結局は何かを持っている者でないと世界と言うのは生きていけないものなのだという事が理解できた。今までは金が全てだと思っていたがそれだけでは無かった。あの憎き天竜人から与えられた力のおかげで私たちは助かったのだからなんとも皮肉なものだがな。
私達を救ったこの国の王、アスカルには感謝をしているがそれでもどこか劣等感を抱き、嫌悪する私がいる。能力を手にして全てを手にし、世界に影響力を持つ男だ。私の様な者とはなにもかも違うという事しか分からないが、王にも私の様な者の気持ちも分からないだろうとそう思っていた。
最初にプラントの土地を踏んだ時には未だに信じられなかった。天竜人から逃れられたという事実に頭が追いつかず、ステラと共に呆然としていたり、天竜人の罠なのではないかとなんとも無駄な警戒をしていた。だが、ここで生活するうちにそんなものは直ぐになくなった。
私たちが落ち着いた頃にアスカルから声が掛かった。私達の現在の立ち位置やプラントについての詳細などを知ったのはその時だった。来たばかりの私たちはよく言えばアスカルに保護されているという扱いであり、悪く言えば天竜人からアスカルへの下賜された報酬であった、
だがアスカルはその立場を使って何かすることは無く、「何かしたい事はあるか?」などとこちらの意思を尊重した。これまでの人生でここまでお人好しな人物は見たことが無かった。『王らしくない王』とはよく言ったものだとその異名を知った時にはしきりに頷いた。
その問いをされた時に私は夢を直ぐ語る事が出来なかった。ステラ以外に認めてくれる者が居なかった故にどうせ否定されると思い込んでいた。そんな時にステラがアスカルに「この島に歌や劇をやるステージの様な娯楽施設はありますか?」と尋ねていた。
ステラの問いに「ホールの様なものはいくつかあるけど完全な娯楽施設と言うのはないかな」と答えていた。それを聞いた際にはステラの行動に驚きながらも内心で少しがっかりしていたのを覚えている。後から娯楽施設が無かった理由を知ったが、プラントはもといた人は少なく、求める声も無かったため存在せず、吸収されていたスキーラは少し前まで滅びるかどうか、風前の灯火状態であったためにそのような物を運営している余裕が無かったそうだ。
それを聞いてもステラは止まる事は無く「それなら私たちに娯楽施設を運営させてください」とアスカルに提案していた。そのままアスカルとステラの話はトントン拍子に進んでいき、おいて行かれがちであった私が娯楽部門のトップとなった。
そして1から、いや0からのスタートをきった。土地と部下を与えられ、施設を構想していくのと並行してそこで行われる興行などの練習や運営方法をくみ上げていった。さらには私が持っていたゴルゴルの力を上手く活用していくためにアスカルから能力を鍛える手ほどきを受けた。
多くの施設が完成していくと共に不安も少し出て来た。上手くいかなかったらどうなるのか、そもそもこれは本当の事なのか、寝て起きたらまた地獄に居るのではないかと悩み、苛立ちから訓練中にアスカルにあたったことが一度あった。「全てが上手くいってるお前に私の何が分かる!!天竜人から引き取ったのだってその場だけの同情だろう!!」と言い放った。だがアスカルはそれさえも許して私に笑ってこう語りかけた。
「境遇が分かるなんて言うつもりは無いし、同情する気も無いよ。ただ、あの場に居ても未だにいつかはステージで歌を歌うという夢を持ち続け、ステラと言う希望を信じていた。天竜人への恨みを忘れず、諦める事をしなかった。何もかも成り行きで夢なんて持っていないオレとは違うテゾーロが凄いと思った。それだけだよ」
アスカルと言うのは偶然で悪魔の実を手にし、なんとなくで農業を始め、いつの間にか有名になっており、たまたま力をつける機会を得て、お礼として嫁を貰い、気付いたら国を作っていた。この男は何一つ自分から望んで目指したものなんて持っていないのだ。叶えた夢も叶えたい夢も思いつかない寂しい人間を自称した。私はPLANT計画は夢と違うのかと尋ねた。
「色々な作物を作りたい、四季が安定した国にしたい。それは趣味である農業や仕事の延長でしかないし、取引を拡大する上での思い付きだ。国の目標であって、オレの願いかもしれないがオレの夢ではない。そもそも計画だって国にとっては通過点でしかない。そんなものは夢とは言えないだろう?」
アスカルの言葉に私は呆然とし、納得はいかなかったが言いたい事を理解はした。後に達成したPLANT計画達成の際にも喜びはしていたがそれだけだったからその言葉は事実だったのだろう。夢が無いからこそ夢を持っている私を羨んだアスカル。
私は恵まれてるからこそ言える戯言と切って捨てることはできなかった。アスカルの言葉は本心であり、上からの目線は無く、中身のない共感も、一方的な同情も存在しなかった。その在り方はまるで彼の能力を表しているようだと私は感じた。
多くの物を育む雄大なる力を持つ大地、だがそれは決して語る事は無くその場にあるだけだ。小さな願いはあれど大きな夢を持たず、流れに身を任せるかのように生き、周りに影響だけを与える。強大であり空虚な彼は王ではなく、ただの人間なのだと思い知った。
それから私がアスカルに噛み付くことは無かった。アスカルへの感謝を忘れることは無かったが望まない忠誠などを押し付ける事は無く、彼が望んだ私の夢の集大成をみせつけてくれようとより事業への意欲を高めた。その結果出来上がったのがプラント直属巨大都市型娯楽施設『グラン・テゾーロ』だった。
本当ならプラントやアスカルの名前が付くはずだったが責任者と言う事で押し付けられた。私の能力の関係で多くの黄金が使われており、とても豪華な仕上がりを見て評価はしていたが少し敬遠していたのを知っているのでこれも恩返しと思って受け入れた。
『グラン・テゾーロ』が運営を開始してからという物の私たちの仕事は一気に忙しくなった。元より王族などを含む有力者との関りが深いプラント故に噂が噂を読んで毎日のように人でごった返すようになり、更なる人員の増加と規模の拡大が急がれ、今この瞬間もグラン・テゾーロは急速に増改築が進められている。
ショーには私やステラが出る特別な物も存在し、初めての舞台はアスカルや先輩であるプラントの幹部たちを招待して執り行われた。自分の夢を魅せきったそれにアスカルは大きな拍手を送り、「素晴らしかった。また時間を作って見に来る」と嬉しそうに言っていた。
グラン・テゾーロが大きくなってくるにつれていくつかの問題も発生した。一つ目は人員不足、これについては元スキーラから働いてくれている者が居るがこれだけ大きな施設を回していくとなると私の下に準幹部とでもいうような補佐の人間がいないと滞りなく回すのは厳しい。
これについては直ぐにどうこうできる問題ではない為にプラント内に置いて信用が置かれている小人たちに一時的に手伝ってもらっている状況だ。内部に悪戯に人を呼び込むわけにもいかないので時間をどうにか作って自分で人員を確保する必要があるだろう。その際にはアスカルにも確認を取らないといけないだろうな。
二つ目は私もアスカルも予想外な苦情が多かった。なんでもプラントとグラン・テゾーロの景観が合わない。『素晴らしい自然の近くにあんなにギラギラした施設は合わない』やら『別世界の様な夢の都市なのに永遠と続く畑が目に入ると気分が下がる』などといったものがアンケートなどに大量に寄せられていた。
こちらも今すぐには難しいがグラン・テゾーロの独立をアスカルと一緒に計画中である。流石に景観をどうにか出来ないので解決しようと思えば話し合いの結果切り離すという事になった。プラントとグラン・テゾーロの両方に行っていた客には悪いが小さい娯楽施設を城下町に作り直して後は全て無くなる予定だ。
三つめはステラに言い寄る客が多いという事だ。同じく表に出る事が多いプラントの幹部であり、一緒にショーに出ているので人の眼に触れることは多い。そして見た目も麗しい彼女に交際や結婚を申し込む者が後を耐えなくなった。
殴り飛ばしたり、金で固めたり、出禁にして追い出したりと当然の対応をしたら「お客様に何をやっているの?」とステラに怒られた。だが彼女に言い寄る男たちが許せなかった事を話して謝り、私はステラに求婚した。
奴隷からの解放、プラントでの暮らし、グラン・テゾーロの建造に修行、そして運営。これまで一緒に居すぎて当たり前だと思っていたが彼女に告げたことも応えて貰った事も無かった。それ故に意地汚い独占欲を隠すことなくその場で伝えた。
その結果、私とステラは結婚し、その式はプラントで豪華に執り行われ国中に知れ渡り、夜には外部への発表もかねて盛大な特別なショーが執り行われた。一部からは私へのブーイングも聞こえたが無視して二人で最高のショーを見せつけた。
まだまだ人員確保が出来ていないために大きくプラントから離れることは出来ないが景観を維持するために近々切り離しの実験が行われる予定になっている。その際にはしばらく仕事が減るので可能であれば二人で旅行にでも行きたいものだ。
私はきっとアスカルが嫌いだろう。私にないものをたくさん持っていた彼が嫌いである。それでも感謝を忘れる事は無く、ここで彼女と夢を歌い続けよう。それがきっと恩返しに繋がると思っている。さて、そろそろ今日の仕事を終わらせるとしよう。まずは未だにステラに手紙を送り続けてる馬鹿の始末に行くとするか。それでは世界が誇るプラントが幹部、娯楽統括、グラン・テゾーロが主、『黄金帝』ギルド・テゾーロの一日を始めるとしよう。
初めはどうして呼び出されたのか、なぜ彼がここに居るのか、何一つ意味が分からなかった。プラントへと向かう船に乗ってる間もプラントについてからも信じられなかったのを覚えている。
不安が無かったわけではないけれどすぐ近くにテゾーロが居たからどこか安心していた。そしてきっとなんと
なるという予感もあった。プラントに来てからは驚くことだらけで、どうしていいのか分からないことだらけでよく悩んでいたっけ。
アスカルくん、この呼び方は本人から許してもらったものだ。助けられた恩もあるし様呼びした方が良いか尋ねた際に「好きに呼んでくれて良いよ。年上と言っても結構近いし、年下相手に様呼びって難しいでしょ」と言われたからです。とは言っても恩人を呼び捨てにするのもなんだし、国王呼びも硬いなと思った結果が君付けでしたが、新鮮で面白いって笑って許可をくれたわ。
それでプラントで暮らしている間はアスカル君が保護してくれたこともあってこれまでとは比べ物にならない平穏な生活を送る事が出来た。そして私とテゾーロが落ち着いてきたことにあの話が持ち掛けられた。
何かしたい事は無いか?という問いに対して嬉しそうに笑って夢を語り、毎日のように会いに来ては歌を歌っていたテゾーロの大きなステージで歌いたいという素敵な夢、それを叶えたいと思った。いつしかテゾーロの夢が私の夢にもなっていた。
それからは忙しいなんて言う生易しい物ではない日々が始まった。巨大な工業施設の構想に加えて新参者でありながらプラントの幹部にテゾーロと一緒になってしまった。最低限の訓練に仕事と本当に大変で楽しい日々が始まった。
そしてようやく叶った『グラン・テゾーロ』の完成。自分の名前がついた巨大な施設に呆然としたり、恥ずかしがってる姿を少し見たがやっぱり内心は嬉しいみたいでそんな感情の爆発して百面相している彼がなんだか可愛かったな。
それから私たちの仕事は更に忙しくなり、私とテゾーロの名前は広く知れ渡った。テゾーロが同じ幹部なんだからとショーの名前に私の名前を入れたからだ。でもお揃いみたいで嬉しかったから恥ずかしいのは我慢した。
一緒にショーをやったり、運営している内に私にもかなりのファンが出来ていたようで声を掛けられることも増えていた。そしてお客様を叩きのめしているテゾーロの姿もよく見かけるようになっていた。裏では私に声を掛けた奴がいつまでばれずにいられるか個人個人で賭けをやっているお客も居るくらい当たり前の光景になっていた。
流石にお客への対応では無いし、同じことを繰り返している毎日に呆れてテゾーロに叱ったらまさかその場でプロポーズされるとは思わなかった。まぁ、その場で受けた私も私だし、ムードとかについては何も言わなかった。
結婚式では国民までを含んだプラントのメンバーで盛大に執り行われて、色々な人たちから祝われてお祭り騒ぎだった。一部の能力者の人たちは能力まで使って演出をしてくれていた。舞い散る草花はとても綺麗で、一瞬で建てられた私たちの像の完成度にはとても驚いた。
夜にはグラン・テゾーロでショーという形で外に向けても結婚を報告した。プラントと言う一大勢力の幹部であるために多少は仕方ないとは言えプライベートな事を大勢の人に知られるのは恥ずかしかった。だけど惜しまれつつも多くのおめでとうの声に胸が暖かくなった。
テゾーロにはブーイングや殴りかかる客も多かったが声は完全に無視し、ケンカを売って来たお客には真正面から対峙して打ち倒していた。一種のパフォーマンスの様になっていて祝福してくれたお客様でも腕に自信がある人は笑いながらテゾーロに突撃していった。騒がしい一日だったけどとても最高な一日で忘れられない思い出となった。
思い出して楽しくなってつい顔が緩んでしまう。まだまだ仕事はあるんだし気を引き締めないとね。それでは世界が誇るプラントが幹部、娯楽副統括、グラン・テゾーロが主のお嫁さん、『黄金妃』ギルド・ステラの一日を始めましょう。
予告通りにテゾーロとステラの話でした。救済された場合の性格とかがどんな感じになるかあまりつかめず四苦八苦しました。まぁ、これもある意味IF話なので思ってたのと違うという方もご了承ください。
テゾーロの方はアスカルの情報もかなり多い仕上がりになり、作者もなんでこんな話になったんだっけと少し首を傾げています。まぁ、別に設定上で問題はないですけどね。少し公開が速くなっただけだし良いか。
ではそろそろいつもの挨拶でお別れと致しましょう。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。