10年前によくあったオリ主がフェイトを持ち帰るお話 作:yukimichi
下らない事を考えていた。
つーか正直、マジメに考える気が失せた。
タバコを吸ってる時間くらい、現実逃避したっていいだろう。
俺が考えていたのは、タバコの煙はどこに行くんだろうって話。
今は眼に見えている煙でも、やがて霧散して消えてゆく。
けど物質としての煙だったものは、厳密に言えば何処かにはあるんだろう。
どこにあるかは誰にも解らない、どこに行くかも誰にも解らない。
ヘタしたら……1年後に地球が存在するのかさえ。
そうなのだ、恐ろしい事に、このまま行くと地球消滅とか普通にありえる。
この街には闇の書があり、この世界は………
最早リリカルな世界とも呼べなくなりつつあるのだから。
タバコを携帯灰皿に放り込みポケットにしまう。
普段は1度に1本しか吸わない俺が、滅多にやらない連続喫煙で3本のタバコを灰に変え、右手に持っていた金属片に話しかける。
「俺はカズフサ。魔法は使えないしデバイスも持ってないけどワケあって管理世界ってのがあるのと、魔法が存在するのは知ってる」
【………】
「お前の持ち主は治療して……まだどうなるかは解んねぇけど助けるつもりだ」
【………】
「その後お前らがどうするかは知らん。出て行きたきゃ出てけばいい。ここに居たいならまぁ食いモンと寝る場所くらいならどうにかできる『かも』しれない」
【………】
「別にお前に俺のデバイスになれとかは言わねぇよ……ただ聞きたいんだが……何があった……?」
【………】
俺が聞きたいのは、知りたいのは……つまりは『それ』なのだ。
今、この街で何が起きているのか。
誰が居て、誰が居ないのか。
どこまで『ズレている』のか。
今最悪なのはバルディッシュの位置を捕捉可能であろうプレシアが、フェイトにトドメを刺すためにこの屋敷を中心に広域殲滅魔法を使う事。
もしくはヒーロー君か、彼以外の俺の知らない転生者がフェイトの魔力パターンを捕らえてトドメを刺しに来ること。
さらに挙げるとするならば、『ハーレム気取りか?クズが!』とか言って俺を殺しに来る転生者が居た場合。
飛躍して言うならば、なのはお嬢、ユーノ坊ちゃんの死亡。
アースラクルーの全滅。
管理局の崩壊。
ジュエルシードによる次元震、次元崩壊。
手付かずの闇の書、暴走、崩壊。
そして仮にそれら全てを乗り越えたとしても、いやそのあとは地球そのものは平和か。
管理局から見ればドのつく辺境とか田舎みたいなもんだろうし。
けど俺以外にもヒーロー君が居るからな。
他にも居ないなんて誰にも言えない。
そして、ソイツらが管理局上層部やスカリエッティにちょっかい出して捕まったり、または最初からグルになっている可能性が否定できない限り……
例を挙げるならきりが無い。
転生者の存在の証明?
俺かヒーロー君を連れてくればいい。
じゃあ、居ない事の証明は?
まぁ、一番の笑いどころがソレを知った所で俺には何も対策する方法が無い事なんだが。
「ダンマリかよ……お前が完全に機能停止してるってワケじゃねーのは解ってんだ。鏡ごしにコアが光ってんのを見たからな」
【………ザ】
「ん?」
【Z……Z…gggggg…】
「言語野の故障……いや、発音まわりか?俺が何を言ってるか聞こえているか?理解しているか?」
【Zi……Zizizizi…】
「ワカんねぇよクソが……とりあえず聞こえてて理解できてるが表現できないっつーつもりで対応するぞ」
【gggg………PIiiiiiiIII】
「わかった。わかったからうるせぇ少し黙れ。とりあえずここの敷地の責任者と話すからお前は黙って聞いてろ。な?」
【Pi………iht】
「宝石に話しかけるなんて……リアリストな貴方が実はそんなロマンチストだったとは知らなかったわ。そしてそんな宝石を持っている事もね」
「うおっ?!」
急に後ろから話しかけられて驚きつつ振り向くと、そこには紫の髪を腰まで伸ばした女性……月村忍がそこに居た。
年は18と俺より3つ下だが、その落ち着きと頼れる感は俺なんぞより遥か高みにある、月村家の長女だ。
前世含めると俺の方が倍は生きてるんだがなぁ……
「来んのがはえーですよお嬢。ノエルさんの差し金で?」
「えぇ。後で時間が欲しいって言われたけど私今日デートなの。長い話なら早めに済ませたくて」
「あぁ……そりゃダメだ。早めにキャンセルの連絡をして下さい。そんくらい今日の話はガチです」
「ワケありって聞いてたけど…………貴方がそこまで言う程の物なの?」
「何と説明したらよいのやら……そうですね……ちょっと前に市街地で巨大な樹木が突然現れて消えたって事件があったでしょう」
「アレね……頭が痛いわ。私もたまたま自分の目で確認したけど、終わってみると何の痕跡も無いんだから。お父様達も調査に追われててね……で?それと瀕死の少女に関わりが?」
「あるんですよこれが。ちなみにヘタすっと年内にもっとでかい規模の災害が発生する見通しです。ちなみにその場合……みんな死んじゃいます」
「それはこの地の管理者たる月村家が……という事かしら?」
「いいえ?」
「海鳴市が丸ごと巻き込まれる規模なのかしら?」
「冗談じゃないです。そんなので済むなら苦労しないですよ。北海道にでも逃げりゃいいんですから」
「掴みきれないわね。それ以上だと少々現実味を失うわ」
「でしょうね。とりあえず一旦ノエルさんと合流しましょう。彼女の容態も気になりますし」
「いいわ。私もその子の顔は見ておきたかったし」
バルディッシュをポケットに戻しお嬢と一緒にフェイトの所に戻る。
改めて部屋に戻ると解るが……やはりまだ大分臭う。
「……………」
振り返るとお嬢が顔を顰めていた。
単純に嫌な臭いがどうとかでは無い。
もっと深い……肉が腐った臭いを、嗅ぎ取ってしまったんだろう。
解りやすく言うなら、死臭を……だ。
フェイトの服はビニール袋に入れて硬く縛っておいたが、彼女の髪や体に染み込んだ臭いが色濃く室内を染め上げている。
ノエルさんは床にこびり付いた汚れを水で洗い流していた所だった。
手術室は血液を含め様々な液体が流れるため、床が洗えるようにゴム製のタイルになっているのだ。
「この子が……うわっ……何……こんな……ノエル、容態は?」
「皮膚総面積の13.7%に当たる範囲が火傷(やけど)によるダメージを受けており、内3%がレベル3のダメージを受けていたため切除を行っています。細胞外液の急速な喪失により処置中にバイタルが危機的レベルまで低下しましたが、乳酸リンゲル液を含めた峰石家系列の秘薬で点滴を行い持ち直しています。現在は安定していますが……予断を許さない状態です」
「オイちょっと待ってくれ、切除っつったか?」
「壊死、炭化した皮膚は一刻も早く取り除かねばショック症状の際に深刻な事態を招きかねませんでした。切除した後については湿潤環境……カズフサ様の湿布がありましたので」
ノエルさんが眼で指し示した方を見ると、黒くこげたナニカの塊が乗っているスチール製のトレイがあった。
焼肉で焼きすぎて炭になった肉というか……3%ってお前……フェイトの手のひら3枚分だぞ……
そんな量の『切除しなきゃ命に関わる』ものを俺は放置してたなんて……
恐らく湿布を張りながら切除してくれたんだろう。
「あぁ……そうか。クソ、俺のアホが。すいませんノエルさん。助かりました」
「いえ……」
火傷ってのは厄介で、切り傷とかと違って範囲的にダメージを受ける。
軽度ならまぁ冷やして終わりなんだが、重度だと始末に負えない。
ノエルさんを呼んで正解だった。
俺だけで対処してたら……きっとフェイトを殺してしまっていただろう。
「誰かが見ていないと駄目かしら」
「はい。出来れば火事や事故の対応経験のある外科医か……適わなければ私に経過を見させていただきたく」
「ならここはお願い。貴女にも『聞こえるようにしておく』から。出ましょうカズフサ。話は此処でなくてもいいんでしょう?」
そう言って足早に手術室を出て行く彼女の背中に、一瞬俺と同じものを感じた。
あれは、怒りだ。
この街で少女が明らかにまっとうな手段じゃない方法で殺されかける。
そんな事があった事実、行った人物、防げなかった自分、あるいは許容した世界、もしくは運命。
そういった全ての物に対する、怒り。
月村忍は、少女のあんな姿を見て冷静で居られる女じゃない。
何故なら、平穏とか、平和とか、安心して眠る事ができる事とか、暖かい食事とかの価値を、よく解ってるからだ。
あぁ、そうさ。
俺も同感だ。
アイツは…
そりゃあちょっと辛い眼に逢うかもしれないが
生涯の友達が出来て
頼れる使い魔と相棒が居て
これから知らなかった景色を見て
食べた事のなかった御菓子や食い物を食べて
聞いた事なかった音楽を聴いて、歌って
明日はどんないい事があるのかワクワクしながら布団で寝てればいいんだよ。
クソが。