“大賢者”と“ガチャ”を得た転生者の冒険譚   作:白の牙

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第44話

 「これは使えるな」

 

 車にある工房で新しく手に入れたアイテムを鑑定していた飛羽真はその有能性に舌を巻いていた。

 

 「エクシードリング。装着した者のHP、MPを30%、攻撃、防御、魔力、精神が50%アップするか。この場合はHPは体力、MPは魔力、攻撃は筋力、防御は耐性、魔力は魔法を使った際の威力、精神は魔耐って所かな?それが上昇するか」

 

 まじまじと見ていた指輪を机に置き、今度はペンダントを手に取る。

 

 「こっちのペンダントはハンマーを使っているときのみ攻撃が100%上昇。これはシアに渡したほうがいいな。魔導書については大賢者に頼んで全員の適性を調べてもらって渡したほうがいいな」

 

 手に入れたアイテムをどうするかを決めた後、飛羽真は机に置いてある2冊の本を見て頭を悩ませる。

 

 「漫画と“異世界魔法の教科書”、どっちを先の読むか。目下の悩みはこれだな」

 

 腕を組んで悩む飛羽真。

 

 「・・・大賢者、速読した内容をすべて記録できるか?」

 

 『解。可能です。さらに魔法が書かれていた場合、その魔法の習得も可能です』

 

 「ならこっちから先に読むか。漫画はじっくりと読みたいからな」

 

 大賢者からの回答を聞いた飛羽真は“異世界魔法の教科書”を手に取り、読み始める。そして、速読すること30分。全ページを速読した飛羽真が本を閉じると、

 

 『告。新たに“魔力撃”、“斬鉄”、“鋭利化”、“強靭化”等、本に書かれていた魔法を習得しました。更に付与魔法についての知識も習得しました。これにより魔剣の製作、及び強化が可能です』

 

 「強化ってことはこれも強化することが出来るのか?」

 

 大賢者の話を聞いた飛羽真は愛刀である“斬神刀皇”とハジメが付与、飛羽真が製作した雫用の刀を量子ボックスから取り出して尋ねた。

 

 『解。可能です』

 

 「でも、俺の愛刀もだがこっちの刀も限界まで強化してるんだぞ?出来るのか?」

 

 『告。付与は刀にではなく魔石にです』

 

 「魔石に?」

 

 『解。魔法を付与した魔石に魔方陣を刻み、鍔などに嵌め込みます。そして装着させた魔石に魔力を流すことで付与した魔法が発動します。武器に直接付与することも出来ますが効果によって流す魔法を変えなければならず、魔法を込めすぎると武器が耐えきれず、壊れる危険性があります。魔石に付与する場合、手間はかかりますが、魔方陣が魔法の変化を自動で行うため、魔力を流すだけで効果を発揮し、消費する魔力も少なくなります。ですが、付与が下手だと付与した効果が弱くなります」

 

 「だが、俺は生成魔法の適性が高いから十二分に発揮できるってわけか」

 

 『告。その通りです』

 

 大賢者の説明を聞いた飛羽真はさっき倒した魔物から手に入れた魔石を取り出し、錬成魔法で小石ほどの大きさに加工すると魔石に魔法を付与し魔方陣を刻んだ。そして、刀のはばきに穴を開け、魔石をはめ込み、抜け落ちないようしっかりと固定した。

 

 「完了っと。さて、試し切りでもするか」

 

 作業を終えた飛羽真はトレーニングルームに行き、試し切り用の岩を量子ボックスから取り出す。

 

 「・・・・」

 

 刀を正眼で構え、鍔にはめ込んだ魔石に魔力を流し、岩に向け刀を振るう。すると、まるでバターを斬るかのようにいとも容易く岩を両断した。

 

 「おぉ」

 

 斬った岩の表面を触ると、滑々だったことに驚く飛羽真。

 

 「この刀でこれなら斬神刀皇に付与したらとんでもないことになりそうだな。取り合えず魔物以外には使わないようにしないとな」

 

 新たに覚えた補助魔法の性能を確かめ終えた飛羽真は工房に戻り、特殊な措置を施した魔石を斬神刀皇の柄頭に嵌め込んだ。二代鬼徹にも同様の処置を施そうとしたが何となく望んでいないことを感じ、止めた。

 

 愛刀の強化を終えた飛羽真はこれからどうしようかと悩んでいると、部屋のドアが数回ノックされた後、

 

 「失礼します、飛羽真様」

 

 ゼストが工房に入ってきた。

 

 「どうしたゼスト?何かトラブルでも起きたのか?」

 

 「いえ、もう間もなくフューレンに到着するので降りる準備をしておいて欲しいとのことです」

 

 「そうか。解った」

 

 ゼストからの話を聞いた飛羽真は後片付けを行った後、ゼストと共に工房から出た。

 

 

 

 

 

 

 「ふわぁ~~~~凄い外壁ですね~~。まるでお城みたいです~」

 

 都市を囲う外壁を見てシアがそう呟く。

 

 「ギルドにあった本で調べたところ外壁の規模は高さ20m、長さ200㎞になるそうです。ありとあらゆる業種があの都市で日々しのぎを削りあっているそうです」

 

 「へぇ~~~それは期待できそうね」

 

 「なんだ欲しい物でもあるのかゼシカ?」

 

 「これといったものはないけど、もしかしたら掘り出し物があるかもしれないじゃない、ブルックの町のあの服屋さんみたいに」

 

 「あ~~~あの店主の店か」

 

 服屋という単語に飛羽真の顔が少し歪む。見た目はあれだが、その人にあった服を選ぶ審美眼、服の質と品ぞろえ、王都ならば一流の店になるのは間違いないのだろう。だが、店主が一癖も二癖もある人物なのだ。皆が世話になったというのもありお世話になったお礼と町から出ることを言いに行ったとき、最後のチャンスとばかりにいい男を襲う巨漢となって襲い掛かってきたのだ。勿論、撃退した。後にそのことをハジメに言うと“お前もか”っと同情された。

 

 さらに都市に入る際、側に馬がいないことを不審がられどうやってここまで来たのか?何故、飛羽真以外、身分証明書にもなっているステータスプレートを持っていないのか?シアは何処でどうやって手に入れたのか?等々、延々と尋ねてくる門番にキレた飛羽真は威圧することで強制的に質問を終わらせ都市内に入った。

 

 「ったく、延々と質問してきやがって」

 

 「まぁ、まぁ」

 

 門番への怒りがいまだ収まらずイライラしている飛羽真をオスカーが宥める。

 

 「取り合えず、先に到着しているハー君達と合流しよっか」

 

 「・・・そうっすね」

 

 ミレディの話を聞き、飛羽真達は予め決めていた合流場所である冒険者ギルドへと向かった。

 

 

 

 

 

 「さすがに商業都市に構えているだけあってデカいな。さて、ハジメはっと」

 

 冒険者ギルドの大きさに関心しながら中に入る飛羽真達。飛羽真達が入ると、ギルド内にいた冒険者達が値踏みでもするかのように一斉に振りむき、舌打ちをした。そんな冒険者達を無視してギルド内を見回していると、

 

 「いたいた」

 

 ギルド内にあるカフェらしき場所で軽食を取っているハジメ、恵理、ユエの3人を見つけた。更に3人が座っている席には見知らぬ女性もいた。

 

 「飛羽真、こっちだ」

 

 飛羽真達がギルドに来たことに気づいたハジメが手を振るう。

 

 「6日ぶりだなハジメ、中村、ユエ。馬車での旅はどうだった?」

 

 「それなりに楽しめたぜ。男どもが煩かったのと恵理の手料理を食わせたことを除けば・・な」

 

 「ははは、そうか。それより、両手に花だっていうのにナンパか?」

 

 「んなわけねぇだろう?この人は・・・」

 

 「初めまして。私はフューレンで案内人の仕事をしているリシーと言います」

 

 ハジメが女性のことを話そうとするよりも早く、席に座っていた女性が立ち上がり飛羽真達に自己紹介をした。

 

 「案内人?」

 

 「悪いがもう一度案内人についてとフューレンについて説明してもらってもいいか?」

 

 「はい。まずフューレンについてですが・・・」

 

 ハジメの願いに嫌がることなく女性“リシー”はフューレンについての飛羽真達に説明を始めた。

 

 都市の様々な手続き関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具は勿論、家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区の4つのエリアに分かれている。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのがフューレンの常識だ。メインストリートからも中央区からも遠い場所には闇市的な店が並んでいる。値段は高いが時々とんでもない掘り出し物が並ぶことがあり、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が出入りしている。

 

 そして、案内人とは観光などで訪れた者達の要望等を聞き案内等を行う。都市が巨大であるため需要が多く、案内人とはそれなりに社会的地位が高い職業でもある。

 

 「以上がフューレンと案内人についての基本事項です。何かご質問はありますか?」

 

 「いや、非常にわかりやすかったですよ」

 

 「ありがとうございます。南雲様達はお泊りになる宿をお探しとのことですが、八神様達も同じでしょうか?」

 

 「あぁ」

 

 「でしたら、観光区へ行くことをお勧めしますわ。中央区にも宿はありますが、中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いのでサービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

 「成程」

 

 「ならここは素直に観光区の宿にしておこっか。リシーさん、おすすめの場所ってありますか?」

 

 恵理は何処の宿がおすすめなのかをリシーに尋ねる。

 

 「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

 「そうだな・・・・俺は料理が美味しくて、風呂があれば文句なしだが。皆は他になにかあるか?」

 

 代表して飛羽真が要望を言い、他に何かないかと皆に尋ねる。

 

 「ほぼ飛羽真と同じだからな。あるとすれば・・・責任の所在が明確な場所がいいな」

 

 「せ、責任の所在ですか?」

 

 飛羽真の要望を聞き、脳内でオススメの宿をリストアップしていたリシーがハジメの言葉に首を傾げ、尋ねる。

 

 「ああ、例えば、何らかの争いごとに巻き込まれたとして、こっちが完全に被害者だった時に、宿内での損害について誰が責任を持つかってことだな。どうせならいい宿に泊まりたいが、そうすると備品なんか高そうだし、後で賠償額をふっかけられても面倒だからな」

 

 「え~~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますが」

 

 困惑するリシーにハジメ、飛羽真、オスカーが苦笑いをする。

 

 「まぁ、普通なそうなんだろうけど、見ての通り僕達の同行者は奇麗所が多いだ、まぁ、一人性格に難があるけど」

 

 「もぅ、オーくんったら」

 

 オスカーに綺麗と言われ、ミレディが顔を赤く染めながら身体をくねらせる。どうやら最後の言葉は耳に入らなかったらしい。

 

 「まぁ、そういう訳で観光区だとハメを外す人が多いだろうし、商人根性逞しい人なんかは強行に出ないとも限らない」

 

 「まぁ、あくまで“出来れば”だ。難しければ考慮しなくてもいい」

 

 3人の話を聞きリシーは軽食を食べる恵理とユエ、飛羽真やオスカーと一緒にいる女性陣に視線を移し、納得したように頷いた。全員が美少女で目立つ。現に今も周囲の視線をかなり集めている。他の女性陣にも視線がいっているが一番視線を受けているのはシアだ、兎人族で髪の色が他の者と違う。他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。

 

 「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは?そう言うことに気を使う方も多いですのでいい宿をご紹介できますが?」

 

 「それでもいいですけど、欲望に目が眩んだ人っていうのは時々、とんでもないことをするんでね。警備も絶対ではない以上、最初から物理的説得を考慮したほうが早いんですよ」

 

 リシーからの提案に肩をすくめながら答える飛羽真。ブルックに戻ってから泊まっていた宿の看板娘がいい例だ。

 

 「ぶ、物理的説得・・・ですか。成程、それで責任の所在なわけですね」

 

 完全にハジメが言ったことを理解したリシーは、案内人根性が疼いたのか、やる気に満ちた表情で了承する。そして、他の面々に視線を移し要望がないかを尋ねた。

 

 「商業区に近いところがいいわ」

 

 「宿とは関係ありませんが、食材が安く、そして質のいいお店を教えて欲しいです」

 

 「・・・お風呂があればいい、但し混浴、貸し切りが必須」

 

 「えっと、大きなベッドがいいです」

 

 ゼシカとゼストの要望はまだいい。だが、ユエの付け加えた要望とシアの要望を組み合わせると自然ととある意図が透けて見えた。

 

 「風呂の混浴はまだしも貸し切りは無視していいですよ」

 

 ユエの意図が何となく分かった飛羽真が先にくぎを刺した。そのことに抗議の視線をユエは飛羽真に向ける。

 

 「風呂はゆっくりと入るものだ。頭で考えていることをする場所じゃない。もしそういうことをしたいんだったらあそこに行け」

 

 「・・・解った。じゃあ、貸し切りは無しで」

 

 飛羽真にそう言われ、貸し切りを断念するユエだった。

 

 それから、他の区について話を聞いていると不意に強い視線を感じた。特に女性陣に対しては今までで一番不躾で、ねっとりとしたが向けられている。こういった視線に慣れていた女性陣だったがあまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。

 

 「(何だ?)」

 

 気になった飛羽真はその視線の先を辿ると・・・豚がいた。肥えた体に脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目でもわかるほどいい服を着ている。そんなブタ男が女性陣に欲望に濁った瞳で凝視していた。

 

 ブタ男は飛羽真達のいるテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目で女性陣を見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けていなかった飛羽真、ハジメ、オスカーにさも今気づいたような素ぶりを見せると、

 

 「お、おい。ひゃ、百万ルタやる。この兎をわ、渡せ。そ、それとそこの女どもはわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 傲慢な態度で一方的な要求をしてきた。ドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げて、女性陣に触れようとした瞬間、その場に凄絶な殺意が降り注いだ。周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後ずさりしながら必死に飛羽真達から距離を取り始めた。

 

 「ひ、ひぃ!?」

 

 そして、その殺意を直接受けたブタ男は情けない悲鳴を上げながら尻もちをつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。瞬時に意識を刈り取ることなどザラではないがそれでは意味がないので十分に手加減をしている。

 

 「場所を変えようか」

 

 飛羽真の言葉に頷き席を立つハジメ達。突然の展開にリシーが混乱気味に目を瞬かせた。困惑するリシーを他所に周囲を威圧しながらギルドの出入り口へと向かう飛羽真達。威圧を解いてギルドを出ようとした矢先、2人の大男が飛羽真達の進路を塞ぐような位置取りに移動し、仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で100キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で一人は腰に長剣を差し、もう一人は戦斧を背負っており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

 その巨体が目に入ったのか、ブタ男がきぃきぃ声で喚きだした。

 

 「そ、そうだ、レガニド、ダーガス!そのクソガキ2人と眼鏡男を殺せ!わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せ!」

 

 「坊ちゃん、さすがに殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

 

 「やれぇ!い、いいからやれぇ!お、女は、傷つけるな!私のだぁ!」

 

 「了解ですぜ。報酬は弾んでくださいよ?」

 

 「い、いくらでもやる!さっさとやれぇ!」

 

 仁王立ちする2人の大男、レガニドとダーカスはブタ男に雇われた護衛らしい。飛羽真達から目をそらさずにブタ男と話、報酬の約束をすると笑った。珍しいことに女性陣は眼中にないらしい。見向きもせずにもらえる報酬にニヤついているようだ。

 

 「おう、坊主に優男。悪いな、俺達の金の為にちょっと半殺しになってく・・」

 

 「どけ」

 

 拳を構え闘気を噴き上げた、瞬間、飛羽真の繰り出した正拳突きによってダーカスは殴り飛ばされた。殴り飛ばされたダーカスはギルドの扉を突き破ってもなお勢いは止まらず、そのまま向かい側の建物の壁と激突すると、そのまま気を失った。

 

 「・・・・・・」

 

 「隙だらけだぞ?」

 

 何が起こったのか分からずにその場で固まるレガニド。そんな隙を逃すハジメではなく、拳を振るおうとしたとき、

 

 「・・・・ハジメ、待って」

 

 「ユエ?」

 

 ユエが制止の声をかけた。なぜ止めたのか?それを尋ねるよりも先にユエがハジメとレガニドの間に割って入った。訝しそうなハジメにユエは背を向けたまま答えた。

 

 「・・・私とシアで相手をする」

 

 「え?私もですか?」

 

 シアの質問をさらりと無視するユエ。ユエの言葉にハジメが返答するよりも、正気に戻り、話を聞いたレガニドが爆笑する方が早かった。

 

 「ガッハハハ、嬢ちゃんが相手をするだって?中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ?夜の相手でもして・・」

 

 「・・・・黙れ、ゴミクズ」

 

 下品な言葉を口走ろうとしたレガニドに辛辣な言葉と共に神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。

 

 「・・・・・」

 

 ユエの言葉通り黙り込むレガニド。

 

 「・・・私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」

 

 ユエは何事もなかったかのように未だ意図が分かっていないシアに向けて話した。

 

 「あぁ、成程。ですが、それなら全員でやった方が・・・」

 

 「・・・それだといじめ、もといオーバキルになる。ここは戦いなんて無縁な存在であろう私達の方がいい。私達に手を出せば手痛いしっぺ返しがくることをこれを利用して周知させる」

 

 先程とは異なる厳しい目を向けてくるレガニドを指さしながら言うユエ。

 

 「まぁ、言いたいことは解った。確かに、お姫様を手に入れたと思ったら、実は猛獣でしたなんて洒落にならないだろうからな。幸い、目撃者も多いし・・・いいんじゃないか?」

 

 「・・・猛獣はひどい」

 

 「ハジメ君はこの後、お仕置きだね」

 

 「っ!?」

 

 恵理からのお仕置き宣言に固まるハジメ。そんなハジメを無視してユエは先に行けと目で合図を送る。それを読み取ったシアは、背中に担いでいた大槌に手を伸ばすと、重さを感じさせずに一回転させ、手に収めた。

 

 「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ?雇い主の意向もあるんで大人しくしていて欲しいんだが?」

 

 「腰の長剣を抜かなくていいんですか?手加減はしますけど・・素手だと危ないですよ?」

 

 「はっ!兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん!わりぃけど傷の一つや二つは勘弁ですぜ」

 

 レガニドは気づくべきだった、常識的に考えて愛玩奴隷という認識が強い兎人族が大槌を持っていることの違和感に。

 

 すでに言葉はないと、シアは大槌を腰だめに構え・・・一気に踏み込み、レガニドの眼前に出現する。

 

 「っ!?」

 

 「やぁ!」

 

 可愛らしい声音に反して豪風と共に振るわれた超重量の大槌が表情を驚愕に染めるレガニドの胸部に迫る。直撃の寸前、レガニドは辛うじて両腕をクロスさせて防御を試みたが、

 

 「(重すぎるだろ!?)」

 

 踏ん張ることなど微塵も叶わず、咄嗟に後ろに跳んで衝撃を逃がそうとするもスイングが速すぎてほとんど意味がなく、結果、生々しい音を響かせながら勢いよく吹き飛び、ギルドの壁に背中から激突した。

 

 「へ?」

 

 まさかの展開にシアは拍子抜けしてしまう。

 

 一方、レガニドは冒険者ランク“黒”にまで上り詰めた自分が兎人族の少女に手加減までされ、なお、拍子抜けされたという事実に笑うしかなかった。そして、何とか立ち上がった。だが、立ち上がったことは果たしていい事だったのか?

 

 「(坊ちゃん、こりゃ、割に合わなすぎだ)」

 

 半ば意地で立ち上がったれたレガニドだったが、氷の如き冷めた目で自分を見、右手を突き出してユエを見て、心の中で盛大に愚痴った。その直後、レガニドは生涯で初めて、“空中で踊る”という、貴重で最悪な体験をすることになった。

 

 「舞い散る花よ、風に抱かれて砕け散れ“風花”」

 

 詠唱と共に放たれた魔法でレガニドは空中に打ち上げられ、サンドバックとなった。

 

 「へぇ~~、風魔法の“風爆”と重力魔法を組み合わせか~~。仮に体勢の立て直しが出来たとしても宙を移動する手段がない相手だったら無敵かもしれないね」

 

 ユエが放った魔法を興味深そうに見ながら解説するミレディ。

 

 そして、空中での一方的なリードによるダンスを終えると、レガニドはそのまま嫌な音を立てて床に落ち、動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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