新世界を漂うようになってからは情報にはかなり気を配る様になった。新聞社に海軍、世界政府、懇意にしている国や商人、そして海賊。
情報源はどれだけあってもいい。選別こそ大変になるが些細な事が大きな出来事の前兆だって話は幾らでもある。というよりは新世界では些細な事が大事件に発展しやすいだけなのだろうが……
まぁ、普段から新聞のチェックを欠かさないのもそういった点からだが……今日は中々に興味深い情報が入ってきた。
「歴史の本文を探す一団を新たに手配、ノックス海賊団か……」
歴史の本文絡みの情報はついつい目に入ってしまう様になったが、この集団はどういう理由でそれらを探し求めているのだろうか。
オハラの一件を政府が大々的に発表してからというもの、歴史の本文を探ることの危険さは知れ渡り、探す者に対する世間からの目も冷たいものとなっている。
それでも探しているということは歴史の本文に何らかの意味を持っているのだろう。それが歴史なのか力なのか、はたまたそれ以外かは分からないがな。
「ミンク族か……流石に探るには相手が悪い」
特有の文化を持つであろう伝説の地『ゾウ』には興味を持っていたが彼処は伝手が無ければまず辿り着くのも困難な場所だと聞き、諦めていた。
探りながら国を動かし続けるほど暇でもなくなったのも諦めた理由の一つだ。ただの島であれば探りやすいが生きた大地が相手では分が悪い。むしろ見聞色の得意なサイフォの方が得意な相手だ。
『ゾウ』のことはさておき、ノックス海賊団がプラントの管理地を訪れてくれれば接触を図るくらいは出来るだろうがそんな都合の良い状況はやってきてはくれまい。そんな事よりもこっちの方が個人的には目を引く情報だ。
「『西の海にて歴史の本文を探る人影、オハラの生き残りか!?』……名前と顔が割れてなくても関連付けるのが当たり前か」
同時期に情報が入ってくるということは政府が定期的に歴史の本文を探る者がいないか確かめているという事か?そうでも無ければ潜んでいる歴史を探る者を捉える事は難しいだろう。
新聞に載っている写真は顔こそ写っていないが、見覚えのあるコートとカバンが確かにそこにある。政府相手に7年も見つからなかったと考えればまぁボチボチとも言える。
それだけ時間も経てば確認のしようがないだろう。だが政府は危険性を考え、オハラの生き残りとして仮定して動き始める。そうなれば本気で取り掛かる政府を相手に逃げ続けないといけないのだから大変だろう。
「名前なし、写真なしで手配書は作れないだろうが時間の問題だな」
諜報機関は不気味だが仕事は確かだ。面倒極まりないくらいに執念深くもある。ロビンなら逃げれはするだろうが苦労もするだろう。
戦い続けることを選択した少女が折れてしまわないように密かに祈り、そのまま新聞をたたんでいつもの仕事へと戻った。
この島に来るのは久しぶりだなぁと辺りを見渡すとソワソワした空気が漂い、何処か期待したような表情を浮かべている人が見られる。
ここに来るのは国が使う船造りをお願いしに来たとき以来だが、街は以前より荒れ果ててしまっている。
「それで完成したんですねトムさん?」
「たっはっはっ、アスカル王、よく来てくれた!!」
船造りで有名な所と聴けばウォーターセブンと誰もが言っていた。アクアラグナと言う名の途方もない高波による浸水と大海賊時代によって治安が荒れるまでは。
船を造ってもらおうと思った際に候補に上がり、島を訪れた。だが、いくら造船技術があろうが材料が無ければ船など造れない。それ故にゆっくりと死んでいく様な街だった。
プラントでは木を早く育てる事は出来ないので卸せてもやはり割合的に見れば少量、他から買って卸すとなれば割高になってしまう。
一応取引が出来るようにはしたがそれでも死に行く島を延命する程度でしかなかった。それでも感謝する人々が痛々しく思えたのが未だに記憶に残っている。
それでも技術は確かである為に頼もうとしていたが数多くいる船大工の中で誰が良いかなんて知らなかった。依頼だけを無責任に投げれば会社同士、船大工同士の喧嘩を誘発させるだけだ。
そんな時に目をつけたのが海賊王の船を造り、海列車という途方もない発明に着手していた魚人の船大工、トムさんだった。
海列車を造っている最中のトムズワーカーズに依頼を出すというのは悪い気がしたが、話だけでもしてみようと訪れたのがオレとトムさんの出会いだった。
「やはりもう少し国が使う船は合った方が良いのか?」
「そうですね。アスカルの土船も装飾などで見栄えはよく、一種の象徴にはなってますが、もう少し国として所持しておくべきかと」
国ごと移動するという普通とは違う在り方とPLANT計画などで度肝を抜き、そちらばかりに目がいき誤魔化せていたが、土船ばかり使うのは能力の誇示に見えてあまりよろしくないかもしれないという。
「となると船造りを依頼しないといけないわけか、この国には船大工はいないからな」
「触りなら出来る者も居るようですが、国で使うような物は流石にいませんね」
そうなると何処かの島に出向く必要があるわけだが慎重に選ばなければいけないと二人で相談しあって決めたのが……
「ここがウォーターセブンか……なんとも暗い雰囲気だな」
世界屈指の造船技術を持つというウォーターセブンならばいい船を造って貰えるだろうと土船で向かった。情報では昔と違い荒れ始めているとあったが確かなようだ。
潰れた会社や途方に暮れた船大工が珍しくもない沈んだ街を彷徨いて情報を集めているとその名前は直ぐに耳に入り、酒場等ではよく話題になっており、オレもすかさず聴き込んだ。
「……それでトムの奴は海賊王の船を造ったんだが、裁判に連れて行かれてねぇんだよ。海列車か……本当かは知らねぇが出来てくれりゃぁな……」
酒を呑み、愚痴を溢していた元船大工だという男から話を聞き、トムという船大工がいる事、そのトムという男が海賊王の船を造った事、そして今、ログも必要なく海を渡る海列車という物を造っていることを知った。
「島のためか……邪魔をするのは申し訳ないがそれだけの構想があり、実現しようとする技術がある船大工は気になる」
他の船大工達の事も聞いていったがそれでもそのトムという男以上に気になる者はいなかった。それ故に邪魔になるかもしれないが、その翌日にトムという男の会社であるトムズワーカーズを訪れた。
橋の下にあるという本社には誰もおらず、街の人から聴き込んだ情報によるといつも廃船島と呼ばれる場所で作業しているらしく、そこまで出向いた。
「あそこにいる人達か?」
廃船島にいる人がそもそも彼らぐらいであり、なにやら転がっている廃船から使えるものを探し出し、造船している様だ。
ゆっくりと歩いて近付いて行ったが、街の荒れ具合からか、それとも政府の司法船が来たことからか見慣れぬ人物に一部の面々には少し警戒心を持たれている様だ。
「ンマー!!あんた、こんな所に何しに来たんだ?」
「たっはっはっ、この島の人じゃなさそうだがわしに何か用ですかな?」
「いえ、貴方個人への用はありません。しかし、そちらの事情は街で聞き及んできました。忙しい時分に申し訳ありませんがトムズワーカーズに依頼をお願いしたく、お話に参りました」
余所行きの言葉遣いでそう告げると政府関係者でも、邪魔をしに来た雇われの人間とかでも無いことが分かり、空気が和らいだ。
「たっはっはっ、わしの事を聞いておきながら造船の依頼か?こりゃあけっさくだ。だが少したて込んでて少し待ってもらってもよろしいか?」
「海列車ですね。作業中であることを重々承知しています。こちらとしてはそちらの都合の良い時間で構いません」
話を聞いてもらえなければ全くの無駄骨である。待つだけで良いのであれば数日程度ならば待つつもりであった。
「作業終わりまで待たせても??」
「えぇ、待ちます」
今日中に話をさせてもらえるのならばむしろありがたい。
「そりゃ本当にありがたい。それと話し方はもっと楽でも誰も気にするもんはおらんよ」
「ならそうさせてもらう」
「たっはっはっ!!ココロさん、悪いがお客を倉庫に案内してくれ」
「あぁ、わかってるよ!」
そこから一度訪れたトムズワーカーズの本社に案内され、今日の作業が終わるのを待っていた。
「おまたせしました」
「いや、構わない。聞いてもらえればありがたいくらいだからな」
「それで依頼というのは?」
「うちの国で使う船を造って欲しい。小さいものから大きいものまでそれぞれ数隻ずつ」
「曖昧!たっはっはっ!!うちの国と言うと?」
まぁ笑われても仕方ないだろう。どれくらいあれば良いかなんて分からないし、船をおさめる場所は能力で作れるので数があっても困りはしない。
「オレが治めてるプラント王国が使う船と言う意味だ。申し遅れたがアスカルと言う。先にいったようにこれでも国を治めていて、船に入れて欲しい国旗や紋章等の意匠は図柄を持ってきている」
「たっはっはっ、国王直々にこんな場所に来るとはな。わしの名前は知ってるだろうが、トムだ!!ドンと好きに呼んでくれ」
こちらも別に好きに呼んでくれて構わないと伝えるとさらに笑っていたが接しやすいいい人物の様だ。そのまま受けてもらえるかは分からないが依頼の詳細を詰めていった。
「なるほど、船の素材等は用意してもらえると……それはありがたい。船も小・中・大を3隻ずつ造った所でさほど待たせんだろう早くに必要なら出来た物から納品も出来るが……」
「やはり、時間が取られてしまうのは問題か?」
「ドンと請け負いたい所ではあるがわしには時間が無いのでな。請け負った仕事を中途半端には出来んし、安易に頷けん」
この人は自分の心配ではなく、心の底から海列車が完成しないことでこの島を救えないことを心配している。なんとも大きな人なんだろうか。
「それなら受けてもらえる通常の船の代金に加え、海列車に必要な素材や道具等もうちの国で出すってのはどうだ?」
「それは…!!」
「そうすれば海列車造りにかかる時間の短縮も出来るだろう。金の方が必要なら前払いでも良い。依頼を受けてもらえるならプラント王国、国王アスカルがトムズワーカーズのスポンサーになる」
弱みに漬け込むようで申し訳ないが、それでも海列車を作り出そうとする姿からその技術が確かであることくらいは分かる。
「たっはっはっはっはっはっ」
オレが言った条件に対してなにやら思案していたトムさんであったが、頼み込んで少しすると倉庫中に響く様な大きな声で笑い出した。
「こんな暫定犯罪者をそんなに高く買ってくれるとは、笑うしかないわ。言ってくれた条件はこちらに都合が良すぎるくらいで、一周回って怪しさが吹き飛びそうだ」
オレからすると船を造っただけで犯罪者というのもおかしな話に思えるが、海賊王の影響力を考えれば仕方のない事なのかもしれない。そんな事を考えているといきなりトムさんは深く頭を下げた。
「その依頼、ドンとわしに受けさせてもらいたい!!」
その言葉を聞くとオレは静かに手を差し出した。トムさんはすぐにその手を取り、契約の成立の証という訳では無いが自然と握手をかわした。
それから先、ウォーターセブンには造船に必要な素材を売る船が来るようになった。だが島中の造船所が使えるほどの量はなく、少しの延命程度でしかない。
それとは関係なく、廃船島にも頻繁に船がやってくるようになり、トムが必要とする物が届けられるようになり、試行錯誤を繰り返す海列車造りはかなり捗るようになったそうだ。
「あんたにあった日が懐かしいな。アイスバーグとフランキーは元気か?」
「あぁ、いつも騒がしくて愉快な奴らだ。あいつらも廃船島で待ってるだろう」
「それで肝心の出航は?」
「街に完成は知らせた。もうすぐ乗客と観客が集まる筈だ」
島を救うかもしれない海列車の完成を聞き、人々はソワソワしていた。あの様子なら多くの人間が集まるだろう。
話をしながら廃船島へと向かう。トムさんはどうしても目立つために道中で話しかけられることも多かったが、「ドンと見に来てくれ」と多くを語らずにそのまま進んでいく。
「遅いぜトムさんってアスカル!!お前も来たのか!!」
「ンマー!!バカンキー!!アスカル様は依頼人なんだぞ!!」
「ってぇ!?そのアスカルが良いって言ってんだからいいじゃねぇか!!」
相変わらず賑やかだな。プラントも段々と賑やかになっていったが、ここの雰囲気も中々に楽しいものだ。それぐらいにしてやってくれアイスバーグ、土産を持ってきたからみんなで仲良く食べてくれ。
「よっしゃ、ありがとなアスカル!!」
「ンマー、本当に申し訳ない」
フランキーがタメ口で喋ってもオレは気にしないし、年上であるアイスバーグこそもう少し砕けてくれても構わないんだけどな。
「ンマー、この馬鹿みたいに考えなしには話せませんし、トムさんみたいに対等に渡り合う胆力もまだないんで。依頼人であることを置いてもアスカル様は一国の国王ですから、勘弁してください」
ちなみに年齢の差はオレがフランキーの3つ上でアイスバーグがオレの1つ上だ。そんなに離れていないので話し相手としてはかなり楽でオレとしては得難い友人の様に思っているんだけどな。
しばらく駄弁っていると廃船島に多くの人が集まり、辺りが騒がしくなってきた。そして、初の出航となる海列車『パッフィング・トム』に乗客が乗り込むとココロさんが出航の声を掛けた。
一度海列車が走り出すと、誰もがその光景をじっと見つめ、笑みを浮かべ、涙を流し、島中が歓喜の声で溢れた。
これでもトムの夢は始まったばかりで、これから司法船に告げた線路を全て作るにはまだまだ時間がかかるだろう。だが、それでも確かに彼は偉業を成し遂げたのだ。海賊王とも関係ない、彼だけの偉業を。
「おめでとう」
「たっはっは、ありがとう」
ガープ中将には何度も大変な目に合わされた。それでも共にフーシャ村に行くことはあった。エースやルフィの様子を見に行くことは個人的にもある。だが、あの爺さんがオレ一人でフーシャ村に行くように言った時点で怪しむべきだった。
「ほぉ、世界的に有名なプラントの国王とこんな場所で会えるとはな」
「この村にアンタ程の海賊が居るとはこっちも知らなかった」
なんでオレがここに寄越されたのかはよく分かった。あの爺さんは腐っても海軍、線引は流石に弁えていたのだろう。
目の前にいる海賊達もそこらの海賊とは一線を画す腕利きだ。ガープ中将が来るのを知れば行くのを辞めたり、タイミングをずらしていたのだろう。
おそらくは代わりに確認してこいという事だろう。海軍の人間が使えないのであれば他を頼るのは当たり前だろう。しかし、一国の王をこんな危険度の高い使いっぱしりにするのはあの人ぐらいだな。
オレと赤髪の間に特別な確執があるわけではない。それでも新世界で活動する海賊からすればビックマムと関わりの深い相手は警戒の対象だろう。
自分のことを棚に上げていると思うがこんな辺鄙な海にオレがわざわざやってくるというのも疑いの要因だろう。
互いに牽制しあい、まだ本気ではないが武器にも手をかけている。オレも万が一を考え懐に忍ばせている土を意識している。
ビックマムと違い慢心していない。こういった成長中の怪物の方がよっぽど厄介だ。ヤルとすれば揃ってる向こうに分があるが陸の上という環境ならばこちらが有利か。
「敵対する気はない…と言った所で信じはしてくれないか?」
「航海を終え、休んでる所に現れてはなぁ」
疲弊している所にやってきた政府や大海賊との関わりが強い世界政府加盟国の王の言葉はこの状況では弱いか……間を図り、土に力を込める。視線が交差し、読み合い、動き出そうとした。
「お〜い、シャンクスにアスカル!!二人して何やってんだ!!」
「「ルフィ?!」」
お互いに目の前の相手に集中しすぎていたのか、なんの警戒心も持たずに近づいてくるルフィの存在に全く気付かなかった。
ルフィの手前でやらかす訳にはいかないとオレが土をしまっていると赤髪も剣をバレない様にしまい、何もない様に振る舞っている。
「だははは、ルフィにはしてやられたな」
「ククッ…あぁ、全くだ」
未だに信用しきってはいないだろうがルフィの態度から考えて悪いようにはならないと判断し、この場での矛を収めた。
「宴だぁ!!お前ら騒げ!!」
「イエーー!!」
「おらおら酒だ酒!!」
「てか上手いなこの酒!?」
「料理もだ!!」
「あ、てめぇそれは俺が食おうとしてたやつだぞ」
「早いもの勝ちだバーカ!!」
マキノちゃんの酒場を貸し切りにすると一気に宴だなんだと騒ぎ始めた。わだかまりを残しておくのもなんなので酒と飯をいくつか提供したらさらに騒ぎ出した。
「ルフィ、お前はジュースにしとけ」
「分かってるよ。アスカル、お土産ありがとな!!」
「オレを寄越したのは爺さんだ……今度会ったら礼でも言ってやれ、死ぬほど喜ぶだろうよ」
それを隣に座ってる男に聴かせるように伝えるとルフィは苦い顔をしながらも頷いていた。まぁ、あんな爺さんでは苦手意識も仕方がないか。
「そういうわけだ。お前らが居るのを知ってた訳でもなけりゃ、意図して来たわけでもない」
「なるほど、ルフィの爺さんならやりかねないな」
「こっちとしては貧乏くじを引いた気分なんだよ」
「それは悪いことをしたな。まぁ、色々と提供されておいて言うのも何だが楽しんで気でも紛らわせてくれ」
暗に政府やビックマムは関係ないと伝えると以外にもすんなりとそれを信じた様子だ。なるほど、こいつは確かに本物だな。
「そうだ!マキノ、この二人ケンカしてたんだ!!さっき港で!!」
「あらあら、フフ、それはいけないわね。後で叱っておくわ」
「おいおい、ルフィ。あれはなんでもないって言っただろ」
海賊になると言い出した子どもがケンカを言いつけるのか……なんとも気の抜ける話だが25にもなって年下からの説教は勘弁してほしいな。
「それで赤髪さんは言っちゃ悪いがこんな辺鄙な海に何の用があるんだ?」
「んん、あぁーまぁ探しものをな。詳しくは流石に勘弁してくれ。それとその呼び方はなんかくすぐったいから辞めてくれ。シャンクスで構わない」
詳細は話してはくれないが略奪などで無いのなら問題はないだろう。元より一つを除いてそう暗い話は聞かない海賊団だ。オレも呼び捨てでも構わないと伝えておく、元よりかしこまるような人間じゃないだろうが気楽な方がこちらも良い。
「まぁ、オレは基本的に国や知り合いに手を出す輩以外には不干渉だ。ここで暴れないならオレには関係ない。ルフィとも仲良いみたいだしな……爺さんに報告する身としてはなんとも面倒だがな」
「それは俺にはどうしようもないな。それにしてもプラントか……警戒するだけ無駄だったな。もしかしたら立ち寄らしてもらう事になるかも知れないからそんときは頼む」
こちらとしては取引が誠実であれば誰が相手であっても問題はない。特別扱いはしないぞと伝えるもそれで良いと笑っている。器から違う、本物だな。
ガープ中将が立場上来れないとするならばもう何度か会うこともあるだろう。取引関係のものも次の機会にでも持ってくるか。
「さて、宴の途中でちょっと悪いが失礼する」
「ん、何か用事でもあるのか?」
「山に行くんですかアスカルさん?」
「また行くのかアスカル!!いっつもズルイぞ!!」
ルフィとエース、片方だけに会って帰るということはまずない。そして位置関係的に先にルフィに会ってからエースの所に向かうことになるのだが、ここ最近はオレが何処かに行ってる事に気付いて連れてけと言い出した。
「ルフィ、お前の爺さんから頼まれてオレは行ってるんだ。行きたいなら爺さんに相談してからって言ってるだろ」
「ここ最近ちっとも来ねぇからアスカルに頼んでんだよ!!なぁ、連れてってくれよ。マキノがたまについて行ってるの知ってんだぞ!!」
「マキノちゃんはマキノちゃん、お前はお前だ。お前はルフィであってマキノちゃんとは違うんだ。同じ扱いはしないし、出来ない」
ルフィはまだまだ賢いとは言えないが道理は分かっている。納得がいくかはまた別だろうがな。宴の途中だから出ていかなかったが、ぶーたれて机にもたれかかっている。
「……何しに行くんだ?」
「……爺さんのもう一人の孫の様子を見に行くんだよ」
「……へぇ、ルフィに兄弟がいたのか?」
「……いや、血は繋がってない。養子、いや養孫か」
この反応ならおそらくエースを探りに来たわけではなさそうだな。なんでオレが確認してんのか分かったもんじゃないがな。これで本当に心配事は消えた。ご機嫌斜めなルフィはシャンクスに押し付けて行くとするか。
「マキノちゃんは…って今日は無理か」
「えぇ、よろしく伝えといて」
マキノも山の上に顔を出しており、山賊組ともエースとも程々にいい関係が築けている。昔から登り降りを繰り返したからか足腰はそこらの人間よりも強い。元々、物怖じしない性格だったが昔よりも強くなったな。
そのまま渡すといっつも遠慮するので店の裏に目録と一緒に土産を置いて酒場を後にする。いつもは先に挨拶しているのだが、先の騒動のまま酒場に来てしまったから村長さんの所に顔を出してから山に向うとしよう。
「あれで10億4000万か……」
山にやってきたは良いが最近はエースがこの時間にいることは稀だ。どうやら山を超えて嫌なゴミ捨て場まで足を伸ばしているそうだ。
そこでなにやら一緒に行動する友達がいるそうだが、二人してあまりいい話は聞かない。まぁ、ヤケになっている訳ではないのでそこまで問題とは思っていない。
「それでお前らから見て最近のエースはどうだ?」
「どうだっつってもねぇ……あたしらの所にいつも居る訳ではないからな。まぁ、元気なのは確かだよ。ここ最近では自分の食う分以上に獲物を持ってくるくらいだ」
「自己流でここらの猛獣相手に戦えてるなら大したもんだな。まぁ、死なない程度には見といてやってくれ、オレが言うのもおかしな話だけどな」
「自分の子でも無ければお前が預かった訳でもないのに毎月見に来てんのもこっちからしたら大概だよ。ふん、酒代分くらいは動いてやるよ」
山賊ではあるが筋は通すタイプの人間だ。そこらの一般人よりもかえって信頼が出来るのだから笑えてくる。土産の酒を器に注いでやるとそっとこちらも器を掲げる。
「洒落臭い…ってのは間違いか。そんなでも王様か……とはいっても似合わない真似をするもんだね」
「ねぎらいの意味だがそんなに似合わないか?」
格好つけたつもりは全くないがそんな風に言われると多少は気になる。歯に衣着せない山賊からの意見だからこそな。
「結婚してんだろうに、奥さんは何も言わないもんかい?こんな辺鄙な所に通って子供の様子を見に来るって浮気を疑われても仕方ねぇだろう」
暗に巻き込んでくれる様な真似は勘弁してくれと伝えているんだろうがその心配は無いと言っておく。流石にエースの出自までは伝えてないがガープ中将関連と言えば納得する。
プラントの人間はガープ中将を見慣れているから、彼のハチャメチャさはよく知られている。それに浮気とかの疑いがあればむしろ喜んで相手を迎え入れるだろうから変にネジ曲がって伝わっても危害が加わる事は無いから安心してほしい。
「どんな嫁だ!?それに安心出来るか!!あんたとは友人付き合い程度の関係で十分だよ。全く王族だからか?これだからお高い身分の奴は面倒だね」
「オレは元はただの農家だよ。それと価値観の違いで片付けられる話でも無いと思うが……最近は特に押しが強くてオレだって困ってるんだ」
「ん、何かあったのかい?」
なんの躊躇もなく訊いてくるか……いや、友人としてはこれぐらい砕けている方が望ましいか。にしても、気付いてる連中はさておき、初めに伝えるのがダダンとはな。
「……が出来た」
「なんだい?聞こえないよ」
「……子どもが出来たらしい」
「へぇそれはめでたいじゃ……子ども?アスカルとその奥さんとの間にかい?」
一応国のトップなので跡継ぎとかの問題もあった。建国したてからこれまで忙しい日々を過ごしていたがようやく落ち着いてきたからな。そういう時間もとれる様になってきた訳だ。
「それで自分が相手出来ない間の相手をってのは王族なら普通の事なのか?」
「知るか……」
心底理解できないといった表情を浮かべて問うてくれるのは別に構わないがその答えをオレは持ち合わせていない。だからこそオレも悩んでいるんだ。
「どうなるか分からないがルフィやエースに会わせる機会もあるかもな」
「無いとは思うけどうちに預けるんじゃないよ」
「あの爺さんと一緒にしないでくれ」
タイトル以外の内容も含まれますが、いい感じに纏められなかった。
それにしてもようやっと原作開始の兆しが見えてきましたね。今が原作開始の10年前、今連載中の時期から12年前を書いてます。
正直、干渉するような部分はあらかた終わってきたから、後は既に干渉した場所にまた触れなら次の章、ようやく原作開始時のを書けそうです。
それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。