約二年前(迫真)。
pixivの方にリメイクコンテスト的なのがやってたので、pixivに投稿した分をこっちにもポイ捨てしとにます。
シリーズどころか、望月自体を見るのも久しぶりです。やっぱりこのシリーズは初めて書き始めた&初めて完結させたシリーズということで、思い入れがあります。
とは言え今のシリーズと比べると、なんともない日常風景をダラダラ書いてくって意味ではなんも変わってなくて、やっぱり自分はこういうのが一番書きやすいというか好きなのかなぁって思いますね。
このシリーズはほどほどのタイミングで終わりましたが、今思えば上手く引き際を見極められたなって思いますね。今書いてるアヤベさんシリーズとか完全に引き際を見失ってますからね……。
よろしくお願いいたします。
いくらなんでもやりたい放題じゃないだろうか。書類の山を整理しながら、提督は思わず苦笑いした。
深海棲艦も滅多に来ない辺境の鎮守府。その執務室にて。
四月だというのにまだ片付けられていないコタツには、鎮守府の古参艦娘にして最愛の秘書艦、望月が入っている。
確か提督の記憶が正しければ、いつまでたっても起きようとしない望月を起こしたのが朝の十時。それから少しして、『休憩』と称して望月がコタツに潜り込んだのが十時三十分。そして今が午後四時。
単純計算でも望月は五時間ほどコタツに入りっぱなしということになるのだが、蒸れやトイレは大丈夫なのだろうか。下世話な心配だというのはわかっているのだが、そう考えずにはいられないほど望月は微動だにしていなかった。
一応提督は三十分おきくらいに『もっちー、生きてるかー?』と生存確認をしているが、彼女はその度に『おー』とだらけきった声をあげるだけである。運動エネルギーを使っていないせいか、まだ腹が空いたという言葉も聞こえない。
こんなだらけきった光景を大本営の人間に見られたらなんと言われるか。
まぁ、先日までイベント海域の攻略に皆休まず出撃してもらっていたので、今日は演習も遠征も無しにしてゆっくり休もう、と提案したのは提督なのであるが。
ましてや攻略中は唯一のケッコン艦とはいえ、駆逐艦である望月もフルタイムで働いてもらっており、彼女もぶつくさ文句を言いつつ、しっかり役割を果たしてくれた。それを鑑みれば、今日は彼女の思う存分休ませてやりたいとも思う。
それに、これ自体は別に平日の彼女も似たようなものであり、提督は彼女のそういう所も全部引っ括めて好きになったのだが。
だがさすがに。あばたをえくぼと言い張るには、この提督はほんの少しドライだった。
「もっちー、いい加減にそろそろコタツから出なよ。そうやって寝転がってばかりだと、体にも悪いよ?」
そう言うと、ようやくモゾモゾと望月の体が動いた。動いたといっても、体は動かさず顔をコッチに向けただけだが。
「んーだよ司令官ー。昨日まで散々あたしをこき使っといてさー。疲れる原因作ったのは司令官じゃん」
「それを言われると何も言い返せないけどさ……」
「月月火水木金金てホントにあるんだねぇ、て思ったよあたしは」
ハァ、とため息をはく望月。ますます苦い顔をする提督。
イベント海域中は思うように攻略が上手くいかず、提督はずっとピリピリしていた。被弾した艦娘は入渠させて高速修復材を使い、しなかった艦娘はすぐさま再編成して再び攻略に向かわせた。基本的に艦娘に無理はさせない方針だったが、あの時の自分はかなりのブラック提督になってしまっていたと思う。
もちろん先日の祝賀会の時、酷使した艦娘にはしっかりと謝罪した。
「そうだけどさぁ……もうすぐ夕方だよ?そのままだともっちー、一日中コタツにこもりっぱなしってことになるけど」
コタツムリの生体観察としては非常に貴重な資料になるだろうが、人間としてはあまりいただけない生活だろう。
望月は『んー……』と唸りながらモゾモゾと動き、両手をコタツの外に出した。そのままコタツから出る気になったのかと思ったのだが、望月はそのまま腕を伸ばしてうつ伏せの態勢になっただけだった。単に袖の部分が蒸れただけだったらしい。
それを見て提督は呆れたように額に手をつけた。
疲れているのはわかるけど、そろそろ秘書艦としての務めも果たしてほしい。提督は朝からイベント海域攻略の報告書作成でちっとも休んでいないのだ。コタツの上には望月に片付けてほしい分の書類を置いたのだが……それは未だに手がつけられた様子がない。
……仕方ない。ここは一つ、試してみるか。
「そんなにだらけていると……太るぞ」
そう告げると望月の体がピク、と反応した。数秒固まる。
その後、さっき出したばかりの腕をコタツの中へ戻すと、毛布の外側の部分がモゾモゾと動く。そのまま数秒ほど時間がたち……やがて望月はふう、と息をはいて腕を外に出し直した。
「だいじょーぶだいじょーぶ。あと三週間はいける」
「どんな回答だよ……」
さっきまでの動きは腰回りとかを自分で揉んで確認していたのだろうか。……だとしたら、その答えが出るまでの数秒の間はいったいなんだったのだろう。
しかしダメ元だったとは言え、『太る』という言葉に反応するとは、なんだかんだで望月もやはり女の子らしい(失礼)。日頃からあまりオシャレをしようともしていないので、望月を『女の子』と認識する機会は意外とないのだ。
提督が服屋に連れていっても、望月は自分から服を選ぼうとしないし、如月たちとオシャレ談義をしているような様子もない。恐らく彼女が興味あるのは綺麗な髪飾りなんかよりもフカフカの枕なんじゃないだろうか。
まったく、仮にも女の子だというのに服を自分任せにするとは如何なものか。自分が紳士だったからいいものの、もしも他の鎮守府のロリコン提督に捕まっていれば、今ごろ幼稚園児のコスプレとか色々させられて……いや、それも案外悪くないかもしれん……。
つい執務の手を止めてあれこれ妄想していると、邪念を感じたのか望月が少し震えた。
またモゾモゾと顔だけ動かして提督と視線を絡める。
「司令官ー。お腹すいたー」
「そりゃあ、朝からなんにも食べてないだろうからね」
「なんか作って」
「なんと図々しい……」
そもそもお昼に間宮食堂へ誘ったというのに、望月はついてこなかったではないか。仕方ないから自分は泣く泣く一人で定食を食べたというのに(間宮さんの目が優しかった)、勝手ではないか。
提督はそう思ったが、だがそれでも不思議と嫌悪感は覚えず、素直に従おうとしてしまう。最近思い始めたが、ひょっとすると自分は犬気質か世話好きかドMなのかもしれない。
だが、さすがに今から作るのは無理だ。提督は机の引き出しを開け、中身を漁る。奥の方に手を入れてみると、ポッキーの箱が出てきた。
「もっちー、ポッキー食べる?」
「食べる~」
いつ買ったものかはわからないが、別に賞味期限も切れていないようだし、望月はお菓子の類いはだいたい好物だ。
今しっかり食べてしまうと晩御飯に支障が出てしまう。明日からはまた通常の勤務が始まるのだから、生活のリズムを崩すわけにはいかない。とりあえず今はコレでお茶を濁してもらうこととしよう。
そう思って提督はコタツの上に長方形の箱を置いた。だが、いつまで経っても望月は取ろうとしない。不思議に思った提督が顔を上げると、
「提督~食べさせて~」
パタパタと腕を上下に動かしながら望月は言った。
「……ここまで来ると一種の長所だな」
さすがに(自称)温厚な提督もイラッときかけたが、若干呆れに似た感情を抱いて執務の腕を止めた。
包装を破ってポッキーを一本取り出すと、かがんで愛しの望月の顔へと持ってきてやる。
「はい、あーん」
「あ~ん」
一瞬鼻に突っ込んでやろうかとも思ったが優しい提督はそんなことはせず、素直に口許にポッキーを向ける。口だけで提督の手のひらからポッキーを咥え、望月はモグモグと口に含んでいく。卯月よりも兎っぽいぞ、と提督は思ったが口に出さない。
全てかじり終わり飲み込むと、またあーんと口をあける。それを見て提督は、もう一本ポッキーを取り出した。口元へ持っていくと、さっきと同じようにポッキーが望月の口の中へと消えていく。そしてまた、彼女はあーん、と口を開けた。
「なんか、ワガママお嬢様の使用人になった気分だ」
思わずポツリと呟くと、
「いや~さすがのあたしも、ここまでだらけるのは司令官の前だからだよ。三日月とかの前じゃ、もう少し抑えめだし」
いまいちフォローになってるのかよくわからない。
もちろん、自分の前で素の自分をさらけ出してくれるのは嬉しいし、それだけ信頼してくれてることなのだろうけど、それでももう少し抑えてほしい。てか姉達の前でも抑えめなだけでそのスタイルなのかよ───と色々言いたいことはあったが、もう提督は考えるのが面倒になったので何も考えないことにした。
それからしばらくの間、提督がポッキーを取り出し、望月がそれを食べるポリポリという音だけが室内に響いた。
動かずとも暖かい思いをし、勝手に飯が運ばれてくるのはさぞ幸せなのだろう、望月は猫のように目を閉じて提督の指がつまむポッキーを食べてくれている。
それを見ていると、ふとイタズラ心が芽生えた。ちょうどポッキーも最後の一本。仕掛けるなら今だろう。
「もっちー」
「ん?」
提督の言葉に望月が目をあける。居眠りを邪魔された猫のような顔だった。
「はい、あーん」
改めてそう言いながら望月の口元へポッキーを持っていく。
「あーん」
何も疑わず望月はポッキーを咥える。ポッキーが手から離れた瞬間、提督は動いた。伸ばした腕の分だけあった距離をすぐに詰めて、ポッキーの反対側を口に含む。突然のことに望月の目が見開かれた。
……当然だろう。なにせこれは俗に言うポッキーゲームの態勢だ。
これだけ望月のワガママに付き合ったのだ。少しくらいムフフな思いをしたって罰は当たらないだろう。
そして提督は一気にポッキーを食べ進め───
ポキッ
「えっ」
あっさりと折られた。
もちろん提督の仕業ではない。提督が咥えたのを見た望月が自ら折ったのだ。
「何やってんのさ、司令官」
提督と望月の間で綺麗に折られたポッキーを、彼女はポリポリと食べていく。その目は完全に呆れたものだ。
……提督の理想としてはゆっくりとお互いに食べ進め、そのままアハーンな展開に持っていくつもりだったのが、予想以上の望月との温度差にひよってしまう。
「いや、あの……これはお約束といいますか、ついイタズラ心が芽生えたといいますか……ほ、ほら、思えば最近ご無沙汰だったし……」
慌てて弁明する。最後の言葉はやや後付けに近い形で言った。
もちろんケッコンしているので、とうに男女の仲には至っている。だが最近はイベント海域の攻略でお互いそんな暇はなく、こうやって二人で執務室にいるのだって、実は久しぶりのことだったりするのである。
しかし、提督の言い訳を聞いた望月の目は、ますます細くなっていく。コタツがあるはずなのに、室内の温度がリアルタイムで下がっていくのを感じた。
「……はい、アホなこと考えてすいませんでした。執務にもどります……」
どうやら今の望月はそんな浮かれた気分などなく、本気で休みたいらしい。ならば提督は大人しく引き下がるしかない。
所詮自分は安全圏から偉そうに命令しているだけである。艦娘の疲労度がどれくらいなんてわからないので、艦娘が休みたいというのなら休ませるしかない。
半分になったポッキーを呑み込み、提督は膝を伸ばし机に戻ろうとした。
だがその時、提督の視界が急に反転した。軍服の後ろ襟を掴まれ、途方もない力で引っ張られたのだ。
「ぐえっ!?」
潰れたカエルような声が出てしまっていたが、それを引っ張った張本人───望月が気にした様子はない。見ると望月は艦装を展開している。大の大人を引っ張れたパワーはそこかららしい。
バランスを崩し倒れた提督を、望月はコタツに押し込んだ。提督と望月の体が向かい合う形になる。
提督が我に返った時には、目の前に望月の顔があった。その顔は、僅かに赤くなっている。
「……別に、嫌とは言ってないじゃん」
眼鏡越しの望月の目と視線がぶつかる。
提督としては何がなんだかわからなかった。望月の意図をイマイチ理解することができず、間の抜けた発言をしてしまう。
「も、もっちー? まだ書類が残ってるから……」
「そんなのどうでもいいでしょ。……今は」
頬に触れる望月の手が温かい。その手つきは、親に甘える子供のようで、提督はますますわからなくなる。
元々望月はぶっきらぼうで気まぐれな性格だが、この行動の真意は長い付き合いの提督にもわからなかった。
そんな思いが顔に出ていたのだろう。しばらく両者無言の時間が続いていたが、やがて望月は「あーもう察せよ!」と提督の頭をポカッと叩いた。
「いて」
今度のは艦装も既に消しており、力は入ってない。犬の甘噛みのような、敵意のないじゃれつきの類いだ。だが、察知能力に乏しい提督の頭に浮かぶハテナはますます多くなる。それに焦れったくなったらしい望月は、「……もう」と細い腕を提督の首に回した。
「もっちー?」
「……寂しかったんだよ。言わせんなよ恥ずかしい」
拗ねているような声音だった。その言葉と共に、望月は抱き締める手をさらに強くする。
頬と頬をくっ付けているため、提督からは望月の顔は見えない。しかし真っ赤になった耳から、彼女が今どんな表情をしているかは容易に想像ができた。
「最近の司令官、海域攻略にかかりっきりでさ、ほとんど構ってくれなかったじゃんか。帰投した時だって、全然ねぎらってくれなかったし」
望月の鼓動が提督に伝わる。それは提督と同じリズムを奏でていた。
「望月……」
これだけ言われるとさすがに鈍感な提督でも望月が何を求めているのかはわかる。……まぁ、逆にここまで言われないとわかってあげられないのだが。
片方の手を彼女の腰に回し、もう片方の手で頭を撫でてやる。望月は『そうそう、それでいいんだよ』と言いたげに目を細めた。
「ごめんな望月。気付いてあげられなくて」
これを言うと言い訳になってしまうのだが、望月の方から提督を求めることは少ない。彼女は睦月型の姉妹と共に行動することも少なく、一人でいる方が好きという節さえある。だから、相手をしてあげられなくても望月なら大丈夫かと、提督は思っていたのだ。
「……そんなわけないじゃん。好きだから、ケッコンとかめんどくさいことも受けいれたのに。そりゃ、一人の方が気楽だけどさ……」
「そっか」
そんな疑問に、望月はポツポツと答えていく。一つ答えるごとに、抱き締める力はより強くなっていった。
要するに、望月は提督に構ってほしかったのだろう。
いかに彼女と言えども、提督と触れ合うことも話すこともできなった時間に、寂しさを感じていなかった訳がないのだ。今日の異常に怠けていた行動だって、恐らく提督に気にかけてほしい一心だったのだろう。
簡単に考えればすぐにわかったことに、提督は苦笑いする。艦娘の───妻の気持ちも把握できないなんて、まだまだ自分は未熟者のようだ。
「じゃ、執務ももう休みにしよ。今日は、望月と一緒にいることにするよ」
提督はコタツにより体を埋めると、望月とより引っ付くようにする。密着度が上がり、ミルクのような匂いが提督の鼻孔をくすぐった。
「……そう。それでいいんだよ、司令官」
口調こそいつものぶっきらぼうなモノだが、表情は柔らかい。
それからしばらく経つと、やがて彼女の瞼がゆっくりと閉じられていく。それに合わせて、執務の疲れか、提督にも眠気がやってきた。
完全に意識が落ちる前に、先に眠った望月の眼鏡を外してやる。
どこか幸せそうな表情をする彼女はどんな夢を見ているのだろう。彼女のことだから、夢の中でも眠っているかもしれない。
そんな想像に自分で小さく笑い、提督もまた目を閉じた。
「お休み、望月」
眠るあいさつを誰かに言うことができる。
それはひょっとすると、かなり恵まれたことなのかもしれない。そう思い、提督と望月は夢の世界へと旅立っていった。
ちなみに余談となるが、数時間後に執務の様子を見に来た長月と三日月に二人はしこたま怒られることになるのだが、それはまた別のお話。
さらに余談だが説教中、子供に正座させられ少し情けなさそうな提督とは対照的に、望月はどこか満足気な顔だったそうな。