色々と、本当に色々と面倒な日々を過ごす事になったけれども、王族からの紹介と言う最高の後押しのおかげでスムーズに再コーティングを終える事が出来たの。
コーティングに掛かる三日の間に追っ手が来る可能性も考えたけど、そんな事は全くなく、そのまま魚人島も出られたし、後は目指せアラバスタなの。
コーティングは万全にしてもらって多少の損耗は気にしなくても大丈夫そうだからジャンプシステムをポンポン使いながら海上へとひとっ飛びなの。
水圧が消えて、本来の気圧に戻ったのと同時にコーティングがパチンと剥がれて船本来の浮力が戻り、波を受けての普通の航海へと切り替わるの。
「えぇっと、あちゃ〜なの…記録指針と海流からみて第七航路の前半到達地点の海域なの」
海流や海獣次第で船の動かし方は変えざるをえないの。それに加えて、新世界を目指すルートと比べて前半へ戻るルートは開拓があまりされてないの。
だから前半へ向けての海中航海の航路は選べないのが今回の事態の原因とも言えるの。
そもそも選べるのであればこの海域だけは避けたいと言うのが情報を持つものなら当たり前なの。浮かび上がった後ではあるけど、この船と設備なら今からでも避けられるけれど…
「これ、マジなの……」
今、あたしの目の前には涙を盛大に流しながら声を上げている電伝虫が鎮座しているの。
偉大なる航路前半の七本の航路の内、正式では無いがプラントの海図で七番と定義付けられている航路を辿って辿り着く魚人島とその手前の島を繋ぐ航路。
偉大なる航路でありながらこの第七航路の最後は海流が大きく変わらない特徴がある。凪の海から大きく引き込む様に航路を回り続ける大渦の様な大海流はそこに住まう存在も構いやしない。
それどころか第六航路の島々と近いせいで初めの航海や後半の海ほどではないが空はコロコロと顔を変え、かなりの荒れ模様となる。
荒れて色の変わった海と静かな凪の海との境界線は綺麗に別れており、遠くから見るとまるで陸と海を隔てる海岸線にも見え、この海域の名にも海岸と付けられている。
波風立たない凪の海と違い、嵐や竜巻、暑い日差しや凍える吹雪、多くの気候に襲われる中で共に現れる人々よりはるか巨大な生物の入り乱れる。
荒波の中に消えた船の中でも丈夫な竜骨だけが渦の外まで残り、生存競争を強制させられた海の王の名を持つ生物達の残された死骸が絡まる。
乱立し残り続けるこの航路の象徴達は宝の山であると共にあらゆるものに向けた死の啓示と受け取られる。
絶対の死の海を前にして伝承の龍でさえも呑まれれば命は無いと言われており、三つの意味を込めてこの海域はこう呼ばれている。
「
そもそもとして此処を突っ切って行こうとする船はよっぽどの馬鹿か、これ以上後がなくてお宝目当てと言った大馬鹿者くらいなの。
大抵の船が一つ二つ前の島で明らかにボッタクリ価格の
だから結果として『魔の三角地帯』が船の行き交う航路としては前半で最も危険な海域とされているの。これがもし船の通らない場所を含めるとすれば一位の座は即座に入れ替わるの。
そんな海域では罠に嵌める云々の話はなく、この海域には海軍も寄り付かないの。だから、この救助信号は間違いなく本当に助けを求めているものではあるの。とは言っても……
「事情があって此処を通る事なんてあるわけ無いし、まず間違いなくロクデナシなの…」
海王類の素材か、難破した船の財宝か、それ以外にも歴史的な価値が期待できる物なんかもあるかもしれないの。それらを自ら求めてやってきて、それで死にかけているの。
そんなの言うまでもなく自業自得なの。まず船はもちろん、人っ子ひとり寄り付かない海域で、奇跡を信じて電伝虫の電波を送っていたとしても……
「ああっ!!もうなの!! [あなたは一体何処の誰で!!何をしていてどうなって!!何処から電波を飛ばしていて!!何が必要なの!!]」
世界もビックリなお人好しさ加減がやめられない自分自身に嫌になりながら気付けば電伝虫を手に持って叫んでいたの。
[この声、幻聴じゃねぇよな。電伝虫の顔変わってるよな!?頼む助けてくれ!!俺は海軍本部中佐、
本当に海軍なのかと言う疑問がまず浮かぶの。この海域に近寄る事はまず無いのは間違い無いはず…罠の類かと勘繰りたくなるけど、アイツラと言う言葉に嫌な予感がするの。
[落ち着くの!!罠の類なら容赦しないけど、本当に助けを求めているのなら行くから場所の情報を伝えるの!!]
[あ、ああ!! こ、ここは大渦の下層にある船の墓場だ!!舵を失い、引き込まれた船が塔の様に積み重なってる場所だ。船は無駄にデカくて、
なるほど…とりあえず罠で無い限りは助けても問題なさそうなの。その後が面倒になりそうだけど、流石に可哀想な被害者を放置は出来ないの。
[ま、こっちは小型船だけど大船に乗ったつもりで待ってると良いの]
あれは無理難題どころでは無かった。ただただ理不尽な命令を受けざるを得なかった。
自分たちに献上される筈だった物を奪った海賊が龍骨海岸で消息を絶ったから探してこい。
そんな簡単なお使いでもさせるかのように新世界に負けず劣らずの危険地帯へ船を進める運びになった。
それも使い慣れた軍艦ではなく、装飾が多く、無駄に大きく作られた見栄の為に作られた船だ。
天竜人の命で動く事を知らしめる必要があるとか、献上品を全て載せるのに必要だとか言われたが、軍艦だったらもっとやりようもあっただろう。
龍骨海岸を通る船は少ない上に生き残るだけで精一杯な為に海戦になる心配は少なかった。
だが、恐るべき自然の驚異を前にして金だけを掛けたガラクタは直ぐに動かなくなった。
流されて船の墓場へ向かう途中でも海王類は湧き続けるし、天候の脅威も留まることはない。
実力の低いものから船体が削られていくのと比例してその命も失われていった。
そして辿り着いた船の墓場は脱出する事は叶わないが、岩礁や積み上がった船の影響か、海王類は現れなかった。
それでも段々と物資は減っていき、この下層の墓場は冷気が漂うのか時間の経過と共に体調を崩してしまう者が増えていった。
あれだけ海王類相手に大立ち回りをしてみせた少将も寒さと飢えの前にはなす術なく、呆気なく死んでしまった。
不幸中の幸い、そう呼びたくは無いが俺は自身の能力のおかげでこの環境下でも生き残る事が出来た。
身体を獣のものへと変える事で寒さから身を守り、積み重なった船の墓場に生えている草や地衣類を食して飢えも防げた。
だが、たった一人でこの極限的な環境に身を置き続けていると気が狂いそうになる。
俺は届く訳も無いのに電伝虫を鳴らし始めた。毎日、必ずそれを掛けることを仕事にして、役割を持つことで自身を保とうとした。それに繋がらない電伝虫の声ですら愛おしく思えたのだ。
繋がる筈も無かったんだ。その筈だった。それなのにいつもと同じ様に鳴いていた電伝虫がガチャっと音を出した。
[あなたは一体何処の誰で!!何をしていてどうなって!!何処から電波を飛ばしていて!!何が必要なの!!]
幻聴かと思った。電伝虫が顔を真似ている姿も幻覚だと思った。ついに狂ってしまった自分自身が見せている都合の良い夢だと思った。
だが違ったんだ。確かに電伝虫はその場にあって、確かに向こうから送られる声を届けている。
俺は必死に叫んで、助けを求めた。相手に聞かれている事にきちんと答えられていたかは定かではないが、必死に、ただただ声を上げていた。
どうにか場所と船の特徴を伝えきると呆れた様な表情を電伝虫が浮かべ、その直後にまばゆい笑顔を幻視した。
[ま、こっちは小型船だけど大船に乗ったつもりで待ってると良いの]
まだ助けが確実なものになった訳でもないのに安心が俺の中に広がっていた。そして、正しく正常な冷静さを取り戻して準備を始めた。助けられる準備を、生き残る為の準備を……
「諦めなくて良かった……」
だが、この数秒間だけは子供のように泣きじゃくっても赦してくれないだろうか?
キール・コーストの危険要素を簡単に纏めるとコロコロと変わる天候、抜け出す事の難しい大渦の海流、棲み着く飢えた海王類の三つになるの。
あんな啖呵を切った手前でなんだけど、幾ら機能が盛り沢山でもこんな小型船で行く様な場所では決して無いの。
ジャンプを利用したとしても急な突風にあおられれば宙に舞う落ち葉の様に弱いし、翔んだ先に海王類が口を開けていたら海に落ちる危険を承知で戦う必要が出てくるの。
他に船を操作する人材もなく、能力者でカナヅチなあたしは本来なら絶対に避けるべき海域なの。
「だからなんなの、可能性の芽は死んでないの」
諦めて泣き寝入るお姫様なんて真っ平ごめんなの。腐ってなるものか、花咲かせるにも初めは種から…『
タネタネの基本的な能力は中身の無い空っぽの『空種』の生成、大元の植物を材料にしての種の作成、そして種の操作なの。
覇気と合わせてなんとかなったのは周りに助けてくれる人が多かったからなの。此処に居るのはあたし一人、今こそ自分の殻を破ってそれこそ芽吹いてなんぼなの。
「種は芽吹くもの…凝縮された一個の生命…次代へと運ぶ揺り籠…操るのではなく生み出す…タネタネの真髄は…命を宿すこと!!」
新しく命を作り出す、その意味は言葉として口に出す以上の重さがあるの。能力を使う上でも色々と効果に値する対価が必要になるの。
種が芽吹くのに必要なエネルギーを全て用意しないといけないの…体力だけで賄いきれないなら外から持ってくれば良いの。
『
今なら空の種に一々手ずから込めるんじゃなくて種自身が周りから指定したものを集められる。荒れ狂う海王類達はもちろん、残った死骸も十分エネルギーに満ちてるの。
『
効率的に集める為、広範囲に種を飛ばす為の優れた機構をプラスしてあげれば、荒れた天気に負けながらも必要なエネルギーは直ぐに溜まったの。
この手で生み出す初めての個としての生命、この荒れた海を征し、海王類にも負けずに船を運べる強い子を…そして、どうせなら可愛い子を…
『
「可能性よ芽吹きなさい、さぁ生まれておいで"
材料が材料だから見た目は少し厳つくなって、骨の様に白い外骨格が付いているの。それに加えて海獣らしい大きさだけどそれ以外は普通のラッコと大差はないの。
ラッコが海王類と戦えるのかと思うかもしれないけど、強い歯と咬合力を持って硬い貝さえも捕食し、性格も凶暴と言え、生態系では頂点捕食者に入るの。
まぁ、あたしが生み出したのと材料の関係で強化もされてるからなんとかなるの。今だって少し不安定になっていたこの舟を抱えながら浮かんでくれている優しい可愛い子なの。
「ちゃんとこの海でも問題なく浮けてるの。そうだ、あなたの名前は"レムナント"に決めたの」
「キュ?」
どんな海でも沈むことの無い
「さて、貴方の力があれば転覆の心配も、沈没の心配もないし、外骨格と空気を含んだ毛で海王類に対する防御も期待できそうなの」
「キュキュー!!」
任せろと言わんばかりに高々と上げている声がとっても頼もしいの。最悪船が沈んで溺れたとしても引き上げてもらえる可能性があるのは大きいの。
そう言えば転覆の心配が無いなら海王類と戦うのはレムナントじゃなくてあたしでも良いわけだから危険度はグッと減ったと見ていいの。万が一があるとしたら…新世界クラスのヤバい天候を引いたときくらいなの。
「…『
大渦の中をゆらゆらとしながら、舟の後方から襲いかかってきた海王類を特に力を込めた『吸収種』で吸い取って仕留めるの。
まだまだこんなのがたくさん出てくると考えると『吸収種』での戦闘は控えた方が良さそうなの。『完全吸収種』までいくと慣れてないのもあってか消耗が激しすぎるの。
「基本的にはいつもの種と覇気なの」
完全吸収した事で手元に現れた海王類の卵をその手に持ちながら、やる事は変わらないと海域の深くへ進んでいった。
もしもし作者、作者さんよ〜
どうしてそんなに(更新)のろいのか〜
どの作品も更新が止まっていましたが、どうにか一話ですけどプラントオーナー更新いたしました。
普通に作業が思うように進まないのもそうだけど、Switch2が当たらなくてモチベは一気に低下しましたね。(←第三回も落ちてる)あと、最近ただただ暑い…(とまぁ寝ぼけた理由ですね)
今回はアスカルに続いてグレーヌの悪魔の実の覚醒ですね。強者との戦いと能力の本質に関わる場所へ至った事で覚醒したアスカルと種の在り方、力の使い方を完全に理解した事で至ったグレーヌ。
実際のところ覚醒の条件やタイミングってよく分かりませんのでね。色々と考察とかも複数目を通しましたがどうにもならないので、もし今後正しい情報が出てきてもソレはソレです。
今回グレーヌの能力に関してはかなり悩んだと言うか、話は戻るんですが覚醒の事で、超人系の覚醒が幅広くて設定しづらかった。
周囲に影響を与えたり、操作性が上がったり、五感とかに作用したり、能力の拡張性が高まったり、共通しているものもあれば全然違うのもあって難しい。
グレーヌのは能力の拡張性が高まる感じで設定していませ。種→植物の種だった所から動物とか、種(しゅ)全般に及ぶ様になったり、生命により深く影響を与えられる様になりました。後は種の強化とかが増えた。
後は味方というか、グレーヌの旅仲間は初めから組み込もうと考えており、それがまぁ今回のですね。元海軍とラッコ…こうして言葉にするとなんとも特徴的。
まぁ、長話もなんなのでこれくらいで。
いつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。
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海賊だったら
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海軍だったら
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賞金稼ぎだったら