首だけ吸血鬼とてきとう少女   作:シノルア

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始まり

「何度言ったら分かるのだ!貴様は!」

 

「ひいっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」

 

「ええい、うるさい!それよりも私の扱いには気を付けろ!」

 

奇妙な光景だった。

 

宿の一室で首が人間へと話し掛けている。それだけでもおかしいのに、その人間はまるで自分が格下かのようにその生首へとペコペコ頭を下げているのだ。

純金を思わせる程に澄んだ髪を垂らし、少女は必死に頭を下げる。

 

布団の上に置かれた首と、床に座る少女はひどく不釣り合いな対比だ。窓は閉めきられており、部屋の中は真っ暗。薄く埃臭い臭いが少女の鼻を刺激していた。

その表情はびくびくとしていて今にも泣きそうな物。

 

生首にここまで怖がるとは何かあるのだろうか。

確かに生首が動いて怒るというのは普通に恐ろしいが、ペコペコと頭を下げる少女からは理解不能の恐ろしさよりも単なる恐怖が勝っているように見える。何かあるとすれば、その生首は絶世の美少女、美女と呼ばれる部類の物。対して少女はそれと比べるとパッとしない容姿だが……相手は『生首』だ。

 

喋っても動いても威圧しても、それが生首であることに代わりはない。

 

透いた銀髪をはためかせて生首は叫ぶ。

 

「貴様なんぞを眷属にしたのが間違いだった!なんだ太陽を浴びても消えない吸血鬼とは!なんだお構い無しに教会で祈る吸血鬼とは!更にだぞ?!血を吸うのを嫌がる吸血鬼がどこにいる!」

 

「え……こ、ここです!」

 

「そういう事ではない!」

 

その理由は、そう。確かに、少女は生首の『格下』であるからだ。

 

 

◆◇

 

 

ミルは悲運な少女だった。

 

幼くして両親をなくし、村では日々皆のおこぼれを貰う毎日。当然友人などできようはずもなく、やがて煙たがられ、食料すら貰えず孤立した少女は村から『追放』される。

 

その村での『追放』とは、とある伝承に基づいた物だ。過程は省くが、ある穀潰しを放り出した村が、成長したその穀潰しに復讐され滅ぼされる、といった話。

 

追放された者が恨みを持たないように秘密裏に処理する。それがその教訓である。

 

だが、その時の(おさ)が自ら手をかけるのを嫌がる臆病な村長だったのが幸いした。

魔女が棲むと噂される死の森。『魔女の森』へとミルを追放したのだ。

 

 

その後、さ迷うこと数日。数多の獣に襲われ運良く生き延びたものの死にかけ、腹を空かせたミルは迂闊にもある屋敷に足を踏み入れる――。

 

 

そして見たのだ。

 

 

未だ蔓延る人類の天敵。かつてその中でも一際異彩を放ち、存在その物がなくなったとされる今でもその者達を恨む者から設立された組織が残る、最悪最低の化け物。

 

それはかつて根絶されたはずの巨悪。その始まり。

 

始まりの吸血鬼(オリジン・ヴァンパイア)』を。

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