首だけ吸血鬼とてきとう少女   作:シノルア

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初戦闘?

 

「殺せ」

 

初めて動物の命を奪う。そんな体験は、最近会った『化け物』の命令によって行われた。

柔らかいような固いような、そんなものを鋭利な刃で貫き、命を奪う体験。

 

だが恐怖という感情に対して、感想はこんな物かという物だった。動く的に短剣を突き刺すのも、そこからどくどくと垂れる血も。全てがはっきりと認識出来るが、それはどこか非現実的。

目の前で痙攣を起こす兎を見ると、仄かに暖かい奇妙な感覚が心から涌き出るのを感じた。充足感が満ち、思わず艶やかなため息が漏れる。

 

そして、蓋の開いた籠の中からそれを認識していたノアは興味深気に質問をした。

 

「ほう……感想は?」

 

「……何か、変な感じです。あんまり実感も沸かなくて……」

 

「それで良い。貴様の本質が見えてきた。まあ一言で言うなら、ミル、貴様は『なるべくして』吸血種に成ったのか知れんな。勿論懸念点は有り余る程にあるが、これなら合格とも言えるだろう」

 

「合格、ですか……?」

 

「ああ。実に面白いではないか。

あのまま永劫を過ごす筈の私を貴様は助け、死にかけの貴様を私は救った。なんらかの因果が有っての物ならば、これは楽しまねば損だろう?」

 

「……はい」

 

「取り敢えず当面の目的は私の体を取り戻す事だ。私の肉体を『消滅』させたあの男はもうおらんが警戒に越した事はない。流石にあれほどの化け物がそうごろごろいるわけでもないだろう……まあ、あの戦闘方法は学んだ(・・・)故、次があったのならば負けんがな」

 

「……あの男って誰ですか?」

 

首だけになっても生きているこんな規格外の存在。それだけの力を持つ存在が首だけになっていること自体が奇妙だが、そんな化け物が危険視する『人』。

気になったミルは恐る恐る質問をする。

 

それに当初と比べずいぶんと機嫌が良さそうなノアは、目を瞑り少々考えると語り始めた。

 

「たった一つの妄執に拘泥した――愚か者だ。才能もなく、無理矢理入ったかの騎士団でも努力はしたがそれがついぞ認められることがなかったそうだ。

だがそういう輩を単なる愚者と侮るなよ?そういう者が最も――この私よりも――よっぽど化け物染みている。それは今の私の姿が何よりも物語っているだろう?」

 

「はあ……」

 

どこか夢物語に聞こえる。人が目の前の『化け物』を討つ。少なくともその一歩手前まで迫ったというのだが、それはとても事実とは思えない。

少なくとも、ミルは助けられた事に恩を感じているし目の前のこれをどうこうできるわけがないと最初から諦めきっている。雑に扱っているのは慣れもあるが、むしろどうにでもなれと言ったそういう気概が関係していた。

それほどまでにこれは人間とは解離し過ぎているのだ。

 

「まあ良い。貴様がかの騎士団と張り合える……せめて一対一では圧倒出来る程度に成るまでは私自身が動く訳にはいかん。表に出すにも、気軽にはいかんのでな。貴様は私直系の第三の吸血鬼(ヴァンパイア)だ。流石に影響が大き過ぎる。

なにより貴様一人では出来る事も限られる。勿論並行して勢力は拡大してゆくが……――貴様の成長を楽しみにしているぞ」

 

煌々と輝く三日月は既に夜空に浮かび上がり、それが頼りなさ気に地上を照らしていた。

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