アサルトしないリリィ   作:坂ノ下

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今回はタイトルに反してちょっとだけアサルトしてます。


やきもきカップルの中に亜羅椰さんぶち込んでみた 後編 (勇渚×歩結)

 栄光の御台場迎撃戦を始め、過去この地で生起した大小多数の戦闘により、東京湾埋立地には多くの爪痕が刻まれていた。

 御台場のガーデンが位置する北部はまだいい。だがより沖合に近い南部では惨澹たる光景が目に映ってしまう。

 根元からポッキリと折れたガントリークレーンが小枝か何かの如く無造作に波止場に転がっていた。倉庫の建材と思しき金属壁やコンクリートの破片が乱雑に散らばっていた。

 そんな光景を前方に見ながら俐翔たちが陣取ったのは海上公園。平和だった時代では国際競技場としても利用されていたが、現在は立ち入りを制限され軍の臨時ヘリポート等に使われるのが専らだった。

 ただし歩結と亜羅椰、そして勇渚が向かったと思われる場所はここではない。三人はここより南西のコンテナ埠頭に居ると思われる。

 御台場司令部から交流会の中止と迎撃態勢への移行が宣言された直後、俐翔は佐保からの通信を受け取っていた。

 

「ヒュージの集団は南西及び南東の海上から挟撃するように内陸部を目指していますわ。確認された反応はほとんどスモール級。一つだけミドル級の反応を検知したものの、すぐに消失。恐らくはステルス機能を持つ特型でしょう。貴方たちは南下せずに海上公園で御台場のリリィたちと合流、防衛線が構築されるまで同地を維持しなさい。これは御台場司令部の指示ですわ」

「そんなっ! じゃあ歩結たちはどうするんですか!? あそこはいよいよ先っぽの海側なんですよ!」

「現状ではそちらに向かっているヒュージは極少数。それよりも敵主力が迫る公園を優先しなさいな。貴方の縮地と徳子のファンタズムならそれからでも間に合うでしょう」

「本当に……大丈夫なんですかね?」

「懸念の特型も、反応が消えたのはかなり沖合の方。どうやらヒュージにしては相当慎重な輩のようですわ。すぐのすぐに襲い掛かってくることもないでしょう。大丈夫」

 

 佐保との通信時には一応納得したが、やはり勇渚たちが気になる。

 とは言え俐翔も司令塔タスクをこなす者として、今は戦線中央を守ることが肝要だと理解はしている。

 それに俐翔のレアスキルは攻撃的な能力だが防衛戦でも腐らない。否、むしろ機動防御の観点からすると適役と言えた。

 

「御台場はヘオロットセインツの半数とロネスネスが外征中で、残るコーストガードを始めとした戦力が展開中ですが、肝心のコーストガードは若洲方面の安全を確保中です」

「つまり今すぐは頼れないってことね」

 

 央から御台場の現況を聞き、俐翔は希望的観測を早々に捨てた。御台場から他の増援が来るまでやはり自分たちがやらねばならない、と。

 

「南部の埠頭を捨て置いて、この海上公園に挟撃を掛ける。進路を細く指向させているのでしょうか。明らかに統制された動きです」

 

 桂が御台場の制服と同じブルーカラーのクラウ・ソラスを構えながら言う。

 ヒュージは肉食哺乳類程度の連携こそ見せはするが、人間の軍隊のような戦術行動は基本的に取らない。

 しかしながら、稀に明確な指揮の下で動いているとしか思えないケースが存在した。その場合、群れを統率するのは大抵特型。中でもミドル級の特型が最も複雑な作戦を指揮すると言われていた。

 

「俐翔ちゃん俐翔ちゃん、そろそろ来るよ」

 

 湾曲した刃を持つ鎌型チャーム、アダマスを小脇に抱えた徳子が敵の接近を伝えてくる。

 前方には鬱蒼とした公園樹が茂るばかり。

 だが徳子はヒュージサーチャーを確認したわけでも、当てずっぽうで言っているわけでもない。レアスキル『ファンタズム』の力で先の出来事を視ているのだ。

 ただ徳子はお世辞にも他者への説明や指示が上手い方ではない。

 そんな彼女の未来視を作戦に活かすのは、彼女と最も深く固くビジョンで繋がっている俐翔の役目。ファンタズムはテレパスによって味方と未来予想図を共有するが、その確度はリリィ同士の絆によって左右される。

 

「央と桂は前衛をお願い。徳子は後ろから援護。私は公園全体の様子を見て要所でフォローに入るわ」

 

 元々行動を共にしていた央や桂以外にも、公園内には複数校のリリィが集まっていた。

 しかしいきなり異なるガーデン同士で複雑な連携は難度が高いし、広い範囲をカバーする必要もあるため、キッチリとした陣形は組まず数人のグループ間で緩やかに協同することとした。

 幸い大型ヒュージは確認されていないので、軽い連携でも対処可能なはず。

 それから程なくして、前方に広がる緑が揺れ始めた。無論、風のせいではない。枝葉が折れて踏み潰される音がそこかしこで響いている。

 前衛の央が剣型のチャームを二振り、二刀流で構える。それとは別に、腰にもう一振り剣を差している。

 央だけでなく、桂や他の御台場のリリィもメインウエポン以外にマギクリスタルコアの付いてない剣型のチャームを持ち込んでいた。

 

「正面から来るオルビオの第一波をまず片付けて。遅れて来る飛行型は後回し」

 

 徳子と共有するビジョンに基づき俐翔が指示を下す。

 すると彼女の言葉通りにヒュージが現れた。

 公園樹を掻き分けて出てきた灰色の脚。それは直径1メートル半の球形胴体を支える金属製の三本脚だった。

 次の瞬間、木々の中から雪崩を打って押し寄せてくるヒュージの軍勢。

 直後、公園に展開するリリィの戦列から火箭が伸びる。

 スモール級テンタクル種オルビオ型。三日月状の刃の如き三本脚を交互に地面へ突き立て疾走するヒュージの一団に、レーザーや実体弾が突き刺さっていく。

 横一列となって平押しするだけの芸の無いヒュージたちは、忽ちの内に爆発四散し突撃を粉砕された。

 だがヒュージの物量がそれで終わるはずもなく、第一波の後方より続く敵戦列が姿を現す。

 チャームを構えたリリィたちが睨む中、オルビオ型の第二波は途中で進軍を停止して射撃体勢に移行した。胴体中央部に三角形を模るよう配置された三つの青い光点から、眩い光線を放出した。

 放たれた光線は貫通力の高いものではなく、広範囲に拡散するタイプであった。しかし見た目は派手だがリリィたちを護る不可視の防御結界は貫けない。目くらまし程度の攻撃だ。

 

「飛行型が来る! 対空迎撃!」

 

 新手を察知した俐翔が前方の空を仰いで叫んだ。

 リリィたちが地上に釘付けになっている隙に、遠方の高空に浮かぶヒュージの一団が降下を開始した。

 徳子を始めチャームをシューティングモードにしていたリリィが上空に向けて弾幕を張る。

 俐翔もまた両刃剣型のチャーム『スティンガー』からレーザーを放つ。

 青い空に爆炎と黒煙が立ち込める中、幾つかの敵影が弾幕を掻い潜って更に迫ってきた。緩降下から急降下に切り替えて、地上のリリィが構成する陣に斬り込んでくる。

 瓢箪型の丸みを帯びた胴体。その胴体上下に花の花弁のような魚のヒレのような翼を三対六枚生やした華やかな見た目のヒュージ。スモール級ペネトレイ種クチハナ型はその外見とは裏腹に、胴体後部でマギを燃焼させたジェット推進により高い機動力を誇る。

 あわや突破か、と思われたその時、二体のクチハナ型が火花を散らしながら地面に落ちて派手に転がっていった。

 前衛を務める央と桂が腰に差していた剣――――第一世代型チャーム『ヨートゥンシュベルト』を投擲したのだ。

 

(アレに当てる? 流石は剣のガーデンね)

 

 御台場のリリィによる芸当を目の当たりにした俐翔は舌を巻く。

 マギクリスタルコアの無いチャームは鉄の塊に過ぎないが、ただの鉄塊でもマギを通せばチャームほどではないにしろ即席の武器になる。

 御台場のリリィがメインウエポンとは別にヨートゥンシュベルトを携帯するのにはそういった理由があった。

 俐翔も腰に短剣型の第一世代機を差してはいるが、正直彼女たちほど活用できるとは思えない。

 

「俐翔ちゃん俐翔ちゃん、お代わりが来る」

「分かってる!」

 

 徳子に言われて再び地上に注意を戻す。

 被弾して擱座したオルビオ型の向こう側に、新たなオルビオ型の集団が見え隠れしていた。

 

「ほんと何十体居るのよ!? 早くここを片付けて追い掛けなきゃいけないのに!」

 

 チャームのグリップを強く握り締め叫ぶ俐翔。

 ここには居ない友への憂慮が焦燥を大きくする。

 だが一つ、失念していたことがある。彼女らの今の任務は敵の殲滅などではなく、防衛体制が整うまでの時間稼ぎであった。

 

「…………!」

 

 新手の敵戦列に幾つもの砲撃が降り注いだお陰で、俐翔はそのことを思い出す。

 自分たちの後背、即ちガーデンのある方角に御台場のリリィから成る増援が見えた。

 そして御台場の青に交じったライトブラウンの制服。豪奢な黄金の髪を靡かせた彼女は真っ直ぐ俐翔たちの方に歩いて来る。

 

「ここはもう十分ですわ。お行きなさい」

 

 彼女、諸井佐保のレジスタによるものだろうか、気付けば手に握るチャームがいつも以上に軽く感じられた。

 俐翔は徳子を連れ立ち、埠頭のある南に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御台場が迎撃態勢に移行し始めた際、歩結と亜羅椰が居た南部埠頭跡地は敵主力の進行ルートから外れていた。

 御台場司令部は当初、海上からの敵増援を危惧して歩結たちに埠頭エリアの監視を指示した。下手に防衛線への合流を命じなかったのは、二人の力を信頼しての判断だろう。

 当初は予想以上に埠頭周辺の敵が少なかったため、歩結と亜羅椰は話し合った上で別行動を選択した。散開してより広い範囲を監視するために。

 この一見無謀な行動も、分不相応な傲りから来たものではない。彼女ら二人はそれだけ単独での戦闘力――――デュエル能力に秀でていたのだ。

 実際、時折少数で進軍してくるスモール級を歩結は危なげなく斬り捨てている。

 ただし誤算もあった。見た目も力も至って普通の個体なのにヒュージサーチャーに引っ掛からない敵と遭遇するようになってきた。

 

(亜羅椰さんの携帯サーチャーにも御台場の設置式サーチャーにも反応が無い。それらが同時に故障なんて考え難い。恐らくは、ステルス能力を持つ特型が傘下のヒュージにも同じ能力を付与してる)

 

 歩結のその推測は御台場司令部も考慮済みのようで、監視を続ける二人に状況次第で後退するよう指示していた。

 

(だけど、敵がサーチャーに映らないのなら、尚更監視の目が要る……)

 

 その一念で歩結はチャームを振るい続ける

 肩上から振りかぶった大型の片刃剣『ティソーナ』が接近してきたオルビオ型を頭から殴打。装甲を打ち破り、ただ一撃でその機能を停止させた。

 デュエル強者らしい豪快なパワータイプ。それが歩結のもう一つの顔だった。

 

「それにしてもっ、切りが無い!」

 

 スモール級ばかりとは言え、矢継ぎ早に現れる敵に息つく暇も無い。

 また一体、飛び掛かってきたオルビオ型を、両手で思い切り横薙ぎにしたティソーナで弾き飛ばす。

 その直後、歩結は背後からジワリと殺気を感じた。

 回避は間に合わない。一発ぐらい食らうだろう。そんな風にどこか他人事みたいに冷静な分析をする。

 ところがその一発はやって来ない。

 代わりに、後方のヒュージが被弾し弾け飛ぶ

 

「歩結!」

 

 懐かしい声がした。毎日のように耳にしているはずなのに、懐かしい声が。

 

「勇渚……」

 

 グリフィンクロー、手甲に三本の鉤爪という珍しい形をした二対一組のチャームを構え、勇渚が立っていた。

 どうして彼女がここに居るのか、聞かなくとも分かる。歩結のためだ。

 そんな彼女に対してこれから言わねばならない言葉を思い、歩結はチクリと胸を痛めた。

 

「どうして、一人でこんな所に居るんだ。危険じゃないか」

 

 勇渚のレアスキルはテスタメント。味方のレアスキルの効果範囲を拡大させる代わりに防御結界が薄くなるという、集団戦を前提とした能力だ。

 あの時と同じだった。あの時も勇渚は歩結を守ろうとして、その結果大怪我を負っていた。

 だから歩結は敢えて棘のある物言いをした。

 

「どうして? そんなの、歩結と一緒に戦うために決まってるじゃん」

「……そのために勇渚が傷付くのなら、私を庇って傷付くのなら、私は一緒には戦えない」

 

 歩結は勇渚の目を正面から受け止めず、微妙にずらした状態でそう言った。後ろめたさがあるからだ。勇渚に対しても、何より自分自身に対しても。

 

「歩結が嫌でも、あたしは一緒に戦いたい。隣に立っていたい!」

 

 歩結とは対照的に、勇渚の瞳はただ一点を見据えていた。そこに籠る熱量の程は離れていても伝わってくる。

 

「これは歩結のためじゃなくて、あたし自身のため。歩結が嫌って言っても、あたしは隣がいい。たとえ足手纏いになっても、歩結の傍がいい。歩結があたしを、好きじゃなくなっても……あたしは、好き……」

 

 最後の方は戦闘音で消え入りそうになっていた。

 それでも彼女のグリフィンクローは折り畳まれた鉤爪の根本から銃口を覗かせて、歩結に近付くヒュージを貫いていた。

 

「私、は……」

 

 歩結が彼女を遠ざけたのは、自分のために彼女が傷付くのを恐れたため、歩結自身のため。

 だがリリィである以上は常に危険が付き纏うし、この御時世リリィでなくとも安全とは言い切れない。

 それに勇渚はただ守られるだけのリリィではない。今の彼女の働きがそれを証明している。ハコルベランドでなら共に戦っていける。

 歩結も頭では気付いていても、心が受け入れられなかった。

 だが今、勇渚は見栄も意地もかなぐり捨てて心の内をぶつけてきた。

 だから歩結も決意する。自身を守っているようで、本当は締め上げ苦しめてきた心の枷を外そうと。

 

「私は! 本当は勇渚と共に戦いたい! 勇渚の隣を譲りたくない! このハコルベランドでなら、皆が居るなら、勇渚を死なせはしない! だから――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾埋立地南端。

 鋭角的でスマートな胴体から鋭利で湾曲した刃の両腕を生やしたヒュージ。過去に同型の個体が出現した際『ゴースト』と仮称されたその特型ヒュージは目論見を外しつつあった。

 小型ヒュージだけなら発見が遅れ、リリィたちの迎撃体制が薄くなることは知っていた。それを利用し、主力とは別にステルス機能を与えた手勢を敵の防衛線の間隙を突くよう送り込んだ。

 ところが要所要所に配置されたリリィによって、別動隊はことごとく討たれてしまう。

 ゴーストはリリィ個人個人の戦闘能力を甘く見積もり過ぎていたのだ。

 他の大多数と違って戦術指揮ができると言っても、それはヒュージの中での話。作戦の緻密性など望むべくもない。

 やはりヒュージの本領は優れた体躯とパワーによる正攻法なのだ。

 

 今の今まで身を潜めてゴーストの視界に二人のリリィが映っている。

 緑髪と赤髪が互いにフォローし合いながら襲い来るスモール級を迎撃しているところであった。

 二人のリリィはゴーストの存在に気付いていないようだ。

 ゴーストが、動く。音も無く海中から浮上し、埠頭の地面スレスレを這うようにゆっくりと進む。

 作戦は失敗したが、このまま大人しく退散することはない。あの敵に一撃加えて、それから反転離脱する。ゴーストは慎重だが決して臆病ではなかった。

 遠方の獲物に向け着実に近付いていく。

 未だ距離があるとは言え、獲物たちは忍び寄る狩人に気付かない。周りから次々に現れるスモール級との戦闘に集中している。

 最大限接近してから飛び上がって突貫。

 そんな風に奇襲の図を思い描いていたゴーストに――――

 

「陰でコソコソ覗き見なんて、不粋ね」

 

 女の声が掛けられた。

 その瞬間、ゴーストは全身から発光するエネルギーの弾丸を全方位に乱射しつつ、頭上の空へと飛び上がった。

 奇襲失敗と見るや、直ちに離脱を図る。ヒュージにしては悪くない判断だ。

 ただ判断は悪くなくとも、相手が悪かった。

 高度を上げ切る前に、ゴーストは真上からの激しい衝撃によって埠頭の固いコンクリートの地面に叩き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場にあって尚も艶を失わない薄桃の長髪を翻し、コンクリート片の散乱する埠頭に着地する。

 右肩に担ぐチャームは真紅のアステリオン。戦斧の形を為すアックスモード。

 特型ヒュージの奇襲に水を差した遠藤亜羅椰は今しがた地面に叩き落とした敵に詰まらなそうな視線を注ぐ。

 

「仮称ゴースト。分類名リッパー種ホロウ型。過去にもお台場で確認例あり」

 

 正式名、と言っても勿論ヒュージが自分から名乗ったわけではなく、人類側が名付けたものだ。

 名を与えることで、得体の知れない雲霞の如き不定形な存在は、おぼろげながらも形を成していく。

 

 地に伏していたホロウ型がゆらりと浮遊した。

 亜羅椰はアステリオンを両手に握る。

 まずホロウ型が左方向に翔け出し、続いて亜羅椰が駆け出した。

 距離を離そうとするホロウ型と詰めようとする亜羅椰の構図になる。

 ピタリとついてくる亜羅椰に対し、ホロウ型が右腕をかざした。湾曲した刃を模る凶悪な見た目の腕が、ヒュージの胴体から離れて矢の如く飛び出した。

 立ち止まってアステリオンを真横に薙ぐと、甲高い衝突音を上げてヒュージの右腕が弾き飛ばされる。

 ところが腕はワイヤーで胴体と繋がれており、勢いのまま空中を遊泳した後に旋回してまた元通りホロウ型を構成する一部となった。

 そこでホロウ型は逃げるのを止めて敵に対峙する。一人だけなら返り討ちにした方が良いとでも判断したのだろうか。

 亜羅椰もまたその場で改めて敵に向き直る。

 

「私はねえ、可愛い女の子がとっても好きなの」

 

 一歩一歩ゆっくり歩き出しつつ、誰かに言い聞かせるかのような口振りで独り言。

 思い浮かべるのは、見ている方がもどかしくて()()()()させられるリリィたち。

 

「だけど可愛い女の子が幸せになるのは、もっと好き」

 

 歩き続けながら、戦斧を上段に構えて言う。

 一方ホロウ型は「そんなの知るか」と言わんばかりにワイヤー付きの両腕を同時に射出した。

 左右から弧を描いて挟み撃ちするべく飛来するヒュージの腕が冷ややかな刃を躍らせる。

 亜羅椰は左方から来る敵の右腕をアステリオンの刃で弾き、返す刀で右方から迫る左腕を柄で逸らす。

 無防備となった敵本体へ突貫。そのために足を踏み出そうとした亜羅椰の体がガクンと後ろに引っ張られる。

 逸らしたはずのヒュージの片腕が、アステリオンを握る亜羅椰の右腕にワイヤーで幾重にも巻き付いてきたのだ。

 間髪入れず、ワイヤーが発光した。

 

「っ!!!」

 

 直後、右腕を通して全身に焼け付くような痛みが走り、亜羅椰は地面に片膝を突く。

 赤色したワイヤーから流し込まれる高圧電流。

 亜羅椰の視界は白と黒に激しく明滅し、敵影はおろか周りの風景すらまともに捉えられない。

 やがて電流が収まると、かろうじて踏ん張っていたもう片方の膝も地面に落ちて、腕も首もだらりと垂れ下がる。

 

「…………」

 

 沈黙する敵を前にしてもホロウ型は不用意に動かず、電流を流したワイヤーを左腕ごと胴体からパージした。そうしてそのまま相手の様子を窺っている。

 石像のように固まった亜羅椰に海風がそよいできた。垂れ下がった美しく長い髪が左右に揺れて波立った。

 その薄桃色の髪の狭間に眼光が灯る。

 

「……ハッ」

 

 軽く息を吐き出し、両膝を突いた体勢から亜羅椰は地を蹴って跳び出した。

 それを見たホロウ型はワイヤーを切り離した部分、即ち元々左腕があった場所から小口径の砲塔を生やした。

 けたたましい連射音が唸り、金属弾が雨あられと亜羅椰に降り掛かってくる。

 埠頭に散らばっていた瓦礫が流れ弾に穿たれて粉微塵に砕かれていく。これ以上破壊される物など無い荒廃した空間にあって、更なる破壊がもたらされる。

 だがそんな鉄の暴風でも、マギによって飛翔する亜羅椰の勢いを殺すことはできなかった。

 

 レアスキル『フェイズトランセンデンス』

 

 一時的にマギを最大出力で放出し続ける奥の手が、剣のキレと防御結界の硬度と機動力の全てを引き上げていた。

 アステリオンの切っ先を真っ直ぐにかざしてくる亜羅椰に対し、ホロウ型は左腕で乱射しつつも切り離していた右腕をワイヤーで引っ張り戻す。

 いよいよ間合いが詰まって双方が交差しようかという時、胴体にドッキングしたホロウ型の右腕が大上段から振るわれたアステリオンを迎え撃つ。

 両者は一時拮抗した。

 ミドル級でもその腕はそれなりに大きく、作業重機を鋭く削り出したかの如きサイズ感。その腕が真紅の戦斧を受け止めて押し返そうと小刻みに震え始める。

 亜羅椰は両の目を見開き、柄を握る両の腕を振り抜こうとする。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 拮抗が崩れた。

 ヒュージの鋼の刃が見る見るうちに溶断されて、そのまま頭部へと一太刀が入れられる。

 頭を粉砕されたホロウ型は火花を噴きながら後方へよろめき退いていく。

 しかし決着はまだ。

 右腕は砕かれたものの、残ったワイヤーが飛び出し逆襲を図る。

 亜羅椰はそれをあろうことか、パッとかざした左手で鷲掴みにすると、電流を流し込まれた状態で思い切り引き千切ってしまう。

 ホロウ型は右腕の付け根からも火を噴き出し、今度こそ爆発四散するのであった。

 

「……ふぅ」

 

 敵の完全なる沈黙を見届けると、亜羅椰はアステリオンの切っ先を地面に下ろす。

 

「手間の掛かること。お陰で肩こりが治ったわ」

 

 体に残る痺れも何のその。肩を大きく回して愚痴を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西の空がほんのりと赤く色付き始めた頃、お台場の南では干戈の音がすっかり静まっていた。

 特型ミドル級の撃破とヒュージサーチャーの反応が消失したことが確認されたため、御台場司令部は戦闘態勢から警戒態勢に移行するよう指示を出していた。

 結局最後まで二人きりで戦い抜いた勇渚と歩結は疲労困憊といった様子。

 だがそんな状況でも二人の表情には冷めようのない熱が宿っていた。

 

「勇渚、済まない! 意地を張って済まない……寂しい思いをさせて済まない……!」

「あたしもっ、今まで浮気してごめん……!」

 

 辺りにヒュージの残骸が転がる埠頭の真ん中で、二人は互いに抱き締め合っていた。痛いほど強く、跡が残りかねないほど強く、もう二度と離れないよう強く。

 いつ以来のことだろうか。勇渚にはとても懐かしく思えた。

 

「勇渚」

 

 歩結に促され、閉じた貝殻みたいに密着していた体を少しだけ離す。

 黙してジッと見つめる勇渚の頬に手が添えられて、目鼻立ちの整った顔が接近してきた。

 勇渚は目を閉じて口元に伝わる暖かな感触を受け入れる。

 

 中等部に上がる前、遊び半分で初めてした。それから友情の証として、挨拶代わりにした。やがて愛情と自覚して、した――――

 

 過去を振り返っている内に、唇から音を立てて歩結の熱と感触が離れていく。

 ご無沙汰だったせいか、目を開けた勇渚は気恥ずかしくなり俯き加減に。

 それは歩結も同様らしく、斜め下へ微妙に視線を逸らしている。

 だが二人とも体は離そうとせず、お互い背中に手を回し合ったまま。

 そんな状態だったため、突然明後日の方向から飛び込んできた声に勇渚は肩を震わせる。

 

「ちょっと熱いんじゃない? こんな所でぇ」

 

 おちゃらけたお気楽な声。

 徳子だ。

 見ていて腹の立つニンマリとした笑顔を浮かべる徳子と憮然とした表情の俐翔が、声のした方で肩を並べて立っていた。

 

「ちゅっちゅ、ちゅっちゅってさー。見てるこっちが恥ずかしいよ、も~」

「確かに、よりを戻すよう嗾けたわよ。でもだからって、誰もここまでやれなんて言ってないんだけど?」

 

 友人たちの冷やかしに勇渚も歩結も返す言葉が無い。だがそれでも互いの体を離そうとはしない。

 

「んも~、やだー、も~~~っ」

「品位を疑う」

 

 尚も冷やかす徳子と俐翔。

 そんな彼女らの背後にいつの間にか立っていた人影に勇渚は気が付く。

 勇渚が「あっ」と驚いた直後、人影は冷やかし二人の肩に手を置いた。

 

「そこはもういいから周辺警戒に当たるよう、通信を入れたはずですが?」

 

 徳子と俐翔は油を差していないロボットのように首をギギギと後ろに回す。

 

「覗き見とは、いいご趣味ですわね」

「げぇっ! 佐保様(先輩)!!!」

 

 戦場においても陰ることない気品ある佇まい。遠目からでも伝わってくるその迫力。間近で晒されている者たちの心境や如何ばかりか。

 

「勇渚と歩結は戦闘で負のマギが蓄積しているようなので、ともかくとして。貴方たちは何をやっていますの?」

「いや、何と言いますか。私たちも負のマギがアレでコレで……」

「あらそうですの。それは大変ですわ。わたくしがマギ交感して差し上げましょうか」

「いっ、いえ、結構ですぅ……」

 

 俐翔も徳子も今にも泣き出しかねない有様。

 冷やかされたばかりの勇渚でも、悪友たちに多少は同情してしまう。

 

「でしたら! つべこべ言わずに来なさいな!」

 

 佐保に首根っこ掴まれた二人はずるずると引き摺られていく。瓦礫の上を。見ているだけで痛そうだが、ぐったりとした当人たちは特に反応していなかった。

 一連のやり取りを見ていた勇渚と歩結は無言で顔を見合わせた後、同時に吹き出すように笑う。

 一方で佐保もまた、()()()()させられてきたカップルに対して後ろを振り返らずにクスリと笑みを零す。

 

「これは、鞠萠(まりも)たちに良いお土産ができたようですわね」

 

 イルマの太陽が慈愛の表情を見せた。戦において、敵を焼き尽くし味方を熱く鼓舞するイルマの太陽。そんな彼女のもう一つの顔だ。

 ただし覗き見犯は相変わらず引き摺られたままで。

 

「わぁ……わぁ……」

「許して……許して……」

 

 何か小さくて可愛いやつみたいに縮こまって引き摺られていくのであった。

 

 

 




柳都編見るに、亜羅椰さんってとっきーよりよっぽど尊みの守護神やってると思う(暴言)

・ホロウ型
歴戦乙女イベントで神宿り夢結様に瞬殺されたアレ。
(ヒュージ)は幾ら盛っても良いという自分ルールがあるので盛ってみました。
電磁ムチとかワイヤーアンカーとか、皆好きでしょ?
ただその結果、亜羅椰さんが人外染みたことに…
まあ亜羅椰さんならこのぐらいさせてもええか。
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