私はプラントの裏に位置し、表に出たとしても内側を明かすことは出来ない部隊、『
『獣憑き』は憚ることなく言えば天竜人の支配から離れた逃亡奴隷によって形成されている部隊です。まぁ、一部例外も居ますが、その事情により外に出なくても口が裂けても音には出来ません。
そもそも聖地から逃げたは良いものの、宛など無い中で悲観にくれていた際にあの方達が、サイフォ殿とモル殿がアスカル様の命令を受けてやってきたのが始まりでした。
出会ってすぐに行われたのはモル殿の能力とサイフォ殿の話術による選別。これに合格出来たことを後から思い返してどれだけホッとした事か……
選ばれ無かった者の事を考えない訳では無いですが、他人を優先している余裕なんてありません。明日と言わず数秒後に死んでもおかしくない状況では自分が大事です。
生き汚いと言われれば死にたがりの偽善者めと言い返してあげましょう。それだけなりふり構わない生きる意志を持っていたからこそ今此処にいるのです。
そしてプラントにやって来て与えられたのがこれまでの自分の全てを捨てるという自らの手で過去の自分を殺す決断。
『TEMPO』……これは万が一に漏れても辿り着かれる事の無い様にと用意された仮称です。幹部以上の者でも一部の者しか正式名称は教えられていません。
私達などとは比べ物にもならないくらい遥かに長くプラントに居る方でも一部しか教えられていない極秘。それなのにその数少ない一部の一人に私は入っています。直接関わるが故でしょうが、少し畏れ多い気持ちがあります。
『Beastly Possession Medicine』…そのまま読むと『獣憑きの薬』…それを約して『BPM』。それ故に仮称が『TEMPO』となったそうです。
全く別のジャンルの用語に絡める事で偽装も簡単になるらしく、音楽関係に見える様な書類を数枚見かけたことがあります。
『獣憑き』の存在がバレても、まず疑われるのは悪魔の実です。むしろ動物系の悪魔の実の能力者による部隊だと勘違いされやすい。それ故にそちらは大っぴらに呼んだとしても問題は無いです。
ですがそれらが悪魔の実とは関係のない薬によってもたらされる事が知られないようにしなければいけません。
『TEMPO』も『BPM』もそれだけを聞いた所で薬の名称だとは思えません。目立つのは『獣憑き』という部隊名ばかりとなれば成功です。
そのため謀の出来ない小人の方々には知らせない事が決まり、知っているのが開発者と指導者を含めた関係者だけなのです。
それだけ厳重に隠している薬ですが、最近では改良はしていても使われてはいないそうです。
それもそのはずで奴隷をプラントに送っていたフィッシャー・タイガー殿。私達の恩人である彼が死んでからはプラントに姿を偽る必要がある者が来ないからです。
基本的には秘匿する部隊が故にそこまで数を増やすのも問題だと思われるので現状は別に悪いわけではありません。
たまにグラン・テゾーロから獣憑きへ送られてくる奴隷も居ますし、最初に言った通り事情があり過去を捨てざるをえない者も稀に来ます。
そういった方々は後がないのが普通のため覚悟は決まってますし、実際に成ってからは感謝もあって裏切る事はないので制御はしやすいです。
それに、スパイらしき方々は事前に弾かれて私まで回ってきませんので部隊運用以外は本当に考えなくて良いので意外と楽です。
とはいってもその部隊運用が大事だからこそリーダーなのですがね。選ばれた際には不思議に思い、任命理由を訊ねた事があります。
その答えが出自が出自故に地頭が悪くなく、状況判断や指揮能力が他より高かったからとのことです。情けない事ですが強さで言えばぎりぎり下から数えた方が早いぐらいですからね。そこまで聞いてようやく納得しました。
もう一つ上げるとすれば『TEMPO』との相性が良かったのも理由でしょう。環境が劣悪だったゆえに小柄な身体に薬がよく回っただけかもしれませんが、第一世代で完全発現しているのは10人にも満たないのですから。
『TEMPO』の改良が進んでいく中、第二世代や第三世代を合わせてもまだ3人しか完全発現者は出ていません。第一世代と比べて人数が少ないというのもありますがそれでも珍しい事です。
動物系の悪魔の実の様に形態変化が出来る訳では無いが、意識することで獣の姿を濃くし、その力を十全に扱える…それがどれだけ強いかは考えるまでもありません。
それなのに戦闘訓練では下から数えた方が早いのは恥じ入るべきなのでしょう。ですがこればかりはセンスの問題もあるので仕方ないと思って欲しいものです。
出来ない事をやる必要は無いのです。私に出来ることを全うし、少しでも恩を返す、それで良いのです。その邪魔をするものは使えるもの全てを使って薙ぎ払うまで。
全てはプラントの為に、ひいてはプラントの王であるアスカル様の為に、この身の血の一滴までもこの大地へと捧げましょう。……ところでなんで私の腕を掴んでいるんですか?
「貴女を止める為ですね」
「新人が引くのでそれぐらいにしてください」
第四世代で初めての完全発現者が現れたのですよ。次の部隊の隊長候補なのですから今のうちからしっかりと指導するのは当然の事です。
「総隊長に選ばれたのはあれだけ狂信的なら裏切る心配ないからだろ……」
「チューさんの次に小柄で可愛いのにあれでは詐欺ですね」
「私達もアスカル様への感謝はありますけど……」
「まぁ、あいつには負けるよな」
「そもそも下から数えた方が早いのだって訓練だからですわよね」
「殺しありならトップ3に余裕で入るな」
「流石は血狼様だな」
「新人の内に恐怖を植え付けるのか怖え、怖え」
何やら私の狼の耳がおかしな話し声を拾っているんですが気の所為でしょう。そして、私のコードネームは『月狼』です。
えぇ、私は隊長ですからこんな扱いを受けるのはおかしい訳ですからね。だからそろそろ放してはくれませんかね。ちょっと……
結局は新人を指導するのは他の隊長達に任せる事になってしまいました。私は当たり前の事をしようとしているだけなのになんで分かって貰えないのでしょう。
何はともあれこの牙はプラントの敵を屠る為に、獣憑きが総隊長