10年前によくあったオリ主がフェイトを持ち帰るお話 作:yukimichi
一方その頃。
オリ主こと山近カズフサは、月村のお嬢と高町家の面々に、この世界の事をぶっちゃけていた。
話の内容は大災害の後に話すような冗談ではなく、怒鳴りつけられ、殴り倒されても言い訳が効かない状況であったが、先の駅前の巨大樹騒動はまだ誰もが強く印象に残っていた。
「信じられない」
そう呟く高町家の男衆の表情は、言葉とは裏腹にそう言い切れない自分の面影を、互いの顔から読み取っていた。
確かに、妙な事件が起きていた。
確かに、最近のなのはの動向には不審な点が無いわけでもなかった。
それでも、だ。
自分たちの見知らぬ場面で、そのような事になっていたと。
現実として受け入れられるかはまた別の話であり、当然の話だった。
おこりうる変数に代入されるべき数値が、想定を超え過ぎていた。
普通、ネコが入っていた箱からはゴジラは出てこない。
否定したい、タチの悪い冗談だと、無かった事にしてしまいたい。
生命としての保守的な思考から、カズフサから話を引き出し、矛盾を突いてみせようとする大人達の目の前に――
突如空中に、『黒い炎』が出現した。
最初はテニスボールサイズだった『それ』はぐんぐんとサイズを広げ、ついには人が通れるサイズにまで大きくなる。
その中から、最初に出現したのは、足。
黒衣の片足がぬらりと現れ、大地を踏みしめる。
言葉を失う面々の前で、胴体、腕、そして顔が。
一人の長躯の男が、突如そこから現れた。
「なっ、何っ?!」
取り乱す高町家の女性と月村忍を、高町家の男たちがその背に隠す。
一方カズフサは、新たな終わりの予感にその場で立ち尽くしていた。
男は全身を黒衣で覆い、中央で別けた長い銀髪を風に流し、背には身の丈程の刀を背負っていた。
どこか7番目の大作のラスボスを思わせるその男は、周囲をぐるりと見渡すと、カズフサに視線を留める。
「セっ……?!」
セフィロス。か、目の前に居るこれ。
まるでネットで見かける海外のよくできたコスプレのような立ち姿は、あまりにこの現場に不釣り合いで、リリカル的にはどこかマッチもしていて。
そして、それを知っている者からすれば、限りなく違和感のあるその姿。
「おや」
男は疑問めいた雰囲気を確信に変え、低くよくとおる声でカズフサを射抜いた。
「君もか」
背中にどっと冷たい汗が流れる感覚をカズフサは感じだ。
殺気や気配なんてものを2度の人生で一度も感じなかったカズフサが、今初めてビリビリとした圧力のようなものを感じ取っている。
かつて読んだ事のある言葉を引用するならば、災害(タイフーン)の前にたった一匹で佇むアリの気分というものを、感情が理解していた。
あ、これ死んだな。
前後の思考が漂白され、指先がびくびくと大きく震える。
「お、俺をっ…こ、こっ…」
「ん?」
間違いなく、自分と同じ前世知識持ちの、それも魔法を使えるタイプの転生者だろう。
そして今このタイミングで、自分の目の前に現れた理由が、たった一つしか思い浮かばなかった。
「殺しに来たのか?」
「……いや?」
だがその疑問を、男は困惑したように否定する。
「私が。この私が、大震災で何とか生き残った哀れな一般人を、わざわざ探し出して殺すような奴に……まぁ見えるな」
続く言葉は威圧感と共にどんどんとしぼんでいき、最後にはぷすんとガスが抜けた風船のようにしぼんでしまった。
あまりの緊張の圧力の上下に、呼吸を忘れていた肺がいきなり本来の機能を思い出し、カズフサは咳き込む。
胸に手を当てると、心臓は全力疾走をした直後のようにバックンバックンと大きく鼓動をしていた。
どうやら、気づけば既に死んでいたという状況は免れたらしい。
男はコホンと息を払いやり取りをリセットすると、キリリと目に力を入れなおしカズフサに告げた。
本当に怖いが。
ならばひょっとして、ひょっとするとだ。
俺を殺しに来たのではないとしたら。
もしかしたらこの男は、その逆で。助けに来てくれたのかもしれない、のか。
ありとあらゆる障害を吹き飛ばす、無敵のガワを被った俺TUEEEEさんが、脈絡もなく全てを解決してくれるのかもしれない。
そんな淡い期待を一瞬でも浮かべるカズフサに対し、男の口から次に出た言葉は。
「警告に来た、そう言えば君は納得するのかな?」
「は?」
それは――
「早々にこの街から立ち去るといい」
退避勧告だった。
「時間はあまりないが、順を追って話そう」
「はぁ」
「この世界、いやこれは単語が紛らわしいな。この『リリカルの世界』には、私のように強力な能力を持った部外者が何人も居る。我々は出会い、話し合い、一つの結論に至った。放っておけばハッピーエンドになる物語に、態々干渉する事は避けるべきだ、と」
「いや、いやいや、実際にこれ…この状況で、この状況じゃないですか」
「その辺りは我々とは別の誰かが原因だろうな。君ではないなら。いや、それも今更か」
カスタマーセンターに電話をしたら修理をあっさり断ってくるオペレーターのような気軽さだった。
そんな軽くいなされても反応に困る。
「先ほどの話には続きがある。表面上紳士協定のようなものを交わした我々だが、その間に信用があったわけではもちろんない。であるからして」
男は左手の手袋を外して袖をめくって肘から指先までを晒して見せた。
そこには――――
「うわっ」
赤く光を放つ蛇のような文様が、皮膚の腕でうねっていた。そう、『今も動いている』。
そしてその皮膚は、赤を通してどす黒く染まっていた。
「呪いを掛け合ったわけだ。地球に来たり、そこで誰かと会話をしたり、魔法を使ったりすると『こうなる』」
近くに来ることも出来なくてね。
そう語る男は、しかし言葉とは裏腹に悔しさや後悔といったものを感じさせず、むしろ全てを悟り、いや諦めた顔で、体を軽く揺すった。
トリプルで全てのタブーを犯しているらしい彼の左腕は、火をつけた枯れ木が炭になりへし折れるように、肘からボキリと音を立てへし折れ、切り離され、地面に落下した。
背後で息を呑むような悲鳴が響く。
「今この星は」
しかし男は全くそれを無視して、腕を失った事に対しなんら感想を持たぬまま続けた。
「後先考えないジュエルシードの暴走を利用した攻撃による時空間の歪みの反動で、次元の狭間に落ちかけている」
「はぁ」
そしてあっさりと、あまりにも唐突に世界の終わりを予言して見せた。
「なんだその顔は、本当だぞ」
「そんな事言われても」
現実味が無さ過ぎた。
見渡せば町は普段の姿を面影すら残さず消し去り、見える範囲に一般家屋より高い建造物は視界から消えていた。
そしてその一般家屋も、原型を保っているのは月村本家くらいで、ほかには本当に、屋敷の垣根の向こうには、山がある方向には山があり、他には何も見えなかった。
だがそれでも、あまりに唐突に何もかもが一度に来訪しすぎていた。
ならそうか、もしかしたら、今生きている人だけでもミッドチルダ辺りに転送してくれたり―――――
「まぁいい、そのまま聞くんだ。だがそんな我々でも、流石に事ここに至って放置するのは……あまりに非情というものだろう?だからこうして、何人か命を顧みないバカが集まって、なんとか抑え込んだが」
この街は駄目だ。
「力及ばず申し訳ないがね。ここはいずれ、プリンをスプーンで掬うように次元の狭間に落ちる」
かくして、希望は断たれた。
「じゃ、じゃあアンタ……何でこんな場所に」
「私の仕事はもう終わったのさ。遠くに状態がマシな建物があったから、最後に見に来ただけだ」
そして移動した先で、君を見つけた。
ぼとりと、今度は右の腕が根本から脱落し、地面で砕けた。
ぴしりぴしりと罅が入る音は止まず、肌色だった胸元も下側から徐々に黒く染まっていく。
「さて、そろそろ時間もないようだ」
「いや、ちょっと待て待ってくれ。あんた本当に、その、なんだ。死ぬ、のか?」
男はフッと気障に笑って見せ、そろそろ最後になるだろう言葉を綴る。
「見た目よりはだいぶ。そう、だいぶ長生きをしている身でね、正直死ぬタイミングが無いから生きているようなモノだったし、構いはしないさ。さて、いよいよ最後らしい。老害としてそれらしい言葉を残そうじゃないか」
「いやいやいや、足りない。説明が足りない。街からって具体的にどんくらい――――」
そういうお約束的な物はいらない、そもそも何もかもが足りないと詰め寄るカズフサを、じっとその目を見つめる視線が止めた。
「君は悪くない」
胸元を通りすぎ、首が黒く染まった。
「君に出来ることは何もない」
顎が黒く染まった。
「逃げなさい」
唇が、頬が黒く染まった。
「遠く、遠く、どこまでも逃げなさい」
目元が、黒く染まった。
「あぁそうだ」
銀の髪が根本から毛先まで一気に黒くそまった。
「『これ』は、好きにするといい」
捨て置くも、持ち去るも。
男はゆっくりと後ろに倒れ、バリアジャケットが魔力に戻り霧散してゆく。
残ったのは地面に残る黒い粉と。
「なんだったんだよ、一体……」
カランと地面に転がった、長い長い日本刀型の、デバイスだけだった。
「カズフサ君…今のは一体」
「おじさん」
俺が聞きたい。
声を大にして聞きたい。
ちゃんと説明しろ。なにがQだよ。いや違う、ボケてる場合じゃない。
何もかもが突然で現実感が無くなってきた。夢なんじゃなかろうか。夢じゃないんだろうなぁ。
「魔法にまつわる話とやらは一旦信じることにしよう、信じがたいがね」
「はぁ、どうも」
「君のその、幼い頃に見た予知夢からは、もう大分ずれてしまっているんだね?」
「えぇ。はい。そうです。本当は……本当はこんな筈じゃなかったんです」
ネタでもなんでもなく、自然にその言葉が出た。
本当に、こんな筈じゃなかったばっかりだ。ばっかりすぎる、ふざけんな。
「時間が、無いんだね?」
逃げるべきなんだね?
念を押すように、何かを飲むように訪ねてくる。
「みたいですね」
「救助活動をすることもなくかい?」
「あ、それは駄目です」
まだ生きている人自体は大勢いるだろう、その命を、カズフサはバッサリと切り捨てた。
助けを求めている人達は街中に居るんだろう。
けれどそんな人たちを助けるのに、一体どれだけの時間が掛かるのだろうか。
どこにいるのかもわからない要救助者を満足するまで助ける時間は、言うまでも無く有りはしないのだろう。
それでも、人の良さがそれを邪魔していた。
「そうか」
その優しさは、一つの強さかもしれなかったが、この場では弱さに他ならなかった。
「恭也、皆を連れて逃げなさい。方向は…山のほうがいいだろうね。地すべりを起こしていない場所があれば、そのまま道を真っすぐにだ」
「父さん」
「ダメだ、恨んでくれてもいい。悪いが家族を守ってくれ。俺は――」
なのはを探しに行かないと。
「……わかった」
お互い、心の底では納得したわけじゃないだろうに。
それでもやるべき事のために、何かを飲み込んだ。
「俺は…」
俺は、どうしようか。
あのセフィロスモドキ、結局名前は聞かなかったが、彼の残したデバイスを拾い上げてみる。
当然だが、何も感じない。俺からすればただの鉄の棒だ。
あぁ、そうだ。
フェイトを逃がさないと。
車なんてつかえないから、誰かが背負わなければならない。
さすがに他の誰かには頼めないだろう。
他人を全て見捨てる選択肢を選ばせた人達に、俺が一方的にちょっと知ってるだけの他人を背負わせるなんて、筋が通らなさすぎる。
運命なんて無い、神様なんて居ない。
それでも。
もし自分に役割があるとするならば、それがきっとそうなのだろうと。
そう思わなければ、一歩でも歩き出すことが億劫だった。
一方。
「あ、れ、ここ…は……痛……」
眠り姫は、王子のキスを待たずにその目を開いていた。