「滅兎(めっと)拳」
「がぁあああ!?」
「「「「「族長!?」」」」
大岩をも砕くカムの渾身の拳を受けた熊人族の長であるジン・バントンは樹とぶつかりめりこんでしまった。それを見た他の熊人達は長であるジンがやられたこととそれをやったのが最弱と言われていた兎人であることから2重の意味で驚いていた。
「なんなんだこれは・・・・一体どうなってるんだ!?」
ジンと共にハウリアや飛羽真達を殺そうとやってきた次期族長と噂の高い熊人“レギン・バントン”は次々と蹂躙される仲間を見て絶叫を上げる。それもそうだろうなぜなら、
「ほらほらほら!気合い入れろや!刻んじまうぞ!」
「アハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」
「汚物は消毒だ!ヒャハハハハ!」
亜人族の中でも底辺、脆弱という評価を受けていた兎人族が、最強種の一角に数えられる程戦闘に長けていた熊人族を蹂躙しているという有り得ない光景が広がっているからだ。
「ちくしょう!何なんだよ!誰だよ、お前等!?」
「こんなの兎人族じゃないだろう!?」
「うわぁああ!?来るな!?来るなぁあああ!?」
致命な斬撃が無数に振るわれ、何処からともなく飛来する正確無比な矢や石、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、高度な連携。そして何より狂的な表情と哄笑!その全てが激しい動揺を生み、スペックで上回っているはずの熊人族に窮地を与えていた。
「レギン殿!族長を連れて撤退を!」
「だが!?」
「このままでは全滅です。殿は私が務めまぅクペ!?」
「トント!?」
一時撤退を進言してくる仲間に、族長であるジンを倒され、他の仲間まで殺られて腸が煮えくり返ってくることから逡巡するレギン。その判断の遅さを自称ハウリア一のスナイパー“必滅”のバルドフェルドが逃すわけなく、撤退を申し出、殿を申し出たトントと呼ばれた熊人のこめかみを矢で貫いた。
動揺し陣形が乱れたのを好機とみたカム達が一斉に襲い掛かかる。暫くの間、抗戦を続けたものの混乱から立ち直る前に満身創痍となり武器を支えに何とか立っている状態だ。抗戦を続けながらなんとか気を失ったジンを回収したレギン達だったが、連携と絶妙な援護攻撃に休む間もなく、全員が肩で息をしている。そんなレギン達を大木の後ろにまで追い込み、取り囲むカム達。
「どうした“ピー”野郎共!この程度か!この根性無しが!」
「最強種が聞いて呆れるぞ!この“ピー”共が!それでも“ピー”付いてるのか!」
「さっさと武器を構えろ!貴様ら足腰の弱った“ピー”か!」
「「「「(ほんとに此奴らに何があったんだ!?)」」」」
兎人族とは思えない罵倒に戦慄の表情を浮かべる熊人族達。中には既に心が折られた者もいたのか頭を抱えて震えている者もいた。
「クックック、何か言い残すことはあるかね?最強種殿?」
「ぬぐぅ」
あくどい表情を浮かべ、皮肉気な言葉を投げかけるカムにレギンは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。しばしの間考えこむと、
「・・・・俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、仲間と族長は見逃して欲しい」
「なっ!?レギン殿!?」
「レギン殿!それは・・・」
レギンの発言に生き残った熊人族達がざわつき始めた。レギンは自分の命と引き換えに生き残った仲間とジンの存命を図ろうとしたのだ。その時、
「レギン、その必要は・・・ない」
「「「「族長!?」」」」
気を失っていたジンが目を覚まし、待ったをかけた。
「・・・頭に血が上り目を曇らせ、多くの同胞を失うことになったのは私の責任だ。兎人・・・いや、ハウリア族の長殿。勝手は重々承知している。私の命を渡す。だから・・・どうか、生き残ったこの者達の命だけは助けて欲しい!この通りだ」
跪いてカムに頭を下げるジン。最強種と呼ばれていた誇りを捨て、自分達を存命させるために頭を下げたジンにレギン達は何も言うことが出来なかった。
「だが断る」
頭を下げ続けるジンにカム達ハウリア族の出した答えは“否”だった。カムは拒否の言葉と共にナイフをジンに投擲する。
「族長!」
後ろに控えていたレギンがジンの身体を咄嗟に後ろに引っ張り殺されることはなかったが、カムの投擲を合図に間合いの外から一斉に矢や石等が高速で撃ち放たれる。
「何故だ!?」
呻くように声を搾り出し、問答無用の攻撃の理由を問うジン。
「何故?貴様らは敵であろう?殺すことにそれ以上の理由が必要か?」
「ぐ、だが!」
「それに何より・・・貴様等の傲慢を打ち砕き、嬲るのは楽しいのでなぁ!はははは!」
「な!?おのれ!?こんな奴等に!」
初めての人族、それも同胞たる亜人族を殺したことで心のタガが外れてしまい、暴走状態になってしまったカム達ハウリア族。ジン達は身を寄せ合い陣を組んで必死に耐えるが攻撃は少しづつ苛烈差を増していく。
「(致命傷は何とか避けているが全員満身創痍。次の掃射は・・・)」
「(っと思っているだろうな、奴は)」
ジンが考えていることをカムも感じ取っていた。そして瀕死の熊人族に止めを刺すため、カムは口元を歪めながら腕を掲げる。狂的な眼で矢や石をつがえるハウリア達。ジンはここが死に場所かと無念を感じながら体の力を抜く。そして、心の中で扇動してしまった部下達に謝罪をする。
カムの腕がジン達の命を狩り取る死神の鎌の如く振り下ろされると同時に一斉に放たれる矢と石。スローモーションで迫りくるそれらをジンとレギンは“せめて目を逸らしてなる物か”と見つめる。そして、
「「いい加減に・・・しなさぁ~~~い!!」」
巨大な丸太と風を纏った棍が全てを吹き飛ばす光景を目のあたりにした。
「「・・・は?」」
思わず間抜けな声を出してしまうジンとレギン。何せ、死を覚悟した直後、忌み子と罵った青白い髪の少女と薄紫髪の少女が丸太と棍と共に天より降ってきた挙句、それらを地面に叩きつけ、その際に発生した衝撃波で矢や石をまとめて吹き飛ばしたのだから無理もないだろう。
「もう!本当にもうっですよ!父様も皆も、いい加減正気に戻ってください!」
「シア、それにフィリス、何のつもりか知らんが・・・そこを退きなさい。後ろの奴等を殺せないだろう?」
「いいえ退きません族長。これ以上は駄目です」
驚愕で硬直していたカム達だったが、我を取り戻すと責めるような眼差しを2人に向けながら退くよう言うが、フィリスの返答に目を細める。
「ダメ?まさかシア、フィリス、我らの敵に与するつもりか?返答によっては・・・」
「「いえ、この人達は別に死んでも構わないです」」
「「「「いいのかよ!?」」」」」
2人の答えに虐殺を止めに来てくれたのかと思っていた熊人族達は、2人の言葉に思わずツッコミをいれた。
「当たり前です。殺意を向けて来る相手に手心を加えるなんてことをしたら逆にこっちがやられてしまいます」
「ふむ、では何故我々を止めたのだ?」
「そんなの決まっています!父様達が壊れてしまうからです!堕ちてしまうからです!」
「壊れる?墜ちる?」
シアの返答に訳が分からないという表情をするカム達。
「そうです!」
「思い出してください。飛羽真さん達は敵には容赦しません。ですが、魔物でも人でも殺しを楽しんだ事はなかったはずです。訓練でも敵は殺せと言われても楽しめとは言われなかったはずです!」
「い、いや、我等は楽しんでなど・・・」
「「「「「(思いっ切りたのしんでただろうが!!)」」」」」」
フィリスの発言にカムは否定するが、熊人族は心の中で肯定していた。
「今、父様達がどんな顔をしているか解りますか?」
「顔?いや、どんなと言われても・・・」
「「・・・まるで、私達を襲ってきた帝国兵みたいです」」
シアの言葉に互いの顔を見合わせるカム達。そんなカム達にシアとフィリスは一呼吸置くと、静かな、しかし、よく通る声ではっきりとカム達が今、どんな表情をしているのかを告げた。
「っ!?」
衝撃だった。宿った狂気が吹き飛ぶほどに。自分達の家族の大半を嘲笑と愉悦交じりに奪った者達と同じ表情。その光景を実際に目の当たりにして来たからこそ、その醜さが分かる。
「シ、シア、フィリス、私は・・・私達は・・・」
「・・・少しは落ち着いたみたいだな」
動揺しているカム達に霧の向こうから現われた飛羽真が安堵する。
「し、師匠」
「戦いを教えた者よりも家族の言葉が一番効くからな。まぁ、取り合えず・・・お前ら全員、歯を食いしばれ」
その言葉と共に飛羽真は三節棍を取り出すと、振り回してシアとフィリス以外のハウリア全員を殴り飛ばした。
「し、師匠」
「・・・俺がお前達に教えた変幻無双流の理念を言え」
「は?」
「聞こえなかったのか?変幻無双流の理念を言えと言ったんだ!」
「「「「じゃ、弱者が理不尽な強さを持つ強者を倒すために生まれた流派です!!」」」」」
飛羽真の怒号に地に伏していたハウリア全員は飛び起きると姿勢を正し、大声で告げた。
「そうだ。俺は身を守るためにお前達に変幻無双流で重要な気の扱い方を教えた。決して殺しを楽しませるために教えたわけじゃない」
「まぁ、その原因を作ったのはハジメさん何ですよねぇ~。まったく、戦える精神にするというのは解りますが、あんなのはやりすぎですよ!戦士どころかバーサーカーの育成じゃないですか!」
カム達を豹変させた原因を作ったハジメに対し怒るシア。ハジメに文句を垂れるシアは無視して飛羽真は三節棍を構え、跳躍すると、
「どさくさに紛れて何逃げようとしてんだコラ?」
こっそりと逃げ出そうととしていたジン達に向けて振り下ろした。振り下ろされた棍の先端はジンの顔面すれすれで通り過ぎて地面に当たり、小さなクレーターが出来上がる。
「話が終るまで正座して待ってろ」
「「「・・・・・」」」
飛羽真の言葉を受けても尚、逃げ出そうと周囲の様子を確認している熊人族に飛羽真は1人だけ残して他は気を失わせたほうが早いと思い、行動を起こそうとした。その時、
「「「「っ!?」」」」
熊人族が体を震わせる。
「飛羽真が言ってたよな?話が終わるまで正座して待ってろって?最強種である熊人族は言われたことも満足にできないのか?あぁ?」
霧の奥から銃を構えたハジメが“威圧”を発動しながら現われた。
「ボ、ボス!?なぜそんなにボロボロなのですか!?」
カム達はハジメの姿を見て目を見開く。それもそうだろう自分達が主と仰ぐハジメがボロボロになっていたからだ。
「・・・・気にするな」
「し、しかし」
「気・に・す・る・な」
「は、はい」
気まずそうに視線を彷徨わせていたハジメだったが、飛羽真に睨まれ観念したようにカム達に向き直り、
「あ~~~、まぁ、その、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんですっかり殺人衝動ってのを失念していた。完璧に俺のミスだ。すまなかった」
謝罪の言葉を口にした。
「ボ、ボス!?正気ですか!?頭打ったんじゃ!?」
「メディーク!メディーク!重傷者1名!」
「ボス!しっかりして下さい!」
ハジメが素直に謝罪の言葉を口にしたことに口を開けて目を点にするシカム達。だが、返ってきた反応にハジメは青筋を浮かべ、口元をヒクつかせる。今回のことは流石のハジメも本心から自分のミスだと理解しており、謝罪の言葉を口にしたというのに、
「(こいつらは)」
返ってきた反応は正気を疑われるというものだった。
「っま、常日頃から“殺す”って言っていた罰があたったってことだな。さてと・・・」
キレるべきか、日頃の態度を振り返るべきか迷っているハジメを飛羽真は諦めろと肩に手を置いて言う。そして、ちゃんと正座して待っているジンの元へ歩み寄ると、刀を抜刀し、首元に刃を添える。
「分かってると思うがお前達の生殺の与奪は俺達が握ってる。普通なら容赦なく斬るとこなんだが、特別に選ばせてやるよ。潔く死ぬのと、生き恥を晒して生き残るの、どっちがいい?それと、2つ以外の答えを選ぶようであれば容赦なく・・・斬る!」
言っていることが冗談ではない事を教えるために威圧しながら言う飛羽真。
「冗談・・ではなさそうだな」
「生憎、こういうことで冗談は言わない主義だ。望むのであれば帰ってもいい。但し、条件付きでだけどな」
「条件?」
「何、そんなに難しい事じゃない。帰ったら他の長老衆にこう言って欲しいだけだ」
条件という言葉にジンや他の熊人族は戦々恐々になるが、飛羽真の出した条件に目を見開いた。
「“フェアベルゲンに対して貸し1つ”、“熊人族に対して貸し1つ”、“計2つの貸し”だとな」
「っ!?貴様!それは!?」
「で?どうする?引き受けるか?引き受けないか?俺達も暇じゃないんでな出来れば早く決めてほしいんだが?」
言伝の内容の意味を察したジンは怒鳴りそうになる。そんなジンとは裏腹に飛羽真はどこ吹く風でジンの選択を待っている。どうするべきかジンが思い悩んでいると、
「それと、追い打ちをかけるようだが、アンタの部下の死の責任はアンタ自身にあることもしっかり周知しておけよ?最弱種と呼んでいた兎人族に惨敗した事実と一緒にな」
「ぐう!?」
「5秒やる。5秒経っても決まらないのであれ、気は乗らないが1人づつこれで殴る」
飛羽真はしまっていた三節棍を取り出し、少し離れた場所に向け振り下ろして地面を砕き、その威力を再度、熊人族に見せる。
「わ、分かった、我らは帰還を望む!」
「・・・そうか。お帰りはあっちだ」
ジンの回答を聞いた飛羽真は首元に添えていた刀を鞘に納めると、帰り口を指さした。
「あぁ、そうそう、伝言は間違ったり、嘘は言わないで置けよ?もし、間違ったことを言ったり、約束を違えるような時は・・・容赦なくお前達(フェアベルゲン)を斬る」
飛羽真の体から剣気と殺気が混じり合った威圧に熊人族は体を震わせ、何度も頷いた。それを見た飛羽真は威圧を解くと、もう話すことはないのかハジメ達の元に歩いて行った。のだが、
「取り合えず、全員一発殴らせろ!」
蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出すハウリア族と、お尻を突き出し、体を震わせるシア。そして、般若の形相で逃げるハウリア達を追うハジメ。
「・・・一体、何があった?」
状況が分からず混乱する飛羽真をよそに、怒号と悲鳴が響き渡っていった。
続編を書くとしたらどの世界がいいですか? 期限は5月16日まで
-
異世界はスマートフォンとともに
-
転生したらスライムだった件
-
英雄伝説