10年前によくあったオリ主がフェイトを持ち帰るお話 作:yukimichi
神なんて居なかった。
二度目の人生を送る事になった俺だけど、結局神になんて会わなかったし。
居ないんじゃないかな。
いや、俺は会った事無いだけで、本当の所は居るのかもしれない。
最近そう思った。
俺こと山近カズフサはその日、急に飲みたくなったペプシを買うべく月村の屋敷を抜け出してコンビニに向かっていた。
チャリで行こうかとも思ったがそんな距離でも無いし、普通に徒歩で。
ちなみに別に俺は月村家のお嬢様方の恋人とかじゃない。
敷地内に小さい離れみたいな家があって、そこに住んでいるのだ。
理由は単純で、俺も月村一族の関係者だから。
つっても異能とかがあるわけでも、ついでに言うなら魔力や気や超能力やレアスキルがある訳でもなく。
山近家は月村一族でも下っ端の方の薬剤師の一族なのだ。
仕事は薬草とか調合して漢方っぽいのを作ったり。
ちょっとした傷薬を作ったりして、それを月村一族に卸していた。
ずっと昔に血を別けた、ただ古い付き合いが続く、それだけの関係。
まぁ、俺以外は色々抗争に巻き込まれて死んじゃったんだが。
しかも、忍お嬢が化学薬品系でウチの一族の秘伝の薬剤より効果があって副作用の無い薬をばんばん開発したお陰で、仕事が殆ど無い。
なんというか一族の抗争に巻き込まれて天涯孤独になった俺を助けてくれているというか、そんな感じである。
一応代々受け継いできた調合法を次世代に残すとか文化保存みたいな建前があるが、山近家は月村一族の薬剤師系の家系でも下っ端もいい所なので、ぶっちゃけ大した秘薬の調合方法なんてないわけで。
今じゃ健康グッズの出来損ないを月村家に卸して贅沢しなければギリギリ生きていけるくらいのお金を貰っている、そんな存在が俺である。
21歳高卒。
まぁ、ここ数年はお嬢の想い人である高町家の坊ちゃんにいかにアプローチするか相談に乗るってのが月村本宅に呼び出される唯一の用件であるあたり、俺の重要度の低さが解るだろう。
で、俺の身の上話はこの辺にしてペプシを買いにコンビニまで来た俺の話に戻るのだけれど。
「やべぇ、眼が――――」
視線が、交差してしまった。
今なんか凄い見ちゃいけないものを見た気がする。
いや気のせいだろう。
こんな場所に居るわけが無い。そうだろう?
眼をゴシゴシと擦りもう一度見てみる。
「……どう見てもご本人様だよな」
コンビニとその横のビルとの間、ペットボトル専用ゴミ箱の後ろにそれは居た。
痩せ型だとは思っていたがそんなのはとっくに通り越してげっそりとやつれており、遠めから見ても泥やらなんやらで汚れており、髪の毛もうねって酷いことに成っている。
そう、なんか今にも死にそうな人が近所のコンビニの横にあるビルとビルの隙間に居るのだ。
しかもなんか見覚えのある子が。
「いやいやいやいやいや、ないないないないない。ありえねーって。ありえねーですよ。いやホント意味わかんない」
浮浪児とかリアルで初めてみた。
っていうかマジなんで此処に居んのこの子。
赤い瞳に金の髪。
特徴的っちゃ特徴的だが、会った事も無いこの子の名前が俺にはわかる。
「フェイトさん何してはるんですか……………」
だってここは、リリカルでマジカルな世界なんだから。
「いやもう何なの。まさかヒーロー君やっちゃった?」
フェイトをスルーして店内に入り、ペプシの他にクリームパンと紅茶を買いながらこうなった原因を俺は考えていた。
俺の年は21で確かすずかお嬢が今小学校低学年。
今は初夏、そういやこの前駅前に巨大な樹木が突然生えて消えたとか事件があったな。
リリカルでマジカルが始まります、そんな時期だ。
しかし魔法関係どころか一般人を超える要素が前世の記憶持ちしか無い俺には全く関係ない事である。
そして前世知識チートは21歳じゃ最早役に立たない。
まぁ、小中高と成績だけはそこそこよかったが。
別にトップってワケじゃなかったあたり、ホント凡人である。
そもそもなのはお嬢とは2~3回しか会った事が無いし、いくらバタフライ効果でも俺は関係無いだろう。
となると、多分ヒーロー君辺りが原因なんじゃないかと思う。
ヒーロー君とは、すずかお嬢が友達を集めて屋敷の庭でティーパーティーをする時に連れてきた、唯一の男子同級生の事だ。
紅月と名乗ったその少年は髪の色こそ俺と同じ黒だが、イケメンであり名前の通り眼がちょっと赤い。
しかも剣術の修行中とかで、高町道場に足を踏み入れる人の中では唯一高町の姓を持たない存在とのこと。
修行フラグとか怖いわ。
瞬動とか抜刀術とか普通に使いそう。
ついでに言うならジュエルシードが落ちてくる前からこれ見よがしに首元に待機状態のデバイスをぶら下げている、解りやすいオリ主だった。
んでもって更に言うなら恐らく原作知識持ち。
何せ俺がたまたま忍お嬢に呼ばれてバッタリお茶会で会った時にメッチャ睨まれたからなぁ。
まぁ名乗って代々月村家の屋敷にある植木とか植物の管理してるっていう一般向けの説明したら納得してくれたけど。
どうせ俺の事は原作には登場しないモブだとでも思ったんだろう。
ヘタに絡まれても何も出来ないから正直助かった。
実はそれが本宅の屋敷に俺があまり近寄らない理由でもあったりするのだが。
多分彼の事だ、なのはお嬢に協力してジュエルシード探しでもしてたんだろう。
で、何かが拗れてフェイトが月村家の近所のコンビニのゴミ箱の裏で餓死しそうな顔して通りを眺めていて、俺と眼が合ったわけだ。
ねーよ。
ホント何があったし。
とりあえずペプシをコンビニの前でぐびぐびと飲みながらそんな事を考えていたが、ついに最後まで飲んでしまったのでゴミ箱に放り込む。
ガラン、という音と共に僅かに布が摺れるような音がした。
まだ居るか、フェイトよ。
帰れよ、アルフはどうした。
ったく、ほっとけないが俺に出来ることは殆ど無いぞ。
「あー……買いすぎちまったなー……今さら返品できないしなー……勿体無いけどここに捨てるかー……ノラネコ辺りが食べるだろ」
そうわざわざフェイトに聞こえるように言って俺はクリームパンと紅茶が入ったビニール袋をゆっくりとゴミ箱の向こう側、つまりフェイトが居る方に下ろす。
目線は通りに向けたままで。
あれだ、眼があったら野良猫みたいに絶対逃げると思ったから。
後はまぁ、頑張れ。
悪いが俺に出来るのはここまでだ。
何かうめき声のような今にも消え去りそうな声が聞こえたが、俺は無視して月村の屋敷に帰った。
―――――翌日、深夜。
「まだ居るし」
まだなのかまたなのかは不明だが、気になって今日も一応コンビニに来て見たんだが、何故かフェイトがゴミ箱の後ろからちょっとだけ顔を覗かせていた。
ワケわからん。
つーか帰れよ。
いくら小食設定でもあの量じゃ足りねぇだろ。
とりあえずサンドイッチと菓子パンとお茶を数本購入し、昨日と同じセリフを言ってゴミ箱の後ろに下ろし、さっさと帰った。
かすれたような声が聞こえたが、無視した。
―――――翌日、深夜。
「お前ホントいい加減にしろよ」
二度ある事は三度あった。
何やってんのお前。
理不尽な怒りすら感じた。
リリカルなのはのフェイト・テスタロッサでは無く、1人の家出少女に対して。
隠れ家でも時の庭園でもいいから帰ってシャワー浴びてメシ食って布団で寝ろ。
死にそうな顔でこっち見んな、クソが。
流石にいたたまれなくなってほっとけねーだろうが。
つーかコイツ俺が食い物あげなかったら今頃もう餓死してんじゃねーの?
何なの?ヒーロー君仕事しろ。
親しくもないのに、いきなり金髪の浮浪児の話すんのもな……匿名で手紙でも出すか?
いやでもなぁ……実際彼がどういうスタンスかも知らないしなぁ……
過激派は最近流行らないぞ。
そうじゃなけりゃ浮浪児化してる理由がわからん。
もうホント解らん。
知るかもう、とりあえず保護方向で話聞いてみるか。
俺はここ2日と同じように飲み干したペプシをゴミ箱に捨てると、コンビニで買ったメモ帳にカリカリと伝言を書いて千切り、パンが入ったビニール袋に入れてゴミ箱の後ろに投下して立ち去った。
立ち去る際にまたかすれたような声が聞こえたが、もしかしてあれは「ありがとう」と言っているのだろうか。
聞き取れない以上どうしようもない。
俺は夜の街を1時間ほどフラフラした後にコンビニの前に戻ってきた。
ゴミ箱の上にペットボトルのキャップが一つ置いてある事を確認し、その横を通ってビルの隙間に入ってゆく。
メモにはこう書いてあった。
【帰る家が無いなら寝る場所くらいなら貸すけど、ついて来るなら目の前の箱にペットボトルのフタを乗せておくように】
そういや日本語読めるんだな……アニメでもなのはと会話成立してたし。
ミッド語知らんし通じなかったらどうしようかと後になってヒヤリとしたわ。