口があると思われる大樹へと向かう飛羽真達とハウリア族の周囲を虎の亜人族が包囲する。彼等の手には抜身の剣が握られており、いつでも攻撃できるよう身構えている。
「あ、あの私達は・・・」
カムが何とか誤魔化そうと額に冷や汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その目が大きく見開かれた。
「白い髪の兎人族だと・・・?・・・貴様ら・・・報告にあったハウリア族か・・・亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけではなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!総員かっ!?」
虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとした瞬間、銃声と共に二条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。
「「「「・・・・・」」」」
理解不能な攻撃に凍り付く虎の亜人とその部下達。そこに、気負った様子もないのに途轍もない圧力を伴ったハジメと恵理の声が響いた。
「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射できる」
「周りにいる人達の場所も距離も全て把握してるよ。貴方達がいる場所は、僕達のキルゾーンだよ」
「な、なっ・・・詠唱がっ・・・」
「(まぁ、当然の反応だな)」
「(詠唱も無しで魔法と同等かそれ以上の攻撃が放たれるですから、当然と言えば当然の反応ですね)」
「(しかも他の仲間の居場所もバレバレだって言われれば吃りもするわね)」
自然な動作で抜いた銃をとある方向に向けるハジメを見て言った言葉がハッタリではないと知り吃る虎の亜人。
「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、此奴らの命は俺が、俺達が保証しているからな・・・ただの1人でも生き残れると思うなよ?」
「(冗談だろ!こんな、こんなものが人間だというのか!?まるっきり化物じゃないか!?)」
威圧に加え、殺意も加わる。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流す。恐怖心に負けないよう内心で盛大に喚く。
「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」
銃を構えたまま、言葉を続けるハジメ。
「やめんか」
そんなハジメの頭を飛羽真は鞘に納めた刀で叩いた。
『っ!?』
あまりに命知らずな行動に恵理等を除いた全員が目をこれでもかと見開いてみる。
「・・・・なにすんだよ飛羽真?」
「『何すんだ』っじゃねぇよ。威嚇をするなとは言わないが限度を考えろ限度を。気絶させて先を行けばいいっていうのに、無駄に威圧してさらに殺意を乗せちまったからこの樹海に住んでいる他の亜人族の連中に俺達のことがばれちまったよ」
「今のでか?」
「動物っていうのは、俺達人間に比べてそういうのに敏感なんだ。だからこそ大自然の中で生きていけるんだよ」
それは世界を揺るがすほどの戦争に参加し、生き抜いてきた飛羽真だから解ること。実際、“波”と呼ばれる現象が起こる間際、それを察知した動物が逃げたり隠れていたりするのを何度か目撃したのだ。
「すまないな隊長さん。だが、こいつがさっき言った通り、この森を案内してもらう代わりに命を助けるっていう契約を結んでいる以上、殺させるわけにはいかないんだ。ハジメの威圧と殺気で実力差は分かったんだろう?分かったうえで、俺達を殺そうって言うのなら・・・容赦なく斬り捨てる」
「っ!?」
飛羽真はハジメの殺気も混ざった威圧にも負けないほどの殺気を隊長格の虎の亜人にのみ放つ。
「・・・・その前に、一つ聞きたい」
「どうぞ」
「・・・何の目的でこの樹海へと来た」
虎の亜人の質問は端的だった。
「(返答次第ではここを死地と定めて身命を賭す覚悟があるっていう顔だね)」
「(そうっすね)」
虎の亜人の不退転の意思がこもった眼にオスカーと飛羽真は感心する。
「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」
「大樹の下へ・・・だと?何の為に?」
予想外の返答に虎の亜人は目を丸くする。亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたからだ。
「そこに、本当の大迷宮の入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内の為に雇ったんだ」
「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外は決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」
「それはないな」
「何?」
虎の亜人の言葉を飛羽真が否定した。
「大勢で入る前に俺だけこの樹海に足を踏み入れたが、方向感覚をくるわされ、気が付けば森の入り口に戻っていた。それに・・」
「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」
飛羽真が言おうとしたことをハジメが引きついで答えた。
「弱い?」
「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも“オルクス大迷宮”はそうだった。それに・・・」
「なんだ?」
「大迷宮は“解放者”と呼ばれる者達が考えた試練だ。亜人族は簡単に深部へと行ける。もしこの樹海そのものが大迷宮というのなら試練としては簡単すぎるんだ」
「・・・」
ハジメと飛羽真の話を聞き終った虎の亜人は困惑を隠せないでいた。2人の言っていることが分からないからだ。普段なら“戯言”と切って捨てていただろう。だが、圧倒的優位に立っている飛羽真達の言葉を虎の亜人は否定することが出来なかった。
「・・・お前達が国や同胞に危害を加えないというのなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」
本当に亜人やフェアベルゲンには興味がなく大樹自体が目的なら、さっさと目的を果たさせて立ち去ってもらうほうがいい。そこまで瞬時に判断する虎の亜人。その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。侵入してきた人間族を見逃すとという異例の行動をとったのだから当然と言えば当然だ。
「だが、一警備隊長の私如きが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前達の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前達に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機してもらいたい」
ゆえに虎の亜人は提案を飛羽真達に持ちかけた。
「(どう思う、飛羽真?)」
「(あっちからすれば限界ギリギリの譲歩って所だろうな。周りにいる連中の慌てようから察するに樹海に侵入した者は問答無用で殺してたんだろう。内心は、俺達を殺したくて仕方ないが、そうすれば間違いなく返り討ちにあって全滅。それを避け、かつ、俺達という危険を野放しにしないためのギリギリの提案ってところだろうな。ここはあっちの提案を受けよう)」
「(解った)いいだろう、さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」
「無論だ。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」
「了解!」
虎の亜人の言葉と共に、1つの気配が遠ざかっていった。それを確認したハジメは銃をホルスターに納め、“威圧”を解いた。重苦しかった空気が一気に弛緩する。あっさりと警戒を解いた飛羽真達に虎の亜人は訝しい眼差しを向け、中には臨戦態勢に入っている亜人もいたが
「・・・・・」
無言で刀を抜いた飛羽真が斬撃を飛ばし、木を斬り捨てる。
「今のはわざと外したが・・・次は当てる」
「・・・全員、武器を納めろ。これは命令だ!」
虎の亜人の一言で臨戦態勢に入っていた亜人達は渋々、武器を納めた。
「・・・今のはこちらに非があるので何も言わないが、次は動かさせてもらう」
「解ってるよ」
飛羽真は刀を鞘に納めると、ボールからピナを呼び出し、量子ボックス内にいれていた卵を取り出すと、“元気で生まれてきてくれ”という思いを込めながら撫で始めた。
暫くの間、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、じっとしていることに飽きたのか恵理とユエがハジメに構って欲しいとちょっかいを出し始めたのを区切りに少しずつ、場の雰囲気が変っていき、敵地のど真ん中で、いちゃつき始めたハジメに呆れの視線が突き刺さった。
「マイペースな奴らだな」
「キュル」
「とーくんもはーくんのこと言えないけどね~~」
人前だろうといちゃつくハジメに飛羽真は呆れるが、束が飛羽真もハジメと同じだという。飛羽真の背にもたれかかって本を読むシュテル、飛羽真の膝を枕にして寝っ転がる束、飛羽真の右腕に背を預けシュテルと同じように本を読むゼシカ、飛羽真から1歩離れたところで立って控えているゼスト。自分も構って欲しいとアピールするシア。ハジメのようにいちゃついていないが他者から見れば4人の女性をはべらかしている男に見えること間違いないだろう。
「げせぬ。そして目の前をウロチョロするな。ウザウサギ」
「へぶ!?」
ハジメ以上に突き刺さってくる視線に飛羽真が納得できずにいたが、目の前をウロチョロするシアが鬱陶しく感じ、ゴムボールを取り出して思いっ切り投げた。すると、急速にこちらへと近づいてきている気配を痛みで悶えているシア以外の面々が感じ取った。
霧の奥から、数人の亜人達が現われた。目を引くのは中央にいる初老の男。
「ふむ、お前さん等が問題の人間族かね?名を何という?」
「八神飛羽真だ」
「ゼシカ・アルバートよ」
「シュテル・スタークスです」
「私はね、篠ノ之束だよ~」
「オルクだ」
「・・・・中村恵理」
「ハジメ、南雲ハジメだ。あんたは?」
ハジメの言葉遣いに周りにいる亜人が騒ぎ立て、憤りを見せたが、男はそれを片手で制した。
「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さん等の要求は聞いているのだが・・・その前に聞かせてもらいたい。・・・“解放者”という名を何処で知った?」
自己紹介を済ませるとアルフレリックと名乗った亜人が飛羽真達に質問をする。
「うん?オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の1人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」
目的などではなく。解放者の単語に興味を示したアルフレリックの問いに訝しみながらハジメが返答した。
「ふむ、奈落の底か・・・・聞いたことがないが・・・それを証明できるものはなにかあるか?」
「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」
「・・・・・」
証明できるかと問われ、事情を知らないハウリア族を除いた全員の視線が蘇生したオスカーの下へと行く。その視線の意味を理解したオスカーだったが、自分がオスカーだといったところで信じてもらえるはずがない。
「南雲君。彼に隠れ家で手に入れた指輪を見せてあげてくれ」
「指輪を?」
オスカーに言われ、ハジメは言われた通り指輪を見せた。指輪に刻まれている紋章を見たアルフレリックは目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくりと息を吐いた。
「なるほど・・・確かに、お前さん等はオスカー・オルクスの隠れ家に辿り着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが・・・よかろう。取り合えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、勿論ハウリアも一緒にな」
アルフレリックの言葉にこの場にいる全亜人族が驚く。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれた事など無かったのだから。虎の亜人を筆頭に猛烈に抗議の声が上がる。
「彼等は客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられている掟の1つなのだ」
「待て!何勝手に俺達の予定を決めてるんだ?俺達は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」
「いや、お前さん。それは無理だ」
「無理?それはどういう意味だ?まさか、追放された亜人は行くことが出来ないのか?」
大樹の下へ行くのは無理だと言われたので飛羽真はその理由をアルフレリックに尋ねる。
「いや、追放されてようともこの樹海で育った亜人ならば大樹へと行ける。だが、大樹の周辺は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失うのだ。一定期間で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは10日後だ。・・・亜人族なら誰でも知っているはずだが・・・・・今すぐ行ってどうする気だ?」
アルフレリックから聞かされた事実に飛羽真達はポカンとした後、カムを見た。見ればアルフレリックもカムをを見ていた。そのカムはと言えば、
「あっ」
まさに、今思い出したという表情をしていた。
「カム?」
「あ、いや、その何と言いますか・・・ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか・・・私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか・・・」
額に青筋を浮かべ自分を見るハジメにカムはしどろもどろになって必死に言い訳をするが、全員からのジト目に耐えられなくなり、
「ええい!シア、それにお前達も!何故、途中で教えてくれなかったのだ!お前達も周期のことは知っているだろう!」
逆ギレしだした。
「なっ!?父様、逆ギレですか!?私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきり周期だったのかと思って・・・・つまり、父様が悪いです!」
「そうですよ、僕達も“あれ?おかしいな?”とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕達の勘違いかなって・・・」
「族長、何かやたら張り切ってたから・・・」
逆ギレしたカムにシアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目をそらしながら、さり気なくカムに責任を擦り付ける。
「・・・・飛羽真」
「やっていいぞ」
このパーティーのリーダー(渋々)である飛羽真にユエが声をかける。何のために自分に声をかけたのか理由を察した飛羽真は許可を出す。許可を得たユエは互いに責任を擦り付けているハウリア族に近づくと、
「“嵐帝”」
風魔法を発動し、ハウリア達を天高く舞いあげた。
同胞が攻撃を受けたというのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいた。
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