アサルトしないリリィ   作:坂ノ下

19 / 22
モン・ストーリー ② (モンちゃんと愉快な仲間たち)

 ペンギンの足には海中を泳ぐための水掻きが備わっているため幅広に見えるが、ペンギンを模したサポートロボットにそんなものは無く、ただ直立時のバランスを取る意図で横幅が広くなっている。故にもしも彼女らが水の中で活動しようと思ったら、そのためのオプションパーツを装備する必要があるだろう。

 そんな幅広の足を忙しなく動かし並木道を走るモンちゃん。丸い頭の天辺には四角い透明の入れ物が乗っかっており、バンザイした両手で落ちないように支えている。頭部を荷物置き場にするのは、古来より有効な運搬手段とされいた。

 

「モン」

 

 不意に横合いから声を掛けられて、モンちゃんは急ブレーキを掛ける。綺麗な石畳の上に着地した両足がキュッと小気味良い音を鳴らした。

 

鶴紗(たづさ)ちゃん!」

 

 モンちゃんを呼び止めた低い声の持ち主は、金髪を短めのポニーテールに纏めた小柄なリリィだった。

 

「鶴紗ちゃんは梨璃ちゃんのレギオンのメンバーで、普段はちょっとぶっきら棒だけど、よくシャケ缶やツナ缶を分けてくれるいい人だペン」

「解説どうも。でも()()()はやめて」

 

 楓も所属しているレギオン一柳隊――正式名は別にあるがこちらの方が通りが良い――の一員である安藤鶴紗が訝しげな視線を落としてくる。

 

「そんなに慌てて、何かあった?」

「あっ、そうだったペン。これだペン」

「タッパー?」

 

 モンちゃんが頭の上に抱えていた物体は、専ら料理の残り物を収納するために使用される食品保存容器だった。

 

「じゃじゃーん! シャケの切り身だペン! 鶴紗ちゃんにお裾分けだペン」

「あ、ありがと」

 

 タッパーの蓋を開けると、出てきたのは赤身の魚をスライスしたもの。いかにも脂のたっぷり乗ってそうな鮮やかな赤色だ。

 

「実は今朝、丸々一匹大きな尾頭付きがお部屋に届いたペン。ガーデンからモンちゃん宛に。紙にお詫びって書いてたペン」

「お詫び? 何の?」

「知らないペン」

「えぇ……。大丈夫なの、それ」

「大丈夫ペン! きっと美味しいペンよ~」

「違う、そうじゃない」

 

 後に証明されるが、実際美味であった。ちなみに尾頭付きの状態から捌いたのは楓である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。一日の勉学と訓練を終えたリリィたちは夜間待機組を除いて各々の寝所に戻っていた。新館寮、楓・J・ヌーベルの部屋もまた然り。ナイトウェアに身を包んだ楓と結梨が隣り合ってベッドの縁に腰を下ろしている。

 

「――――それでね、ネコって凄いんだよ。みょーーーんって伸びるの」

「あらそうですの。ですがうちのモンちゃんも負けてませんわよ」

 

 本当の姉妹、あるいはシュッツエンゲルのような微笑ましい光景。しかしながら、引き合いに出された当人としては聞き捨てならない。

 

「ですわよね? モンちゃん」

「無茶言うんじゃないペン。モンちゃんお腹しか伸びないペン」

「あらまあ。『グランギニョルの粋を尽くした』とお父様は仰っていましたが、誇大広告だったようですわねえ」

「ペン! 楓だって、伸びるのは鼻の下ぐらいだペン」

「人を節操無しみたいに言わないでくださる?」

「前に、汐里(しおり)ちゃんのお尻を――――」

「ちょっと!!! 結梨さんの前で何を言い出しますの!?」

 

 ベッドから跳ね上がってきた楓が壁際のモンちゃんに迫る。

 

「モンちゃん誠実なサポートロボットだから、事実しか言わないペン。あるがままを示すだけペンねえ」

「モ~ン~ちゃ~ん~?」

「ぐぐぐっ、ぐるじい……。モンちゃんはね、黙らないペンよ。今一番黙らないペン……!」

 

 などと飼い主とペットが愉快なやり取りを繰り広げている間、ベッドの方は静かであった。モンちゃんの首を掴み上げていた楓はパッと手を離すと、元々座っていた場所へ戻っていく。だがそこは横に寝そべった結梨の体に半ば占領されていた。

 

「すぅ、すぅ……」

「もう()()()ですわね。まったく、こんな姿勢で横になっては体を痛めてしまいますわ」

 

 楓はいかにも「仕方ない」と言いたげな口振りで結梨をすっと抱え上げ、ベッドの中心に運んでそっと降ろした。

 

「リリィとして一柳隊の一人として、講義に出てチャームを振るう訓練にも出て。結梨さんが初めて百合ヶ丘にやって来た頃とは何もかも変わりましたわね」

「結梨ちゃん初めは医務室暮らしだったから、モンちゃんはその時のことはよく知らないペン」

 

 元々は記憶喪失の遭難者として一柳隊に発見され、後にリリィになれるだけのスキラー数値が確認されたためそのまま百合ヶ丘に保護された。モンちゃんが彼女の素性・来歴について知っているのはその程度である。

 

「でも今の結梨ちゃんは好奇心一杯ペン。何を仕出かすか分からないぐらい。元気になって良かったペン」

「ええ、そうですわね」

 

 子供に情が湧くのはサポートロボットの(さが)か。

 モンちゃんは少しの間ベッドの近くで結梨の寝顔を見つめた後、背を向けてまた離れていく。壁際のタンスの横のクッションの上。そこが休眠時の定位置である。

 

「今夜はパトロールの日だから、モンちゃんももうお休みペン」

 

 睡眠そのものの必要性は無いが、無用なエネルギー消費を避けるための休眠は毎日欠かさず取っていた。

 

「モンちゃん、夜のお散歩も程々に」

「お散歩じゃないペン! パトロールだペン!」

「不要な夜更かしはお肌の天敵ですわよ」

「モンちゃんサポートロボットだからお肌荒れないペン。羨ましいペン?」

「抜け毛、増えますわよ」

「ペェェェェェンっ」

 

 結梨を起こさないよう器用に叫ぶモンちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時に、一羽のペンギンが板張りの廊下を進む。長い廊下に沿って設けられた窓はどれもしっかり締め切られているが、ガラスの向こう側でぼんやり瞬いている月明りが屋内に差していた。それら窓際の月光と、廊下内に微かに灯った非常灯によって、身の丈40cmの体が薄っすら照らされている。

 

「ペン、ペン、ペン、ペン――――」

 

 首を左右交互にゆっくり振りながら、ずらっと並ぶ窓と各部屋の扉をチェック。異状が無いか確認する。

 この新館寮の夜のパトロールは不定期で実施されていた。ただし誰に依頼されたわけでもない。身も蓋も無い言い方をすれば、モンちゃんの自己満足だ。無論、寮長の許可を取ってはいるが。

 

「本日も異状を認めず、ペン」

 

 パトロールのスタート地点、即ち楓と結梨の部屋の前まで戻ってきたモンちゃんは満足そうにそう宣言した。

 実際、これまでモンちゃんが見回った中で、異状と言えるような異状を見つけられたケースはほぼほぼ無かった。たまに小腹を空かせたリリィが調理室に向かう場面を目撃するぐらいだろうか。ただ彼女たちは夜間に出撃することもあるので、特段おかしな話でもない。

 

「そう言えば、神琳(しぇんりん)ちゃんと雨嘉(ゆーじあ)ちゃんはよく飲み物の補充に行ってるみたいペン。汗かきさんペン? 寝汗は風邪の元だから大変ペン」

 

 同室同士である一柳隊所属リリィの二人を思い浮かべ、モンちゃんは深刻な面持ちになる。健康管理もリリィにとって任務みたいなものだろう。

 そうして部屋のドア――楓の部屋にはペット用の小さな()()()()が設けられている――をくぐろうとしたところで、異変を察知しピタリと動きを止める。

 

「……今、音がしたペン?」

 

 疑問を覚えればすぐに行動。モンちゃんは部屋のくぐり戸に背を向けて廊下を歩き出し、音の出所を探るべくキョロキョロ辺りを見回し始める。

 無人の空間を先へ先へと進み、角を曲がってまた進む。そうしている内、とある部屋の前でふと違和感を覚えた。

 

「?」

 

 そこは使われなくなった寮の備品を纏めて置いてある小さな物置部屋だったはず。モンちゃんは何故かそこが無性に気になった。その感覚に従い、扉の前でジャンプしドアノブを両手で掴む。すると扉が施錠されていないことに気付いた。

 モンちゃんはそのまま扉を開き、ドアノブから手を放して着地する。中に視線を移すと、幾つもの棚や衣装ケース、段ボールなどが綺麗に詰め込まれた光景が広がった。ぱっと見て、人が潜伏している形跡は確認できない。ただし、一つだけ蓋が半開きの段ボールが怪しさを醸し出していた。

 

「……ペン」

 

 モンちゃんは少々逡巡してから物置の中に足を踏み入れる。一歩一歩、足音を立てず慎重に。手が届く位置まで達すると、右手を伸ばして件の段ボールの蓋を掴む。

 

「ごくりっ」

 

 数瞬だけ硬直するものの、意を決して蓋を思い切り開放した。中には部屋着か何かが折り畳まれた状態で重ね置かれていた。横から箱自体を揺さぶってみるが、特に不審な点は無い。モンちゃんは一つ溜め息を吐く。

 

「ペンっ、そうだペン。お化けなんて、いるわけないペン。ファンタジーやメルヘンじゃないんだから」

 

 そう独り言ちると180度くるりと向きを変え、進入時とは打って変わって意気揚々とした足取りで物置をあとにした。

 

「鍵が開いてたことは、また明日寮長さんに報告するペン」

 

 その後は寄り道せず真っすぐ自室を目指す。何の事は無い。ここまで来た道を同じように辿っていくだけだ。

 労せずして曲がり角に差し掛かった。ここを曲がれば楓の部屋が見えてくる。

 そうして視界の中に90度回った先の光景が広がったその時、それは現れた。曲がる際にそれと正面衝突したモンちゃんは後方に尻餅をついてしまう。

 

「ぶぺっ」

 

 お尻の衝撃に顔を顰めつつ、モンちゃんはそれの姿をまじまじと見た。黄色い毛に覆われた全長40cmの体、丸い顔の2.5頭身、頭の角(?)や尻尾の先端から生えたアルファベットのC、何かやたら腹が立ってくるとぼけた表情。

 

「何だペン!? こいつ!」

「こんばんは! 僕、チャームの妖精チャーミィ! よろしくね!」

「キャァァァァァ!!! シャベッタァァァ!?!?」

 

 モンちゃんは自身の存在を棚に上げて目玉が飛び出るほどの衝撃を受けた。

 一時は真っ白になったモンちゃんの思考。その機能が少しずつ回復し出すと、チャーミィとやらの正体について探り始める。

 まず生徒の誰かが連れてきた新参のサポートロボットという可能性。有り得そうな話だが、しかしモンちゃんは真っ先にこの説を否定する。モンちゃんの直感が、これはそんなものではないと確信させていた。

 次に新種のヒュージという可能性。ヒュージの特異とも言える多様性を鑑みれば、荒唐無稽というわけでもない。だがここに来るまでガーデンに全く察知されなかったというのは些か考え難いだろう。

 そして最後にUMA説。Unidentified Mysterious Animal。これが一番しっくり来た。モンちゃんはこの謎生物を「何かネズミっぽいUMA」と仮定する。

 しかし何にせよ、落ち着きを取り戻したモンちゃんが最初に取るべき行動は、寮の平和を維持することである。

 

「ペン! ここは百合ヶ丘女学院の新館寮だペン。部外者が勝手に入っちゃいけないペン。今すぐ退出するんだペン」

「固いこと言いっこなしだよ。僕と君の仲でしょー?」

「初対面だペン!」

 

 声を荒げるモンちゃんだが、相手は応えた様子がまるでない。

 

「本当に一体何なんだペン!」

「チャームの妖精だよ!」

「それはもう聞いたペン! ここで何してるんだペン!」

「おおっ、よくぞ聞いてくれました!」

 

 モンちゃんの詰問を受け、チャーミィが唐突に片足立ちになってその場でくるりと一回転。どことなく満足そうな誇らしげな表情が他人の神経を逆撫でする。

 

「僕はチャームの妖精として、『覚醒(めざめ)し者』を探してるんだ。いずれ来たる『大破局(カタストロフ)』に対抗するために。この困難を乗り越える鍵は『熱き精神(ペイトス)』にあり、僕の持つ『Cの器官』がそれに共鳴し探し当てるってわけさ!」

「なに言ってんのか分からねーペン」

 

 モンちゃんは目の前の輩の言を妄言と判断。実力行使モードに移行する。

 

「とにかく出ていくペン!」

「ここは良い場所だねえ、広くって」

「ペェェェン!」

 

 退去要請を無視するかのようにチャーミィがフラフラ何処かに向けて歩き出した。その背中を追い掛けるモンちゃん。しかし追い付けない。片足立ちのチャーミィが廊下の床をスケートリンクの如く滑っていくからだ。

 やがて業を煮やしたモンちゃんは助走をつけて思い切り飛び掛かる。その両手が標的まで達しようかといったところで、空振りし虚空を掴む。宙にダイブしたモンちゃんは勢い余って窓の下の壁に激突してしまう。

 

「ぶっ」

「ほいっと。とりあえず今日のところはサヨナラしようかな」

 

 窓枠にジャンプして取り付きガラス窓を開けるチャーミィ。その下方で蹲るモンちゃん。

 

「いたたっ、痛いペン……」

「じゃあね! また来るね!」

「二度と来ないで……っ!」

 

 妙ちくりんな侵入者はそこから飛び降りて夜の外界へと消えていった。

 図らずも目的を達成したが、しかしこれで解決と思うほどモンちゃんもお気楽ではない。痛みに耐えて自室の扉をくぐり、ベッドに一直線。

 

「楓ぇーーー!」

 

 ベッド脇で布団を激しく揺すり、中にくるまっている者を叩き起こそうとする。

 

「起きて! 楓! 起きてぇーーー!」

「んんんんんっ……。なんなんですの、こんな夜中に……。ああ、もう、結梨さんが起きてしまいますわ」

 

 楓は目蓋を半開きにし、一緒の布団で丸まっている同居人の様子に気を揉んでいた。だがモンちゃんも必死なので、お構いなしに捲し立てる。

 

「今さっき! 部屋の前の廊下で! 腹立つ顔した黄色のネズミが徘徊してたペン! 不法侵入ペン、不法侵入!」

「黄色のネズミ……? モンちゃん、ゲームのし過ぎですわ……」

「電気は出さないぺェェェン!」

 

 再び寝入る体勢に入った飼い主を前にして、モンちゃんは沈黙する。これ以上騒いでも無駄だし、他の部屋の迷惑になるだけ。そう悟って楓の助けは諦めた。代わりに、決意を改める。

 

「楓は当てにならないペン」

 

 円らな瞳の中に炎を灯して。

 

「寮の平和は、僕が守るペン……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、再び深夜の新館寮。本日は夜空の月を雲が覆い隠しており、地上まで月光が届かない。そんな中、無人のはずの廊下を蠢く影が一つ。

 

「抜き足、差し足、忍び足。抜き足、差し足、忍び足、シシシシッ」

 

 ソレは小声で間の抜けた独り言を吐きながら長い直線の廊下を徘徊する。台詞とは裏腹に警戒心はゼロ。廊下のど真ん中を我が物顔で行く。

 不意に、強烈な光が暗闇の中を翔けた。廊下の両脇から伸びた二条の光はある一点で交差し、突然のことに怯んでいるソレの姿を照らし出した。

 

「うわっ、まぶしっ」

 

 両目をきつく閉じて短い腕で顔をガードするソレに対し、二つの光源の間から別の影が現れる。お馴染み、モンちゃんである。

 

「ペン、昨日はよくもやってくれたペンねえ。でも今日のモンちゃんは一味違うペン」

 

 モンちゃんはサポートロボットだ。それも、戦闘のサポートもこなせるタイプだ。戦闘任務に際してはそれ用のオプションパーツを装備するのだが、飼い主の許可が要る。残念ながら今回は楓のお許しが出なかった。しかし戦闘用パーツがなくともできることはある。

 

「さあ、観念してお縄につくペンよ」

「何だかアイドルになったみたい! ピースピース!」

 

 モンちゃんの覚悟をよそに、自称チャームの妖精チャーミィはサーチライト改め懐中電灯の光にはしゃぐ。

 

「これが最後の警告ペン。降伏するペン! Oui(ウィ)? Non(ノン)?」

 

 モンちゃんが更に前へと足を踏み出すと、チャーミィはすっとぼけた顔のままくるりと背を向ける。

 

「三十六計逃げるに如かず!」

「待つペン!」

 

 逃げ出した不届き者を追ってモンちゃんも駆け出した。しかし先日と同じくチャーミィは板床の上をスイーッと滑り、追っ手を引き離していく。良好な路面状態は余計に滑走を手助けしていた。モンちゃんの足では普通に走っていてもまず追い付けないだろう。昨日のように。

 

「フフフフフ……ふっ?」

 

 ふと後方を振り返ったチャーミィの顔が固まった。自分の斜め後ろを爆走してくる存在に気付いたために。

 

「ペンっ!」

 

 モンちゃんだ。ただし短い足ではなく、なだらかな曲線を描くお腹を床に付けて、チャーミィと同じく廊下を氷上に見立てて滑る。接地面が広い上に、空気抵抗の少ない腹這い姿勢。片足で滑るチャーミィより優速なのは明らかだった。ペンギン型の面目躍如である。

 

「まさか、僕より速いなんて」

「ペェェェェェェンっ」

「わわっ、ちょっ」

 

 そうしてついにモンちゃんは逃走者を捉えた。チャーミィの背中から接触し、そのまま二人して滑り続け、最後は廊下の角を曲がり切れずに仲良く壁へと突っ込んだ。ポフポフっとぬいぐるみがぶつかったような音が鳴り、床の上に倒れ伏す二人。

 

「あいたたたたっ。びっくりしたー」

「まだまだ、これで終わりじゃないペンよ!」

 

 立ち上がったモンちゃんはチャーミィに飛び掛かりながら右手の翼を頭上高く掲げた。ヒレ状の翼は空気を切り裂き斬撃の如くチャーミィの丸顔へ伸びていく。一撃が決まったら、返す刀で更に一撃。右へ左へ往復の乱打が飛ぶ。

 

「ペンペンペンペンペンペンペンペンペン――――!」

「ひでぶっ、あべしっ、うわらばっ、モルスぁ!」

 

 最後の一撃を受けて宙高く待ったチャーミィの体は、山なりに飛んだ後に床へと墜落した。

 

「モンちゃん百裂拳、ペン」

 

 拳ではないのだが、細かいことは気にしない。奥義の成功に手応えを感じていたモンちゃんだったが、プルプル震えつつも両手をついて上体を起こそうとするチャーミィの姿に驚きを覚える。

 

「なかなかやるじゃないっ」

「ペンっ!?」

「じゃあ今度はこっちの番だね☆」

 

 チャーミィは立ち上がることなく、腹這いの姿勢のまま大きな丸い頭部を前方に向ける。頭から生えているのは二本の角みたいな、アルファベットのCの字みたいな突起物。次の瞬間、そのCがモンちゃん目掛けて放たれた。

 

「ロケーーーット・クロス・スラーッシュ!」

「ぶぺぇっ!?」

 

 お腹に突撃した二つのC。だが驚きはしたものの、派手な演出の割にそこまでの威力はなかった。

 モンちゃんはCとチャーミィの頭部を繋いでいる糸のようなロープのような物を掴んで引っ張る。

 

「あだだだだだっ! 抜けちゃう! 抜けちゃう!」

「大したことないペンねえ」

「隙ありっ」

「ぶっ」

 

 不意打ちで尻尾のCが顔面に直撃。モンちゃんもこれには堪らず天を仰いで転倒する。

 

「や、やったペンね……っ。お返しペン!」

「あ痛っ!」

 

 反撃のビンタがチャーミィを打つ。

 

「お返しのお返し、超音波攻撃!」

「ギョエピィィィィィィ! 窓ガラスを引っ搔くなペン!」

 

 身の毛も全て抜け落ちるような不快音が掻き鳴らされる。

 

「ペェン!」

「とりゃー!」

 

 以後、お互い近接しての攻防が続く。しかし双方とも決定的な一打に欠けていた。故に、却って凄惨さを増す拳のやり取り。深夜の廊下で、ノーガードのド突き合いが繰り広げられる。

 

「ペェェェン!!!」

「よいしょーぉ!!!」

 

 争いは、同程度の者同士でしか発生しない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山頂の輪郭線の上から朝焼けの光が漏れ出した頃、百合ヶ丘の学舎にも目覚めの時が訪れていた。新館寮が生徒たちの足音で賑わう少し前、とある廊下では一つの重大な区切りがつくところであった。

 

「ぺぇ、ぺぇぇぇんっ」

 

 今にも絡まりそうな覚束ない足取りで、蠅でも止まりそうなほどゆったりとした手刀がモンちゃんから放たれる。覇気の抜け切った顔に、フラフラの挙動。無理もない。夜通し戦い続けていたのだから。

 

「ぐふっ」

 

 しかしそんなヘナチョコビンタを食らったチャーミィは、同じくフラフラとした足取りでよろけた後にお尻から盛大に倒れ伏す。チャーミィもまた限界点に達していたのだ。そして止めの一撃の勢いのまま、モンちゃんは上から覆いかぶさるようにその身を投げ出した。

 

「や、やった……ペン……」

「きゅ~っ」

 

 己の腹の下で伸びているチャーミィを見て勝利を噛み締める。もはや一歩も動けない状態だが、窓から差し込む朝日にも劣らぬ清涼感がモンちゃんの中を満たしていた。

 そこへ、足音と共に一つの影が近付いてくる。

 

「モンちゃん……朝から居ないと思ったら、こんな所で何をやっていますの」

 

 飼い主の登場だ。

 

「かっ、楓ぇ! 不審者を、不審者をひっ捕らえたペン! モンちゃんがやってやったペンよー!」

 

 これまでの疲労が吹き飛んだかの如く一生懸命に訴える。

 一方の楓の視点。その視線の先には、何かぬいぐるみっぽい者たちが上下に折り重なっている光景が。

 

「あら~モンちゃん、お友達ができてよかったですわねえ」

「ぺぇぇぇぇぇぇぇんっ!?」

 

 モンちゃんとチャーミィ。後に伝説となるマスコット二匹の邂逅であった。

 

 

 




・チャーミィ
教材になったりマスコットになったり破壊神になったり忙しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。