望月との日常   作:トマリ

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久しぶりにこのシリーズを読み返していたところ、驚くことにハーメルンの方に投稿していなかった作品があったことに約二年越しに気づきましたので、今回投稿しました。
久しぶりに楽しんでもらえると幸いです。




クリスマスのホープムーン

 

 本日は12月24日、クリスマスイブ。

 意外と間違える人がいるが、『クリスマス』は25日で『クリスマスイブ』が24日である。

 ……が、まぁそんな些末な違いはこの鎮守府にとってはどうでもよい。名称がどうあれ、どちらもクリスマスで、バカ騒ぎできる日というのには変わりないのだから。そしてその認識は提督も同じである。

 

 

 

 というわけでヒトキュウマルマル。

 誰が企画したわけでも予告したわけでもないのに、この鎮守府ではクリスマスパーティーが開催されようとしていた。

 午前中から駆逐艦はえっさほいさとツリーを組み立て、ノリの良い者はサンタ服を着込み、間宮さんはご馳走の準備をし、望月と初雪はソシャゲのクリスマスログインをしていた。

 そして各自が思い思いの服装で思い思いの準備をし、いよいよクリスマスパーティーが始まる。

 当日になって突然パーティー開始の音頭を任された提督が、マイクでハウリング起こしまくったり噛みまくる特に関係ないハプニングがあったが、概ね問題なく開会式は済んだ。

 そして開会式が終わった瞬間に、赤城と武蔵がすぐさま料理へと手を伸ばしたのでそれを必死に防御しつつ、提督と望月は連携してチキンなどを艦娘達へ平等に取り分けた。途中で、料理強奪組の群れに跳ね飛ばされる形でふっ飛んだ瑞鶴が、その拍子に加賀に顔面パンチをかましてしまうという特に関係ないハプニングもあったが、どうにか提督達は選り分けを終えた。

 ……そうして、パーティースタートから一時間ほど過ぎた頃には、

 

「一航戦加賀!!歌いまぁぁぁぁぁぁぁぁぁすッ!!」

「いよっ!待ってましたァァァ!!」

「やめちまえ下手くそーーッ!!」

 

 重巡や空母の艦娘はほとんどが酔っ払いとなっていた。那智や準鷹はともかく、真面目な印象の強い飛鷹までも既に顔が赤くなっている。

 

「すげー……」

 

 酒にあまり強くないので代わりにオレンジジュースを飲みながら、提督はぼんやり呟いた。

 一切酒を飲んでいないはずなのに熱気だけで酔いそうな食堂の様子は、もはや軍隊にはとても見えない。『ここは鎮守府じゃなくて戦艦のコスプレをした人たちによるサークルです』と言われた方が信用できそうだった。

 

「あ~……やっと解放された……」

 

「ん、お帰りもっちー」

 

 オレンジジュースを追加で注いでいると、提督の隣にフラフラになった──。私的ゲーム機が似合う艦娘一位にして(二位は初雪)代替不可のケッコン艦、望月がやってきた。

 彼女はさっきまで、酒瓶持った龍驤と鬼怒に連れてかれて軽くアルハラを受けていたようだった。証拠に目はいつもより虚ろで、頬は桃のようにほんのりと染まっている。

 提督が新しいコップに水を入れて持ってくると、望月は「あんがと……」と口の中へ流し込んだ。

 

「うあー……水うめー……」

 

「大丈夫? もっちー」

 

「あんま大丈夫じゃねー……クラクラする」

 

 望月も提督ほどではないが酒に弱い。

 

「龍驤と鬼怒とは?」

 

「二杯だけなんとか飲んで……ポーラが来たから入れ替わりになんとか抜け出してきた……。後は知らない」

 

「……なるほど」

 

 苦笑いする。

 共に潰れてるか潰してるか潰されてるかは知らないが、ともかく二、三着ほど服が舞うのは間違いなさそうだ。

 提督は新しい水を注ぎに行くついでに、まだ酔ってなさそうな由良にバスタオルをいくつか持ってくるように頼んだ。

 

「はいもっちー。新しい水だよ」

 

「あんがとう……」

 

 コク、コク、と彼女の喉が小さく動く。顔を見る限り、先程よりはマシになってきたようだ。

 

「ちょっと休んどきなよ。ほら」

 

 そう言って提督はポンポンと膝を叩く。

「そうするー……」と短く答えると、望月はゆっくり提督の側へと倒れ込んでくる。そして二秒後、彼女の頭は提督の膝にすっぽりと納まっていた。

 膝の上にほのかな温かさが来る。重くはないが、少しくすぐったい。

 

「あー……まだ気持ち悪い……」

 

「しばらく横になってなよ」

 

「そうする……」

 

 完全に頭を預けきり、望月は目を閉じる。

 悪くない。心の中で提督は親指を立てた。

 酔っているとはいえ、こんな風に堂々と自分に体重を預けてくれるのは、それだけ信頼されているようで悪い気はしない。

 ……恐らく今の望月は、とにかく頭を預けられるものならなんでもいいのだろうが。酔っていない時でもこういうことはしてほしいものである。提督はいつでもウェルカムだというのに。

 

 そんな望月の顔に改めて目を向けると、彼女の頭部には可愛らしいサンタ帽が被られていた。

 それは今より一時間前のパーティーが始まったばかりの時、とある男性T(プライバシー保護により名前は伏せさせてもらいます)の『絶対似合うから!絶対似合うから!』という熱い要望によって装着されたものである。

 当初望月は嫌がっている様子だったが、何だかんだ一時間被り続けている所を見るに、案外気に入ったのかもしれない。ちなみにTの野望としては、更にサンタ服も追加で着せたかったようだが、そこは望月の冷たい拒絶によって却下された。

 

 閑話休題。

 それから提督と望月はしばらく二人で過ごした。特に何かをする訳でもなく、膝枕する提督と膝枕される望月とで。バカ騒ぎする駆逐艦たちを眺めたり、とうとう戦艦たちまで参戦しだしたカラオケに苦笑いしたりなど。

 別にイチャついているわけでも色のある話をしているわけでもないのだが、提督はこの時間が心地よかった。それは恐らく望月も同じだろう。なんだかんだ言って、こんな風に他愛の無い時間を過ごしているときが一番楽しかったりするのだ。

 そうして更に三十分ほど過ぎ、望月に回っていた酔いもマシになってきた頃。

 

「……あれ?」

 

 そんな声を上げたのは、同じくサンタ帽を被っている古鷹だった。加賀と瑞鶴のデュエットに発展した空母組から目を離して見ると、古鷹は空の二Lペットボトルを手に固まっている。

 

「あら、オレンジジュース無くなっちゃった?」

 

「はい。そうみたいです」

 

「まだ一本ぐらいストックなかったっけ?」

 

「ないよ~。姉貴たちが飲んでたし~」

 

 二つ目の質問に答えたのは望月だ。膝枕は未だ継続中である。腕を脱力させてダランと下げているが、もうほとんどマシになったようだ。

 ちなみに膝枕される望月を見る古鷹が、どこか羨ましそうな目をしているように見えるのだがそれは気のせいだろうか。

 

「そういえば、さっき利根も『カルピスがなくなった』とか言ってたな……」

 

「まぁこれだけ人数がいると考えると、一時間半もっただけでもすごいと思いますけどね」

 

「この様子だとパーティーはまだまだ続きそうだし……買い出しにいってこようか」

 

 そう言って、よっこいせと提督は立ち上がろうとし───膝に望月が乗っかったままであることを思い出した。

 すると望月もそれを察知したのか、一瞬横目で提督を見た後、腰に力をいれた。

 

「んじゃ、アタシも付き合うよ」

 

「……え、いいの、もっちー?」

 

 酔いは完全に醒めたらしく、体を起こし猫のようにあくびをし伸びをする。

 

「たぶん外メチャクチャ寒いけど?」

 

「いいよ別に。ここにはストーブも炬燵もないし。やることもないし、動いてる方が気が紛れる」

 

「いやでも───」

 

「もう、鈍いですね提督は」

 

 望月を気づかう形で渋っていた提督。だがそうしていると、横にいた古鷹がなぜか腰に手を当て頬を膨らませていた。

 

「むしろこういう時は提督の方から『俺の嫁なんだから黙ってついてこい』ぐらい言えばいいんですよ。何より今回は望月の方からついていくって言ってるんですから」

 

「え!? い、いやそれを言うのはかなり勇気がいると言いますか……僕そんなキャラじゃないし……」

 

「いいですから!ほら、まとめ役は私がやっておきますから、提督は行ってきてください!」

 

「ちょっ───」

 

 古鷹らしからぬ強引さで背中を押され、提督と望月は食堂から弾き出された。しばらく提督はポカーンとしていたが、一先ずおつかいを頼まれたからには早く取りかからなければならない。

 

「それじゃ、行こっか」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 そう言うと、望月は提督に背を向けると、睦月型用の部屋へと小走りに向かいだした。

 

「もっちー?」

 

「すぐに追い付くから、先に玄関で待っといて」

 

「はぁ……?」

 

 上着でも取りに行くのだろうか? 疑問を抱きながらも、とりあえず提督は言葉の通り玄関に向かうことにした。

 提督の上着は玄関に掛けてあるので、彼はそのまま玄関に向かうだけで良いのだ。

 

『少し背の高い~~あなたの耳に寄せたおでこ~~。甘い~~匂い~~に~~誘われた───』

 

 私的『カブトムシ』が似合う艦娘ランキング一位である扶桑の歌声を聴きながら、提督は玄関へ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマスの空は、雲もなくスッキリしたものだった。黒い画用紙のような空に、無数の白い点が浮かんでいる。

 一応予報では雪は降らないようだが、いつ降ってもおかしくなさそうな雰囲気だった。

 

「うううっ!さっむ!!」

 

「そりゃそうだよ!だから言ったじゃん!」

 

 かまいたちのような風が頬を叩く。鎮守府を出て僅か三十秒にして、二人は既にリタイアしかけていた。

 それもそのはず。白い軍服の上からグレーのコートを羽織った提督と違い、望月はいつもの黒の制服の艦娘のままの姿である。更にスカートと靴下の組み合わせもそのままなので、太腿の一部は剥き出しだ。もう見るだけでも寒い(ついでに帽子も外していた。さすがに恥ずかしかったのだろうか)。

 艦娘の制服は、防弾性は抜きん出ていても、防寒や防水性に優れているわけではない。おまけにマフラーや手袋といった道具も無しである。さっき望月は自分の部屋へ何をしに行ってたのだろうか?

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃねー……正直嘗めてた……」

 

 精神的ではなく身体的な都合で、望月の声は震えていた。

 提督の手はコートのポケットの中。対して望月の手は彼女の肩に置かれている。自分で自分を抱き締めているような格好だ。

 だが、自分の体よりも手を暖める方が大事と判断したか、望月は自らの手を肩からスカートのポケットへと移動させようとする。しかし、その手はポケットの前で止まった。それから逡巡するような間があり、やがて彼女は再び手を肩へと戻した。

 

「さぶいぃぃ……凍えるぅ……」

 

「ああもうっ」

 

 たまらなくなり、提督は着ていたコートを脱ぐと望月に被せるようにして渡した。

 思わずといったように彼女は目を丸くする。

 

「……いいの?司令官」

 

「ヨメが寒がってるのに、僕だけ暖かい思いするわけにはいかないでしょ。それに───ぶえぇっっくしょん!!」

 

 それに僕はこう見えても寒さには強いんだゼっ☆ とカッコつけようとした瞬間くしゃみが出た。世界に進出しても恥ずかしくない、天下無双天下無敵のくしゃみだった。

 数秒ほど二人の間を沈黙が蠢く。

 

「……いいよ。アタシが悪いんだし、司令官が着てな」

 

「うう……申し訳ない。ごめんね、情けないとこ見せて」

 

「別に気にしてないよ。見慣れてるし」

 

「そりゃよかった……いやよくねぇ」

 

 自業自得とはいえ悲しい。もう少し平常時の自分の立ち回りに気を配ることにしよう。

 望月はまだ凍えている様子だったが、しかしそこは腐っても艦娘らしい。寒さに慣れたか、猫背気味になっていた体はいつの間にか勝手に元通りになっていた。これが雛鳥に巣立たれる親鳥の気持ちか、とバカなことを考えながら提督はコートを着直す。

 鳥と言えば、うなじ部分に当たる羽毛が心地よい。羽毛を最初に防寒具に利用した人は、この世全ての富を得る権利があると思うのだがどうだろう。いや、この場合は最初に羽毛を剥ぎ取られた鳥にだろうか? 

 

「司令官」

 

「っとと、うん?」

 

 熟考(するほどのことでもないが)中に声をかけられたため、首根っこを掴まれたように足がもつれてしまった。

 どうしたの?と首を横に向けるが、そこに望月はいない。足を止めて体を回すと、彼女の姿は後ろにあった。その距離は三歩ほど。

 初め、提督は無意識に自分の歩くペースが早くなっていたのかと思ったが、望月の雰囲気を見るに恐らく彼女が立ち止まっていただけのようだ。

 

「……もっちー?」

 

 名前を呼ぶが、なぜか望月は目をそらす。何やらもじもじしているように見えるのは寒さに凍えているからではないと思う。

 片手をポケットに突っ込み、母親に謝るタイミングを見計らっている子供のように、望月はそわそわと落ち着きがない。

 だがやがて、意を決した表情で彼女は顔を上げた。タタッ、と三歩の距離を一気に縮める。彼女の茶髪が斜め下の位置まで来た。

 そして気づけば、いつの間にか目の前に彼女の掌があった。見ると、その掌に乗っかっているのは───

 

 

「……手袋?」

 

 

 コクン、と茶髪が上下に動く。

 青色の手袋を、望月は提督に差し出していた。

 

「……渡すタイミングが大幅に狂ったけど……まぁその、ほい。アタシからのクリスマスプレゼント」

 

「え?」

 

「本当は、パーティーが終わってから……二人になれる時に渡そうと思ってたんだけど……」

 

「あー……空母の方々が盛り上がりすぎて、パーティーが終わりそうになかったから?」

 

「……おう」

 

 なるほど。

 提督の脳で点と点が繋がる。これまでの不可解な行動は、この急ごしらえサプライズのためだったのか。

 

「へぇ~すごい……もしかして、手編み?」

 

「……まぁ、鳳翔さんに教わりながらだけどね。柄じゃねぇってのは千も承知だけどさ……」

 

 提督が手に取り、手袋が掌から離れると、望月は途端に俯いた。その耳は、ほのかに赤くなっている。

 望月with鳳翔によって編まれた手袋は、ミトン型のものだった(パン屋がトレーを持つときに使っているような、親指だけが離れて二股になっている手袋だ)。ご丁寧に毛糸によって編まれているソレは、手で触れているだけでも温かさが伝わってくる。

 サンタからのプレゼント箱を開ける気分で、提督はさっそく手にはめてみる。どこかでつっかえる訳でもなく手袋はすんなりとはまった。

 はめた後に掌をよく見ると、左右の手で手袋の大きさが若干違う。悪くはない。むしろ『手編み』特有の味が出ていて非常に良い。

 

 ミトンによって手を覆われた瞬間、提督は自分の手が急速にあたたまっていくのを感じた。

 それは温度的な意味でではない。いや、もちろんそれもあるのだが、それとは違う要因で、違う部分で、提督の手は確かに寒さを忘れかけていた。

 『望月が編んでくれた』という情報だけで効力が五割増しになるのだから、男とはなんて単純なのだろうと提督は思う。

 しかし構わない。この温かさを味わえるなら、彼は喜んで単純になるだろう。

 手の温かさを心に染み込ませていると、提督は望月が未だうつむいたままなのに気付いた。

 

「ありがとう、もっちー。すごくあったかいよ」

 

 手袋をはめた手で、彼女の頭を撫でる。指に当たる部分が二つしかないので少々撫でづらいが、全く問題はない。

 撫でられていることを認識すると、望月はゆっくりと顔を上げ始める。

 

「結構ギリギリまで編んでたからな……もし合わなかったら、別に使わなくても───」

 

「使う。絶対使う。何があろうと使う。例え夏だろうとはめる」

 

「いや、さすがに夏は外せよ……」

 

 提督のバカな言葉で緊張が緩んだか、苦笑いする望月。提督としてはマジマジのマジなのだが。どこの世界に嫁からのプレゼントを無下にする夫がいるものか。

 苦笑をきっかけに完全にほぐれたか、望月は俯いて猫背気味になっていたのを取り返すように大きく伸びる。

 

「あ~……疲れた。やっぱ柄にもないコトってするモンじゃねぇなぁ」

 

「柄にはあったよ、て言うとちょっと嘘になっちゃうけど……でも、本当に嬉しかったよ。改めて、ありがとう望月」

 

「……ん」

 

 照れくさいのか、さっさと先に行ってしまう望月。それをさっそく手袋をはめたまま追いかける提督。

 鼻唄を歌いながら追い付いた提督に、望月は『そこまで喜ぶか?』と少し困惑しているような顔だったが、上機嫌の提督を見るとそれにつられたように彼女も笑った。

 

 

 

 (……こんなことって、あるんだなぁ)

 

 心の中で提督は思う。

 彼が上機嫌だったのは、最愛の艦娘からプレゼントを貰えたから……だけではない(・・・・・・)

 

 (ホントはパーティーが終わってから渡すつもりだったけど……変更変更。やっぱり帰ってきてから、僕も渡すことにしよう)

 

 彼も同じく用意していたプレゼントである手袋を、望月に渡した時の反応が楽しみになったからだ。まぁさすがに提督が用意したのは、手編みではなく市販のモノだけれど。

 

 この夫婦はお互いに示し合わせたわけでもないのに、同じ日に、同じようなモノを、同じタイミングで互いに渡そうとしていたのだった。

 

 

 暗い空から、やがて白の結晶が産み落とされ始める。

 彼らのクリスマスは、まだ終わらない。

 

 

 

 

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