10年前によくあったオリ主がフェイトを持ち帰るお話   作:yukimichi

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09-かつて紅月ハルキだった少年

同調第一段階

 デバイスからの精神干渉により魔法を行使する度に頭痛と眩暈、吐き気が続く。

同調第二段階

 運動を司る神経に干渉され、四肢が力の強弱を誤るようになり、日常生活に影響を及ぼす。治らない感覚の痺れが発生する。

同調第三段階

 上記に加え、記憶の書き込み処理により、日常的に幻覚を見るようになる。また、現実感を喪失する。

同調第四段階

 同調最終処理が行われ、随意筋が全て硬直する。不随意筋である心臓は鼓動するが、肺呼吸の制御はデバイスが代行する。

同調第五段階

 使用者へのデバイスからの人格のインストールが完了する。体質的、遺伝的に不適合である場合は、確実な死。

 

 

 

 

 

 

雷光が広間を照らす。

剣閃が空間を焼く。

 

容赦も無く、慈悲も無く。

油断無く、慢心せず、速やかに、確実に。

様子見せず、楽しまず、加減せず、躊躇せず、何より迅速に。

 

少年は唸る。

 

「どうかあと少し、あと少しとは言わないでくれ!どうか、どうか今。あぁそうだ!どうか今すぐに」

 

対する女は吠える。

 

「貴方の都合はどうでもいい、他の全てはもっとどうでもいい、だから今此処で、えぇ!そうよ!今すぐに」

 

 

―――――死んでくれ。

 

 

交わす言葉に意味はない。

頬を撫でる死線に思考は焼け付き、思考を介さずただ想いを吐き出す。

説得などという段階は既に過ぎ去り、そもそも最初から存在していなかった。

これから自分がする事に変わりはない。変わる事もない。

 

『プラズマ・ファランクス』

 

広間を雷鳴が覆いつくす。

のたうち回る雷撃が空間を埋め尽くし、少年の姿が消える。

 

衝撃、全周囲に張り巡らせた濃密な魔力により形質されたシールドが悲鳴を上げる。

上方向。女はそちらを見ることも無く、ただ上に右腕をすらりと伸ばす。

 

『サンダーランス・エクスキューションシフト』

 

シールドから針鼠のように雷色の槍が生える寸前、少年はシールドを蹴り飛ばし宙でトンボを切る。

槍がシールドを離れ、射出された。

 

『ブリンク』

 

いくらかの誘導性を持ったその槍が少年に届く直前、少年はその場からかき消える。

短距離転移により女性の足元に転移した少年は、全身のバネを使い刃を突き出す。

 

再度、シールドが悲鳴を上げた。

ぎしぎしと軋み、僅かに罅が入るものの、継ぎ足される魔力によりすぐさまその罅も消えてゆく。

 

女性の反撃の気配を感じた少年は、だん、と地面を叩き一気に下がり障害物の影に隠れる。

移動経路をなぞる様に、地面には赤い斑点が描かれていた。

 

『フォトンバースト』

 

狙って当てることは出来ぬと既に何度も思い知らされている女は、広間全体を魔力爆発で満たす。

古城のような建物の壁がいくつも吹き飛ばされ、広間が拡張される。

天井からは無数の岩のような塊が落ち、周囲の視界が悪くなるも、女性は再度のフォトンバーストでそれらを吹き飛ばした。

視線の先には、どこにでもいるような服装を身に纏い、前傾姿勢で抱え込むように両手で刃を構えた少年。

相手を切っ先で貫く事しか念頭に置いていないその構えは、少年の殺意を形にしたようだった。

 

「殺してやる、あぁ殺してやるぞ!魔女め、魔女め!!亡国の魔女めが!!!」

 

少年の前には、夜をイメージさせるようなドレスを纏った女。

 

「ベルカの亡霊!そのデバイスを……寄越せェェェエエ!!!」

 

命を燃やし、自己のそれが燃え尽きる前に、相手のそれを断つ。

2匹の獣の脳裏には、最早それだけしか残されていなかった。

 

 

 

始めは、何もかも順調だった。と思う。

ジュエルシードが暴走したモンスターをやっつけて、ユーノ君を助けて。

クラスメイトにも魔法が使える人が居て、うれしかった。

一緒にジュエルシードを探して、楽しかった。

 

彼は、ハルキ君はいつも遠くを見て、何かを考えていて。

 

すずかちゃんの家で大きくなった猫さんを封印しようとして、ライバルが現れて。

人に魔法を撃つのを嫌がった私の代わりに、彼が戦って。

 

ハルキ君は、ううんハルキ君も、誰かを傷つけるのは嫌そうに悩んでいて。ずっとおでこに皺を寄せていて。

 

早い者勝ちだねって、そう言った私の前で、全部を集めたいユーノ君と、それでいいっていう彼が喧嘩をして。

ひとまず落ちているジュエルシードを全部集めようって3人で決めて。

 

結局、その後あの金髪の女の子を見る事は無かった。

しばらくして、ハルキ君は、学校に来なくなってしまった。

 

それでも、どこに行ったのか、魔法を使っても見つからないハルキ君でさえも。

ジュエルシードを探す先でまた再開できると。そう信じて、ジュエルシードを探し続けた。

 

そして、そこから先は―――

 

 

――ついさっきの、出来事。

 

 

海の中に、何個かのジュエルシールドがある事が解って、大変だったけど、海に潜って回収して……

そのあと、空飛ぶ船が来て、ユーノ君が時空管理局だって。

魔法の世界の警察のような人たちが来てくれて、これでもう全部、解決するんだなって。

ほっとして、少し寂しくて。

 

そこから先は、よく覚えてない。

違う、覚えてるけど、ついさっきの出来事なのに、うまく思い出せない。

 

管理局の、そう、クロノさんっていう人が色々教えてくれている最中に、突然血を吐いて倒れて、その後ろには……

彼が、居た。

 

 

 

ジーンズにグレーのパーカーはいつも彼が着ていたお気に入りで、なのはのよく見知った姿だった。

崩れ落ちるクロノの背後に佇む少年は、何処にでもいるような子供だった。

その手に持つ、日本刀のようなデバイスと、返り血を除けば。

 

「今更当世で世を乱すまいと、このまま片付くと様子を見ていればこのザマか。来訪者に続き、管理局とは。予想していなかったわけじゃないが、日和見なんてするもんじゃないな」

 

「ハルキ…君?」

 

暫く行方知れずで、探しても見つからなかった彼が、そこにいた。

 

「お前は、後でいいか。まずは…」

 

ハルキは、いやかつてハルキだった少年は、宙に佇む白亜の次元航行艦を睨みつけると、次の瞬間その場から掻き消える。

目の前には、倒れ伏して背中から血を流すクロノ。

なのはの頭の中が一瞬真っ白になったが、レイジングハートの呼びかけにより目の前の怪我人の治療を試みた。

 

「お願い、レイジングハート!」

 

『Yes Sir, Master』

 

クロノを中心に魔法陣が自動生成され、溢れる魔力が淡い桃色の花弁を形作り、クロノを包んでゆく。

なのはには怪我の深さは解らなかったが、まだクロノが呼吸をしている事は見て取れた。

なのはにとって、それだけが重要で、それで十分だった。

 

クロノの不覚を責めるのは酷であった。

彼は未曽有の災害になりかねないロストロギアの回収・封印任務に相応の覚悟を持って挑み、協力的な現地人と合流し、解決の光明を得たばかりだった。

そして何より、彼を襲った下手人は、今はもう歴戦の対魔道師の暗殺に特化した存在であり、ついでに言えば――――

 

『クロノ執政官!応答してください!クロノ執政官!きゃぁ!』

 

次の瞬間、次元航行艦アースラから金属同士をぶつけ合う音と爆発音。

最早彼は、暗殺と、破壊工作に関しての専門家だった。

 

逆に、クロノを仕留め損なった彼も。

子供の体で目覚め、日々進歩してゆく魔法技術の最先端で構築されたバリアジャケットに対し、殺害ではなく無効化で留まった事は誠に遺憾ながら致し方ない事だった。

また、『先の仕事』で負った負傷も癒え切ってはいなかったことも要因の一つであった。

 

己の不甲斐なさで頭の中で自分の首を撥ねながら、強くデバイスを握りなおす。

次は、次こそは、確実にと。

 

ハッチを破壊した少年は、そこから内部に入ることなくアースラの表面を駆け抜ける。

先進的な魔法がある世界において、こういった大型艦は内部で自由な転移が出来ないように魔法的な封鎖をしている場合が多い。

つまり、内部にいる人間は、艦内を己の手足で移動しなければならない。

また、外部からの侵入が容易ではないように出入口の数は限られる。

で、あるならば。

一度突入すると見せかけて、先に外のセンサー類を物理的に潰して回る。飛んできたサーチャーは魔力を通した針を投げ破壊してゆく。

 

この時点で、彼は全くの本気で、この艦を一人で制圧する気だった。

もちろん、この艦をこの場で破壊しつくすつもりはない。

これはこの地にあってはならないものだ。

当たり前のように内部に居る人間は、外に残した執行官を含めて皆殺しにする予定だった。

けれど艦そのものは適当な恒星に艦の機能で転移でもさせる心算だった。

そのためには、センサーを潰した後になんとか侵入し、システムがオンラインの内にブリッジを奇襲する。

実際成功率は極めて低く、彼もそれは認識していた。

それでも、それでも。

高いか低いかという問題ではなかった。

契約に基づき、そうしなければならない。

それが誓いだから。

 

ある意味、彼は宗教家だった。

祈る相手は過去に居るただ一人の女で、彼はその宗教の最後に残された、たった一人の信者だった。

付け加えて言えば、彼は狂信者のたぐいだった。

 

だから。

これが形として示せる忠節の証で、あるいは彼の祈りの形だった。

 

 

 

 

ただし

 

 

 

 

 

 

『 み つ け た 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に、それは所詮、彼個人の都合に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

この世界が、一つの大きな機械だとして。

人々が、その機械を構成する小さな部品だったとして。

歯車の形が変わり、追加され、不具合が起きても。

それでも世界という名の機械は決して止まることなく動き続ける。

噛み合わせが合わず歯車がいくつも砕け散ろうとも。

あるいは、ある部分の塊が崩れ落ちようとも。

機械は、動き続ける。

 

 

それは、常人であれば、魔道師ですら気づかなかったであろう予兆。

突然空に響いた声の、その内に込められた感情。

空気中の魔力の、ほんの少しの揺らぎ。

 

古い記憶と、新しい記憶の両方が警鐘を鳴らす。

両手で逆手に持ち、雄たけびと共にとっさにアースラの甲板にデバイスを突き刺した。

ほんの少し、ひっかいた程の傷にさらにデバイスを押し付ける。

頭を下げ、両の二の腕で耳を塞ぎ、口を大きく開け、息を吐き出し切る。

身に纏う普段着と同じデザインのバリアジャケットに、全力で魔力を回す。

 

逆に言えば、それだけしかできなかった。

 

轟音が衝撃となり全身を爆発の様に包み、同時に閉じた瞼越しにも解る閃光と、体を走り抜ける雷撃。

 

背が、足が跳ね、空中に投げ出される。

一瞬意識が飛び、海原に着水して目覚める。

指先はしっかりとデバイスを握りしめていたが、本人はそれすら認識できていない。

体の感覚が頭からつま先まで全く無かった。

一度沈んだ体がぷかりと水面に浮いた時には、目の前で次元航行艦が煙を出して傾き、高度を下げつつあった。

 

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