ONE PIECE プラントオーナー   作:ひよっこ召喚士

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ウソップ誕生日おめでとう!!


IF話 アスカルが超新星だったら


 

 偉大なる航路、前半の海に生えている特殊なマングローブによって造られるシャボンディ諸島。

 

 その無法地帯の違法なボッタクリBARに、今世間から注目を集めている海賊の一団が店主の話を聞いていた。

 

「私の情報網によるとキミ達が上陸した事で現在このシャボンディ諸島には1()3()()!!”億”を超える賞金首がいるわ」

 

「そんなにィ〜!?」

 

「モンキーちゃんとロロノアちゃんを除いても1()1()()!!」

 

 億と言う一つの大台を超えた猛者の存在にも驚愕に驚く仲間の声にも動じる事なくただただ話を聞いている。

 

 偉大なる航路とシャボンディ諸島の特性からしても近年稀に見ない集結具合だというが、それも彼の中で引っかかる様子はない。

 

「”アスカル” ”キッド” ”ルフィ” ”ホーキンス” ”ドレーク” ”ロー”この名前は頻繁に新聞を賑わせてきたわ」

 

 そう言われても難しい事は全て仲間に任せていると言っても過言でない野性的な直感で生きているこの船長はてんで知らないだろう。

 

「ウフフフフ…情報は武器よ。ライバル達の名前くらい知っておいたら?懸賞金で言えば…その中でキミはNo.3よ!!」

 

「ルフィより上が二人もいんのか!?この島に…!?」

 

 懸賞金が=強さではない。懸賞金と言うのは政府や海軍から見ての危険度や厄介度と言った方がまだ近い。それでも強さとかけ離れた額が付けられる様な例は稀だ。

 

 そしてこの弱肉強食が根付いている海において強い者と言うのは自身を制限する様な事はなく、思うままに動く迷惑者であり、それ故に在り方と言うのも特徴的な者ばかりだ。

 

 24番GR(グローブ)のレストランでは自身の体躯を遥かに超えた量の料理をその口の中へと流していく豪快な女。

 

 それとは反対に綺麗な所作で食事を進めつつも、その豪快な女を不快に思い、黙らせる様に部下に伝え、異を唱えた部下に制裁を加える冷酷な男。

 

 部下に粗相をしたウェイターを庇うかの様な発言をしているが、その理由が殺生をすると運気が落ちる日だからと言う不思議な男。

 

 また、海賊らしく血の気の多い姿を見せる者もおり、互いに睨み合うではなく余裕の笑みを浮かべるているが、鋭い目付きのパンクな男とおどけた調子で挑発する手長族の男、彼らもそれぞれ船長だ。

 

 少し離れた21番GRにも暴れる者はおり、珍しい空島出身とみられる重い武器を軽々振るう大男と此方は船長でないが億を超えているマスクを着け鎌を回す男。

 

 そしてその争いを収めてみせた堕ちた将校とも呼ばれる剣と斧の二刀流の男と何をするでもなくただその戦いを眺めていた外科医の男。

 

 そしてそんな喧騒とは全く関係ない場所、コーティングされた自身の船で淡々と土を弄くる男とそれをつまんなそうだが何処か微笑ましそうな目で見つめる二本足の人魚。

 

 13人…出身も種族も違う者達、共通している事があるとするならば海賊であること、そして生き残って此処に辿り着いた事だろう。

 

「キャプテン・キッドがキミより賞金が高い理由はね…あのコ達が民間人に多大な被害を与えてるから……カワイくないでしょ?だから私は断然モンキーちゃん達を応援しているわ!!」

 

 一癖も二癖もあるライバル達も自身に向けられた評価さえも関係ないと笑ってみせるのも強さの一つか、にこやかな船長は職人の安否を心配するが…

 

「ウチの人なら大丈夫よ。ボーヤ達の100倍強いから」

 

 分かりきった事を語るかの様な言い方に疑う事は難しいが、ただただそれを聞いた面々には驚きが見えた。そして、その驚きを呑み込んだ頃に少し臆病な船医は疑問の声を上げた。

 

「そう言えば後一人ルフィより賞金の高い奴が居るんだよな。そっちは民間人に手も出してないのにルフィより上なのか?」

 

 懸賞金が強さの目安になるのは間違いなく、無闇矢鱈に暴れていないにも関わらず高いとなれば、と敵対した時の事を考えて少し震えている。

 

「そうね。アスカルちゃんはキャプテン・キッドと違って一般人に手を出したって話は聞かないわね」

 

 ルフィの事をファンの様に言い、応援しているBARの店主はそれと同じテンションでそのアスカルの事も語っている。

 

「ウチの人程ではないけど、頭一つ飛び抜けてるのは確かね。副船長も億超えで中々の曲者って噂よ」

 

 自分よりも確実に強いと断言された自分と同じルーキーと呼ばれる海賊に麦わらの男は珍しい顔を見せ、その後にまた笑ってみせた。

 


 

 土と塩性植物で構成された特殊な船である”セメレー”、それが麦わらのルフィが興味を持ったアスカルの"ニューサ海賊団"が所有する船だ。

 

 海水に溶け出さないのか、戦闘で削られないのかと初めて見た者が疑問に思うその船は今、シャボンの膜で覆われている。

 

 浮袋を外してしまえば今すぐにでも海底の楽園とも言われる魚人島目指して出港する事が出来る。

 

 そこに副船長の案内も加われば、海中航海の中でもかなり安全な日々を過ごせるだろうが、シャボンの膜は膨らまず、冒険の幕も上がらない。

 

 船長の趣味は実益も兼ねているので船員が止めるような事はない。副船長も楽しげな様子の船長を微笑ましい目で見守っているが、流石にずっと動かないのは退屈になってきたのか声を掛ける。

 

「なぁ、船長はせっかくシャボンディまで来たのに他にやる事とか行く場所とかは無いの?」

 

 自分の船長に対して少し呆れた様な雰囲気を混ぜながら、遠回しに何処か出掛けようと誘っているのだが、それで分かってくれるなら苦労はしない。

 

「シャボンディまで来たからこそヤルキマン・マングローブの植樹実験やシャボンによる植物への影響を観測している所だよ()()()

 

 問い掛けには応えている。作業を続けながらではあるが、きちんと相手の方を見て応えている。その点に関しての評価は高いと言えるが、植物馬鹿は何処までいっても馬鹿であった。

 

「そう言うのじゃなくて観光とかの話だよ。ったく、これだからウチの船長は……それと、僕の事は()()()って呼べって言ってるだろ!!」

 

 船長からアリーと呼ばれ、アリアと呼ぶ様にと怒るのはイトヨリダイの人魚であり、尾鰭は二股になっているがその容姿は美しい。

 

 可愛らしいピンクの鱗や色鮮やかな金色の髪も合わさるとその美しさは絵画の様に映え、海軍の配る手配書の人気はかなり高く、非公式なブロマイドも売られているとか。

 

 目の前の島を歩けば二股なんて関係ないと群がる者も居るだろうが、美しいだけではなく懸賞金2億ベリーの立派な億超えの海賊であり、そこらの連中には地上でも負ける事はない。

 

「あぁ…また間違えてたか、ごめんな。でもずっとアリー呼びだったから慣れない…とは違うか。どうにも癖が抜けないんだよ」

 

 そう言って困った様に笑ってみせる姿には()()は見られないが、今この時の懸賞金の額はこの島で一番なのだから、見た目と言うのは当てにならない。

 

「ったく、仕方ねぇんだか、ら…」

 

 グチグチと文句が続くかと思っていたアスカルだが、言葉が途中で途切れていった事で作業を中断する。

 

「何か聴こえたのかアリア?」

 

 その表情は窺うまでもなく真剣なのが分かる。集中して耳を傾けている方向はすぐ目の前にあるシャボンディ諸島とあり、アスカルにも嫌な考えが過る。

 

「うん、助けを求める声だ…慌ててるから魚か同族向けのか細い声だったが、意思が籠もってる分受け取りやすかった」

 

 そっちの才が全然ないアスカルであるが、アリアの言葉を疑う事はなく、その目に映らない遠くの地で確かに何かが起こったと確信している。

 

「アリア達の同族で助けを求めてるってなるとこの島の特性を考えるに人攫いか……」

 

 幻想的な環境とは裏腹に悪しき文化を煮詰めて固めたかのような面も持っているシャボンディ諸島。その悪に捕まってしまったのが容易に想像できていた。

 

「正攻法も試みるつもりだが…コーティングが済んでるのが唯一の救いだな」

 

 万が一、いや一が一の事を思うとシャボンディ諸島が樹の集合体であるが故にアスカルは十全に戦う事は出来ない。

 

 それなのにこの島には天竜人が居ると言うのだから状況は最悪と言っても良い。それでもやらないと言う選択肢が無いのが彼の在り方だ。

 

「ったく、船長は格好良いんだから本当に」

 

 まるで悪い事かのような言い草の副船長だが、その表情から険しさが消え失せて愉しげな笑みに溢れている。

 

「船はみんなで先に沈めといて貰うとして…どっちに行けば良い、()()()()()

 

「はいはい、案内するから遅れない様にな。()()()()

 


 

 友人となった人魚族の若い娘ケイミーを人攫いによって連れ去られてしまった麦わらの一味は続々と1GRに集まっていた。

 

 人身売買なんて道理が通らない商売が相手であるが、ケイミーの安全を考えて下手に手を出せないとなり、向こうのルールに沿って買い戻そうと会場の中へと入る。

 

 今もなお熱響に溢れる会場内にてオークションは続けられており、そう言う目的を期待されているだろう踊り子の女性がステージに立たされていた。

 

「ナミさんあの娘も買うわけには…」

 

 女に弱い麦わらの一味のコック、サンジがダメだと分かった上で購買意欲を示して仲間二人に蹴られている。やり取りまでは耳に入っていないだろうが、良くも悪くも目立っている一味は同業の者達からの視線が向けられている。

 

 そしてまだ到着していない面々も真っ直ぐに会場を目指して向かっている。何の因果か事情を知らない仲間も目的地と進む先を間違えつつ近くまで来ていた。そして…

 

「さっきの号外ヤバいって、本当に」

 

「確かに凄い内容だった。まぁ俺たちには関係ないと思うんだが、それより方向的に向こうの樹か?」

 

 助けを求める声が耳に届いて直ぐに動き出した二人組の方が早くに会場へと辿り着こうとしていた。

 

 多くの男の目を釘付けにした踊り子の女性が720万ベリーと言う数字に変えられた頃、会場に世界貴族、天竜人一家の最後の一人が訪れていた。

 

 そして次に競りに出されたのは海賊の船長とみられる男だった。司会がお客たちへの紹介を語っているとその様子が一気に変わった。

 

 舌を噛んだだけ、単純だが確実な逃亡を選んだ男に会場が騒然とし、オークション側の人間によって幕が引かれて、仕切り直しの時間が出来る。僅かだがその時間でさらに会場に人が増える。

 

「間に合ったかどうかは分からないけど、着きましたね」

 

「間に合ってなきゃ、やるだけだろ?」

 

 他のルーキーと呼ばれる海賊達と同じく会場の後ろの空いてる場所に陣取ると他の客に目もくれずにステージを見つめている。

 

「キッドの頭…」

 

「分かってる…"大土(おおつち)"か一瞥もしねぇとは癪に障るなぁ」

 

「6億ベリー、額だけ見ればキッドとも倍近い差があるが…果たして何をしに来たのか」

 

 二人組は目的の為だけに動いており、同業者にも視線を送ることは無いが周りの者達は値踏みをするように見据えていた。

 

「キャプテン、見て見てあっち」

 

「大土屋か…ヤバそうには見えねぇが、とりあえず肝の太さは本物か」

 

「副船長ですらキャプテンと同額っすよね」

 

「敵情視察って訳でもなさそうだけどな」

 

 どれだけ見られても動じる事の無いその姿に、裏付けされた確かな強さを観察していた者達は掴んでいる。そうでなくても警戒はされている。

 

「あ、あいつシャッキーから聞いた一番懸賞金が高い奴だ。ルフィの倍の6億ベリーの船長だ」

 

「確かにただもんじゃないな。にしてもこんな所に女連れか」

 

「あいつ、ココロのババーが手配書を持ってたな。確か副船長であいつも2億ベリー、っていうか確かアイツも人魚の筈だぞ」

 

「えぇ?!こんな場所に連れてきて大丈夫なの?!」

 

「にゅ〜!?アイツ、確か魚人街の…」

 

「なんか知ってんのかハチ?」

 

 そんな声も全く気にもとめずに会場の移り変わりを眺めているとようやく準備が整ったのか、笑うには酷すぎるブラックジョークと共に次の商品が運ばれてくる。

 

「どうやら間に合ってたみたいだな。それと気付いてるか?」

 

「あぁ、同族が分からない訳ないだろ。それに、出身の街が同じ奴だからな。彼処もそうたいして広くないから、年がそう離れてなきゃたいてい顔見知りだ」

 

 こんな所に魚人、それも珍しいタコの魚人がなんで居るんだかと疑問と呆れの感情を抱いていた。

 

 海賊の船長達には目もくれなかったが、まさしくこんな島のこんな所に居る同胞を確認していた。だが、それよりも重要な商品へと二人は意識を集中させている。

 

「ご覧下さいこのシルエット!!探し求めておられる方も多いハズ!!多くは語りませんその目で見て頂きましょう!!」

 

 布で覆われて隠されている商品に後ろからライトが当てられて、分かりやすくそれでいて期待感を煽る様に映し出されるその姿。会場の興奮は最大に達っしようとしており、次の瞬間に布が取り払われた。

 

「魚人島からやって来た!!"人魚"のケイミー〜〜!!!」

 

 多くの客が立ち上がる勢いで注目し、自身の予算を確かめている。そんな中で予算を確認する間さえ置かずに高らかに声を上げる者もいた。

 

「5億で買うえ〜〜!!!5億ベリ〜〜〜!!!」

 

 その瞬間に上がりきっていた会場の興奮が冷め、賑やかだった筈の場が静まり返った。誰もが分が悪いと諦めており、購買以外の目的の者達には絶望とも言える空気が広がっている。そんな空気を壊す者が一人だけいた。

 

「6億」

 

 その声は決して大きいものではなかった。普段のオークションの場であれば司会者まで届く事なく掻き消えてしまいそうな声量だ。

 

 大きさとは関係ないかのように響き渡るその声は確かな意志が込められており、会場中の視線が発声した人物に集まっている。

 

「あれ、聞こえなかった?6億で」

 

「いや呆気に取られてかたまってるだけだっての」

 

 まず一回の買い物で使う事の無い金額を口にしていながら何も普段と変わらない口調で話しているその様子に困惑はさらに続いている。そんな中で一番に意識を取り戻したのは司会のMr.ディスコだった。

 

『言葉を失った会場に響き渡ったまさかの競り合う声に不覚!!この歩くスーパーバザールもかたまってしまいましたが、出された金額は驚きの6億です!!6億以上はありますでしょうか!!』

 

 とんでもない出来事だったのは確かだが、早い回復と直ぐに状況に合わせた声を届けるのは腐っていてもプロと言える。

 

 会場はまさかの出来事に声を上げないままに興奮しており、入札者と司会へと視線を巡らせている。

 

「それなら7億だえ〜〜!!7億で買うえ〜!!」

 

「8億で」

 

「9億だえ!!」

 

「10億」

 

「11億だえ!!」

 

「12億」

 

「面倒だえ!!15億だえ!!」

 

「では20億で」

 

 どんどん釣り上がっていく金額に悪い笑みを隠さない司会、妄想の様な金額が飛び交う現実に理解が追いつかない客や天竜人を相手に競り合う事への危機感を感じ始めた客もいる。そして…

 

「なんだ?アイツの趣味か?」

 

「そんな単純な事に金を注ぎ込むとは考えにくいだろ。確かあの海賊団は副船長だけじゃなく、船員にも人魚が多く居たはずだ」

 

「資金力やその出処は気になるが、ようは人助けかぁ?笑えるなぁ」

 

 他所の懐事情と言うのは意外と馬鹿にならない。やり合う上で個々の強さや人数もそうだが、物資の量と言うのは重要であり、それらを支えるには金がかかる。

 

「あいつ、良い奴なのかな?」

 

「心の中は読めねぇが、マトモじゃ無いのは確かだな。心の臓だったら覗いてやれるが…毛がビッシリ生えてても驚きはしない」

 

「天竜人相手におっそろしいことするなぁ」

 

「金があっても関わりたくないよな」

 

 そして湯水の様に金を吐き出しているその様子は勿論、天竜人相手に資金力とは言え争う姿勢をみせるのは頭がついてればしないものだと薄く笑っている。

 

「あいつ、ケイミーを競り落とす気?!」

 

「ケイミーちゃんの値段がヤバい事になってるが、仮に奪い返すならあっちの方がマシか?」

 

「大将を呼ぶ天竜人よりは遥かにマシだろうが、そう簡単な相手でもねぇだろ」

 

「でもあいつの仲間は人魚なんだろ。話せば分かってくれるかもしれねぇ」

 

「にゅ〜競ってる時点でマクロ達みたいな金儲け目的じゃないのは分かるが……」

 

「ゔゔ…ゲイ゙ミ゙〜〜〜」

 

 状況を読み切る事なんて出来ないハチャメチャな事態は何方かが折れるまで続くと思われたが、我慢する事も反抗される事もない天竜人が何時までもそのままでいるわけが無かった。

 

「チャルロス、無駄遣いがすぎるえ。当主でもないお前個人が使える金には限りがあるのを忘れるんじゃないえ」

 

「むぐぅ…わちしに競り合うなんて生意気だえ!!その格好、お前海賊だえ!!海軍大将を呼ばれたく無かったら入札を取り消すえ!!」

 

 場末の小さな店ならばまだしもこのオークション会場は他の天竜人も利用している。そして運営している人物の問題もあり、天竜人もこの場のルールに従う必要があった。

 

 余程の事がない限りオークション側の人間に無茶は言えない。それはチャルロスも知っていた。それならば相手の下々民を脅せば良いと思い付き、自らの賢さに胸を張っていた。

 

 海軍大将の威光は凄く、会場に居た他の客達は万が一にも海軍大将が来て、騒動に巻き込まれてしまっては敵わないと大きな焦りが見える。

 

 ただ、大半の者は海軍大将を呼ばれたくないのはあの海賊も同じだろうと、チャルロス聖の言う通りに入札を取りやめるだろうと楽観視していた。

 

「お断りします」

 

 はっきりとした否定の言葉が返されると数秒の間をあけて、自身の妙案が断られる訳がないとたかを括っていたチャルロス聖も、そんな選択肢を選ぶ訳がないと思っていた会場の人間も、何処かの雷神の様な顔となって驚きの声を上げた。

 

 そして、会場の外にまで響いてきた地面も震わせる様な叫び声に囲い込む様に展開していた海軍までも何かあったのかと慌てていた。

 

 そして騒ぎから何かあったのかと思い込んだ麦わら帽子がトビウオ共々急いで会場に突っ込む様に指示するのは予測するまでもない事だった。

 


 

 天竜人の脅しを正面から断った事で発生した騒音に負けない程の爆音が入り口の破壊と共に響き渡る。

 

「なんだお前、もっとうまく着陸しろよ!!」

 

「できるか!!トビウオだぞ。おめーが突っ込めっつったんだろ!!?」

 

 ざわざわとし始めた会場でもひときわ大きい叫ぶような声から派手な登場をしたのが何処の誰なのか気付く者も出始めた。

 

「あっ!!ケイミー〜〜〜〜!!!ケイミー探したぞ〜〜〜!!!よかったーーー!!!」

 

「ちょっと待て麦わら!!!何する気だよ!!!」

 

 会場のステージ目掛けて真っ直ぐに駆け出している話題のルーキー、そしてそれを止めようとする魚人の存在に会場はこれまでと違ったざわめきが広がっていく。

 

 魚人を恐れるでもなく、ただただ嫌悪する。存在そのものを否定する様な声が会場中からただ一人に向けて届けられている。

 

 先程までの入札合戦の空気も置き去りに、司会者も会場で好き勝手している海賊の対処を始めた頃に、一発の銃声が響き渡った。

 

 血を流しながら倒れる薄っすらと赤い肌のタコの魚人、その前でもうオークションなんてどうでも良いかの様に小躍りするチャルロス聖。

 

「お父上様!!!ご覧下さい!!!魚人を捕まえましたえ!!!自分で捕ったからこれタダだえ?得したえー魚人の奴隷がタダだえ〜〜!!タ〜ダ〜タ〜ダ〜タコがタダ〜!!!コイツを自慢できるなら今回は満足だえ〜!!!」

 

 自分で捕まえたと言う事を気に入っているのか、既に人魚の事はどうでも良いとすら思っている。

 

「世界政府は好きになれないな」

 

「はっ、好きになる要素があるかよ。ったく、ハチ公め無茶な事しやがって」

 

 このまま魚人を連れて帰ってくれれば、人魚はアスカルの所有となるだろう。彼らの目的、そして奇しくも麦わら達の目的も達成されるが…

 

「…結局迷惑ばっかりかけて…ゴベンなァ〜〜…!!!」

 

 ケイミーさえ無事であるならば…不甲斐ない自分の事を周りにただただ謝罪する中でそう考えている。そんな痛々しい姿と想いの独白に怒りを燃やす者もいた。

 

「やめろムギ!!!おまめェらもただじゃ済まねェぞ!!!」

 

 真っ直ぐにただ真っ直ぐに、決して遅くなく、速くない歩みで天竜人、チャルロス聖の元へと進んでいく。

 

「何する気だあいつ…!!」

 

 あの天竜人、世界貴族を相手に何を考えているのか、そんな常人には考え難い恐怖が伝播する。

 

「本気か!?」

 

 止める様な事は決してしない。仮に止めようとしても間に合うような距離ではない。ただ、常識からかけ離れた行動にただただ動揺と疑問がわいている。

 

「お金は払わなくて良さそうだよ船長」

 

「準備してきて正解だったな」

 

 これから起こるのは決して夢ではない。嫌な確信を抱いた者は多く、気付かないのは対象ばかり…そんな愚かな者に海賊という悪の拳が正しく振り抜かれた。

 


 

 目の前で盛大に暴れ始めた麦わらの一味、そして当然の結果として世界貴族の名の下に『海軍大将』と『軍艦』を要請する声が聴こえてくる。

 

 木っ端海賊は勿論、趣味が悪いとしか言えない一般的な貴族や金持ちも慌てて会場から逃げ出していく。

 

「畜生!!人魚を死守しろ!!!20億だぞ!!20億で売れたんだ!!」

 

「やぁ、ディスコと言ったか?」

 

 そんな喧騒の中で斬られて剥き出しとなった人魚を守る様に、いや、自身に入る大金を守る為に陣取っている司会者の前へと立つアスカル。

 

「お客様、騒がしい中で大変申し訳ありませんが引き渡しの前にお支払いの方を…」

 

 金を払うのであれば海賊であってもお客様、それが大金ともなれば頭を下げ、手を握りながら、にこやかな笑顔を浮かべている。

 

「あぁ、それなんだけどさ。結局、海軍大将が来るのに正攻法に拘る意味って全く無いんだよ」

 

「は、はぁ…それは、いったいどう言う意…むぐぐぐ!?」

 

 何が言いたいのか呆気に取られて固まったその瞬間に司会者ディスコの顔に土が絡み付き、その視界も呼吸も塞いでいき、最終的には頭を丸々覆い尽くした。

 

「暴れても暴れなくても変わらないならこの方が面倒はないだろうし、それに…」

 

 混乱しながらも抵抗しているディスコだが、手を伸ばしても引き剥がす事は叶わず、むしろ土に手を付いた状態で固まってしまう。

 

「人身売買って好きじゃないんだ。ごめんね」

 

 ステージに倒れて、ピクリとも動かなくなった所でスルリと土が剥がれ、見えたのは恐怖に歪み、顔から出るもの全てを流した悲惨な姿。

 

「ったく、そんな奴にしっかり声掛けてる暇あったらこの首輪外してやれよ」

 

「分かってるよ。さて、人魚のお嬢さん。ちょいと失礼」

 

 アスカルが手を伸ばして首輪に触れる。どうやら海楼石は使われていない様で、能力が問題なく使えるのを確認する。

 

 そして首輪の機能を壊すことなくその姿を変化させる事でまるで首をすり抜けたかのような錯覚を受けるほどスンナリと外れる。

 

 手錠や鎖なんかは爆発を気にする必要がなく、気を使うことなく一気にドロドロと溶けたかの様に形を変える。

 

「これで問題ないかな。それと地上だと動き難いだろうからこれを使うと良い」

 

「え、あっ、バブリーサンゴ…あ、その、ありがとうございます」

 

 ケイミーは水槽から出ると受け取ったバブリーサンゴでシャボンを作り、水中ほど速くはないが空中を泳ぐ様に動き、倒れているハチへと向かっていった。

 

「ふん、"魚"が!!!そんなに仲が良いなら、そのまま一緒に死ぬアマス!!!」

 

 それを見計らっていたのか、暴れている麦わらの一味の目的も人魚だと判断した天竜人、シャルリア宮が二人に向けて銃を向ける。

 

 それほど距離は離れておらず、二人を守ろうと思えば、誰でもその攻撃を守る事は出来ただろうが、結果として誰も手を伸ばす必要は無かった。

 

 天竜人が直接的な攻撃を加えられていないと言うのに意識を失って倒れていく、ステージ裏の壁が壊れ、飄々とした爺さんと少し厳つい顔の巨人が現れる。

 

「覇王色…上澄み所か伝説の登場とはな。流石のコントロール力だな」

 

「船長も使いこなせる様になれば便利になると思うけど」

 

「会場を見渡すだけで把握する見聞色も便利そうだが」

 

 互いにまだ難しいレベルの事を押し付けあって成り行きを見守っている間に、伝説の老人と彼等の会話は進んでいき、その伝説としての本領を発揮させた。

 

「え…え!?何で!?何した今!?」

 

「何だこのじいさん……!!」

 

「……!!」

 

 前半の海らしいルーキーはその力の正体を知らないようで、ただ目の前で見せられた力の差とも言えるような光景に圧倒されている。

 

「その()()()()()は精悍な男によく似合う。会いたかったぞ。モンキー・D・ルフィ」

 


 

 会場内が強制的に静まりかえり、後は外を包囲している海軍をどうにかして逃げるだけとなった。

 

『犯人は速やかにロズワード一家を解放しなさい!!直()()が到着する。早々に降伏する事をすすめる!!どうなっても知らんぞ!!!ルーキー共!!』

 

 誰が暴れていたかなんて全く関係ない。そもそも海軍と海賊は敵対関係、この場に残っている以上は仕方ないとも言えるが…

 

「おれ達は巻き込まれるどころか…完全に共犯者扱いだな」

 

「"麦わらのルフィ"の噂通りのイカレ具合を見れたんだ。文句はねェが……『大将』と今ぶつかるのはゴメンだ…!!」

 

 元よりここで人暴れするつもりだったアスカル達は特に予定は変わっていないので何も言う事はない。

 

 かの伝説の手に掛かれば外の海兵なんて有象無象に過ぎないだろうが、彼にやる気はなく、血の気の多い海賊船長三人が外へ出ていくのを見送った。

 

「ウチの船長は行かないの?」

 

「彼等だけで十分ですし、手を出しといて後は任せたってのも無責任でしょう」

 

 訊きながらも分かっていた様でお互いに言葉を交わさずに目的の場所に向かうとアスカルは応急処置がされているタコの魚人を背負い、アリアドネはヒトデを拾い上げながらケイミーの横に並ぶ様にシャボンで浮かんだ。

 

「さて、何処に逃がせば良いか場所は決まってるのか?」

 

「ヒトデくんとケイミーちゃんは僕が連れていくよ」

 

「にゅ〜、誰かは知らねぇがすまねぇ。アリアドネ、ケイミーを頼んだ」

 

「えっと、アリアドネさん?…ありがとうございます!!」

 

 敵意はないのはこれまでの行動から分かっており、何をするのか見守っていた麦わらの一味のクルー達もハチが相手の一人の名前を呼んで任せた事でそれを容認し、ケイミーも礼を伝える。

 

「おや…私としてはキミ達の戦いこそ観てみたかったんだがな」

 

「勘弁してもらえないです…かね?…それよりは脱出しませんと何処へ向かえば良いですか?」

 

 楽しげに笑いながら、冗談半分に残念だと言う老人に対してアスカルは苦笑いだ。そんな暇はないでしょうと誤魔化すが、目は笑っていない。これは、何かしないといけない流れか…とアスカルはため息を一つ吐いた。

 

「――ではお前達…逸れた場合は13番GRで落ち合うと言う事に」

 

「ああ!!わかった」

 

「絶対わかってねーよお前っ!!」

 

 目的地は13番、シャボンディ諸島の同じ無法地帯に分類されるが、この会場のある1番とはグローブの纏まりが違うので少し距離はあると言える。

 

 普通ならば陣形が崩れてるとは言えこれだけの海軍をくぐり抜けて逃げるとなると苦労するものだが、トビウオと言う優れた逃走経路は用意されており、個々の戦闘能力も低くない。

 

「わはははは!!血が騒ぐなァ!!」

 

「元気なジジイだよ!!」

 

「元気なのは間違いないわな。本当に」

 

「御方となればそうですね。さて、期待が膨れ上がる前にリクエストに応えさせていただきます」

 

 楽しそうに乱闘の中を駆けていく伝説とその傍らを泳ぐ様に進んでいく人魚二人と変態一体、そしてタコの魚人を背負ったもう一人の船長は撤退を始めている麦わらの一味を確認すると足を止めて振り返る。

 

「おっ、ウチの船長がやる気だよ。お前ら、とっとと駆け抜けな!!」

 

 戦闘していた者も引く前に妨害しようと思った者もその言葉をきいて、注視しながらも従って、アスカルの横を通り過ぎていく。

 

「リクエストに応えないと無茶振りされそうなんでね」

 

 

倒景(エント・ルケ)

 

 

 土の流れに対象を巻き込ませて押し出すだけのシンプル故にこういった集団を相手取るには便利な技である。

 

 故郷を追われた哀れな農家を想起させる使用者にとっては心情的な意味で自虐的な技でもある。

 

 この島は樹の集まりであって隙間も多い、海に落とされるシーンなんてそっくりそのまま再演する程度に彼はサービス抜群だ。

 

「ほぉ、なるほど。収めている技術は確かなようだね。かなりの操作力に集中力、これ程の者はそうはいないだろう」

 

「あー…お褒めに頂き光栄です」

 

 文字に起こして見れば大量の土によって敵を押し流す物理的な技と考えるだろう。だが、この島は樹の集まりであり土は少ない。持ち運べる量なんて圧縮したとしてもたかが知れているのだ。

 

 ごく微小な土を風に流す様にして、相手の身体に付着させ、相手の動きと正面から向かい合わない様に調整し続けると言う頭のおかしい調整を相対する人数分行う、超絶技術タイプである。

 

 土を無駄なく流したり、相手の力に逆らわずに動かす等のポイントは密かに人魚柔術(マーマンコンバット)の技術を流用していたりする。

 

「何したんだアイツ…!?」

「海兵達が急に倒れて海に落ちていったぞ!?」

「……何かしていたのは確かだが、あれは何だ…」

 

 目を凝らさなければ見えない土の粒とでも言うべきものを戦闘中に把握するのは外野からでも困難。何かしていたと気付けてもそれが何で、どうしたのか理解するのは初見では難しい。

 

「ったく、話は後でも出来るだろうが!!とっとと出せ!!」

 

 アリアドネの声掛けにトビウオライダーズは麦わらの一味でないのに仕切られる疑問を感じつつも集まった面々を乗せてその場から悠々と脱出を果たすのだった。

 


 

「え〜〜!!?"海賊王"の船にィ〜〜!!?」

 

 CLOSEDの看板が掛けられたボッタクリBARの中にかなり大きな声が響き渡る。声の主とは別の船の二人は気付いてないのかと呆れ顔で酒を煽っている。

 

「ああ、副船長をやっていた…シルバーズ・レイリーだ。よろしくな」

 

「「「「副船長〜〜!!?」」」」

 

 船における立場と言うのはそれに適した人物が置かれている。世界一の海賊の船のNo.2と言うのはそれだけの人物と言う事に他ならない。

 

「普通、海賊なら伝説の内容も知っておくもんじゃないのかよ。なぁ、ハチ公!!」

 

「にゅ、にゅ〜!?お、おれか?」

 

 話が盛り上がっているとは少し違うが、衝撃を受けた麦わらの一味の面々が反応を示し、そんな人物とハチの関係性まで話されていた。

 

「まぁ、元が海賊志望じゃない俺でも顔は知ってたぐらいだから、アリアが勉強不足だと思うのも仕方ないんじゃないか?」

 

 そんな事を言いながら器に注がれていた酒を呑み干して、少し面倒な絡み方をしている連れを回収して入り口へと歩き出す。

 

「ん?お前らなんでそっちに行くんだ?」

 

 一番に気付いたルフィが引き留めるでもなく、どうしてそんな事をするんだと不思議そうにしている。気付くまでもなく、分かっていた二人は何も言ってこない。

 

「俺たちの目的はアリアや船員達の同胞である人魚の保護だからな。冥王とも呼ばれる人物の膝下にいれば危険はないだろうし、お役御免って奴だ」

 

 元より予定にない行動であり、目的が既に果たされている以上はここに留まり続ける理由は彼等にはない。

 

「それに…伝説との縁が結ばれているのは麦わらのお前だろ?この場に居座るのは道理が通らないだろうよ」

 

「そっか…お前ら面白ェし、また会おう!!」

 

 何処か残念そうにしながらも相手の考えを否定せずに直ぐに気持ちを切り替えたルフィが楽しげな子供の様な笑みを浮かべて言い放つ。それを間近で喰らった二人は対照的に何とも言えない笑みを浮かべている。

 

「敵船の船長と副船長を相手に言う言葉じゃないな。ま、流れが合えばそう言う実りもあるかもな」

 

「ったく、一応海賊同士だってのに笑わせんな。おい、ハチ公!!せいぜい養生しとけよ!!」

 

「にゅ〜またなアリアドネ〜」

 

 そんなアリアドネの捨て台詞に耳が痛そうにしながら顔見知りのタコはお別れの挨拶を告げ、展開に関わっていない一味の面々を置き去りに、後ろ姿を見送ったルフィは満足そうだ。

 

「……俺たちよりも向こうの方が断然面白いと思うがな」

 

「……まぁ、天竜人を殴っちまう様な奴だし、意外と本島は勿論、魚人街でも人気者になれるかもな」

 

 ここまで来ただけあってそれなりの実力者なのは見て読み取れた。しかし、それでは海軍大将には敵わないだろうと言うのが二人の見解だった。

 

 ハチはコーティングの用があったと言っていたのを耳にしている。コーティングにはそれなりの時間が掛かってしまう事を考えると状況は絶望的と言える。

 

「あぁ〜もう!!…ったく、彼奴等に何かあったらハチ公はともかくケイミーちゃんが気に病むからな」

 

「相変わらず考え方が俺より男らしいな。まぁ、最悪生き残れるだけの策はあるからもう少しだけ働くとするか」

 


 

 七武海バーソロミュー・くまと全く同じ姿をした存在との戦闘を終えた麦わらの一味、彼等は新たにパシフィスタと呼ばれる同様の似姿の存在と鉞を担ぐ戦桃丸と名乗る男と対峙していた。

 

 px-4…そう呼ばれた存在を倒して疲弊していた彼等は正面から相手する事のリスクを考え、バラバラに逃走する事を決めた。

 

 一味の狙撃手ウソップの煙幕による逃走補助も何のそのと逃げ出した者たちを的確に追い詰め出した。そして最悪の事態は望まずとも進展を迎える。

 

「やっと来たか黄猿のオジキ…」

 

 大将黄猿…海軍の最高戦力と呼ばれる存在であり、ピカピカの実を食べた光人間、その攻撃によってゾロは喋る事もままならない状態へと陥った。

 

 トドメをさそうと片足を向ける黄猿、それを止めようとウソップとブルックが攻撃を仕掛けるがすり抜けるのみ、どうにか逃がそうとするロビンによる足掻きももう片方の足で簡単に止められてしまう。

 

「移動もさせない…ムダだよォ〜今死ぬよォ〜!!!」

 

 レーザーが放たれる瞬間に、光よりも速く現れた影が、他のものが触れる事すら叶わなかった黄猿の足を蹴る事でその攻撃を逸らした。

 

「…あんたの出る幕かい"冥王"レイリー!!!」

 

「若い芽を摘むんじゃない…これから始まるのだよ!!彼らの時代は……!!!」

 

 海軍最高戦力と伝説の海賊、互いに相容れる事など決してなく、会話が続いていても剣呑な空気は薄れる事なく濃くなっている。

 

 そして、冥王の登場と会話の隙を見て船長ルフィが弱音を吐き出しながら、生き残る為の指示を飛ばし、再度散らばり始める。

 

 それでもまだ彼等を追いかける手は残されており、戦桃丸は大将と冥王の戦闘を気にしつつも構う事なくパシフィスタ1体と共に追い討ちをかける。

 

 ボロボロな所にその追い討ちは痛く、弱っている所から、そして庇った者からと順々に削られていく。

 

「わっしの部下達も充分強力でしょうが…!!」

 

 海軍大将の実力は伊達ではなく、伝説と呼ばれる男を相手にして助けに向かえないように逆に抑える様に応戦を続けている。

 

「…あぁ、確かに感嘆に値するが、若い芽の中にまだ青くとも実をつける者もいるものだ…!!」

 

 苦し紛れの戯言と切って捨てるには何処か楽しげな冥王の様子に訝しみ、戦闘が起こっている辺りの気配を感じ取り、やられたと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

 px-1と呼ばれた存在に仕留められかけ、体勢を大きく崩してしまった一味の面々の間にその影は現れた。

 

刈独活(カリウド)

 

 目前で振るわれた腕は何処か黒い残像を残して、まるで柔らかいウドを刈り取るかの様に敵を斬り裂いて見せた。

 

「案外早く、流れが合ったようだな。麦わらの」

 

 呼ばれた面々がかなり苦戦を強いられながらようやく一体倒す事が出来た存在を難なく斬り伏せるその姿は分かりやすく格が違った。そして…

 

「『海流一本指背負い(水糸)』」

 

「な、なんだコイツは!?」

 

 傷を負うことなく防ぎながらも驚きを隠さない戦桃丸。彼の周囲からは無数の水が放物線を描く様に凄まじい速さで迫っていた。

 

「ったく、お前らに何かあったらハチ公はうるせーし、ケイミーちゃんの手前で格好がつかねぇだろうが」

 

 怒っているかの様な口調で話しているが、その声に怒りは乗っておらず、ただ仕方ないと言わんばかりに彼らの脅威に対峙している。

 

「せっかくの実りだ。無駄にすんな!!」

 

「ありがとう!!お前ら、行くぞ!!」

 

 敵は任せてとっとと行けと促して、船長副船長二人で目の前の鉞の男と改めて向き直った。

 

「言ったは良いものの…()()()()()人形相手はまだしも、使える人間を相手にするのは骨が折れそうだ」

 

「ったく、格好つけたなら最後までハッタリかましとけ」

 

「"大土"アスカル、それに"金糸"アリアドネか、パシフィスタをよくもやってくれたなァ…わいは世界一ガードの固い男…!!お前らの思い通りになると思うな!!」

 

 冥王が黄猿を、そして二人が戦桃丸を抑えたが運命とも言うべき彼らの道筋は変わる事は無かった。本物の七武海バーソロミュー・くまが現れるまでに傷が増えるのを阻止したものの彼らが散り散りになった。

 

 ただ、それで目の前の相手が止まってくれる訳では無い。戦意のないバーソロミュー・くまはさておいて、主犯を逃がした手前、共犯であり、最も懸賞金の高い者を海軍大将が放ってはくれない。

 

「いや〜"大土"の武装色も"金糸"の見聞色も中々に強力で強いね〜でもわっしは君等より使えるよ〜」

 

 得意不得意はあれどある程度の強者となれば何方も高水準で使えるのが当たり前となってくる世界において、まだ自身の得意とする色しか使えない二人にとって目の前の男は遥か上の相手。

 

 フォローし合って戦うにしても限界は存在する。アリアドネにいたっては水を使って戦えなければ何も出来ない役立たずで終わっていた可能性もある。

 

「『水糸撚』」

 

 飛ばした水を撚り、束ねる様に動かす事で能力者である相手の動きを制限するが水の迫る速度より光は速く動く、それでも何もない状態よりも動きは読みやすい。

 

「『泥擊(ドロー)』」

 

 その水に流し込む様に土を動かし、光の進もうとしている先へと突出する様に泥の刃が生やす。それもスルリと躱して距離を詰めてくる。

 

 このままでは不味いとアリアドネはアスカルを掴むと自身が放った水糸を手繰る様に泳ぎ、泳いだ後の糸を束ねて光を拡散反射させて防御とする。

 

「戦い方が上手いねぇ〜これで"冥王"と組んで来られたら厄介だったけど、若い芽と評しておきながら観てるだけとは彼も冷たいねェ〜」

 

 そう、冥王レイリーはこの場にいはするが手を出さずに戦況を眺めているだけである。だが、それをアスカルとアリアドネは納得しており、黄猿の言葉は挑発にもならない。

 

 それに彼が帰ることなくこの場に居続けてくれている事にも意味があり、海軍という立場がなくとも意識を割かなければならない状況が有り難かった。

 

「『煙土(エンド)』」

 

「これは目眩ましかい?諦めが悪いねェ〜」

 

 残っている土に覇気を込めてから粒子レベルまでバラけさせて空中に散布する。覇気の影響でそのまま突っ切る事も出来ず、気配も読み辛いがその程度。

 

 被害の無いように風を起こしても、自重で落ちるのを待っても、その後で光が彼等に追い付くのはわけもない。だが、光がその場に留まり、気配を探れない状況下において、戦場から少し離れた位置から一つの球状の液体が土に染み込みながら大将黄猿へと突き刺さる。

 

「おぉ〜これはなんだい〜!?」

 

 少しベッタリとした感触がしたかと思うとそれは身体に浸透する様に染み込んでしまった。飛来物に覇気は含まれていないが、周りの土を媒介にして確かに黄猿の身体へと干渉してみせた。

 

 その攻撃らしきものに黄猿は痛みを感じず、それが飛来した影響で周りの土は消え、視界も元に戻った。何か奥の手の様なものが不発だった。そう判断した黄猿がそのまま反撃を仕掛けようとした瞬間、黄猿に逃れようの無い衝撃が走った。

 

「おォ〜!?こ、これはマズイねェ〜!?」

 

「黄猿のオジキ!?何かやられたのか!?まさかさっきの毒だったのか!?」

 

 急に体勢を崩し、何とか倒れる事は無かったが、片膝をついて身体を丸めているその姿に戦桃丸は駆け寄り、心配そうな姿をみせる。様子を観ていた冥王も何をしたのかと思案顔だ。

 

「あははは、やった!やった!あの大将が私の技なんかで膝をついてやんの、あははははははは!!」

 

()()()…助太刀は正直助かったが、あんまり大将を煽るなよ」

 

 大将がマトモに動けなくなった姿に笑い声を響かせながら姿を見せたのはまだ二股になっていない人魚族、ニューサ海賊団の操舵手であるタマカだった。

 

「あははは、大丈夫大丈夫!!()()()が身体に浸透しちゃったよね?ねぇねぇ辛いんじゃ無いの?戦えないどころかマトモに立てないんだもんねぇー!!」

 

「あ、油だと!?」

 

 操舵を任されるだけあり力はそれなりに強いこの操舵手。今年で24になるが子供っぽさが全く抜けず、大のいたずら好き。そして、自身の得意とする攻撃が効いた相手への煽りを忘れない少し性格の悪い面を持っている。

 

「ったく、毒では無い、が…それ以上にたちが悪いからなタマカの油は…」

 

「タマカはバラムツの人魚でバラムツがもつ油は人間には消化が出来無いんだ。それをタマカは分泌して魚人空手の応用で撃ち出し、体内に浸透させる。ようするに…その…」

 

「黄猿くんは腹痛で苦しんでいると言う事か…」

 

「お、オジキになんてマネしてやがんだ!?」

 

「うぅ〜喋るのも厳しいねェ……」

 

 状況がその場にいた面々全員に理解されたが、理解できたからこそその攻撃の惨さがわかってしまう。覇気を使えない本来なら遥か格下の相手の一撃で、決してなりたくない形で戦闘不能へと陥ってしまったのだから。

 

「ねぇねぇねぇ、今どんな気持ち!!今どんな気持ち〜?というか、光人間ってウンコも光なの?光速でウンコすんの?あははははははは、当たりに散らさないでよね〜〜!!」

 

「その、こういう奴なんだ。すまない」

 

「本当にコイツは…ったく、とっとと船に戻るぞ」

 

 流石にこんな場所で尊厳を捨て去り訳にはいかない黄猿は目の前のニューサ海賊団を見逃す他なく、戦桃丸も腹を抑えてうずくまる黄猿を放ってはおけない。

 

 惨状を見ないふりして人魚二人がシャボンを纏ったアスカルを海中へ潜航していた船へと運んでいき、シャボンディ諸島から離れ魚人島へと出航するのだった。

 

「…さて、帰るとしよう」

 

 流石の冥王レイリーも腹痛でうずくまるさっきまで戦っていた相手に掛ける言葉は見つからず、見ないふりをすると言う今できる最大限の優しさをみせてBARへと戻っていった。

 

 大将黄猿がその後どうなったのかは本人と付き添いの戦桃丸にしか分からないが、近くで見ると少しやつれていたそうだが頂上戦争には参戦している姿が確認されている。

 


 

"GL(グランドライン)"出身

ニューサ海賊団船長

"大土(おおつち)"アスカル

懸賞金6億ベリー

・年齢 28

・性別 男

・能力 ツチツチ

・技術 人魚柔術 武装色 覇王色

・特徴 本編より技術特化

    覇気は低め、素質はあり

    植物への執着は強め

 

"GL(グランドライン)"出身

【人魚族】(イトヨリダイ)

ニューサ海賊団副船長

"金糸(きんし)"アリアドネ

懸賞金2億ベリー

・年齢 34

・性別 変性 現:女

・技術 人魚柔術 繰糸術 見聞色

・特徴 雌性先熟(女で生まれる)

    元々男に成る気満々だった

    その為喋り方は男らしく

    考え方もかなり雄々しい

    最近違う呼び名を船長に伝えた

 

"GL(グランドライン)"出身

【人魚族】(バラムツ)

ニューサ海賊団操舵手

"撃油(うちゆ)"タマカ

懸賞金6000万ベリー

   ↓

頂上戦争後に急に引き上げられる

懸賞金3億ベリー

・年齢 24

・性別 女

・技術 魚人空手 操舵

・特徴 油分泌 怪力 悪戯好き

    消化不可な油を撃ち水で撃ち出す

    当たった相手の体内へ浸透させる

    相手の動きが悪くなると煽り出す

 

"GL(グランドライン)"出身

【人魚族】(ブラックゴースト)

ニューサ海賊団航海士

"夜雷(やらい)"レーム

懸賞金4500万ベリー

・年齢 40

・性別 女

・技術 航海術 索敵 潜伏 ナイフ

・特徴 微弱な発電 レーダー 

    目立つのが嫌いで陰に潜みがち

    黒いナイフを巧みに扱う

 

"GL(グランドライン)"出身

【人魚族】(ガラ・ルファ)

ニューサ海賊団船医

カンガル

懸賞金無し

・年齢 10

・性別 女

・技術 医療

・特徴 自信満々だが微笑ましい天才

    古い角質を好み、船員を舐める

    身体に悪い物をある程度吸い取れる

    毒はポイズンピンクの下位互換

    毒以外にも幅広く効き、応用も可能

 

"GL(グランドライン)"出身

【人魚族】(ササノハベラ)

ニューサ海賊団料理人

ヤナギ

懸賞金無し

・年齢 22

・性別 変性 現:女

・技術 料理

・特徴 ベラは美味しいらしい

    船長との年の差は副船長と一緒

    ほら、若い方が良いですよね?

    ヒレだってちゃんとありますよ

    副船長とはよく喧嘩して負ける

    元新人類、バイタルレシピ習得者

 

"GL(グランドライン)"出身

【魚人族】(イバラトミヨ)

ニューサ海賊団船大工

"粘球"シスイ

懸賞金800万ベリー

・年齢 42

・性別 男

・技術 大工 魚人空手

・特徴 粘液で一時的な補修が可能

    相手を固める撃ち水を放つ

    戦闘はあまり得意ではないが

    船を守り、素早く直すのが得意で

    乱戦では足を止めさせる妨害も

    元奴隷、タイヨウのマークあり

 

"GL(グランドライン)"出身

【魚人族】(ダルマハゼ)

ニューサ海賊団砲手

"赤頭角"ヘレド

懸賞金1200万ベリー

・年齢 28

・性別 変性 現:変性

・技術 射撃 変装

・特徴 男、女、オカマ、オナベ

    何でもありな愉快な奴

    同い年でアスカルとの仲は良好

    酒を呑む等、互いに付き合いは多い

 

 

 

※主なメンバーであり、他にも船員はおり、アスカル以外の人間も普通にいる。

 

 

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