ハウリア族への制裁を終えた飛羽真達はギルと呼ばれる虎の亜人の先導で濃霧の中を進む。行き先は亜人族が暮らす町、フェアベルゲン。
「(かれこれ1時間は歩いてるな。伝えに行った亜人は相当な俊足だったみたいだな)」
しばらく歩いていると、突如として霧が晴れた場所へと出た。晴れたと言っても全ての霧がなくなったわけではなく、まっすぐな一本道が出来ただけで、霧で出来たトンネルだ。
「ん?」
不思議がり、周りを見ていたハジメは道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋め込まれていたことに気づく。
「あれは、フェアドレイン水晶と言うものだ。あれの周囲には何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は“比較的”という程度だが」
「四六時中霧の中じゃ気も滅入るもんね」
「・・・ん」
話を聞いていた恵理が納得したように頷き、ユエもどことなく嬉しそうにしていた。
そうこうしている内にフェアベルゲンへと入ることのできる門の前へと到着した。ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、重そうな音を立てながら門が僅かに開いた。周囲の樹の上から飛羽真達に視線が突き刺さる。
「(何で人間が招かれているのかって視線だな。あのアルフレリックと呼ばれた長老がいなければ確実に一悶着あったな)」
突き刺さる視線と長老自ら出てきた理由を何となく察しながら門をくぐる飛羽真。そして、門をくぐった先で見たのは芸術だった。直系数十メートル級の巨大な樹が乱立し、その樹の中に住居があるようで、ランプの灯りが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れていた。所々にある極大の枝が絡み合った橋や通路は空中回路のようになっており、その大きさから優に数十人規模で渡れるであろう。さらに、樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹と間を縫うように設置された木製の巨大な空中水路まである。
「「「「「「「「・・・・・・・」」」」」」」」
その美しい街並みにオスカーを除いた全員が口を開け、ただ、ただ見蕩れていた。そんな飛羽真達をオスカーが指を鳴らして正気に戻した。
「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」
「・・・あぁ、元々あった樹を壊すことなく作られた街。見事というしかないな」
アルフレリックの問いに一行を代表して飛羽真が称賛の言葉を送った。
「俺達の世界なら間違いなく世界遺産に入るな」
「同感だ」
飛羽真はこの光景を地球にいるフェイト達、王城にいる雫に後で見せるべく、スマホを取り出し、写真を取った。
「・・・・成程。試練に神代魔法、それに神の盤上か・・・」
現在、飛羽真達はアルフレリックが用意した集会所らしき場所でアルフレリックと向かい合って話をしている。内容は“解放者”、“神代魔法”、“神の遊技場”と言った、トータスに関係することと、自分達が異世界から召喚された人間であり、故郷に帰るために神代魔法を得るために旅をしていること等だ。
「この世界は亜人族に優しくはない、今さらだ」
神の事を聞かされたのに顔色一つ変えなかったアルフレリックにそのことを問うと今の言葉が返ってきた。聖教協会の権威もないこの場所では信仰心などあるわけがなく、あるとすれば自然への感謝の念のみだとのこと。
「では、私が知っていることを話そう」
飛羽真達の話を聞き終えたアルフレリックはフェアベルゲンの長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の話をし始めた。
いわく、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現われたらそれがどのような者であれ敵対しないこと。そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。
「この樹海にある大迷宮の創始者であるリューティス・ハルツィナは自分が“解放者”という存在であることは伝えていたがそれが何なのかを教えてはいなかったそうじゃ」
「まぁ、賢明な判断だろうな。もし教えていたら、この樹海は神や狂信者達によって燃やされ、試練どころじゃなくなるからな」
「うむ、お主たちの話を聞き、何故教えなかったのか私も理解した所だ。話を続けるぞ、彼女は自身のことと仲間の名前を共に教え、掟としたのじゃ。その掟はこの地に住んでいた一族が延々と伝えられ、フェアベルゲンが出来た後もずっと伝えられているのだ」
「最初の敵対せずって言うのは・・」
「大迷宮の試練を超えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告じゃろう」
「俺達が資格を持っているというのは何で分かったんだ?」
「お主たちが目指そうとしていた大樹の根元には七つの紋章が刻まれた石碑があるのじゃ。その指輪の紋章はその石碑に刻まれたものと同じ、だからこそ掟に従いお主たちをこの国に招き入れたのだ」
「成程」
話を聞き終え、何故自分達を亜人族の本拠地に招き入れた理由を理解した飛羽真達。今後の話を使用とした矢先、階下が騒がしくなった事に気づいた。
飛羽真達が今いる場所は最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。騒ぎの原因が何なのかを理解した一行は同時に立ち上がり、階下へと赴く。
階下に着くと、熊、虎、狐、鳥、ドワーフの亜人達が剣呑な眼差しでハウリア族を睨みつけていた。
「アルフレリック・・・貴様、どういうつもりだ。何故人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど・・・・返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」
部屋に入ると熊の亜人が拳を振るわせながら尋ねる。やはり、亜人族にとって人間族は不俱戴天の敵なのだろう。しかも、忌み子であるシアと彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れたのだ。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。
「何、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」
しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子で答えた。
「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝に従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧共が資格者だとでも言うのか!敵対してはならない強者だと!」
「そうだ」
あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そして飛羽真達を睨む。
「・・・・ならば、今、この場で確かめてやろう!!」
そう言うと、いきり立った熊の亜人がハジメに向かって突進する。あまりに突然のことでアルフレリックを含む周囲は反応できていない。一瞬で間合いを詰め、身長2ⅿ半はある脂肪と筋肉の塊のような男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた。
シア達ハウリア族と傍らのユエ、飛羽真達以外の亜人達は皆一様に肉塊になるハジメを幻視してしまった。だが、次の瞬間には、有りえない光景に凍り付いた。
「なん・・・だと」
「・・・随分と温い拳だな」
衝撃音と共に振り下ろされた拳は、パワードスーツの左腕のみ展開したハジメにあっさりと掴まれ、止められてしまったのだ。
「殺意を持って攻撃してきたんだ。覚悟は出来てるだろうな?」
「ぐぅ!離せ!」
展開した左腕を魔力で操作し、少しづつ握力を高めながら淡々と言うハジメ。一方、熊の亜人は危機感を覚え、必死に伸ばした腕を引き戻し、距離を取ろうともがくが、ハジメはビクともしていない。
「・・・・」
ハジメは無言で更に魔力を左腕に注ぎ、握力を一気に高めた瞬間。熊の亜人の腕から鳴ってはいけない破壊音が鳴り、部屋全体に鳴り響いた。
「っ!?」
痛みと驚愕に硬直している熊の亜人の隙を見逃すハジメではない。掴んでいた拳を離すと、空手の正拳突きのように引き絞り後ずさる熊の亜人の懐へ一気に踏み込む。
「ぶっ飛べ」
とある魔物の固有魔法“豪腕”を発動しながら左腕で突きを放つ。それと同時に、肘の部分から衝撃が発生し、飛び出した薬莢が宙を舞う。強力な力が宿った拳がさらに加速し、破壊力を増大させる。絶大な威力を込められた拳が遠慮容赦なく熊の亜人の腹に突き刺さろうとした瞬間、2人の間に1つの影が入り込み、ハジメの拳を受け止めた。その場に衝撃波が発生し、何人かの亜人が吹き飛んだ。
「何の真似だ・・・飛羽真?」
ハジメは自分の拳を受け止めた人物、飛羽真に怒気を含んだ声で尋ねる。
「いくら殺意を向けられたとはいえやりすぎだ。俺達は話し合いに来たのであって亜人達と戦うために来たんじゃないんだぞ?」
飛羽真は溜息を吐きながら答えた。
「き、貴様」
「助けてやったってのにまだ上から目線か?俺が間に入ってなかったらお前は間違いなく死んでたんだぞ」
力の差を身をもって解らせたというのに牙を向こうとする熊の亜人に飛羽真は心の底から呆れる。
「そんなことはない!人間の拳を喰らって死ぬことなど・・・」
「はぁ~~~~」
熊の亜人の態度にあきれ果てた飛羽真は何を思ったのか、刀に手を添え、少しだけ刀身を鞘から出す。
「無の呼吸 雷の型 稲魂」
ほんの少し出していた刀を鞘に納め、鍔なり音が鳴ると、熊の亜人の周りに5つの斬撃痕が刻まれた。
「っ!?」
一瞬で自分の周りに刻み込まれた斬撃痕に熊の亜人は目を見開いた。
「俺達が本当に伝えられていた敵対してはならない強者なのか知りたかったんだろう?さっきハジメに返り討ちにあいそうになり、今の攻撃に反応も出来なかった。これでもまだ、足りないっていうんなら・・・今ここでアルフレリックを除いた、他の奴等の首を切り落として証明してやろうか?」
『っ!?』
敵対するのであれば待っているのは“死”。それを解りやすく伝えるために飛羽真はアルフレリックを含めた全ての長老に向け殺気を放ち、死のイメージを見せた。
その後、熊の亜人の怪我の治療を終えてから飛羽真達は長老たちと今後のことを話し合った。結果から言えば追放されたハウリア族は飛羽真達の身内とみなされ、敵対はしないがフェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、飛羽真達一行に手を出した亜人がいた場合、全て自己責任という風に決まり、飛羽真達はハウリア達を連れて早々にフェアベルゲンを後にした。
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