大海賊として有名である金獅子のシキとの取引は公にこそなっていないが、シキの海賊船がプラントの管理地に立ち寄る様になったことはやはり話題となった。
ビックマムの取引の際にも大きな論争となったにもかかわらず、海軍本部を襲撃した危険人物とも関わりがあるのではないかとプラントについても不審に思われているのは間違いない。
ただの補給についてはとやかく言われる必要はないので普段のクレームと同じように対処する。そして取引についても補給の一部に混ぜてしまえば問題はない。
そんなことよりもオレとしては手に入れたばかりの植物であるI・Qを研究したいところだ。シキの部下であるDr.インディゴの研究資料の一部も送られたが、動物の進化に大きく影響を与えている。
その進化をコントロールできれば家畜を含めた食材生物へ投与することでより美味しく変化させる事も可能だろう。やりようによっては新しい動物を生み出す様な事も出来る。
そしてなにより興味深いのはこれは人にも作用するという事だ。この植物が生えている土地、メルヴィユには腕に羽を生やし、空を飛ぶことが出来る人が住んでいるとのことだ。
シキはI・Qを使って動物の凶暴化、ひいては兵器化を目指しているようだが危険度で言えばこちらの方が上だとオレは感じている。
人への影響をコントロールすることが出来れば、デメリットの無い能力者を量産する事だって不可能とは言い切れない。
悪魔の実による飛行能力が世界で五種しか確認はされてないというのに、悪魔の実がなくとも飛べると言うのはかなりの強さを発揮する。
六式による月歩なども存在するが体術であり、修めていないと使えない技術とは違うと言うのは大きい。
ホーニィにI・Qと会話してもらったところ、ストマックバロンと同じくらい賢く、多少であればI・Qと協力して進化の方向性を定める事も出来るとの事だった。
凶暴化には興味は無いが資料にあった巨大な生物は面白い。一体で多くの肉を生み出してくれるようになるだけでも十分助かる。
プラントで研究を担当しているのは小人達かコーヒヒ達が大半だし、どちらも研究内容がバレにくいので大まかなところは任せるとしよう。
小人達はとりあえずはI・Qを増やすところを行い、コーヒヒ達が今ある分で研究を行っていく。自身に生えているコーヒー豆の質を上げるのに使えるかもしれないとコーヒヒ達は乗り気だったし、成果が見られるのを楽しみにしておこう。
久しぶりにガープ中将がプラントに姿を見せた。いや、正確に言えば仕事では海軍の代表としてプラントを訪れているのだが、個人的にやってきたのは久しい。
大胆で突拍子もない行動が多いために何をしに来たのかは分からないが、いきなり身体を掴まれるとアレヤコレヤと船に乗せられ、気付いたら東の海までやってきていた。
東の海にも担当の分身がいるのでオレに伝えたい事があるのならそっちを通してくれると有り難いんですがと苦言を呈するが豪快に笑って誤魔化している。
分身との位置関係や以前に来たことがある経験からどこを目指しているのかは検討がついているので何しに行くのかをガープ中将に聞いてみる。
「ワシの孫が生まれたんじゃ、お前さんとも顔を合わせておこうと思ってな。それとエースにもたまには直接顔を見せてやれ」
顔を合わせるって生まれたばかりの赤ん坊相手にどうしろと言うんだか……まぁ、赤子のうちから合わせておくことで覚えてもらえておけば御の字だとでも考えているんだろう。あれで抜け目のない爺さんだからな。とりあえずダダンさんのために酒でも取り寄せておくか。
長い船旅を終えてガープ中将の故郷であるフーシャ村があるドーン島に着いた。普段であれば挨拶を程々にエース君のいるコルボ山に向かうが今日は長く村に滞在することになった。
「ルフィちゃーん!!おじいちゃんですよ〜!!」
「キャッ!キャッ!」
あの顔が目前に迫ってきて笑ってられるのは血の繋がった家族だからだろうか。ひょうきんに見せようとしているが無理があって不気味に思えるのはオレだけか。
「どうじゃアスカル!この天使のような可愛い子がわしの孫じゃ」
「何回孫の可愛さを語る気だ?ルフィ君が可愛いのは分かったからちょっとは落ち着いてくれ」
島についてからというもの、永遠と孫であるルフィ君の事を語り続ける
「いつまでやるつもりだお前は」
フーシャ村の村長であるウープ・スラップさんだ。常識人で稀に見る人格者である彼には感謝しかない。
「ガープの奴が申し訳無い。アスカル殿、ここに来たのも強制でしょう?」
気にしてないとは決して言えないが早急に対応が必要な案件は無かったのでそこまで問題はない……だが狙ったかのように攻めにくい時期に誘ってくるのには少しイラッとくるかもしれないな。
「狙ってはないだろうがあやつは妙に勘がいいからな…だがタイミングが良く、顔見知りだとは言え一国の王を突然連れてくるとは……」
おそらくその勘は覇気とは関係のない生まれ持ったものや野生動物の持つものに近いのだろう。そして、何の連絡をもなく連れて行かれる方も連れてこられる方も中々に困った事になる。
「アスカル様は国王様なんですよね。それなのに良いんですか?」
「アスカルで良いよマキノちゃん。まぁ、少なからずガープさんにお世話になってるのも確かだし、山にいる友人に会いに行くのも悪くないからね」
呼び捨てでも気にしないと伝えたが「それならアスカルさんて呼ばせてもらいます」と言われた。まだ10歳やそこらだというのにしっかりとした子だ。
「山と言うとあやつらか……ご無礼かもしれませんが山賊などと馴れ合うのは如何かと」
「子供の前で言うことでは無いが商売人故に金さえあれば誰とでも取引するんで、相手が何者かは横に置きがちなんだ」
取引の回数、金額双方において海賊相手が多数を占めているプラントの事を考えると山賊との関係なんて些細なことに思えるだろう。
「確かにそろそろ時間か…悪いがまたルフィを頼む。山を登るとするか、そうじゃマキノも来るか?」
「馬鹿者!!お前なんぞに預けて山賊の住処に送り出す訳がないわ!!」
「わしだけじゃなくてアスカルもおるし大丈夫じゃろ」
「アスカル殿が居てもそれ以上にお前が信用ならん」
「口うるさい奴じゃのう」
ガープさんは思いつきのようだったがけっこう残念そうにしている。エースの味方を少しでも増やしておこうとしているんだろう。
オレはもちろんだがガープさんも立場上絶対的な味方にはなれないのだ。肩入れできないのに口を出すべきではないだろう。そう思いオレは口を閉ざして状況を見守った。そして結果は……
「けっこう山道凄いですね」
「道なんて禄に整備されてない場所だからのぉ。ぶわっはっはっ!!」
ガープさんが譲らずにオレの存在を全面に出して村長さんからマキノの同行を勝ち取った。そしてオレは村長さんから土下座でマキノちゃんの保護を頼み込まれた。
「ここに居るんじゃ。おい、居るのは分かっとるぞ。ダダン、出てこんか!!」
ドンドンと扉を叩くガープさん、普段の力から考えるとかなりセーブしているんだろうが、小屋に対してはオーバーパワーに感じられる。そして面倒臭さを隠さずに、それでいて少し慌ててダダンさんが出てきた。
「ガープさん勘弁してくださいよ。突然来て今度はなんなんですか!?」
「エースの様子を見に来ただけじゃ、定期的に来ておるだろう」
「最近はうるさくて仕方がないんですよ。興味持ったもの何でも訊いてきて作業の邪魔はするし、なにより自分の親について知りたがってるみたいで、ってアスカル!アンタも来てたのか」
確かに久しいなと思いつつ酒を大樽で渡し、手土産だと伝える。慣れない子守やガープさんの無茶振りに疲れてるのか土産を渡しただけで泣きそうになってるのが哀愁を感じさせる。
「ふむ、もうそういう年頃か……どうしたもんかのぉ」
エースの成長を喜びつつもどう伝えたものかとガープさんは腕を組んで悩んでいた。そして会話を混じれずに少し後ろからあの人達が山賊さん?とマキノはチラチラと視線を送っていた。
「あ、ジジイにアスカル、それにお前、誰だ?」
「あなたがエース君かしら?私はマキノ、よろしく」
エースも久しぶりだな。3歳にしては賢く、ダダン達の目を盗んで森を探索しているらしく、小さな傷がチラホラと見える。あまり困らしてやるなよと頭を撫でながら土産の菓子を手渡す。
オレがマキノの事を山賊とエースに紹介すると物怖じしない性格が幸いしたのか意外と良い関係を築けているようだ。それでどうするんですか?
「…子には知る権利がある。知りたいと言うなら教えてやるもんじゃろう。だがどう伝えるべきか……」
まぁ、オレはロジャーについて知ってることなんて世間に流れてる噂程度だが、ガープさんは違う。敵としての面識がある自分から伝えることによって歪んで伝わる事も気にしているんだろう。
何かを伝えるという時点で主観を交えずにと言うのは殆ど不可能に近い。それならいっそのこと預けられたガープさんがロジャーとの思い出でも語ってやれば良い。
あくまで昔話として主観満載でガープさんからみたロジャーを伝えてやればいい。仮だろうが、義理だろうが祖父を名乗るなら世間の評価よりも自身の言葉を伝える方がオレは良いと思う。
「…いつもすまんな」
その後は持ってきたお土産を用いて小さな宴の様なものが開かれた。みんなで騒ぎ、誰もが楽しい時間を過ごした。その日の夜、小屋を抜け出したエースとガープさんが寝る前に長く一つの物語を語っていたようだ。どう受け取るかは分からないが、いい未来であることを静かに祈るばかりだ。