“大賢者”と“ガチャ”を得た転生者の冒険譚   作:白の牙

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第07話

 

 

 

 「これより、オルクス大迷宮での実践訓練を始める」

 

 大迷宮がある宿場町“ホルアド”で一泊したあと、飛羽真達はメルドと数人の騎士と共にオルクス大迷宮内へと入っていった。中に入り、しばらく歩いていると二足歩行で上半身がムキムキのネズミに似た魔物“ラットマン”が複数出てきた。

 

 「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出すから準備をしておけ!」

 

 メルドの指示で光輝を中心としたパーティーが前に出る。雫もそのパーティーの一員だが、頬が引きつっていた。

 

 「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ“螺炎”」」

 

 光輝、龍太郎、雫の3人が前衛で戦う間、香織と女なのにセクハラが好きな心の中におっさんを飼っている少女“谷口鈴”が放った魔法によって襲ってきた魔物は灰となって絶命した。

 

 「あぁ~~・・うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!それと、今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルドの言葉に香織と鈴はやりすぎだったことを自覚して頬を赤らめた。そして、交代しながら戦闘を行っていき、飛羽真、ハジメ、恵理、幸利の番となった。

 

 「錬成」

 

 ハジメ達に経験を積ませるためにあえて、差している太刀を抜かず、そこら辺落ちていた石を拾い、錬成で石の槍へと作り替えると、投擲して魔物の足を止める。ハジメが手をついて地面を錬成し、動けないようにすると、数体は恵理と幸利が放った魔法で倒し、残りはハジメが剣で突き刺して倒した。

 

 「ほぅ、面白い使い方をするな」

 

 メルドや同行している騎士達は、ハジメの錬成を用いた戦い方に関心していた。

 

 「見ててよかったOの錬金術師ってな」

 

 「僕達のは鉱物とかそういった物限定だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、何の苦もなく目標としていた20階層へとたどり着いた一行。ここからは複数の魔物が混在、連携を組んで襲ってくるから油断するなと告げられた。その言葉通り、予想外のところから襲われたり、連携に苦戦させられる一行。飛羽真はというとー

 

 「ほいっと」

 

 武技“可能性知覚”で強化された直感を使って、魔物が行動するよりもはやく対処したり、ハジメ、恵理、幸利に指示を飛ばしたり、それとなく雫や優花のフォローもしていた。

 

 「大丈夫か南雲?」

 

 「はぁ、はぁ・・うん。八神君に鍛えてもらってなかったら危なかったかもしれないかな。主に体力が」

 

 ハジメは魔力回復薬を飲みながら答えた。

 

 「天之河君でさえ息も絶え絶えだっていうのに、八神君はまだまだ余裕そうだね」

 

 「あの考え無しな馬鹿と比べられたくないんだがな」

 

 「・・・いつも思うんだけど、何で八神君は天之河君にあんなに嫌悪してるの?」

 

 「常に自分が正しいと信じてやまないこと、自分に都合よく物事を解釈すること、勝手に完結させること、言い出したらキリがねえ」

 

 「あはは」

 

 嫌な顔で悪態をつく飛羽真に、ハジメは飛羽真がどれだけ光輝のことを嫌っているのかを改めて知る。

 

 「今回のことにしたってそうだ。巧みに誘導され抱いている正義感をくすぶられ、全員を巻き込む形で戦争への参加を決めた。何をすることになるのかを深く考えようとせずに」

 

 「・・・・」

 

 飛羽真の言っていることを理解しているのか、ハジメは深刻な顔をする。

 

 「小休止終了。探索を再開するぞ」

 

 メルドの言葉を聞き、飛羽真達は遠征を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮内を進んで行くと奥へとたどり着く。そこは鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な光景をしていた。目標到達階層の最奥まで行けば本日の訓練は終わり。神代魔法の一つである、転移魔法のような便利なものは現代になく、地道に戻らなければならない。一行は若干弛緩した空気の中、先頭を歩いていたメルドが立ち止まる。

 

 「擬態しているぞ!周りをよ~~く注意しておけ!」

 

 メルドが忠告した直後、前方でせり出していた壁が変色しながら起き上がり、立ち上がると胸を叩いてドラミングを始めた。カメレオンの擬態能力を得たゴリラ型の魔物らしい。

 

 「ロックマウントだ!2本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

 

 先頭を歩いていた雫達が最初に相手をするらしい。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返し、光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形なせいで足場が悪く思うように囲むことが出来ない。ロックマウントは龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか後ろに下がった。それをチャンスと感じた3人がロックマウントに接近する。ロックマウントは仰け反りながら大きく息を吸い込み、

 

 『グゥガガガァァァァアアアアーーー!!』

 

 部屋全体を振動させるような強烈な咆哮を発した。

 

 「ぐっ!?」

 

 「うわっ!?」

 

 「きゃぁ!?」

 

 ダメージこそ体にないが、思わず硬直してしまう。“威圧の咆哮”、ロックマウントの固有魔法で、魔力を乗せた咆哮を発することで、一時的に相手を麻痺させることが出来る。動けない雫達を見たロックマウントは突撃はせず、傍らにあった岩を持ち上げると、見事な砲丸投げのフォームで香織達後衛組に向かって投げた。

 

 岩は動けない雫達の頭上を越え、香織達に向かう。後方にいたため咆哮の影響を受けずに魔法の準備をしていた香織達は、迎撃しようと魔方陣が施された杖を向ける。そして、魔法を発動しようとした瞬間、衝撃的な光景に硬直してしまった。なんと、ロックマウントが投げた岩は、投げたロックマウントと同じように擬態していたロックマウントだったのだ。空中で1回転すると両腕を広げて香織達に迫る。“O・じ・こ・ちゃ~ん!”という声が地球組の脳内に響いた。しかも、目は妙に血走っており鼻息も荒い。後衛の香織と鈴は悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまう。そして、ロックマウントが迫ろうとしたとき、後方より放たれた火球がロックマウントの顔面にヒットし仰け反る。そしてー

 

 「『筋力増加』、『剛腕剛撃』」

 

 せりだす壁を利用して前に出てきた飛羽真が強化した拳でロックマウントを殴り飛ばし、もう1体のロックマウントと衝突させた。

 

 「大丈夫か?」

 

 「あ、ありがとう八神君」

 

 助けてくれた飛羽真にお礼を言うも、香織と鈴の顔色は悪かった。相当気持ち悪かったのだろう。そんな香織達を見て、思い込みの激しい光輝がキレた。

 

 「貴様・・・・よくも香織達を・・・許さない!!」

 

 顔が青ざめているのを死の恐怖だと勝手に解釈し、怒った光輝に手に持つ聖剣が呼応し、輝きだす。

 

 「万象羽ばたき、天へと至れ・・」

 

 「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 「はぁ」

 

 光輝が何をするのか分かったメルドは止めようとし、飛羽真はため息を吐く。

 

 「“天翔閃”」

 

 メルドの声を無視して、詠唱により輝きを増した聖剣を振り下ろそうとした光輝だったが、振り下ろそうとした腕を飛羽真に掴まれ、止められた。

 

 「何をするんだ八神!」

 

 「・・・・・」

 

 吠えてくる光輝を無視して飛羽真は腰に差している2代鬼徹を抜く。呼吸による力を脚に集中させ一瞬でロックマウントとの距離を詰める。その速さは勇者である光輝ですら目で追うことが出来なかった。

 

 「無の呼吸 日ノ型 烈日紅鏡」

 

 ロックマウントとの距離を詰めた飛羽真は左右に素早く刀を振るい、ロックマウント2体を同時に両断する。気配感知と武技『領域』を使用して擬態しているロックマウントがいないかを確認し、もういないと解ると領域を解除して刀を鞘に納め、メルド達の下へと戻る。

 

 「八神!なんで邪魔・・・へぶぅ!?」

 

 「この馬鹿者が!気持ちは分かるが、こんな狭い場所で使う技じゃないだろう。それと飛羽真に文句を言うのはお門違いだ!あいつは崩落の可能性も考えてお前を止めたんだ!」

 

 戻ってきた飛羽真に光輝が文句を言おうとしたが、メルドの拳骨を喰らい、さらには飛羽真に助けられたと言う。

 

 「やれやれ。・・・っ!?」

 

 メルドに叱られながら自分を睨む光輝に飛羽真が呆れていると、体が痛む。

 

 「(2週間ちょっとじゃ日ノ型を万全に使えるようにするには足りなかったか)」

 

 「飛羽真?」

 

 「雫。大丈夫か?」

 

 「えぇ。咆哮を受けて動けなくなってただけだから。それと、香織と鈴を助けてくれてありがとう」

 

 「助けた後のあのバカの思考と、後先考えない行動には呆れたけどな」

 

 「それは・・・光輝だからってことで納得するしかないわよ」

 

 「・・・・あれ、何かな?キラキラしてる・・・・」

 

 ロックマウントの咆哮で崩れたであろう壁の方に視線を向け、指を差す香織。全員が香織の指さす方に目を向けると、そこには青白く発行する鉱物が花咲くように壁から生えていた。インディゴライトが内包された水晶のようにキラキラと輝く鉱石。その美しい姿に女子全員がうっとりとした表情になる。

 

 「ほぉ~~あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々。珍しい。」

 

 「(確か宝石の原石だったよな。効果は特にないが、涼やかで煌びやかな輝きが貴族の令嬢等に大人気で、アクセサリーに加工して贈ると大変喜ばしいって、城の工房長が言ってたな。ついでに求婚の際に選ばれる宝石としても有名だとも言ってたな)」

 

 「素敵」

 

 飛羽真が城お抱えの錬成師に聞いた話を思い出していると、メルドの説明を聞いた香織が頬を染めながらうっとりとしている。そして、誰にも気づかれない程度に視線をハジメに向けていた。

 

 「(プレゼントしてくれないかな~~て思ってるなありゃ)」

 

 その視線に気づいていた飛羽真は香織の考えていることを当てる。隣にいる雫も香織の視線と考えが分かったのか、やれやれとため息を吐いた。

 

 「だったら俺らで回収しようぜ」

 

 「こら!勝手な行動をするな!安全確認もまだなんだぞ!!」

 

 何を思ったのか檜山が唐突に動き出す。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。メルドが慌てて言うも、檜山は聞こえないふりをして登っていき、とうとう鉱石の場所までたどり着いてしまった。メルドは止めようと急いで檜山を追いかける。メルドが追いかけると同時に騎士団員の一人がトラップを見つけることのできる魔法で鉱石の辺りを確認して、その表情を一気に青褪めさせた。

 

 「団長!トラップです!!」

 

 「っ!?大介!それに触れる・・・」

 

 団員の警告を聞いたメルドが檜山に告げるも一歩遅かった。檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔方陣広がる。鉱石の輝きに魅せられ不用意に触れた者に対する罠だったのだ。美味しい話には裏がある。まさにその言葉通りだ。魔方陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していく。まるでトータスに喚ばれた日を再現しているかのようだ。

 

 「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!!」

 

 「(こりゃ、間に合わないな)」

 

 メルドの言葉に全員が急いで部屋の外に向かう中、輝きをなお増す魔方陣を見て間に合わないことを悟り、何があってもいいよう身構える。

 

 部屋全体に光が満ち、全員の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。空気が変わるのを感じる中、ドスンと言う音と共に地面に叩きつけられた。尻もちをついた他の者達と違って、何事もなく地面に着地した飛羽真は周囲を警戒する。遅れて立ち上がったメルドや騎士団員が同じように周囲を警戒する。

 

 「(これまた凄いところに跳ばされたな)」

 

 飛羽真は周囲を警戒しつつ、自分達がいる場所見て冷や汗を掻く。飛羽真達がいるのは石で造られた巨大な橋の上。長さは百メートル近くあり、天井は二十メートルはあるだろう。一番の問題は橋の下に川などは無く、深淵のごとき深い闇が広がっていた。橋には手すりどころか緑石すらなく、足を滑らせたりしたら一環の終わり。そんな橋の中央に飛羽真達はおり、橋の両サイドには奥へと続く通路と上へと登る階段があった。

 

 「お前達!すぐに立ち上がってあの階段のある場所まで急げ!」

 

 階段を確認したメルドは険しい表情をしながら雷鳴の如く轟いた号令を出す。その号令にハジメ達はわたわたと動き出す。だが、撤退は叶わなかった。橋の入り口に魔方陣が現れ、その魔方陣から大量の魔物が出現する。そして、通路側にも魔方陣が現れ、一体の巨大な魔物が出現する

 

 「・・・まさか・・・ベヒモス・・・なのか」

 

 メルドの呻くような呟きが明瞭に響く。

ユエをどちらのヒロインに入れるか?

  • ハジメ
  • 飛羽真

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