アサルトしないリリィ   作:坂ノ下

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旧交 (霞子×美夜受)

 真夏の刺すような暑さを和らげていた小雨が上がり、灰色の雲の隙間から徐々に日差しが戻りつつあった。

 私こと比田井美夜受(ひだいみやづ)は先輩と共に荻窪の街並みの中を歩いている。

 私たちのガーデン――――イルマ女子美術高校のある清澄白河からこの荻窪まで、地下鉄に揺られること三十分と少し。

 ヒュージの襲撃によって東京の地下輸送網は大きな被害を受けており、取り分け沿岸部に近い路線は廃線の憂き目に遭っていたけれど、幸い内陸に近い方はこうして運行を続けていた。

 イルマ女子のトップレギオン『イルミンシャイネス』のリリィが何故に荻窪を訪ねているのかというと、それはひとえにこの地のガーデンと交流を深めるため。

 とは言っても、私はただの付き人。オマケに過ぎない。

 本件の主役は私の左斜め前を行くリリィ、吉井霞子(よしいかすみこ)先輩だ。

 暗褐色(ダークブラウン)のベストとプリーツスカートというイルマ女子正規の制服に身を包み、垂れ目がちで柔和な表情の女性。

 僅かに汗の滲んだお顔を斜め後ろからジッと見ていると、霞子先輩は行き足を止めてこちらに振り返ってきた。

 

「美夜受、疲れた?」

 

 鈴の音のようなお声で名を呼ばれる。

 私もよく歌声を評価されるのだが、先輩のそれはただ声質が良いというだけではなく、聞く者に包み込まれるかのような安堵感を与えることができた。

 

「いいえ、この程度大した距離ではないでしょう」

 

 駅から目的のガーデンまでバスも走っているのだが、街並みを軽く見ておきたいという霞子先輩の要望に従い徒歩を選択していた。

 しかしながら、先輩の心配事はそこだけではなかったらしい。

 

「ほら、地下鉄も駅も人が一杯居たでしょう?」

 

 確かに、私は人混みが好きではない。

 荻窪の駅前は休日だけあって、多くの人で賑わっていた。

 だがこの街は何と言うか、あまり浮ついた感じがしないし喧々とした雰囲気も無い。どちらかと言うと長閑な印象すらある。こういう街は嫌いではない。

 ただそれはそれとして、先輩が気遣ってくれたのは嬉しかった。

 

「問題ありません。そこまで偏屈ではないですから」

「そう。なら良かったわ」

 

 我ながら可愛げの無い物言いだとは思う。これが私の性分なのだ。

 しかし先輩は気にした風も無く、それどころか歩くペースを落として真横に並ぶと、自然な所作で私の左手を握ってきた。マメが潰れて所々硬くなった手で。

 一瞬、体が固まった。

 今更手を繋ぐぐらいで動揺するような関係でもないのだけれど、公衆の面前では未だに慣れない。

 

「……あら?」

 

 そうして歩いていると、ふと先輩の注意が前方の一点に向けられる。

 原因はすぐに分かった。幅広の歩道を進む私たちの前方から、妙齢の女性にリードで連れられた犬がやって来たからだ。

 

「まぁ! 可愛いワンちゃんですね」

 

 先輩は笑顔で女性に話し掛けると犬に歩み寄っていき、飼い主の許可を得てから頭などを撫で始めた。

 特に希少な犬種ではない至って普通のゴールデン・レトリーバーだけど、全寮制のガーデンではペットと触れる機会などそうそう無いため、こういった街での出会いは動物好きにとって癒しであった。

 もっとも、街中から離れた郊外のガーデンには敷地内に小動物を飼っている所もあるそうだが。

 

「ふふっ、ふふふっ」

 

 童心に返ったように楽しそうな先輩。

 先輩に顎の下を撫でられてご満悦の犬。

 この犬、恐らくはメス。何となくだが分かる。

 しかしこの程度で満足するなど所詮は犬っころ……などと大人気無いことを考える。

 私が好きなのは猫ではあるが、別に犬も嫌いなわけではないのだけれど。

 

「霞子先輩、そろそろ……」

「そうだったわね。……ありがとうございました」

 

 女性と犬に別れを告げた後、いよいよ私たちは目的地に到着することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神庭女子藝術高校。

 荻窪にあるこのガーデンは元々自由な校風や出撃選択制という独特の制度で知られていたが、先日の荻窪地底湖ネスト攻略戦によって更に存在感を増していた。

 九人制レギオンを編成したばかりのガーデンが御台場の増援込みとは言え、ギガント級と特型スモール級を擁するネストを討滅したからだ。

 その戦いの直前まで、神庭に関して珍妙な噂が囁かれていた。

 

「五人制から九人制へと移行した神庭女子のトップレギオン『グラン・エプレ』は仲違いを起こして早晩自滅するだろう」

 

 ――――という噂である。

 この噂の根拠と思しきものは新生グラン・エプレの編成にあった。隊を導く上級生の内、学外にも広く名の知られた『グラン・エプレの双璧』の二人は御台場出身で、生徒会長はエレンスゲ女学園出身。思想の違い故に不和を引き起こすと見られたのだろう。

 だが実際のところは、あの戦いの結果が全てを物語っていた。仲違いどころかレギオンを越えてガーデンが一丸となりネストの討滅に成功した。

 奇妙なのは、この噂にあるような下衆の勘繰りをどこかのリリィが口にしている場面を、私もイルミンシャイネスの仲間たちも誰も見たことが無い点である。

 調べてみると、噂の発端となったのはガーデン関係者でも何でもない、趣味で政略や軍事戦略を研究している市井の有識者のブログだった。

 そのブログは以前から神庭やイルマのような芸術系のガーデンに対して「この御時世にお絵描きやお歌で遊んでいる道楽貴族。戦争を舐め腐っている」とお気持ちを表明していたようだ。

 私はこの件に関して、友人の西川御巴留(にしかわみはる)と議論したことがあった。

 

「類似の主張は常に叫ばれ続けているわ。美術・芸術のような目に見えて利益が表れない分野は捨て置いて、工業やインフラ整備といった実益のあるものにリソースを集中すべきだと」

「生産性の見え難い分野を蔑ろにする。まるで共産主義者の唯物論ですね」

「そうね、本人たちは躍起になって否定するでしょうけど。この手の人間がよく理想の国家として挙げるのがローマ帝国」

()の帝国は確かに数学や建築学といった実学に秀でていましたが……」

「不得手としていた芸術分野などは、異文化から積極的に吸収しているわね」

「詰まるところ、大帝国を大帝国たらしめていた要因については微塵も理解していないというわけですか」

 

 そんなことを思い返している間に、私たちは神庭の生徒会室まで案内された。

 両校の生徒会同士が主導となる交流。

 霞子先輩は現在は生徒会長職を辞してはいるが、その人望から、こうして学外との交流の場面で白羽の矢が立つことがあった。

 

「ごきげんよう、ようこそお出でくだいました~。お久し振りですねえ、霞子様、美夜受さん」

 

 生徒会室では一人のリリィに出迎えられた。

 肩を大胆に露出した改造制服。腰まで届く茶髪をふんわりと広げ、二重瞼の下から胡乱げな目つきで視線を注ぐ。

 

「ごきげんよう、藤乃さん。本日はよろしくお願い致します」

「どうも」

 

 神庭の二年生、石塚藤乃(いしづかふじの)

 彼女は生徒会役員ではあるが、生徒会長ではない。会長は別件から手が離せず不在らしい。

 だがそれも織り込み済み。本日は挨拶や理念的な話をするのが目的であって、突っ込んだ話は後日に交わされる算段である。

 

「さあさあさあ、掛けてください。お飲み物は紅茶とコーヒー、それとも麦茶がいいですか?」

 

 年季の入ったがっしりとした作りの長机を前に席に着く。

 一見すると愛想がよく甲斐甲斐しい印象の藤乃。しかし私は彼女を信用していない。

 

「地底湖ネストの攻略、おめでとう。今東京中のガーデンがその話題で持ち切りよ。藤乃さんもまた武勲を上げられたとか」

「ふふふ、ありがとうございます霞子様。でも今回はレギオンとしての戦果なんですよ~」

「それも立派な武勲だわ。ギガント級は普通、レギオンで当たるものだから」

 

 私たちと石塚藤乃は旧知――と言っても一年前からだが――の仲だった。

 

「こうして集まると、あの時のことを思い出しますねえ」

「そうね」

「幕張奪還戦」

 

 藤乃と先輩の声が重なった。

 大型ケイブが発生し陥落した幕張地域を奪還すべく、イルマやルド女、御台場や百合ヶ丘などのガーデンによる共同作戦だ。

 御台場迎撃戦と同時期に開始された作戦であり、現三年生世代が主導した。霞子先輩はその中心メンバーの一人である。私もイルミンシャイネスとして参加した。

 藤乃とはその戦いの中で交流を深めたのだ。

 

「あの戦いは私にとって悲願だったけれど、同時に転機にもなったわ。あの戦いが、今の私を形作ったと言っていい」

「わたくしも、幕張でのことは色々タメになりました。色んな子とお知り合いにもなれましたしね」

 

 幕張奪還は霞子先輩と亡きご友人たちとの誓いだった。

 かつての私はその想いも露知らず、先輩に対して思い上がった言動の数々をぶつけていた。

 私の愚行を改めさせたのもまた、幕張奪還戦。

 虫の良い詫びを入れる私を、先輩は思い切り抱き締めてくれた。それから幾度も抱き締められることはあったけど、あの時の熱は今も消えることなくずっと私の中に残っている。

 

「ところで、グラン・エプレは九人制で固定していくみたいだけど。今後は大型ヒュージとの戦闘も積極的に視野に入れると受け取っていいのかしら?」

 

 ちょっとした昔語りと近況報告を終えると、先輩は本題へと移った。

 

「そうですねえ、その認識でよろしいかと。神庭には出撃選択制がありますが、全く出なくて良いというわけではありませんし。最低限……特に東の方の脅威には対応することになるでしょう」

 

 我らがイルマの位置する清澄白河と神庭の位置する荻窪の間、新宿にはイルマと同じ東京御三家の一つルドビコ女学院があった。

 ところがルドビックラボの実験体ヒュージが逃げ出して多くの教職員が死亡。その結果ガーデンとしての機能を失い、東京の中心部に大きな()が開いてしまう。

 リリィが無事でも、ガーデンを運用する教職員が不足していては組織的・長期的な作戦行動は困難となる。代替要員の補充が遅々として進まないのは、恐らくラボの性質からガーデンの職員にも秘密主義が浸透していたせいであり、加えてG.E.H.E.N.A.(ゲヘナ)内部の対立もそれに拍車を掛けているのだろう。

 かくいうイルマもゲヘナ穏健派であるイルミンリリアンラボと提携しており、私自身保護された強化リリィなので、その手の事情は薄々察しが付く。

 

「イルマとしても新宿周辺をカバーする負担は大きいから、神庭の戦力向上は歓迎だわ。御台場とも協力すれば防衛体制も大分改善されるでしょう」

「うちは遠方への外征能力はヨワヨワですけど、ご近所さんぐらいなら平気ですよー」

 

 今回のイルマと神庭の協力体制構築の裏には東京御三家残りの一角、御台場女学校の仲介がある。

 御台場とイルマは反ゲヘナと親ゲヘナの違いはあれど、以前から技術提携を結んでいた。また御台場と神庭は、前者から後者への転校生である今叶星(こんかなほ)宮川高嶺(みやがわたかね)の存在が両校を繋ぐ切っ掛けとなっていた。

 ガーデンではこうした属人的な関係が縁となって交流が進むのはままあること。ガーデンでない一般の会社でも、縁で仕事が繋がるケースはよくあるらしい。

 人間関係の重要さは対外折衝の担当者や営業畑の者にとっては常識なのだろうけど、彼らと世間話の一つでもしていれば、それ以外の人間にだって容易に理解できるはず。故にコミュニケーションというものは大切なのだ。

 私も先輩や御巴留、イルマの仲間たちが居なければ、今も属人的な繋がりを小馬鹿にする『現実的な合理主義者』のままだったかもしれない。

 ともあれ、東京圏防衛構想会議で示された関東各ガーデンの連携強化がこれでまた一つ具体化されることになる。

 

「さてと。もしお邪魔でなければ、これから校内を少し見させてもらってもいいかしら?」

「お邪魔だなんて、とんでもない! 勿論大歓迎です! ふふふふふ、どこから案内いたしましょうか。これは真剣に考えないと……!」

「そこまで大袈裟にしなくてもいいのよ」

 

 何故か無駄に生き生きとし出す藤乃。

 全くもって怪しい。

 

「美夜受もいいわね?」

「はい。予定の時間までまだ十分ありますし」

 

 先輩に促されて私も生徒会室の席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日のため講義こそ開かれてなかったけれど、校内では自習や訓練、待機任務で詰めているリリィの姿がちらほらと見えた。

 

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 

 途中、顔を合わせる度に挨拶が交わされる。それは単なる社交辞令ばかりではない。

 霞子先輩はイルマ学内のみならず、学外においても顔が広い。それはかつて幕張奪還戦の根回しのために奔走した結果。先輩にとって、ひいてはイルマにとっての財産と言えた。

 

「……B(バック)Z(ゾーン)重視のフォーメーションですね」

 

 屋外の訓練場にて、連携訓練に励む神庭のリリィたちを遠目に見ながら私はそう呟いた。

 すると藤乃がすぐさま反応して説明を入れてくる。

 

「やっぱり九人制レギオンのノウハウは大手のガーデンより劣りますからねえ。グラン・エプレ以外は堅実にやってるんですよ、今は」

「BZからの射撃戦なら確かにリスクは低減できますね。決定力には欠けますが」

 

 守備重視なのはイルミンシャイネスも同様だけど、私たちの場合は中衛であるT(タクティカル)Z(ゾーン)に人数を割いている。

 

「……とは言え、その射撃戦と隊の動き自体は悪くない」

「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」

 

 私が率直な意見を述べると、藤乃はしたり顔で二度も頷いた。正直ちょっと腹が立つ。

 イルマも神庭もトップレギオン制を敷いており、基本的に常設のレギオンは一つか二つ。残りのリリィはその都度即席のレギオンを組んで戦場に臨む。

 しかしだからと言って、トップレギオン以外のリリィが弱兵で烏合の衆というわけでは決してない。

 普段から訓練は学年単位、時には学年を越えて実施されており、同じガーデンの誰とでもある程度連携できるようになっている。ただ常設レギオンに比べると複雑な連携で遅れをとるというだけで。

 神庭の場合は出撃選択制があるので更に分かり易い。出撃を志願するのは大抵の場合、気心の知れた者同士複数人ずつで手を上げるはず。

 しかしよくよく考えてみれば、至極当たり前の話。トップレギオン以外のその他大勢の戦力を遊ばせておくはずがない。その辺り、何故かよく勘違いされてしまうのだが。

 

「あのー、今日は定盛姫歌(さだもりひめか)さんはおられないのかしら?」

 

 辺りを見回していた先輩がそう問い掛けると、藤乃は勿論、私も先輩の方に視線を移した。

 彼女の名は私も知っている。グラン・エプレの上級生たちとは別の意味で有名人だ。

 

「ごめんなさい~。姫歌ちゃんも今日は別件で不在なんです」

「そう、残念だわ。一年生でありながら窮地にガーデン全体を纏めたっていう彼女と、じっくりお話ししてみたかったのだけど」

「あぁー、わたくしはその時ちょうどヒュージと遊んでて、その場に居なかったんです。でも凄く格好良かったそうですよ!」

「こういうの、普段からの地道な積み重ねのお陰なんでしょうね」

 

 神庭を襲う地底湖ネストの脅威に際し、全校生徒を奮い立たせたのは生徒会長でもグラン・エプレの双璧でもなく、一年生の彼女だった。

 それ以前から彼女はガーデンの行事にアイドルライブを敢行し、地元の新聞やリリィ雑誌に取り上げられた。

 そして例によって例の如く、ライブの記事を見た政戦両略のエキスパートを自認する良心的市民から、「国民が大変な時にアイドルごっことはいいご身分だなw」と抗議の読者投稿が新聞紙面に寄せられている。

 この手の輩は軍楽隊や儀仗隊にも「お遊び」といきり立つのだろうか? 軍用機のノーズアートは不謹慎だし、洋食メニューの食事を出す軍艦はホテル呼ばわりに違いない。

 それにしてもあの新聞、わざとあの読者投稿を載せたのでは。炎上商法だ。阿呆を晒し者にして話題性を稼ぐのはやめて差し上げなさい。

 

「霞子様、姫歌ちゃんは居ませんが、代わりにわたくしともう少し深い所までお話ししませんか?」

 

 来た。

 こんな時が来るんじゃないかと、私はずっと警戒していたのだ。

 スススと先輩の傍までにじり寄り手を伸ばす藤乃。

 私はすかさず間に割って入り、先輩の手を握ろうとする魔の手をはたき落とす。

 

 パシッ――――

 

 藤乃はキョトンと瞬きした。

 

「あら?」

 

 懲りずに私を迂回してまた手を伸ばしてくる。

 

 パシッ――――

 

 しかしここは通さない。

 

「あらら……」

 

 藤乃はどうしてこんな目に遭うんだと言わんばかりの困惑顔になる。

 すっとぼけるな、と言いたい。

 

「別に手を近付けなくとも話はできるでしょう。それとも貴方は手の平に口が付いてるんですか?」

「え~ん! スキンシップさせてくださいよーっ!」

「駄目です」

 

 わざとらしい声だけの噓泣きを、私は切って捨てる。

 石塚藤乃の不埒さは知っていた。霞子先輩に手を出そうとするのは明白だった。

 しかしそうは問屋が卸さない。

 先輩は唯でさえ見目麗しいのに、その上どこまでも人が良いから、勘違いした悪い虫が寄って来ないよう私が目を光らせておかなければ。

 

「ふふふふふっ」

 

 泣いていた藤乃が今度は意味深に笑い出した。私の方を見て。

 

「美夜受さん、何だか番犬(ワンちゃん)みたいで可愛いですねえ」

 

 のほほんとした様子でそんな風に言い出す。

 誰のせいでこんなことやってると思ってるんだ。噛み付くぞ。

 睨む私の斜め後ろから――――

 

「えっ? 美夜受はネコちゃんよ?」

 

 爆弾が投じられた。

 

「せ ん ぱぁ い!!!」

「あっ、いえ、ええっと……」

 

 顔から火が出そうだった。

 

「か、髪飾りが鈴で、ネコちゃんみたいで可愛いわよねー……」

「あら~~~」

 

 どうにか取り繕おうとする先輩だが、遅きに失していた。

 藤乃はますます笑顔を輝かせている。

 だがそのお陰で先輩へのちょっかいを有耶無耶の内に終わらせられたので、取りあえずは良しとしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校門でイルマからの客人二人を見送って、その背中が見えなくなった後、藤乃はくるりと校舎の方に向き直る。

 

「これは、釘を刺されましたねえ」

 

 先程のやり取りを思い出して独り言。口角は持ち上がり、どこか楽しげな調子で。

 

「お近付きになりたかったのに、美夜受さん」

 

 藤乃の狙いは初めから霞子ではなく、美夜受の方だった。

 わざと彼女の気に障るような言動を取り、意識を向けさせた後、じっくりと攻略する予定であった。

 好きの反対は無関心、とよく言うように、印象に残らないのが一番良くない。故に敢えて彼女に警戒されるような振る舞いをしたのだ。

 もっとも、印象が薄いなどと、藤乃の場合は要らぬ心配であろうが。

 

「でも霞子様に睨まれたら仕方ないですね」

 

 吉井霞子はイルマ学内のみならず、近隣ガーデンのリリィからも広く信頼されている。そんな彼女に牽制されたのだ。

 穏やかで人当たりの良い風貌の霞子だが、強い者とは、大抵笑顔である。

 

「社会的に潰されたくないので。ふふふふふ」

 

 傑物は傑物を知る。

 藤乃は後ろ髪を引かれる思いを断ち切ると、校舎の中へと戻っていった。

 

 

 




霞子様、人徳から「あの人に頭を下げられてお願いされたら嫌とは言えない」的な人物として見られているのでは。
政界にもそんな人が居ましたね…

マルチカラード・ティアーズ、ラスバレで一番好きなイベントかもしれない。
ひめひめ演説、御台場援軍、そしてラストの空中戦と、山場が三つもあるの欲張り過ぎるでしょう…
神庭屈指の戦闘巧者である藤乃様がひめひめリスペクトしてる点も良いですね。
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