充電に2ヶ月もかかってしまいました。
今回はあのお方の登場(少ないですが)。
あと、設定の一部を変えました。詳細は人物紹介を見て下さい。
広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどというものはないので、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端、自らの尻を慰めることになるのだろう。
そんな、整備されていない道を有り得ない速度で爆走する一つの影があった。凸凹の道を苦もせず突き進むそれは、束が開発、魔改造したトレーラーハウスだ。そのトレーラーハウスの屋根の上に一人の人物が寝っ転がっている。
「ふわぁ~~~。天気は快晴。暖かな日差し、魔法で心地いいまでに調整された風。昼寝するには最高の環境だな」
その人物とは勿論、飛羽真。心地よい風と暖かな日差しを全身に浴び、目を細めながら欠伸をしながら、現在地と目的地を示す地図が表示されたディスプレイを見る。
「(このペースならあと一日って所か。運転してるハジメのことだ・・・このままノンストップだろうな。それにしてもこうして屋根に寝っ転がるのも随分久しぶりだな~~。まぁ、寝っ転がってたのは車じゃなくて馬車だったけどな)」
「こんな所でよく寝っ転がっていられるわね」
車内へと続く道のドアが開き、ゼシカが顔を出す。そして、振り落とされないようにゆっくりと屋根の上に登ってくる。飛羽真の隣に腰かけた。
「よいしょっと。大丈夫だってわかっていても怖いものね」
「そうか?慣れればたいしたことないぞ?」
「貴方はそうなのかもしれないけど、私は初めてなのよ。落ちちゃうんじゃないかっていう不安が心にあるの」
「さいですか」
正論を言うゼシカに飛羽真はそれ以上何も言わず、日光浴を楽しんでいると、
「何を考えているの?」
ゼシカが飛羽真に話しかけてきた。
「考えているって?」
「貴方とハジメは極力面倒ごとには首を突っ込まないようにしていた。なのに、今回は積極的に動いている。疑問に思うのは当然でしょう?」
「そんなたいした理由じゃないさ。亡骸や遺品を持っていくより生きている奴を連れ帰ったほうが感じる恩は大きくなる。これから先、数えきれないほどの衝突が待っているだろうからな。後ろ盾は多いに越したことはない」
「・・・本音は?」
「いちいち相手にするのが面倒くせぇ」
「だと思ったわ」
飛羽真の本音にゼシカはため息を吐く。
「まぁ、実際、イルワ・チャングの後ろ盾がどの程度機能するか分からないし、もしかしたら何の役にも立たないのかもしれないが、保険は多いほうがいい。それに楽しみもあるしな」
「楽しみ?」
「買い出しをしながらあることを聞いたんだ。どうやら、今向かっている町は湖畔の町で水源が豊か、そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだとさ」
「稲作っていうとお米?」
「そう。まだ余裕があるとはいえ限りがあるからな、町の人と交渉して仕入れたいんだ。食い盛りの若者が多いからな」
「(いつもたくさん食べてるのは飛羽真なんだけどね)そういえばまだ町の名前を聞いたいなかったわね。何て名前の町なの?」
“どの口が言うのよ”と心の中で思っていたゼシカは向かっている町の名をまだ聞いていなかったことに気づき、飛羽真に尋ねる。
「湖畔の町・・ウルだ。(そう言えば、今あの町にはあの人がいるってギルドの情報盤に書いてあったな。・・・・会ったらどうしていたのとか、ゼシカ達は一体誰なのかとか色々と聞いてきそうで面倒だからな~~~会わないことを祈る)」
ゼシカの問いに答えながらギルドで得た情報を思い出し、思う飛羽真だった。だが、
「(どうしてこうなった)」
大人数が一緒に座れ、食べれるテーブルに席を尽き、自分達を睨んでくる少女“畑山愛子”に溜息を吐く。
事の発端はこうだ、ウルの町に着き、宿泊場に着いたまでは良かったのだが、飛羽真、ハジメ、恵理の名前と聞き覚えのある声色を聞いた愛子が閉じていたカーテンを開いて飛羽真達の前に現れたのだ。愛子を見た瞬間、飛羽真はさっさとその場から退散しようとしたのだが、ハジメの呟いた“先生”という言葉で元の見た目とかけ離れてしまったハジメが自分の知る南雲ハジメなのだと確信し、詰め寄ってきたのだ。
「(んで、面倒ごとを起こした本人はのんきに料理を食べながら先生からの質問に答えてやがる)」
美味しそうにこの世界のカレーを食べながら愛子の問いに答えるハジメに飛羽真は呆れながら、別のテーブルに座り、自分を睨んでくる優花にどうしたものかと頭を悩ます。
すると、
「真面目に答えてください!!」
ハジメと恵理の適当な答えに怒った愛子が頬を膨らませながら怒鳴るが、全く迫力がなかった。
「むぅ~~~八神君!」
「ん?なんっすか?」
「南雲君と中村さんにした質問に代わりに答えてください!一緒にいるってことは知ってるはずですよね」
「知ってますけど、話す気があるなら兎も角、話す気がないっていうんなら俺も話す気はないですよ」
自分も話す気はないと言うと、飛羽真は作って貰った料理を食べようとしたが、
「おい、お前達!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!!」
飛羽真達の様子にキレた愛子専属護衛隊隊長のデビッドが拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。
「食事中だぞ?行儀よくしろよ」
ハジメはチラリとデビッドを見ると溜息を吐きながらそういった。
「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前達の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」
相手にする気が全くないといった物言いに元々、神殿騎士にして重要人物の護衛隊長を任されているということから自然とプライドも高くなっているデビッドは、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先を変え、視線をシアへと向けていった。
侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアはビクッと体を震わせた。ブルックの町では、宿屋での第一印象や、キャサリンと親しくしていたこと、飛羽真達の存在もあって、むしろ友好的な人達が多かったし、フューレンでも蔑む目は多かったが、奴隷と認識されていたからか直接的な言葉を浴びせかけられる事はなかった。
つまり、シアは旅に出てから初めて、亜人族に対する直接的な差別的言葉の暴力を受けたのである。有象無象の事など気にしないと割り切ったはずだったが、少し外の世界に慣れてきていたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがあったシアは顔を俯かせる。
よく見れば、デビッドだけでなく、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ている。彼等がいくら愛子達と親しくなろうと、神殿騎士と近衛騎士である。聖教教会や国の中枢に近い人間であり、それは取りも直さず、亜人族に対する差別意識が強いということでもある。何せ、差別的価値観の発信源は、その聖教教会と国なのだから。デビッド達が愛子と関わるようになって、それなりに柔軟な思考が出来るようになったといっても、ほんの数ヶ月程度で変わる程、根の浅い価値観ではないのである。
あんまりと言えばあんまりな物言いに、思わず愛子が注意をしようとするが、その前に俯くシアの手を握ったユエが、絶対零度の視線をデビッドに向ける。最高級ビスクドールのような美貌の少女に体の芯まで凍りつきそうな冷ややかな眼を向けられて、デビッドは一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女に気圧されたことに逆上する。普段ならここまでキレやすい人間ではないのだが、思わず言ってしまった言葉に、愛しい愛子からも非難がましい視線を向けられて軽く我を失っているようだった。
「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」
思わず立ち上がるデビッドを、副隊長を務めるチェイスが諌めようとするが、それよりも早くユエの言葉が騒然とする場にやけに明瞭に響き渡った。
「……小さい男」
それは嘲りの言葉。たかが種族の違い如きで喚き立て、少女の視線一つに逆上する器の小ささを嗤う言葉だ。唯でさえ、怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。
「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」
無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。
その時、
「ぐぁ!?」
今まで事の成り行きを静観していた飛羽真がこの場にいる全員が目視できないほどの速さでデビットに近づき、顔面を鷲掴み、持ち上げた。
「っが!?あぁあああ」
突然の出来事に唖然としてた面々だが、デビッドの呻き声を聞いて我に返る。そして、飛羽真がデビットを攻撃していると察した騎士達が剣に手をかけて飛羽真に殺気を放つ。だが、その直後、騎士達が放つ殺気などとは比べるのもおこがましいほどの殺気が騎士達に放たれた。その殺気を受けた騎士達は床に膝をつき、体を震わせる。
「俺達はこれでも忙しい身なんですよ。今は関わりたいとも、関わって欲しいとも思ってないんです。そして、これまであった事や、これからの事をいちいち話すつもりもありません。ここには仕事で来ただけで、それが終わればまた旅に出ます。それでお終い。もし旅先でまた会ったとしても互いに不干渉ってことで」
飛羽真は愛子を見てそう言うと、鷲掴んでいる力を少し緩めデビットに話しかける。
「なぁ、あれなんだか分かるか?」
鷲掴んでいない方の手を床を指さす飛羽真。指さした場所にはニルシッシルと呼ばれているこの世界のカレーが落ちていた。
「アンタさっき、思いっ切りテーブルを叩いたの覚えてるよな?叩いた衝撃で落ちて食えなくなっちまったんだよ」
「そ、それが、ど、どうしたと、いうのだ。料理など、また、注文、すれば、いい、だけの、こと」
「また注文すればいいだと?」
「がぁああああ!?」
デビットの言葉を聞いた飛羽真は再び鷲掴むちからを強める。
「オーナーの話だと、材料が切れちまって、出せるのは今出されている料理だけだって申し訳そうな顔で言ってたぞ?だよな皆?」
飛羽真がハジメ達に尋ねると全員が頷いて答える。
「さて、この話を聞いたうえで、俺に何か言うことはないか?」
「う、薄汚い獣風情を同じテーブルに着かせる奴に言うことなどない」
「・・・そうか。一言謝るならこれ以上は勘弁してやろうと思ったんだがな。意地でも謝らないっていうんなら・・・・一片死んで来い」
そう言うと、デビットの頭を床に叩きつけた。
「食べ物の恨みは怖い。その身をもって償え」