アサルトしないリリィ   作:坂ノ下

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モン・ストーリー ④ (モンちゃんと愉快な仲間たち)

 グラウンドの真ん中に現れたドーム状の鉄格子。それは戦技競技会を飾るエキシビションマッチのための闘技場だった。その中で一対一(サシ)の勝負に臨むのは、ミドル級ヒュージと一柳結梨。

 

「ペン! 何で結梨ちゃんが?」

 

 モンちゃんがドームの外で困惑していると、答えは背後からすぐに返ってくる。

 

「あれはぁ、百由(もゆ)様の仕業なのじゃ……。わしを亡き者にしようと、あんなメカヒュージを作りおって……」

 

 地べたに胡坐を掻いて座り込むミリアム・ヒルデガルド・(フォン)・グロピウス。どうやら結梨はミリアムの代打らしい。

 

「結梨ちゃん、チャームの使い方習い始めたばかりなのにっ。危ないよ!」

「ペェン、梨璃ちゃん……」

 

 両手で格子を掴んで悲鳴みたいな声を上げる梨璃。だが当の結梨はやる気満々で。試合を止める術は無さそうだった。

 一方モンちゃんはというと、大立ち回りを演じた直後であり、満身創痍。山林を駆け回ってきた全身は泥や葉っぱに塗れている。

 

「ペン! モンちゃんが行くペン!」

 

 しかしモンちゃんは手を上げる。

 

「梨璃ちゃん、モンちゃんを思いっきり押して欲しいペン」

「ええっ?」

「この鉄格子の隙間、モンちゃんなら通り抜けられそうだペンよ」

 

 人の身では出入り不可能なスペースだが、身長40cmのぬいぐるみサイズなら確かに可能かもしれない。

 

「で、でも、モンちゃんも危ないんじゃ……」

「モンちゃんは戦闘用サポートロボットだペン。結梨ちゃんだってサポートできるペン。大丈夫ペン」

 

 モンちゃんはそう言うと自分から格子の狭間に頭を突っ込み、背中で梨璃を急かす。すると初めは戸惑っていた梨璃も意を決し、モンちゃんの背中へ手を伸ばす。

 

「じゃあ、モンちゃんお願い!」

「任されたペン!」

「いくよ、う~~~んしょっ」

 

 梨璃は言われた通り、ドームの内部に向けて思い切りモンちゃんの体を押し込む。ドームを囲う格子は通常の牢屋みたいな垂直ではなく、斜めにクロスしており隙間が非常に小さかった。モンちゃんといえども通過するのに四苦八苦である。

 

「う~~~ん、あともうちょっと」

「ぺ、ペンっ、お手数かけますペン。今度ダイエットするペン……」

 

 抜けられそうで、抜けられない。お腹がつっかえているのだ。

 

「おっ、何だか面白そうなことやってるな。手伝うゾ!」

 

 手こずっていると、一柳隊の二年生、吉村(よしむら)Thi(てぃ)(まい)が加勢しに来てくれた。二人してモンちゃんのお尻を押し込み、ラストスパートをかける。

 

「抜けたっ……ぶぺっ」

 

 抜けたはいいが、勢い余って地面に顔面ダイブ。すぐに顔を上げて立ち上がる。

 

「あ~~~っ!!!」

 

 ところがその直後、ドームの外側から悲鳴が上がる。

 

「駄目ダメだめ! って、遅かった……」

「なんじゃい百由様、藪から棒に」

「この特設メカヒュージ、メカルンペルシュティルツヒェン君は、挑戦者の人数に応じて武装が強化される仕様なのよ」

「なんじゃとぉ!?」

 

 結梨と対峙する者、直径5mの球状胴体に三本脚を生やしたメカヒュージ。モンちゃんの闖入を確認した後、更に二本のマジックアームを追加で生やしてきた。アームの先端は五指などではなく、それぞれ巨大なハサミとドリルである。

 

「なんちゅうもんを、なんちゅう要らん機能を付けおったんじゃ!」

「こんなことになるとは思ってなかったのよぉ~。結梨ちゃんとモンちゃんが危ない!」

 

 外野でミリアムと百由が騒ぐ中、モンちゃんは敵と正対して視線を逸らさない結梨のもとへと歩いていく。

 

「結梨ちゃん! 協力して一緒にあのヒュージをやっつけるペン!」

「モンちゃん? うん、やろう!」

 

 二人は瞬時に共闘体制を敷く。しかし問題はその手段である。

 モンちゃんはくるりとドームの外へ振り向いた。

 

「楓ぇー! そういうわけで、何か役に立つオプションパーツをちょうだいペン!」

 

 ドームの格子が邪魔で、自動飛行システムが上手く機能しないのだ。

 

「まったく……。色々と用意はしてきましたが、役には立ちませんわよ」

 

 楓は気乗りしない様子ではあるが、それでも持ってきていたオプションパーツその他を外から入れてやる。任務に応じて各パーツを換装するチェンジング・アームド・システム、モンちゃんの十八番が発動する。

 

「チェーンジっ!」

 

 筒状の右腕が、クラッカーを鳴らした。

 

「チェーーーンジ!」

 

 左腕の中から、玩具の鳩が飛び立った。

 

「チェーーーーーーンジ!!!」

 

 大きく開いた嘴が、風船を吐き出した。風船の紐には万国の国旗がずらりと吊るされている。

 

「ろくなのが無いペン。これじゃあゴム弾の方がまだマシだペン……」

 

 モンちゃんは力なくうな垂れる。

 

「楓、お前はモンに何をさせる気だったんだ」

「仕方ないではありませんか! エキシビションの前座のつもりだったんですのよ! まさか戦闘になるなんて!」

 

 ジト目の鶴紗と弁解する楓。

 結梨はモンちゃんを信じて待っている。メカヒュージも律義に待っている。

 そんな中モンちゃんは諦めず、楓が寄越したオプションというかパーティーグッズというかガラクタの山を漁り続けていた。

 

「……ペン! これは、使えるかもペン!」

 

 ガラクタの中から見つけ出したタンク状の容器、その中身を口の中に流し込む。躊躇なく、一息に。ごくごくと飲み込んだ後、「ケプッ」と小さなゲップを漏らす。普段のモンちゃんなら羞恥を覚えるが、今はそれどころではない。

 一呼吸置いて、モンちゃんの小さな嘴が焼け付く息を吐き出した。比喩でも何でもなく、正真正銘燃える息。火炎放射。その熱風に煽られたメカヒュージが何歩か後ずさる。

 

「結梨ちゃん、お待たせペン。これでお手伝いするペン!」

「モンちゃん、すごーい!」

 

 エキシビション改めアクシデントの当事者たちは盛り上がる。しかし外野の者たちはそれどころではない。

 

「楓、お前はモンをどうする気なんだ……」

「余興は派手な方がウケましてよーっ!」

 

 ドン引きする鶴紗、開き直る楓。

 そしていよいよ敵役が沈黙を破り行動を開始する。

 

「モンちゃん離れて!」

 

 前進してくるメカヒュージに対し、結梨はモンちゃんを逃がして自身は逆方向に走る。するとヨタヨタ逃げる小さい方ではなく、チャームを構えて駆けていく方にメカヒュージは向かう。脅威度の高い目標から叩こうというのか。

 テンタクル種オルビオ型を模したメカヒュージ「メカルンペルシュティルツヒェン君」は胴体に比して細い三本脚を互い違いに前後させ、グラウンドの土を蹴り散らしながら高速機動を見せる。それは的の小ささを活かして機敏に動き回る結梨に追いすがるだけのものがあった。

 

「ぺ、ペン……」

 

 一方、モンちゃんはメカヒュージと結梨との追い掛けっこを遠巻きに見つめる。逃げ切れたのはいいものの、今度は加勢のタイミングが掴めない。戦いのスピードに付いていけないのだ。ついさっき湧きかけた希望も、どこへやら。

 

「あぁ、結梨ちゃんっ」

 

 またドームの外には、同じく歯痒い面持ちで結梨を見つめる梨璃。彼女は結梨がチャームを持つまでならともかく、戦闘に参加することには反対だった。こんなアクシデントの中でなら、猶更であろう。

 そんな梨璃の肩を、彼女のシュッツエンゲルが後ろから包み込むように抱く。

 

「梨璃、よく見てみなさい。結梨の動きを」

「お姉様」

「私たちが教えたように、教えてなくとも、やって見せたように、あの子はチャームを扱い立ち回っている。結梨はリリィなのよ。私たちと同じように」

 

 振り下ろされたヒュージの脚を、結梨はグングニルの刃を傾け()()()。まともにぶつからずに相手の力を受け流し、やり過ごしていく。そうして己の何倍も体積と重量のある相手と剣戟を交える、リリィの基本的な戦い方だった。

 

「だからきっと、結梨は大丈夫よ」

「お姉様……」

 

 梨璃は間近にある夢結の横顔に振り返る。

 

「じゃあ、モンちゃんも大丈夫でしょうか?」

「…………」

「お姉様?」

「……楓さん、どうにかしなさい」

「どうにもなりませんわぁー!」

 

 そんなこんなで心配されるモンちゃんだが、本人はどうやって結梨をサポートするかで頭が一杯だ。あの見た目の割にすばしこい敵を引き付ける手段、足を少しでも止める手段がなければ、火炎放射も役には立たない。

 今もメカヒュージと熾烈なやり取りを続けている結梨の方は、いまひとつ決め手に欠けているようだった。あの三本脚の攻撃だけなら、これまでも反撃に転ずる機会があった。しかしその都度、追加で生やされた二本のアームが結梨の斬撃を妨害してくるのだ。右アームの巨大バサミが結梨の肉薄を薙ぎ払い、左アームの巨大ドリルが突きを放って結梨を追い散らす。左右の武器が一体となった連携攻撃。

 

「ペン……。これで、一か八か……」

 

 メカヒュージの猛攻を観察していたモンちゃんは一縷の可能性を見出した。一度は役立たずの烙印を押したその他もろもろのオプションパーツをドームの外から再び投げ入れてもらい、その場で分解し始める。

 

「モンちゃん、何をしてるんですか?」

「ペン! モンちゃんがメカヒュージの気を引くペン」

 

 突然の奇妙な行動に首を傾げる二水。その疑問に答えるように、モンちゃんは改造の終わった左腕オプションパーツをメカヒュージに向ける。中ほどから折れて砲口を開いた左腕から、弾丸の代わりに鳩が飛び出した。生身ではなく機械仕掛けの玩具の鳩は高速で空を翔けて敵に迫っていく。

 結梨と正面から矛を交えていたメカヒュージは横合いからの奇襲を受ける。が、後ろへ軽く跳ねて難なく躱した。そもそも玩具の鳩がぶつかったからといって、何だというのか。しかしモンちゃんの本命は、鳩の足にくくり付けられたモノにあった。

 

「あれは、旗?」

 

 レアスキルを使うまでもなく二水にはソレが見えた。一本の紐にずらりと吊るされた万国の国旗。楓が言うところの「余興」の一つ。風船から鳩の足へとモンちゃんが繋ぎ直したのだ。

 鳩が周りで飛び回ることによって、万国旗と紐がメカヒュージの脚やアームに絡みついていった。当然メカヒュージは振り払おうとするが、不思議なことに紐を切断することができない。

 

「やったペン! 流石は超高張力鋼糸。楓の無駄に凝り性な性格が役に立ったペン」

「超こっ……。楓さん、貴方は余興の名目で何を企んでいるのかしら」

「誤解ですわ! 何事も丈夫な方がよろしいでしょう!?」

 

 ドン引きする夢結。あの白井夢結がドン引きするなど、相当である。

 

「今だ!」

 

 この機を逃さず、よろめくメカヒュージに駆け寄った結梨はチャームの刃を振るう。縦横と立て続けに、十字に切り裂かれた機械の体が切断面から赤い火花を飛ばした。

 しかし思いの外タフなメカヒュージは、拘束する鋼糸まで切れたことで傷を負ったまま反撃に出てくる。三本脚を動かし、ハサミアームとドリルアームを結梨の頭上へと掲げる。

 しかしアームを振り下ろす前に、メカヒュージの体は背後からの火炎に包まれた。それが止めとなったのか、十字の切断面から炎を噴き出し、数テンポ遅れて大爆発。砕け散った破片が嘴を一杯に開けたモンちゃんに降り掛かった。

 

「っぷふぅー。何とかなったペン」

「やった、できた! できたよー!」

「ゆっ、結梨ちゃん!?」

 

 片手でチャームを抱えた結梨はもう片方の腕でモンちゃんを抱えて飛び跳ねる。また彼女らを囲うドーム状の格子は、メカヒュージを撃破したお陰か、音を立てて地面の下へと引っ込んでいく。

 

「結梨ちゃ~ん、良かったよぉ~」

 

 一柳隊の中でも真っ先に結梨へ抱き着きに行ったのは当然梨璃だ。

 

「モンちゃーん、さっきのは何をどうやったんですか?」

「よくやったな、モン。私の秘蔵のカニ缶を分けてやろう」

 

 そしてモンちゃんの元には二水や鶴紗が。その光景はさながら小さな英雄と言ったところか。

 

「おー、派手に逝ったのぉ」

「あぁあああぁああぁ!!! 私のメカルンペルシュティルツヒェン君がーーーっ!!!」

「爆発した上に炎上とあっては、中のメモリーも復元できるか怪しいのじゃ」

「あーーーっ! あぁーーーっ!」

 

 何やら衝撃を受けた者も居るようだが、殆どの人間から捨て置かれていた。

 

「そんなことより百由様、さっきから携帯が鳴っとるぞい」

「あーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 波乱の戦技競技会から数日後。競技会の興奮冷めやらぬ中でも、リリィはリリィ。講義の終了した放課後に一柳隊は出撃していた。と言ってもレギオン全員ではなく、半数による百合ヶ丘周辺の哨戒任務である。

 ガーデンでお留守番していたモンちゃんは、同じくお留守番の結梨に連れられて屋外訓練場に来ていた。

 

「結梨ちゃん結梨ちゃん、特訓って何をするペン?」

 

 ただ結梨に抱えられるままここまでやって来たモンちゃんが尋ねる。

 

「ヒュージと戦うの。本当の戦いじゃないと、特訓にならないよ」

 

 結梨は一柳隊の一員となっているものの、実戦に連れて行かれたことはまだない。訓練用シミュレーターは経験しているはずなのだが、それだけでは満足できないらしい、シミュレーターはあくまでシミュレーターということか。先日のエキシビションマッチでのハプニングが刺激になったようだ。

 

「もしかして、実戦形式での特訓ペン? モンちゃん相手に? ムリムリムリのカタツムリだペン!」

「えーっ? 何で?」

「モンちゃんじゃリリィの相手は無理だペン。リリィのサポートはできるけど。特訓にならないペンよ」

「でもこの前、活躍してたよ」

「あれは正直、運が良かっただけというか……。とにかくモンちゃんじゃ結梨ちゃんの動きに全然ついていけないペン。それなら機械にでも的を投げてもらった方が、射撃の特訓になるペン」

 

 モンちゃんは結梨の提案に無理があることを説明するのだが、相手は納得がいかない様子。先日の一件が余程印象に残ったのだろう。しかしモンちゃんの言う通り、やはり実戦訓練は無理があり過ぎる。

 

「何やらお困りのようじゃの」

 

 後ろから聞こえた()()()みたいな特徴的な声に、一人と一匹が振り返る。長いツインテールを垂らした小さなリリィがそこに居た。

 

「ミリアムちゃん! ミリアムちゃんもお留守番組だペン?」

「そうなのじゃ。なのでこの前の件、うちの百由様のお詫びをお主にしようと思ってな」

「お詫び?」

 

 モンちゃんと結梨が揃って首を傾げていると、ミリアムは腰に手を当て胸を張る。

 

「ふっふっふっ。お詫びにこのわしが、モンの字を改造してやろう!」

「か、改造ペン!?」

 

 自信満々にそう言う彼女は一柳隊のアーセナル――――チャームの整備・開発者だ。機械弄りはお手のものだろう。

 

「お主のオプションパーツでも不足な点があれば、わしが改造するのじゃ。言ってみい」

「ペン……」

「何でもいいぞ。何かあるじゃろう」

 

 いきなりの提案に、パッと答えが出てこない。確かに不足も不満もあるはずなのだが、すぐさま一言に纏めるのは中々に難しかった。

 

「じゃあ、すっごく強くして!」

「ほう、強くか。シンプルでいいのう」

 

 代わりに答えたのは結梨だった。そしてそれを聞き結梨の方を見たモンちゃんも返事を決める。

 

「ペン! ミリアムちゃん、空を飛べるようにして欲しいペン」

「飛行機能とな?」

「モンちゃんも結梨ちゃんたちのスピードに付いていけるようになりたいペン。オプションパーツは飛べるけど、モンちゃんは飛べないペン。このままじゃあ、ただのペンギンだペン」

「ただのペンギンは謙遜な気がするがのう」

 

 ミリアムは顎に手を当て低く唸った。しかしそうかと思えば、今度は一転して口角を持ち上げる。

 

「よし、分かった! お望み通り、空を飛ばせてやろうではないか!」

 

 何やら持ち歩いていたドでかい工具箱――キャリーケースの如く車輪を付けている――をその場で開き始めたミリアム。右手に電動ドリルを、左手にラチェットを装備する。どう見てもノリノリだ。

 

「ちょ、ちょっと待つペン。ここで改造するペン?」

「善は急げ、時は金なり、じゃ! なあに、こういうこともあろうかと、ブースターを持っていたんじゃよ」

「何で持ってるペン!?」

 

 困惑するモンちゃんをよそに、ミリアムは手にしたドリルを空転させてにじり寄ってくる。

 

「ではその間、結梨さんはわたくしたちと特訓していましょうか」

「用事済ませてきた」

 

 そう言いながら結梨の左右に陣取ったのは、郭神琳と王雨嘉だった。二人も留守番組である。

 もうこの二人と特訓していた方が良いのでは? とも思ったモンちゃんではあるが、結梨から頼られるのは嬉しいので、ミリアムの改造手術を受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間後。

 

「ぺぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ」

 

 そこには大空を翔けるペンギンの姿があった。

 

「お 空 を 飛 ん で る !」

 

 背中に取り付けられたブースターパーツが二つの噴射口から炎を吐き出している。格納式のそれはこれまでのオプションパーツと違い、いつでも使用可能な固定装備であった。

 改造を施した張本人は、自身の作品に対して満足そうに空を見上げている。

 

「ふふふふふ、ざっとこんなもんじゃわい」

「中々に本格的な装備のようですが。大丈夫なのですか、ミーさん。改正航空法周りとか」

「そこはそれ。既存技術の応用試験等々、名目を用意しておくからの。そもそも、あ奴のオプションパーツだって、グランギニョルがあれやこれやしたお陰で飛べておるではないか」

 

 神琳の危惧にも飄々として答える。あのシュッツエンゲルにして、このシルトあり。

 

「ね、ねえミリアム、何かあれ変じゃない?」

 

 不安げな雨嘉の視線の先では、モンちゃんが相変わらず空を爆走していた。

 

「これどうやって降りればいいんだぺぇぇぇぇぇんっ!?」

「そのお主の左右の翼を傾けて捻るんじゃ! ラダーみたいに!」

「無茶言うなぺぇぇぇぇぇん!!!」

 

 一見すると縦横無尽に見えるが、飛んでる本人からしたら命懸け。バランスを崩して失速するのが先か、燃料が尽きて落下するのが先か、あるいはガーデンから離れて遥か彼方へ飛んでいってしまうかもしれない。

 

「ふむ。この状態のモンちゃんを訓練弾で狙えば、特訓になるのでは?」

「神琳何言ってるの!?」

 

 モンちゃんにとって聞き捨てならない台詞が聞こえてくる一方、結梨は純粋に目を輝かせていた。

 

「モンちゃん、やっぱり凄い……!」

 

 凄いのはミリアムの技術力のような気もするが。

 ともあれ、モンちゃんは小一時間飛び回って制御法をマスターするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混沌を極めた百合ヶ丘の屋外訓練場も、夕日が落ちて薄闇の時刻になると落ち着きを取り戻していた。

 赤、青、黄色とカラフルな化粧(ペイント)を全身に施されたモンちゃんは、哀愁漂う佇まいで遠くの方を見つめている。

 

「特訓、大成功!」

 

 モンちゃんの横では、結梨が土に汚れるのもお構いなしに大の字に寝っ転がっている。結局、モンちゃんは結梨や、ついでに神琳や雨嘉による訓練弾の対空砲火を全力で躱しまくることになった。その果てが今の惨状である。

 

「私も、これでリリィになれるかな?」

 

 独白のようにも聞こえる結梨の問い掛けに、モンちゃんは傾げるほどの長さも無い首を傾げる。

 

「結梨ちゃんはリリィだペンよ?」

「そうかな」

「そうペン」

 

 端から見たら、手の掛かる子供。しかしモンちゃんにとっては楓もある意味手の掛かる子供なのである。

 

「じゃあ私も皆に付いていけるかな」

「出撃任務ペン? 梨璃ちゃんたちや百合ヶ丘がピンチの時は、そういうこともあるかもしれないペンねえ」

「えーっ?」

「モンちゃんだって戦闘任務のサポート、ほとんどしてないペン。楓のお部屋のお掃除ばっかりだペン」

「だったら、私が出撃する時はモンちゃんもサポートしてね」

「ペン! その時は絶対サポートするペン」

「絶対、約束だよ!」

「約束ペン!」

 

 盛り上がった結梨は仰向けの姿勢からバネのように跳ね起きた。

 

「よーっし、私たちは、リリィ!」

「モンちゃんはリリィじゃないペンけどね」

 

 一人と一匹は寮の方角へ歩き出す。結梨がゆっくり一歩を踏み出す間、モンちゃんは体を揺らしてテクテクテクテク歩き続ける。歩幅は違えど、向かう先は一緒の彼女たちだった。

 

 

 

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