10年前によくあったオリ主がフェイトを持ち帰るお話 作:yukimichi
誰もが、分の悪い掛けをしたいわけじゃない。
むしろ大多数の人間は、勝率の低い賭けは避けるだろう。
必然、そういった感性の人間が分の悪い賭けに手を出す場合は、もう本当にどうしようもなく他に手がない場合に限る。
であれば、だ。
賭けに出る前には、賭けに出なくてすむように、あらゆる手段を講じている筈だった。
プレシア・テスタロッサもその一人である。
彼女は愛した娘との再会のため、ありとあらゆる可能性を模索した。
違法な研究もしかり、そして過去の遺物もしかり。
そうした過程で、そこに行きついてしまうのは、最早必然であったかもしれない。
古代ベルカの技術の一つに、精神を抽出、保存する技術がある。
例えば、夜天の書。
現時点では元の名は歴史に埋没し、闇の書と呼ばれるそれ。
そう呼ばれる過程で様々な経緯を辿ったデバイスは、最終的に古代ベルカの騎士を魔力で再現して使役する機能を保有するに至っている。
作成時の夜天の書にそのような機能があったのかは最早時の砂に埋もれ確認する術もないが、少なくとも古代ベルカの騎士を再現する技術は、彼らが存命した古代ベルカに存在したはずである。
それが及ぼした災害が余りに多く、あまりに大規模であったため、そのいくらかの特徴は時空管理局ですら把握していた程だ。
存在こそは知っていたものの、どこにあるのか、そもそも存在するのかも不明なそれらの入手を、プレシアは早々に諦めていた。
だが、だがである。
だからと言って、古代ベルカに関わる何某かの残滓について、アンテナを張っていないわけではなかった。
始まりは、あの出来損ないの回収作業を行き詰った研究の傍ら視界の端に留めていたあの時。
ふと、古代ベルカの残滓を見つけた。
デバイスの見た目はもはや原型を留めずに居たが使用する術式は誤魔化せない。
それは、見る者が見れば、明らかな違和感。
例えば出来損ないと相対する2人の子供の内、少女の方。
リンカーコアの出力は並々ならぬものがあれど、立ち振る舞いは魔法の行使を日常のそれとしていた者ではない。
それがそれなり以上に形になっているのは、実際の魔法の行使をその手のインテリジェンスデバイスが代行しているからだ。
持ち主は魔力タンクとなり、簡単な指示を出すだけ。
なるほどバリアと砲撃に特化する戦闘スタイルは、必然そうなるものだったのだ。
では、あちらの少年は?
よく挙動を監視してみれば、その違和感に気付く。
インテリジェンスデバイスへの指示は、基本的に音声による会話か魔法による念話を用いる。
当然、これらの念話は暗号化をされているものだが、科学による無線がそうであるように、魔力の揺らぎにより「内容は理解できないが何かしらの通信を行っている」ことは外からも探知できるのである。
それが全く見られない。
当初の興味のなさげな態度から一変、プレシアの目はモニターに釘付けとなり、次々と観測機器を起動させ、サーチャーをいくつも飛ばしてゆく。
肉体の成長具合と少年の動き方に齟齬がある。
この辺りは、むしろプレシアの近年の得意分野だ。
明らかに普段行っていない動作を、平然と行っている。
ダメージを負っていないにも関わらず、明らかに肉体的、神経的な苦痛により顔を歪めている。
もっと見たい、この少年の反応を、もっと、もっと、詳しく。
期待してはいけない、心の何処かが叫ぶ。
あるかもわからぬ希望に、リソースを割く余裕があるのかと。
あらゆる手を尽くさねばならない、どの道、アルハザードにたどり着いたとしても、その先に希望があるかもわからないのだから。
だから、指示した。
あの出来損ないに、少年を連れてこいと。
並々ならぬ相手ゆえ、殺す気で痛めつけてから連れてこいと。
片手でデバイスを握り、片手で頭を押さえる少年は、ついに攻撃を身に受けていないにもかかわらずその場で昏倒する。
もしかして、もしかするのか。
センサーは残酷に数値を弾き出す。
少年のデバイスから少年のリンカーコアに対し、大量の情報が伝送されている事を。
その数値が、持ち主に掛かる負荷を明らかに無視している事を。
情報の一部をコピーし、全力で暗号を解読させる。
プレシアの目は最早彼らの姿を映していなかった。
早く、早く、早く。
暗号化されてるとはいえ、少年の体内で即座に復号されているものだ。
そもそもの用途からして、それほど強固な暗号ではないはず。
高度な過去の技術とはいえ、所詮過去は過去。
ライブラリからいくつもサンプルを呼び出し、アタックをかけていく。
視界の外では、困惑する少女達の前で再び少年が立ち上がり、殺戮を始めていた。
それは最早、プレシアにとってどうでもいいものであった。
「あは」
そしてついに、ベルカの技術の最奥、その一端がプレシアの前に開示される。
「あはは」
『それ』は、あまりにも身近な物と一致していた。
そして、手元のそれとくらべ、これは何と、何と繊細な情報であろうか。
今までの自分が失敗する原因をようやく理解する。
ただ取り出すだけではダメだったのだ。
書き込み用に、手を加える必要がある。
「あははははッ」
狼狽する少女の盾となり、使い魔が切り捨てられた。
あぁ、ダメだ。
自分ではこの精度の抽出は、手元の機材では足りない。
機材も、技術も、経験も足りない。
いずれ行き着く自信はあるが、時間が足りない。
「逃がさないわよ」
ようやく。
やっと。
ついに。
見つけたんだ。
過去の試行錯誤に使ったデータを全て洗い直す。
使えぬと捨てた機材の仕様を読み直す。
あるはずだ。何処かに。きっと、きっと。
そうでなければ嘘だ。
この発見は、この光明は、意味があるはずだ。
第三者が横に居れば、そんな事があるかと吐き捨てるような都合のいい妄想。
そんなものに、プレシアは縋りついた。
だが、だが、だが―――――
無い。
無かった。
あの精度で記憶を抽出する技術も。
抽出した情報を加工する技術も。
待って、待って、待って!
もう一度、もう一度考え直そう。
あの少年が持つデバイスが記憶の転送をしている事は間違いない。
だがその転送している記憶の本来の持ち主と、少年は別の人物であると仮定する。
ならばやはり、あの情報の加工は異なる人物間で記憶を伝送するためのものなのか?
同じDNAを持つ肉体間であれば、あの加工は不要ではないのか?
「ダメよっ!」
がん、と自分を殴りつける。
違う、違うのだ。
そこに糸口があると仮定するのはいい、だが妥協するのは違う。
心臓の鼓動を鼓膜で感じる。
そのリズムは痛いくらいに大きく、早く、走り続けていた。
私は間違っていた。
私の理論は間違っていた。
もう一度それを受け入れる、認める。
例えば、一卵双生児が居て。
別々の環境で育てば、性格が変わるのは遠い過去に実証されている。
同じように育てても、普段食べている物が違うだけで微妙に差異がでるのだ。
元の設計図が同じでも、出来上がる完成体は異なる物になる。
頭を抱えて思考を回す。
恐らくは、それだ。
自分の記憶抽出技術が不足している事も原因の一つと思われるが、元のアリシアとあの出来損ないは、遺伝子こそ同じものの、根本的に違うものだ。
別のアプローチ、例えばアリシアと、完全に全く同じアリシアを用意する―――
「できっこない!」
そんな事は、もうやっている。
アレが自分に出来る最もアリシアに近いものなのだ。
それでも、それでも、それでも。
「そう」
―――そうか。
答えは、すぐ傍にあったのだ。
あのデバイスだ。あのデバイスがどのような機能を持つか、その全容は現時点で知る由もない。
けれど、けれどだ。
「そうよ」
あの少年のデバイスの中には、明らかに誰かしらの記憶情報が保持されている。
それ自体はどうでもいいが、その記憶情報を、持ち主に合わせて加工しながら伝送する技術が、間違いなく使われている。
であればだ。
その技術をモノにできるとすれば。
あとは許された時間の中で、出来る最大限にアリシアに近い肉体の用意と、記憶の抽出精度を上げればいい。
恐らく、理想とする地点まではたどり着けないだろう。
けれども、ゴールの見えぬ今までとは違い、最低限目標となる地点が見えている。
同じレベルでは無理だろう。
でも目標に向けて限りなく近づけるならば。
半狂乱になった少女が、殺傷設定で周囲を丸ごと雷撃で襲う。
スケジュールを、立て直さなければならない。
ジュエルシードは、既にあの星で何度か暴走をしている。
であれば、輸送をしていた人物の生き残りも、時空管理局に連絡をしているはずだ。
そうでなくとも、ロストロギアの受け入れスケジュールがあったはずだ。
行方知れずになれば、調査員どころか次元航行艦が出動してくるだろう。
研究の邪魔を、決してさせてはいけない。
視界の端で、膝をついた少年に、トドメを指そうとしている少女がチラついた。
「アラ、ダメよ」
思考は一瞬。
施設の魔力炉から動力を切り替え、パチンと指を鳴らす。
少女が紫色の雷撃に撃たれる頃には、プレシア・テスタロッサの脳内からフェイト・テスタロッサの存在は永遠に消えていた。
あらゆる実験とデータ取りの為だけのモルモットしか、その思考には残されていなかった。
どうやら今の一撃の間に隠遁したらしい少年は見失ったが、また会う事になるだろうと疑ってもいなかった。
それは狂人だけに通じる、一種のシンパシーであったのかもしれない。
ジュエルシードを集める限り、地球外の存在がそこにいるかぎり、いつか道はまた交差すると。
一方傷だらけの少年も、謎の下手人に対しそう確信していた。
恐らく、時空管理局の到着と共に、あの少年はもう一度姿を現す。
その時が、始まり。
かくしてプレシアは回収済みのジュエルシードを用いてアースラを襲撃し、何もかもを打ち払い、打ち砕き焼き尽くしたその先で。
その場に姿を現し、謳ってみせた。
ジュエルシードは、次元振を起こすためだけに使わせてもらうと。
もはやアースラの主機は落ち、止められる者は居ない。
管理局の増援がたどり着いたとしても、その頃にはこの惑星は消滅しているだろう。
その収拾、といっても何ができるのかという話であるが、管理世界的に見てこの地方の何処かに隠れたプレシアを短時間で捕捉するのは不可能であると。
狂人の考えた穴だらけの計画だったが、残念なことに実現が可能だった。
なにより、その前準備に過ぎないアースラへの襲撃でさえも。
ようやく回収していた筈の少数のジュエルシードを使い捨て、地方を丸ごと破壊しつくす所業で本気で実行すると宣言してみせた。
そして、なのはの提出したジュエルシードを奪い去り、傷ついた少年を攫って見せた。
だが、全てが予想通りだったワケではない。
檻の中に転送した筈の少年は、術式に対し外部から無理やり魔力的圧力を掛けるという暴挙により転送先の座標を僅かにずらしていたのだ。
ずらした先が壁の中かもしれないし、次元の隙間に落ちてしまうかもしれない。
普通、マトモな思考回路を持つ人間であれば、転送魔法そのものを妨害してキャンセルしようとするか、そうでなければ諦めて転送されるはずだ。
それほど、少年の行いは自殺と同じ意味を持っていた。
それでもそんな暴挙を平然と行ったのは、単純な話。
少年の方も、プレシアに負けず劣らずの狂人具合だっただけである。
かくして魔女と過去の亡霊は邂逅した。
そして、物語の時は今に合流する。