アサルトしないリリィ   作:坂ノ下

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犬柳さんと猫井さま (夢結×梨璃)

 深く静謐だった緑の中に、大地を踏み締め蹴り抜く音が走っていく。獣道と呼ぶのもおこがましい道を、九つの人影が樹木をかわしつつ進む。

 一定の速度、と言いたいところだが、実際は一つか二つの影がしばしば遅れ気味になっており、その度に全体のペースが落ちていた。それでも基本的には順調に進み、やがて木々と草むらの途切れたちょっとした広場へと差し掛かる。

 広場の手前まで来たところで、集団の先頭左側を行く影が右の手を頭上に掲げた。すると掲げた本人を含む全員がその場で止まり、腰を深く落として静止する。

 程なくして今度は集団の後方左側から、若干どもるような声が辺りに響いた。

 

「こっ、ここで小休止しますっ!」

 

 

 

 

 

 広場と言っても、ただ木々や草がまばらで傾斜の無い平坦な土地というだけのこと。それでも身を休めるため贅沢はできない。一行は死角を補いながら車座となってその地に陣取った。

 レギオン一柳隊。百合ヶ丘女学院の敷地から離れたこの山で、彼女たち九人はとある訓練に勤しんでいた。

 

「あーあ。こんなのマギ使ってひとっ飛びすれば一瞬なのになぁ」

「それじゃあ訓練にならないでしょう、(まい)

 

 胡坐を掻き、頭の後ろで両手を組んだ梅が愚痴を零すと、すかさず隣に立つ夢結(ゆゆ)が口を尖らせ窘めてきた。ちなみに先程、隊の先頭に立ち停止の合図を出したのは夢結である。

 

「徒歩による野外行軍訓練……。私たちは外征メインのレギオンというわけではありませんが、慣れておくに越したことはないでしょう」

「うん、何が起きるか分からないもんね」

 

 神琳(しぇんりん)の言葉に雨嘉(ゆーじあ)が相槌を打つ。

 彼女ら一柳隊が山林を駆け回ってその身に枝葉を付けているのは、マギの枯渇時や隠密行動を想定しての行軍訓練のためだった。

 百合ヶ丘におけるレギオン単位の訓練メニューは教導官から雛形が提示される。だが多くの場合、そこから各レギオンの手で独自に改変し提出したものを教導官が認可する形を採っていた。それぞれのレギオン、それぞれのリリィに適した訓練を柔軟に施すための措置。しかしそんな制度が通用するのも、百合ヶ丘のリリィの練度や教育が高い水準にあるおかげであった。

 

「はぁ、はぁ……。す、すみません、足引っ張っちゃって……」

「うむ、流石にこの距離はわしと二水(ふみ)にはしんどいのう」

「特型追いかけて甲州に行った時も思いましたけど、梨璃(りり)さん凄いですねえ」

 

 リリィたるもの基礎トレーニングも欠かせない。だが運動場を走るのと野山を進むのとでは、また勝手が違う。

 二水とミリアムのチビッ子コンビが息を切らす一方で、先程休憩の指示も出した一柳隊隊長はと言うと、さしたる疲労の色も見せていなかった。

 

「あははっ。実家の近くもこんな感じだったし。山道には慣れてるから」

「流石は梨璃さん! 可愛らしい上に逞しいなんて、リリィの鏡ですわ!」

 

 梨璃の発言に対して(かえで)が大袈裟に誉めそやす。

 その楓だが、地面にへたり込む二水の背後から、鎖骨の下や手首の内側を指で押し込みマッサージを加えている。少しでも呼吸を整えやすくするために。実の所、真っ先に休憩を提案したのも楓だった。

 

「……終わった。夢結様、交代します」

「ええ、ありがとう鶴紗(たづさ)さん」

 

 大剣を模したチャーム『ティルフィング』を右肩に担いだ鶴紗がそう告げると、入れ替わるように夢結が腰を下ろした。

 小休止とは言え、ただ休んでいるだけではない。辺りを警戒する者、休息をとる者、そしてリリィの分身とも呼ぶべきチャームを整備する者とに分かれていた。本来なら出発前に学院で済ませておくべき整備だが、今回は野外整備も訓練項目に組み込んだのだ。

 夢結はまず地面に敷いたビニールシートの上に自身のチャーム『ブリューナク』を置く。そうしてブリューナクの基本フレームから、バレル、マガジン、ハンドル、ギアなどのパーツごとに分解していった。

 夢結が今使っている工具はドライバーが一本のみ。通常分解だけならこれで事足りる。更に簡易な整備ならば素手でも可能。精密分解しようと思えば他に金槌やレンチも必要になるが、アーセナルでもない限り、野外でそこまでする機会は少なかった。

 

「梨璃、手が止まってるわよ」

「あっ、はい、お姉様!」

「洗油は足りているのかしら? なければ石鹸水でも代用できるから」

「大丈夫です!」

 

 流れるような夢結の手さばきに見とれていた梨璃が、慌てて自分の作業に戻る。夢結より先にドライバーを握ったにもかかわらず、梨璃の方は進捗があまりよろしくなかった。

 一方で夢結の仕事は早い。洗油を塗ったブラシを銃身内部に何度も通し、それから綺麗な布で繰り返し拭き取っていく。銃身以外にも各パーツ作動部に潤滑油を塗り、最後に元の形へと組み立てる。ネジに緩みがないようしっかりと締め直し、握り心地も忘れずチェックする。

 結局、梨璃が自身のチャーム『グングニル』を整備し終えたのは、夢結が周辺警戒に戻った後のことだった。

 

「やっぱりミリアムさんは早いし上手ですねえ」

 

 わちゃわちゃと動かしていた手を止め、ようやく一息付けた梨璃が、木陰に立っているミリアムへ声を掛けた。

 二水に次いでへたばっていたはずのミリアムだが、チャームの整備は早々に終わらせて、長い柄の部分を自身の右肩に立て掛けるようにして支えている。

 

「わっはっはっ。何と言っても工廠科のアーセナルじゃからな。チャームなら何でもござれ……といきたいところじゃが、このチャームは事情が少々特殊でのう」

 

 ミリアムお手製のユニークチャーム『ニョルニール』は鎌にもハンマーにも見える大型のチャームである。それを彼女は苦も無く肩に担ぎ、空いた方の手で頬を掻きつつ話を続ける。

 

「わしのニョルニールは既存のパーツを多く流用しておるので、ユニークチャームでありながら整備性は良好なのじゃ。よってお主らが思うほど運用が大変なわけではない。少なくとも、どこぞのお嬢様の高級品よりはな」

「最っ、高級品ですわ! 間違えないでくださいまし!」

 

 ミリアムの煽りとも取れる発言に、間髪入れず楓が噛み付いた。

 

「大体、この機能美と造形美が最高水準で融合したジョワユーズの良さが理解できないとは、チビッ子2号も風情がありませんこと。せっかくのアーセナルの腕が泣いてますわよ」

「ふんっ、それで扱いづらくなっておったら本末転倒じゃわい」

 

 二人の諍いはちょっとした口論へと発展していく。

 しかし他の仲間たちに本気で心配する様子は見られない。何だかんだ言っても互いに認め合ってると、一柳隊の中では既に周知の事実であったから。

 

「神琳の媽祖聖札(マソレリック)は、整備大変そうだね」

「ええ、そうね。フレームは盾だから構造は単純だけど、銃身が多いのでどうしても」

 

 先に整備を完了していた雨嘉が、銃腔を清掃中の神琳の方を覗き込む。

 雨嘉の使用チャームはアステリオン。多くのガーデンに普及している傑作チャームでパーツの入手も容易。剛性こそ高くないものの、機体構造が単純で整備性が良いという強みがある。

 一方で、神琳のマソレリックは故郷の台湾企業が開発した彼女専用のユニークチャーム。見た目通り盾として使えるこの機体は非常に高い剛性を誇る。しかし射撃兵装がガトリング形式の多銃身なので、整備に手間が掛かるという欠点もあった。

 

「時に梨璃よ。グングニルの整備にはもう慣れたのか?」

 

 ふと、楓との舌戦を終えたミリアムがそんなことを尋ねてきた。

 チャームを胸の前で大事そうに抱えた梨璃は、暫し考え込んでから返答する。

 

「はい、慣れましたよ。もう分解も清掃も組み立ても一人でできます」

「それはさっき見とったから分かっておる。そもそもグングニルは第二世代チャームで最も扱いやすい機体。何か月も経ってできんようでは困るぞ」

「うっ……」

「そうじゃな……そいつを扱うのなら、自力でのカスタマイズぐらいこなせるようにならねばのう」

「うううっ」

 

 鋭い突っ込みにたじろぐ梨璃。しかし彼女には一つ提案しなければならぬことがあった。故にたじろぎつつも、右手を上げて恐る恐る口を開く。

 

「あの~、私、ブリューナクを使ってみたいって思ってるんですけど」

「何? ブリューナクじゃと?」

 

 そこでミリアムの眉がピクリと動いた。

 

「お姉様とお揃いのチャームを持てたら素敵だなーって……」

「確かに、あれはグングニルの後継機と呼ばれるほど扱いやすいチャームじゃ。しかしパーツは高価で、メンテナンスもグングニルよりは難易度が上がる。現状で手こずってるようではのう」

「えーっと、無理、かな?」

「ムリムリムリのカタツムリじゃっ!」

「ひえーん……」

 

 泣きそうになりながらも助けを求めて視線を彷徨わせる梨璃だが、肝心のお姉様からは目を逸らされてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 小休止という名の団欒が過ぎていき、そろそろ出発時刻が近付いてきた頃合。

 ヒュージの出現反応がないためのんびりとしてきたが、あまり時間を掛けていては、野外行軍訓練が野営訓練と化してしまう。

 隊長として号令を出そうと、立ち上がってスカートの土を払い落としたところで、梨璃は思い出したように両手をポンと合わせた。

 

「そうだ! 私いいもの持ってたんでした!」

 

 皆の不思議そうな視線が集まる中、腰に付けていたベルトポーチからそこそこ大きな紙袋を取り出す。幾重にも厳重に包んだ袋に入っていたのは、小麦粉に牛乳や砂糖やバター等を混ぜて焼いた小さな物体。

 

「わっ、ビスケットですか? 美味しそうですねえ」

「うん、動物ビスケット。早起きして焼いておいたんだ」

 

 近くに居た二水が梨璃の手の上、広げた紙に所狭しと積まれた様々な形のビスケットを覗き込んだ。

 

「皆で食べるために作ったんです。たくさんあるのでどうぞ!」

 

 そう言って意気揚々と配ろうとする梨璃だが、くるりと振り向いた夢結から待ったが掛かる。

 

「梨璃、遠足やピクニックではないのよ」

「あっ、ごめんなさい、お姉様……」

「お菓子作りも結構だけど、これは訓練なんだから」

 

 お姉様に窘められ、眉を下げて分かりやすく落ち込む梨璃。

 学院の中ならまだしも、ここは敷地からそれなりに離れた山中なのだ。場所も実戦を想定して選んでいた。梨璃は今更ながら、はしゃぎ過ぎたと反省し始める。

 

「まあまあ、よいではありませんか夢結様」

 

 その場を取り成したのは神琳だった。

 

「ビスケットも元々は軍隊用・船舶用の保存食。であるならば、それを作って食すこともまた、行軍訓練の一環と見なせるのではないでしょうか?」

「まあ、貴方がそこまで言うなら」

「それに作戦中や訓練中の栄養補給も重要です」

「ええ、そうね」

「それに梨璃さんの手作りお菓子食べたいですよね?」

「ええ、そう……ん゛っ! ん゛ん゛っ! ……栄養補給にしましょうか」

 

 見事に事態を収めた神琳が静かに、しかしにっこりと梨璃に微笑みかける。するとつられて梨璃にも朗らかな笑みが浮かんできた。

 感謝の気持ちも込めて、梨璃はまず最初に神琳とその近くに居る雨嘉へビスケットの小山を差し出した。

 

「ふふっ。では私はこのワンちゃんのビスケットを頂きましょう」

「はい、どうぞ。これ神琳さんをイメージして作ったんですよ」

「あら、ありがとうございます」

「私、神琳は狐か狼だと思うな」

「雨嘉さん?」

「あ、私は兎を貰うね」

「あのっ、雨嘉さん? 私、何かしたかしら?」

 

 次に渡す相手は二水にミリアム、そして楓。

 

「私のはハムスターですかね。そう言えば昔、こんなキャラクターいましたねえ」

「わしはコアラか。……言っておくが、抱き付いてくるのは百由(もゆ)様の方じゃからな?」

「わたくしが蝶とは、分かっておいでですね、梨璃さん。ありがたく頂戴いたしますわ」

 

 厳密に言えば蝶は動物ではないのだが、そんなことを気にするわけもない。

 続いて梨璃は梅と鶴紗の方へ近付いていった。

 

「おー、梅と鶴紗は猫か。これヨモギっぽい緑色してるゾ。凝ってるなあ」

「私のは黄色。卵味?」

 

 そして最後に向かうのは、勿論一人しかいない。

 梨璃は静かに深呼吸して気合を入れ直してから、チャーム片手に黙って待ってくれている夢結の前に歩いていく。

 今日ビスケットを用意してきた一番の理由が、今この時この瞬間にこそあった。

 

「大したものね、梨璃。以前はもっと、お菓子作りが不得手だったはずだけど」

「いっぱい練習したんです。雨嘉さんに教えてもらったりして。前に作ったチョコレート、失敗しちゃったから……」

「あのことまだ気にしてたの?」

「気にするに決まってます! あんなに焦がしたのに、お姉様は全部食べてくださって。私、いつか絶対美味しいお菓子を作れるようになろうって決めてたんです」

 

 思いの丈を吐き出して少しだけすっきり梨璃は、ポーチの中から別の紙袋を取り出した。夢結一人のために用意されたその中には、猫を象ったビスケットが入っている。

 伸ばされた手に、夢結の親指と人差し指に挟まれたそれが宙にかざされた。

 

「私も猫なのね。色が黒いけど、ふふっ、また焦がしたのかしら?」

「違います! そういう色付けなんです! お姉様のは、お姉様の綺麗な黒髪をイメージしました」

 

 梨璃の説明を聞いた後、夢結は手に取ったビスケットをそっと口の中へ運ぶ。固形物となった小麦粉が割れ、嚙み砕かれる音がする。

 その間、梨璃は固唾を呑んで夢結の様子を見つめていた。表情は真剣そのもの。とてもじゃないが、お世辞や社交辞令は口に出せないと思わせるほどに。

 

「そうね……少し、硬すぎるように感じたわ」

「硬かったんですね? 硬い、硬い……う~ん、生地をかき混ぜすぎたのかなあ?」

 

 シルトの想いに応えたのか、夢結から出てきたのは正直な駄目出しだった。梨璃は梨璃で、それを真正面から受け止める。この調子ならば彼女の想いが実現するのは、そう遠くない日のことかもしれない。

 

「分かりました。次はきっと上手くできます。明日焼いてくるので、またお願いしますね、お姉様」

「明日? 貴方、そうやって私を肥え太らせるつもり? 毎日お菓子を食べさせて」

「ビスケットぐらいじゃ太りませんよう。それに、お姉様はもっと太くなってもいいぐらいです!」

 

 話が脱線し始めた。

 梨璃は何とか軌道修正しようと足掻く。無論、自身の望む方向へと。

 

「お願いします! 忘れない内に挑戦したいんです!」

「そう言われても」

「お姉様の言うこと何でも聞きますから、お願いします!」

「はあ……」

 

 あまりに熱心に頼み込まれるものだから、夢結の口から溜め息一つ。しかしその溜め息の後、首が縦に振られて了承の意が示された。

 ここだけ見れば、駄々を捏ねる子供と姉に映るかもしれない。そう、ここだけならば。

 

 

 

 

 

 リリィにとって学校生活は訓練や任務と両立できるものでなければならない。それは逆も同じことが言える。

 したがって、講義の受け方や単位の取り方は各人が柔軟に決めることができた。そんなリリィとしての事情を悪用するわけではないが、梨璃は皆がまだ講義を受けているであろう時間に、レギオン控室の中に居た。

 テーブルの上に置かれた平皿。そのまた上に並べられたビスケット。それに手を付けているのは勿論、夢結だ。彼女の場合、一年生の内に可能な限りの単位を取得していたので、訓練や任務が無い時は割と暇だった。もっとも、普段はその暇な時間の多くを訓練に費やしているのだが。

 

「……美味しい」

 

 まるで独り言のように、呟くように発した言葉。

 ソファに腰掛ける夢結の隣で、思わず飛び上がって喜びそうになる梨璃だが、すんでの所で握り拳を作るだけに止める。すぐ傍で菓子と紅茶を嗜む夢結の姿に、厳かな気品を感じていたからだ。少し大袈裟だが、呑まれていたと言っても良い。

 

「よかった、お口に合ったんですね」

「ええ。お世辞でも何でもなく、美味しいわよ梨璃」

「やった、やったー!」

 

 しかし、そこはやはり一柳梨璃。自然に口元が綻んで、遂には声を上げ歓喜に沸く。

 表情がころころ分かりやすく変わるシルトに、夢結もまた静かに目を細めた。

 

「これで目標、達成しちゃいました」

「そうね。本当に貴方の行動力には呆れるし、驚かされるわ」

「えへへっ。ありがとうございました、お姉様。それじゃあ約束通り、お姉様の言うこと何でも聞きますね」

 

 その言葉を耳にしたところ、夢結は首を回して梨璃の方へ向き直ってからパチパチと瞬きした。今の今まで忘れていた、と言わんばかりに。

 

「そんなことしなくてもいいわよ。私の方こそ美味しいお菓子をご馳走になったわけだし」

「でも、約束ですから! 約束は守らなきゃ駄目です! 何か仰ってください!」

「困ったわね。何かと言っても、すぐには思いつかないわ」

「本当に何でもいいんです。して欲しいこととか、ありませんか?」

 

 ソファに座ったままの梨璃が身を乗り出し、顔を近付けて迫るように問い掛けた。

 夢結は暫し黙考し、ふと隣の梨璃の顔を見て、何も語らずにまた考え込む。そうして暫くの間黙っていたが、やがて視線を左右へ頻繁に動かし出した。逡巡でもしているのだろうか。

 しかしこの後、梨璃は自分の耳を疑うこととなる。

 

「……犬」

「犬、ですか? 犬のビスケット焼きましょうか?」

「犬の鳴き真似」

「へっ?」

「犬の鳴き真似、してちょうだい」

 

 一瞬、時が固まった。

 

「え、え~っとお姉様? それはどういう意味なんでしょうか。私、どうにも鈍くって……」

「可愛く、犬みたいに鳴いてちょうだい」

「えっ、いやあの、それはちょっと……」

「横浜へ行った時に鶴紗さんにはしてたじゃない!」

 

 たじろぐ梨璃。

 だがこうも頼み込まれたら、たじろいでばかりもいられない。

 

「うー、うーっ」

「私も傍で、犬の梨璃が見たいのよ!」

「うーっ、うーっ! ……じゃあ、お姉様は猫ちゃんやってください」

「わっ、私?」

「お姉様が猫ちゃんやってくれたら、私もワンちゃんやりますからっ!」

 

 もはや自分でも何を言っているのか、よく分かっていないのかもしれない。一度互いに頭を冷やすべきなのだろう。

 しかし、夢結が頷いて条件を呑んだため、後戻りできなくなってしまった。

 

「……わん」

「……にゃー」

「わん、わん」

「にゃーにゃー」

「わん、わん、わん、わん!」

「にゃーにゃーにゃー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「控室だと思ったら動物園じゃった。わしの頭がおかしくなったんじゃろか」

「ミリアムさん、ドアの前に立たれたら入れないんですけど」

「……おお、我が終生のライバル楓よ! これから訓練場で決闘といこうではないか!」

「ちょ、何なんですの! 押さないでくださいな!」

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