あの全てを呑み込む光の奔流を目にした時点で私の行動は決まっていた。種で防ぐことは出来ないし、何かを取り出そうとしても取り出した傍から黄金化するのが理解できた。だからこそ全員が戦闘不能にならないために切り札を使うしかなかった。
「『
寿命を込めて作られたこの種は自身の保険である。たとえ死んでも種から私が育ち、蘇ることが出来る。成長に関しては操作できない為に少し時間が掛かるのはしょうがないとして、植えた場所にしか蘇れない制約、それに加え払う寿命の量はそれなりの代償だが、それに見合うだけの価値はあった。自身の無事を確認して顔を上げるとソレが目に入った。
「まだ、残ってたんだ」
あたしの目の前にあるのは小さな墓だった。刻まれた名前はプラント・マニュ、ここはプラントの王城の中庭に置かれたあたしのお母さんの墓だ。その隣に置かれたささやかな花壇に、お母さんのすぐ近くにこっそりと自分の命の欠片を埋めていた。
プラント自体がどうなっているのか把握していなかったあたしは城壁を駆け上り、国の全貌を見渡した。確かにそこにある国の姿は見慣れた者だった。しかし、国の空を完全に覆っている天井を見て、プラントが置かれているのはどこかの海の底だろうとあたりをつけた。
「ボスも流石に国を壊すような事はしなかったな」
「サイフォ……なんで、ここに居るの?」
後ろから聞こえてきた声に驚きを通り越して逆に冷静になって訊き返すことが出来た。それでもいざとなったら抵抗できるようにと服の内側に種を生み出して準備はしている。するともう一人別の声が聞こえてきた。
「塔を守ってアレを生み出すのを邪魔させないのがアタシたちの仕事だった。それも終わってここを守ろうと戻っていたら、お得意の見聞色で生き返ったお前を感知したんだとよ」
「ピアスまで……」
この二人を同時に相手取ると逃げられるかどうかも怪しくなる。アレを止めなければいけないと言うのに、ここでアタシが止まる訳にはいかない。覚悟を決めようとしたところで二人から手で制された。
「戦う気は無い。と言うよりはその必要が無い」
「これを見なよ。グレーヌ」
渡されたのは一枚の新聞、その日付はあの戦いの日より3日も経っていた。生き返りに思ってたより時間が掛かったようで他のみんなが無事なのか心配になる。そして、その記事にはバベルの概要と世界政府の崩壊、天竜人の死が報じられていた。そして一面には黄金の龍、ファーブニルの姿が載っていた。
「【『政府を滅ぼした黄金の龍『ファーブニル』その進撃は止まらず!!】バベルと言う組織の手によって生み出された黄金の巨龍、とある筋から手に入れたその名は『ファーブニル』!!一撃のもとに政府と天竜人を滅ぼしたその恐ろしさは語るまでも無い。島々を呑み込みながら、赤い土の大陸を黄金に染め上げていくその姿、世界が崩壊する時も間近か!?』これは……?」
「あの世界経済新聞も情報を集めるのに時間が掛かったみたいだな。まあ、どこからファーブニルの名を仕入れたのかは謎だけどな。あの日、お前らを倒した後でファーブニルは聖地を破壊し、天竜人を殺し、政府を崩壊させた」
「そして未だにその動きを止めていないみたいでね。狂って全てを恨んだアスカル様の事だ。テゾーロの犠牲も考えるに、神だけじゃ飽き足らず、言葉通りの意味で世界に復讐するつもりなんだろうよ」
「そ、そんなことはダメなの!!今すぐ行かないと!!」
私は顔色を変えて叫んだ。考えなんて何も無いけど、思いだけで走り始めようとしたがその動きは遮られた。サイフォ、なんで止めるの?ピアス、なんでそんな顔で私を見るの?やめて、やめてよ。
「此処から出れたとして出来る事があるのか?ホーニィとモーダスを確保したのは種を上手く使うためだろうが、それでボスを止める事は出来ないだろうな」
「そんなこと……」
「お前の心配をしていたのは分身のボスだけだったな?本体のボスはお前も含めて攻撃を放ったな?それを考えればテゾーロの方がまだ理性的だ……部下やお前を見逃す程度にはな。それでも同じ復讐者同士の共鳴か、動き出した2人は止まらなく、いや止まれなくなっていった。止まれなくなった二人によって作られたのが今のこの世界だ!!」
「……」
「グレーヌ……アンタからしたら親父を止めたいだけで、世界や政府なんてそれこそ本当はどうでも良いんだろ?お前は親父とプラントが、日常が無くなるのが嫌だっただけだからな。もちろん、周りを心配する気持ちが0だったとは言わないよ。だけど、その一番の目的だった親父を止めるのが一番無理なんだよ。アタシじゃなくてもそう言うさ。なんなら試してみると良い、モーダスとホーニィは回収してあるからね。その種もいくつか持ってるんだろ?」
その言葉に俯きながらもお父さんの説得に使う予定だった種を一つ取り出した。その種から育つ植物の名は『リリー・カーネーション』、別名『死と再生の花』、不気味な別名の通り、生贄を与える事で死者を蘇えらせると言う禁忌の花。
「マニュ様に、母親に訊いてみると良い。ホーニィの力を借りれば数分間程度なら代償無しに話せるんだろ?」
私は突きつけられた現実に狼狽えながら、その申し出に頷いた。もう、それに縋るしか無かったんだ。あたしはモーダスとホーニィの居場所を聞き、そこに向かった。見慣れた国の風景に安心し、そこに無いお父さんの姿に落胆していると声が響いた。
「あ、グレーヌちゃんなのね」
「本当だ。何してる?」
「あら、グレーヌ王女、いつから戻っていたのですか?」
「元気がないみたいだけど、どうしたんだ!!」
「あ、四隊長……久しぶりなの」
それぞれ名前をポコ、フィン、ティア、デルと言う、プラントの初期からの住人。仕事やエリアを任されている人たちのトップに立ち、本国における幹部直属の部下の様な扱いで、プラントの準幹部と言えるような人達だ。昔はよく遊んでもらってたのを思い出した。と言うかあたしの口調はポコ姉の影響が大半なの。
「どうしたのね?悩みならお姉さんに話してみると良いのね」
「ポコじゃ不安だろうな」
「失礼なのね。これでも頼れる大人なのね!!」
「周囲の人はいませんが、そう騒ぐと部下に示しがつきませんよ」
「話したくない、話さなくて良い」
「ま、たぶんアスカル様の事なのね」
「バカ!?そんなストレートに!!」
どこかぎこちなさは感じていたが、不安そうにしているあたしを励ましているのだと思っていた。しかし、ポコ姉に突っ込んだデル兄の言い方でその理由が分かった。
「……知ってるの?」
あたしの短い疑問の言葉にポコ姉以外が少し気まずそうにしながら答えた。
「一応幹部不在の時は国を任される立場だからな」
「バベル、概要は既知」
「私達は新聞の情報も伝えられてます」
「これでも私は偉い方なのね!!」
「……どうするべきだった?これから、どうすれば良いの?」
その言葉に直ぐに応えたのはポコ姉だった。
「分かんないのね!!だって私はアスカル様でもグレーヌちゃんでもないのね。それに私は感覚派で考えるのは苦手なのね。だけど、なんでも自分の好きな様にやるのが一番だとは思うのね!!」
それ以上は何も言えないからとポコ姉は去って行った。次に口を開いたのはデル兄だった。
「まったく、アイツは好き勝手言って……悪いなグレーヌ。だが、あれも一つの答えだ。あいつの言う通り、たとえ覇気が使えても相手の全てが分かるような事は無いんだ。正しいか正しくないかなんてのも誰にも分からない。だからこそ俺はどうなろうがお前を否定することはない。言えるのはそれぐらいだ」
そう言ってデル兄も居なくなった。次はフィン兄だ。
「止まるな!進め!!」
端的、と言う他ない言葉だった。だけどフィン兄らしい。最後はティア姉だ。
「私達はアスカル様にやりたい事をやらせてもらい、それが回りまわって今の地位にいます。ポコの言う様に自分で望み、デルの言う様に自分を信じ、フィンの言う様に進み続けた…その結果が今の私達です。グレーヌ王女、いえ、グレーヌ、貴女がやりたい事を私たちは応援します。不安な時は助けてくれる人を、自分の味方を思い浮かべてください。貴女は一人じゃないんですから」
伝えきると丁寧に礼をしてからティア姉も去って行った。
「サイフォやピアスの言う通り無理なのかな。それでもあたしの望みは……」
無理だと言われた、好きにやって良いと言われた。みんな、自分勝手だ。もちろん、あたしも含めて自分勝手だ。悩み自体は無くならず、別の悩みを増やして重い足取りで目的地へとただ歩き続けた。
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「回収してあるって、このままなの?」
目的地に着いたグレーヌの目に入ったのは黄金に染まったままのサウザンド・サニー号だった。あの黄金の息吹は全てをそのままに黄金に変える。しかし、海水をかける事で解く事も可能だ。グレーヌはまだ残ってる海水の種を取り出して解放した。
「どうなってんだこりゃぁ?」
「ここは何処だ?」
「あれ、黄金の龍は?」
ルフィたちはあの時のまま、固まり続けていたのだろう。目が覚めた彼らにグレーヌはここがプラントである事を伝え、新聞を含めた情報を渡した。モーダスとホーニィ、それとモルも倒された時のままみたいで目覚めるのに少し時間が掛かりそうなのでちょうど良いだろう。
「3日も経ってんのか!?」
「おいおい、世界政府が壊滅って……」
「マジでやりやがったのか」
「窒息どころか衰弱もしてないあたり、あくまで封じる能力か」
「ヨホホ、生きた心地がしませんでしたね。私もう死んでるんですけど」
「サニーも黄金化の副作用で、傷一つ無さそうだ」
「未だに食料の供給が途絶えているはずなのに、懸念していた戦争の話題は無いわね」
「ファーブニルが良くも悪くも混乱を招いて戦争どころじゃないんじゃないかしら」
情報を確認し、現状とすり合わせていく彼らを待っていると、ルフィだけは別の方向を見ていた。
「負けたのか……」
小さく零れた言葉に周囲も一瞬静まり返った。だけど次の瞬間にはその静寂を作り出した本人がぶち壊した。
「うっし、リベンジだ。次は敗けねえぞ。グレーヌ、ここプラントなんだろ。食いもん無いのか?腹減った、メシ!!」
何も出来ずに黄金の光に呑み込まれたにも関わらず、再戦を望むルフィに呆れながらも驚きを表すグレーヌ、だけどその騒がしさに笑みがこぼれる。
「もちろん!!ここは食の宝庫、世界最大の食料生産国プラントなの。ホーニィとモーダスが起きるまで時間もある事だし、腹ごしらえするの!!」
そう言うと食材と料理を城に運ぶように4隊長を捕まえて秘密裏にお願いした。まだ、国民全員に知らせるには早すぎる。
「ちょうど来たか、食事をすると聞こえたから場は整えて置いたからな。好きに使うと良い、ピアスは海鮮の類を用意しに行ってる」
「相変わらずなの……でもありがとうなの、サイフォ」
城に着くとサイフォが待っており、既に会場の準備を終えていた。広大な国土の全てを細かに見通す見聞色を目の当たりにしてルフィ達も感嘆している。
「空島の神を軽く超えてやがるな」
「サイフォは海の向こうまでも見通し、聞き逃さないの。ビックマム海賊団の未来を見る覇気の使い手とはまた違う見聞色の極地、その体現者なの」
「そう言われてもな。俺は諜報には役立つが、それ以外は半端なんだがな」
「戦闘員でもないのに七武海を相手に足止めが出来てる時点でおかしい事に気付くなの」
呆れた様子で呟きながらも会場に入る。時期に食料と料理が届き始め、完成品は会場を埋め尽くすように並べられていった。食材の方も一つ一つが高品質で、伝説で語られる様な物までも用意されていた。
「こいつは!?」
「ここにいる面子で料理出来るのはお前とグレーヌぐらいだから、食材の方は任せたぞ」
「はっ、これだけの物があるんだ。満足いくものを出してやるよ」
「ゆっくり料理なんて久しぶりなの」
腕が成ると言わんばかりに調理場に入って行く二人、そして既に出来上がっている料理に群がる他のメンバー達、特にルフィは散々戦い、最後には覇気を消費しきっていたので消費したエネルギーを回収するかのように目の前の料理を口に含んでいた。
「うっめー、この料理うめぇぞ」
「おいおい、喰いすぎだルフィ、俺らの分を残しとけよ」
「でも本当に美味いな」
「ああ、酒も良い物だ。こりゃいい」
「ヨホホ、疲労も吹き飛びそうですね」
「おい、コーラはねえのか?」
「うそ、このサラダの味、食感もすごい」
「新鮮でシャキシャキの食感、噛むほどに溢れる様な濃縮された素材の味、それにドレッシングも合う」
「あー、スープが落ち着くというかしみわたる」
「ほらっ、料理の追加だ」
「プラント名物の土壌料理や私の種料理なんかもあるの」
「ほれっ、少し潜って魚介類を獲ってきたぞ」
様々な食材を使って次々と出された料理を味わい、サンジも見たこと無い食材や自身の知らない調理法などに心を躍らせている。楽しい雰囲気が続き、不安を吹き飛ばすように騒ぎは日が変わるまで続いていった。途中でモーダスとホーニィも起きたが、ルフィ達と同じく戦っていた三日前から意識は固まっていたのに起きたばっかりで宴が開かれている事に困惑していたが、いざこざは起こらず一度だけの協力を取り付けることが出来た。
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小さな墓の前に全員が揃っていた。そしてグレーヌの手の中にある種をそっと植えた。そして回復したモーダスとホーニィが前に出てきた。
「それじゃあ、やるレスよ?」
「うん、お願いなの」
「『急成長・リリーカーネーション』」
「『操作』レス、蘇ってください。
リリーカーネーション、オマツリ島と言う島に咲く固有植物でその効果は生贄と言う代償持って行われる死者の蘇生、今回は悪魔の実の力で無理やり操作しているので生贄は要らない。しかし、話せる時間も短いが確かにそこに彼女は現れた。
「久しぶりに呼び起こされたと思えば、
頭にリリーカーネーションで蘇った者の印である葉っぱをつけて、確かに墓の前に立っているのはアスカル王の妻であり、グレーヌの母親であるプラント・マニュその人であった。彼女は周囲を見ると微笑みながら状況の説明を願い、グレーヌは何が起きたのかを一つずつ語っていった。
「そう、あの人が……そこまで壊れてしまったのね……グレーヌ、貴女は私に説得させるつもりだったのでしょう?」
「そうなの……私で駄目でも母さんなら!!」
「いいえ、それに意味はないわ。私は既に昔に蘇った事があり、その時に復讐などはしない様に伝えました。それでも彼は止まらなかった……それが答えです。私の声もとうに届きはしないのですよ」
「そんな……」
その言葉に絶望の表情を浮かべるグレーヌ、彼女がリリーカーネーションの事を知って居たように、アスカルも幹部たちもその存在は知っていた。だけど今のこの現状になっているという事が答えに他ならなかった。
「サイフォやピアスは知ってたの?」
「予想はしていたな」
「一時期リリーカーネーションの研究、実験、改造が行われていたのは目にしていたからね。当然モーダスとホーニィも手伝ってたんだろ?」
ピアスの言葉に頷く二人を見て更に項垂れるグレーヌ、母の言葉であれば止まるのではないか、その考えは甘すぎたのだ。
「かんけーねーだろ」
「!?」
「彼は……?」
ルフィの事を知らないマニュに手伝ってもらってる経緯とルフィ達の立場などを端的に伝える。
「なあ、グレーヌ、お前はアスカルを止めたいのか?」
「何を始めから私はお父さんを止めようと……」
「その割にはお前本気にみえないけどな」
「な!?いくらルフィでも許さないの!!」
「だって口で止めたいって言いながら止めようと動いてないじゃねーか」
その言葉に驚いているのはグレーヌだけでなく、グレーヌに諦めるよう伝えていたサイフォとピアスもだった。
「まあルフィの言い分も少しは分かる…グレーヌちゃんにはどこかちぐはぐな印象は感じてた」
「てめえ、止めなきゃってより止まって欲しいって気持ちの方が強いだろ?」
そこまで言うとグレーヌは自身の行動や考えを思い出し、言い返せずに固まる。
「お前はどこかで父親を信じてたんだろ?本体に攻撃されて止まってくれないと気付いて、勝手に止められないって勘違いしてんだろ?諦めた奴に何かが出来る訳がないだろ」
「あ…あぁ…」
「で、どうすんだ。俺たちはリベンジに行くぞ」
「えっ?」
「お前はどうすんだ?一緒に行くか、それとも待ってるのか、それか俺たちを止めるか?」
本当の心の内、自分でも知らなかった。知りたくなかった部分を曝け出され、その上で選択肢を与えられた。その事に困惑を覚えた。
「なんで?」
「お前のやりたいことはお前が決めろ」
それだけを言うとルフィは仲間と出航の準備をするために仲間と一緒に出ていった。それを呆然と見つめる私の肩にそっと手が置かれた。
「難しいわよね。願っても叶わないと知ると、足掻く事さえ忘れてしまいそうになる」
「……」
「だけどね。足掻かなければ切り開けはしないの。私は諦めてしまったことがあるけど、助られてばかりの姫なんてやるせないものよ」
グレーヌは震えていた手を固く握りしめるとルフィ達の後を追いかけた。庭の入り口で振り返るとこちらを見ている全員に手を振った。