首だけ吸血鬼とてきとう少女   作:シノルア

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ノアの不満

 

「でもですよノア様?」

 

「なんだミル」

 

ぐすぐすとべそをかきながらミルはノアを、生首を見る。

どこか横暴な色を感じさせる瞳に、鋭いその形。思わず喉を鳴らしながら、恐る恐ると言った様子でか細い声を絞り出す。

 

「私は……人間です」

 

「それは違う」

 

仄かに淡い光をその瞳に宿し、ノアはミルの不思議そうな表情を見つめ返した。真っ暗な闇の中で赤い二組の瞳が見つめ合う。

そして不機嫌にふんと鼻を鳴らすと、口を開く。

 

「貴様は確かに血を欲しがらんし昼間に外出するわ太陽に当たっても火傷一つせんわ、河川で泳ぐわ私を雑に扱うわ……まるで私の眷属ではないかのような振る舞いをするが――お前の体はすでに人のそれではない。

これは確実だ。私自身が貴様を『吸血種(ヴァンパイア)』へと変化させたのだ、その程度は分かる」

 

「そうですか?」

 

それでも不思議そうな表情で自分を見つめるミルにノアは鼻を鳴らす。

そして冷たい瞳でミルを射抜いた。

 

「今はそれでも良い。貴様の奇異な特性も相まって、自覚無くとも、まだ大丈夫であろう。

だが――いずれ悟る時が来るぞ。その時貴様が壊れないでいられるか、実に見ものだな」

 

不思議そうに首を傾げたミルを、ノアは半目になって見つめ返した。……どうやら、その日が来るのは先の事になりそうであった。

 

 

◆◇

 

 

「ご利用ありがとうございまーす!それで、こんなの何に使うんですか?」

 

青い髪の少女が溌剌に声を上げながら、ミアの目の前に立っていた。それを認め、ミアは言葉をゆっくりと紡ぐ。

 

「えっとね、ノア様に持って来いって言われたんだ」

 

「ノア様?」

 

「うん」

 

不思議そうに瞳をパチパチと瞬かせる少女は、やがて一人納得したのか満面の笑みを浮かべた。

 

青い髪に緑の瞳。雄大な自然を思わせる色合い。

そんな髪と瞳を最大限活用し、少女はにこやかな笑顔でかごを差し出す。それをミルは受け取り中身を確認し、困ったように眉を潜めた。

 

「あ……あれ?間違っちゃいましたか?」

 

「ううん、そう言うことじゃ無いんだけど……」

 

「そうですか、良かったー!ミルさんとってもお金持ちっぽいんで、もし失敗しちゃったらと気が気でなかったんですよ」

 

「そ、そう?」

 

「だってうちの宿の最上級の部屋を躊躇わずに取っちゃうし、おまけに金貨をポンと出しちゃうし……やっぱり違うなーって」

 

ミルは思わず顔をしかめて口を開く。

 

そのまま「それはノア様が……」と言いかけるが、自分の事は他言しないようにとノアに言われていたのを思いだしグッと我慢する。

 

大体ミルは貧乏性だ。宿の買い出しサービスなんか使いたくなかったし、おまけにこのかごの中身も何故必要なのか良く分からない。

 

取り敢えず碧貨二枚をその手のひらの上に置く。

そして目を泳がせる。行き場を失った口からはあまりコミュニケーションをしたことがない者特有の、とりあえずの肯定しか出てこなかった。

 

「えっと、その……うーん……そうかも」

 

「うんうん。ミルさんみたいな人は歓迎です、是非気軽になんでも言って下さい!では失礼します!」

 

「……あ、うん」

 

バタバタと廊下を走り、階段を駆け下り、やがてその音は消える。

そして次の瞬間酷く不機嫌そうな声がミルの耳に響いた。

 

「ふん……ずいぶんと素直な女だな」

 

「……あ、はい。そうですね。私はああゆう子、好きですよ」

 

「ほう……なら初めての吸血はあの女にしろ」

 

「え……やです」

 

「……私の眷属でそこまで軽く私の命令を断ったは貴様が最初で最後だ。喜べ」

 

「あ、はい。わーい」

 

「違う。……貴様私への敬意が薄れてないか?というか今さらだが私の名前を出すなと言ったであろう!」

 

「…………あ」

 

「『……あ』ではない!『……あ』では!!なんだその腑抜けた間抜け声は!冗談ではないぞ?!私の事がバレたらとんでもない事になる!

聖騎士共に追われたいのか?!貴様の居場所もなくなるのだぞ!そんな事態を引き起こしたくなかったら口を慎め!」

 

「あ、はい。了解です」

 

あれから数日。すでにノアの威厳は無くなっていた。

 

……いやまあ、生首に威厳を保てと言う方が酷なのも確かなのだが。

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