「これはまた」
ユエの魔法によってレガニドと呼ばれていた冒険者。ちゃんと生きているのかを確認するために近づいた飛羽真は攻撃を受け続けていた部位を見て顔を青くする。脈を図り生きていることを確認した飛羽真はポケットに手をいれ、回復薬を取り出すとレガニドの身体全体にかけた。
「(まぁ、気休め程度だが、何もしないよりかはましだろう)」
そして、自分が殴り飛ばしたダーガスにも同じような処置をしようと思ったが、回復魔法士らしき人物が治療を行っていたのを見た後、ユエに近づき、
「やりすぎだ」
「・・・ふみゅ!?」
少し強めのデコピンをくらわした。
「・・・・っ!?」
よほど痛かったのかユエはデコピンされた個所を両手で押さえながら痛みに悶える。
「・・・やりすぎっていうなら飛羽真も同じはず」
「俺はちゃんと加減してる。だけどお前は違うだろう?男の急所ばっかり狙いやがって。再起不能になったりでもしたらどうするつもりなんだ?」
「・・・・クリスタベルのような漢女になればいい」
「あれを量産するな」
ユエの返答に飛羽真が本気で困っていると、
「ぎゃあああああああ!?」
男の悲鳴がギルド内に響き渡った。悲鳴の上がったほうに振り向くと、そこには、顔の至る所から血を流し、気を失っている豚男がおり、その傍にはハジメが立っていた。一部始終を見ていたオスカーとミレディの顔が引きつっていることからえぐいことをやったのだろう。
「~~~♪」
それをやった本人は機嫌がよくなったのか鼻歌を口ずさみながら戻ってくると、
「じゃあ、案内人さん場所を移して続きを頼むよ」
何事も無かったかのように笑顔で話の続きをお願いした。
「はひ!い、いえ、その、私、何といいますか」
ハジメの笑顔に恐怖を覚えたのかしどろもどろになるリシー。
「(まぁ、こうなるわなぁ)」
リシーの態度に飛羽真は苦笑いする。リシーの表情はこれ以上関わりたくないと見て取れる。ハジメもそれを察しているがこの騒ぎの後に新しい案内人を探すのが面倒なので逃がすつもりはなかった。そんなハジメの意図を悟った恵理とユエがリシーの両脇を固める。
これ以上はリシーの精神が持たないと判断した飛羽真がやめろと言おうとしたとき、
「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」
傍観者に徹していたギルド職員が今さらながらやって来た。
「そうは言ってもな、あの豚が俺達の連れを奪おうとして、断ったら逆上して襲い掛かってきたから返り討ちにしただけだ。それ以上説明することはない。そこにいる案内人や、その辺にいる男連中も証人になるぞ。・・・特に、近くのテーブルにいた奴らは随分と聞き耳を立てていたようだしな?」
「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっています。・・・規則ですので冒険者なら従って頂かないと」
「公正ねぇ?容姿はあれだがあの男の着ている服はかなりいいうえに高そうな指輪をもっていることから貴族ってとこか?この都市でどれだけの権力を持っているかは分からないが、地位しだいでは根回しされてこっちが負けになるってことも考えるんだがどうなんだ?」
「そ、それは」
飛羽真の問いにギルド職員はありえないと断言することが出来なかった。
「それに、あの2人・・いや、俺がぶっ飛ばした奴も含めると3人か。その3人が目を覚ますまでこのギルドで待てっていうのか?被害者である俺達が?」
「えっと、その」
飛羽真の言葉にギルド職員はどういえばいいのか分からずに焦り始める。すると、
「何をしているのです?これは一体何事ですか?」
眼鏡をかけた理知的な雰囲気を漂わせる男性が厳しい目で飛羽真達を見ていた。
「ドット秘書長!いい所に!これはですね・・・」
ギルド職員達はこれ幸いとドットと呼ばれた男性のところへと向かい、何があったのかを話始めた。職員達から話を聞き終えたドットは飛羽真達に鋭い視線を向ける。
「話は職員達から聞かせてもらいました。証人も大勢いることですし嘘はないでしょうね。やり過ぎな気もしますが死んでいませんし許容範囲としましょう」
ドットは眼鏡を押し上げながら落ち着いた声音で飛羽真達に話しかける。
「取り合えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまではフューレンに滞在してもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが・・・それまでは拒否されたりはしないでしょうね?」
「(飛羽真、これって)」
「(これ以上は譲歩しないってことだろうな。今いる中では信用できそうだからいいんじゃないか?)」
念話でドットの言外の意味を確認しあうとハジメは肩を竦める。
「ああ、構わない。そこで寝ているブタがまだ文句を言うようなら、むしろ連絡して欲しいくらいだからな。今度はもっと丁寧な説得を心掛けるよ」
ハジメの話を聞きドットは呆れた顔をしながら差し出されたプレートを受け取る。
「連絡先は、まだ滞在先が決まってないからな。後でそこにいる案内人に聞いてくれ。彼女の薦める宿に泊まるだろうからな」
「ふむ、いいでしょう。・・・・“青”が2人に“紫”が1人ですか。外と向こうで伸びている彼等は“黒”何ですがね。・・・・そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」
「俺達以外は紛失してしまいましてね、再発行はしてないんですよ。高いですから」
正確には最初から持っていないが正しいが、それを知っているのは飛羽真達だけなので嘘とほんの少しの真実を織り混ぜて言う飛羽真。
「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者、被害者のどちらか関係なくブラックリストに載せることになりますからね。良ければギルドで立て替えますが?」
「(さて、どうしようかねぇ~)」
身元証明は必要不可欠。だが、この場でステータスプレートを作成すれば、隠蔽前の技術欄に固有魔法やゼストの正体、神代魔法が確実に表示され騒ぎになることは間違いない。根掘り葉掘り聞かれ今後の予定に支障をきたす恐れもあるうえ、最悪の場合、教会に情報が洩れるかもしれない。
「兄上、キャサリンさんから貰った手紙を見せてはいかがでしょうか?」
「ギルドで揉めた時にでも出しって言われてもらったあの手紙か」
エルザに言われ、飛羽真は量子ボックス内にしまっていた手紙を取り出し、ドットに渡そうとするとハジメも同じようなものをドットに差し出す。
「何だ、お前も貰ってたのか?」
「あぁ。ドットさん?っでよかったよな?身元証明の代わりになるかわからないが、知り合いの職員に『困ったらギルドのお偉いさんに渡しな』って言われたんだが」
「知り合いのギルド職員にですか?・・・・拝見させてもらいます」
服装の質からそれほどお金に困っているように思えなかったドットは、ステータスプレートの再発行を拒むような態度を示す飛羽真達に疑問を覚えたが、飛羽真から差し出された手紙を開いて流し読みする内に驚愕の表情を浮かべると、ハジメの手紙も開き流し読みする。
そして、飛羽真達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙を何度も繰り返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿からして手紙の真贋を見極めているように思える。
「この手紙が本当なら確かな身元証明になりますが・・・この手紙が差出人本人のものなのか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますので少し別室で待っていてもらえますか?そう時間は取らせません。10~15分とくらいで済みます」
ドットは手紙を折りたたみ、丁寧に便箋に入れ直して、そう言った。
「「(マジでキャサリンって何者なんだ?)」」
予想以上の反応に飛羽真達は軽く引いてしまった。
「ま、まぁ、それくらいなら構わないな。解った待たせてもらうよ」
「別室にはほかの職員に案内させます。では、後ほど」
傍にいた職員に別室への案内を言付けると、ドッドは颯爽とギルドの奥へと消えていった。その後、お役目ゴメンですよねという眼差しを向けてくるリシーに待っているようお願いした後、ギルド職員に応接室まで案内させられ、待つこと10分、扉がノックされた。
「どうぞ」
飛羽真の返事から一拍子置いて扉が開かれ、金髪をオールバックにした鋭い目つきの男性とドットが部屋に入ってきた。
「初めまして、冒険者ギルドフューレン支部支部長のイルワ・チャングだ。ハジメ君、恵理君、ユエ君、飛羽真君、ゼシカ君、シュテル君、ゼスト君、束君、シア君、オルク君、ベル君・・・でいいかな?」
簡潔な自己紹介の後、確認がてら飛羽真達の名前を呼び、握手を求める支部長イルワ。飛羽真は握手をしながら返事をする。
「えぇ、構いませんよ。俺達の名前は手紙に?」
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目にかけられている・・・・というより注目のされているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なのでできれば目にかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質って」
「まぁ、間違ってはない・・ね」
イルワの言葉に恵理はブルッグの町で巻き込まれたトラブルの数々を思い出し苦笑いする。
「まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ?それで問題ないのか?」
「あぁ。先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」
「あ、あの~~キャサリンさんって何者なのでしょうか?」
今いるメンツの中で一番キャサリンに懐いていたシアがおずおずとイルワに尋ねた。
「ん?本人から聞いていないのかい?彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の5、6割は先生の教え子だ。私もその一人で先生には頭が上がらないのさ。その美しさと人柄の良さから当時は僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。先生曰く『子供を育てるには田舎の方がいい』って言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね、ギルドどころか王都全体が荒れてしまったよ」
「はぁ~~~そんなすごい人だったんですね~」
「・・・キャサリン凄い」
「只者ではないと思っていましたが」
「まさか、中枢の人だったなんてね~~。これには束さんもびっくりだよ」
「(っていうか、そんなにモテたのに今は・・・・いや、止めておこう)」
聞かされたキャサリンの正体と経歴に感心する飛羽真達。ただ一人、ハジメは時間の残酷さに遠い目をしていた。
「身分の証明は出来たわけですし、もう行ってもいいですよね?早く宿を取って一息つきたいんで」
身分が証明された以上、この場に留まっている理由はないので後にしようとすると、
「少し待ってくれるかい?」
イルワが瞳の奥を光らせながら飛羽真達に待ったをかけた。
「実は、君達の腕を見込んで1つ依頼を受けてほしい思ってる」
「ことわ・・・」
「取り合えず話だけでも聞いてもらえないかな?聞いてくれるなら、今回の一件は不問にしようと思ってるんだが」
イルワが依頼の提案をした瞬間、被せるように断り、席を立ち、部屋から出て行こうとしたハジメだったが、続くイルワの言葉に思わず足を止めてしまった。
「(さすが大都市ギルドの支部長を務めるだけあっていい性格してるぜ)話だけでも聞こうぜハジメ。依頼を受けるか受けないかは聞いた後でいいだろう」
「・・・ちっ」
どっちが自分達にメリットがあるのかを考え、結論に至ったハジメは舌打ちをしながらソファーに座った。
「聞いてくれるようだね。ありがとう」
「あくまで聞くだけです。ハジメにも言った通り、依頼を受けるか受けないか聞いた後で決めます。あぁ、それと受けるのを断ったからと言って、不問の件をなしにするのは通用しませんからね?この場にいる全員が聞いてますし、この通り言質も取ってありますので」
そう言うと飛羽真はさっき言ったイルワの言葉を再生して、この場にいる全員に聞かせた。
「いい性格をしているね」
「誉め言葉として受け取っておきます。んで?依頼というのは?」
「うむ、今回の依頼内容だが、そこに書かれている通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、っというものだ」
イルワから聞かされた話を要約すると、
最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は一つ山を越えるとほとんどが未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。
この飛び入りがクデタ伯爵家の三男“ウィル・クデタ”という人物らしい。クデタ伯爵は家出同然に冒険者になると飛び出していった息子のの動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。
「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと言い、ギルドにも捜索願を出した。つい昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者では二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」
「その前提として、俺達にその相応以上の実力がないと駄目なのでは?調査依頼した冒険者達のランクが何かは知りませんが最低でもランク“黒”が受けるべき案件だと思うんですが?」
「その“黒”であるレガニドとダーガスを瞬殺したばかりだろう?それに、ライセン大渓谷を余裕で探索出来る者達を相応以上と言わずして何と言うのかな?」
「っ!?なんでそれを知って・・」
「(手紙に書かれていた?だけどそんな話をした覚えは一度も・・)」
イワンの発言にハジメは両目を見開いて驚き、飛羽真は何故キャサリンがそのことを知っているのか考えていると、
「あ、あの~~~」
おずおずとシアが手を上げた。
「何だシア?」
「えっと、その~~~つい話が弾みまして・・・てへ」
「・・・後で尻を千叩きだ」
「!?ユ、ユエさんもその場にいました!」
「・・・シア、裏切り者」
「2人纏めて尻を千叩きだ」
「・・・ハジメ、恵理、助け・・・」
「大人しく罰を受けろ」
「自業自得だね」
キャサリンがライセン大渓谷のことについて知っていた原因はユエとシアだったようだ。飛羽真のお仕置き宣言にハジメと恵理に助けを求めたユエだったが、あっさりと見捨てられたことにショックを受けた。そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。
「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」
懇願するようなイルワの態度には、単にギルドが引き受けた依頼という以上の感情が込められているようだ。伯爵と友人ということは、もしかするとその行方不明となったウィルとやらについても面識があるのかもしれない。個人的にも、安否を憂いているのだろう。
「そう言われてもな、俺達も旅の目的地がある。ここは通り道だったから寄ってみただけなんだ。北の山脈地帯になんて行ってられない。断らせてもらう」
「報酬は弾ませてもらうよ? 依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝黒〟にしてもいい」
依頼を断ることを見越していたイルワが報酬の話をする。
「いや、金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいから・・・」
「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「何でそこまでするんですか?こう言っては何ですが、ご友人の息子とはいえ肩入れしすぎかと?」
何が何でもこの依頼を自分達に受けてもらいたいと感じ取った飛羽真はイルワに尋ねる。すると、今まで崩れなかったイルワの表情が崩れた。
「彼・・・ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね・・・だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて・・・だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに・・・・」
イルワの独白を聞きながら、飛羽真は僅かに思案する。思っていた以上に、イルワとウィルの繋がりは濃いらしい。すまし顔で話していたが、イルワの内心はまさに藁にもすがる思いなのだろう。生存の可能性は、時間が経てば経つほどゼロに近づいていく。無茶な報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのだろう。
「・・・・・」
話を聞き飛羽真は考える。町に寄り付くたびに身分証明を持っていない面々についての言い訳をするのは、難しくなっていく。なにせ、聖教教会や王国に迎合する気がゼロである以上、いつ、異端のそしり受けるかわからない。その場合、町では極めて過ごしにくくなるだろう。個人的な繋がりで、その辺りの問題を解決できるのであれば嬉しい誤算だ。
大都市のギルド支部長が後ろ盾になってくれるというなら、この際、自分達の事情を教えて口止めしつつ、不都合が生じたときに利用させて貰えばいい。ウィル某とは、随分懇意にしているようだから、仮に生きて連れて帰れば、そうそう不義理な事をすることもないだろう。
「(どう思う大賢者?)」
『解。依頼を受けるべきだと推奨します。更に受ける際に・・・・・っと言う条件も加えると』
「・・・・あなたが提示してくれた報酬以外に2つ条件があります」
「条件?」
「そんな難しいことではないですよ。俺、ハジメ、中村以外の全員分のステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること。更に、ギルド関連に関わらず、貴方の持つすべてのコネクションを使って俺達の要望に応え、便上を図ること。この2つです」
「それはあまりに・・・」
「なら依頼は無しってことで。俺達はお暇させてもらいます」
席を立とうとする飛羽真にイルワもドットも焦りと苦悩に表情を歪めた。一つ目の条件は特に問題ないが、二つ目に関しては、実質、フューレンのギルド支部長が一人の冒険者の手足になるようなものだ。責任ある立場として、おいそれと許容することはできない。
「何を要求するきかな?」
「そんなに気負わなくてもいいですよ。要求と言ってもそんなだいそれたものじゃありません。俺達は少々特異な存在なんで、教会あたりに目をつけられると・・・・いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思ってます。その時、伝手があった方が便利だと思っただけです。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい。指名手配されても施設の利用を拒まないとかそんな程度の要求ですよ」
「指名手配されるのが確実なのかい? ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが・・・そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったのを考えると他の皆も何かあるのだろう。その辺りが君達の秘密・・・か。そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと。・・・・大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか。そうなれば確かにどの町でも動きにくい、故に便宜をっということか」
「(流石は大都市のギルド支部長。頭の回転が速いな)」
イルワの頭の回転の速さに飛羽真が感心していると、意を決したように飛羽真に視線を合わせた。
「犯罪に加担するような倫理にもとる行為、要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう。これ以上は譲歩できないが・・・どうかな?」
「それで充分です。報酬は依頼が達成されてからで構いません。本人、もしくは遺品あたりで構いませんよね?」
飛羽真としては皆のステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然で、いつかは入手しようと思っていた。
問題は最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。ただ、条件として口約束をしても、やはり密告の疑いはある。いずれ、全員の特異性はばれるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。なのでステータスプレートの作成を依頼完了後にした。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらした飛羽真達をイルワも悪いようにはしないだろうという打算も勿論入っている。
「本当に君達の秘密が気になってきたが・・・それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。飛羽真君の言う通り、どんな形であれウィル達の痕跡を見つけてもらいたい・・・・宜しく頼む」
イルワは最後に真剣な眼差しで飛羽真達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。
「任せときな」
そんなイルワの様子を見て、飛羽真は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。
その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、部屋を出た。そして、休憩スペースで待っていた案内人に急用ができ、おすすめの宿への案内はまた今度お願いすると言うと、ギルドから出て、手分けして買い出しを行い、湖畔の町へと出発した。