望月との日常   作:トマリ

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酒(を飲んだ人)に飲まれる月

 突然だが、皆様は『酒』に関することわざと言えば何が浮かぶであろうか?

 恐らく大半の人間が『酒は飲んでも飲まれるな』と答えるのではないだろうか。これが一番メジャーであるし、教訓にもなる。というかこれの他に『酒』に関することわざなんてあるのか?というレベルな気すらする。

 だが調べてみると、『酒』に関することわざというのは、意外とたくさんあるようなのだ。

 

 例えば、『新しい酒は新しい革袋に盛れ』。

 

 新しい内容を表現するためには、新しい形式が必要である、という意味だ。真反対の意味として『新しい酒を古い革袋に盛る』という言葉もある。

 例えば、『酒と朝寝は貧乏の近道』。

 酒を飲み過ぎ、グータラと怠けていれば、たちまち貧乏になってしまうという意味だ。

 

 やはりというか何というか、『酒』に関することわざはネガティブな意味合いが多い。しかしそんな中でも、『友と酒は古いほどいい』なんて洒落(酒だけに)の効いたことわざもある。

 まぁ要するに、何事も適量が良いということだろう。負のイメージが強い酒も、きちんと節度を持って飲めば人生を豊かにしてくれるものなのだ。

 

 

 

「━━━てぇいうわけなんだよぉもっちぃ……だから僕が酒を飲むのはいいことなんらぁ……」

 

「それのどこが『節度を持って』なのさ……。ていうかあんま顔近付けんな!酒臭いから!」

 

 父親をウザがる思春期女子高生のような気分で、司令官の顔を押し退ける。その拍子に、司令官の産毛が掌に当たって痛いようなくすぐったいような気持ち悪いような。

 

「ったく、『酒』に関することわざを解説する余裕があるんなら、ちゃんと自分の足で歩けっての……」

 

「うっへへ~」

 

「笑って誤魔化すな」

 

 普段アタシより頭二個分高い位置にある司令官の顔が、今は隣━━━アタシの肩の上にある。

 理由は簡単、コイツが酔いつぶれて歩けなくなったから、アタシが運んでいるのだ。

 

「いやほんろごめんってもっちぃ。ポーラとの勝負、かてるとおもっらんだけどなぁ~」

 

「その程度のアルコール耐性でポーラに勝負挑んでたとかアンタ正気か」

 

 そもそも酔いつぶれた理由というのも、ポーラとの飲み比べ勝負に挑んだから(もちろん負けた)という、宮本武蔵に剣術勝負を仕掛けるくらいには無謀なことをした結果なのである。

 那智か隼鷹か、誰がけしかけたのかは知らないが、これは勝負を受諾した司令官サイドにも問題がある気がする。もはや呆れを通り越してドン引きしながら、アタシは傍らの司令官を見つめる。

 身長差のせいもあり、『肩を貸している』というよりは『背負っている』と言った方が正しそうだ。端から見れば、成人男性が小学生に肩を借りているという児童相談所も真っ青な光景であるが、重量に関しては艦娘としてのパワーがあるので気にならない。

 ただ、さすがに身長差はどうにもならないので、司令官の足は床に引きずるようにして運んでいる。たぶん膝の辺りは埃やら何やらで凄いことになっているだろうが気にしてられない。恨むなら、やたらニヤニヤしながら自分に運搬係を押し付けた加古にでも言ってほしい。

 

「もっち~」

 

「ん? どした」

 

「愛してるぜ~」

 

「そうかい」

 

「もっち……愛してる……ぷくく、僕上手いこと言った……!」

 

「なにわろとんねん」

 

 酔っ払い特有のこの脈略の無さ。しかも何をどう掛けたのか、どう上手いのか推測すらできない。

 司令官は、酒が入るとそれなりに唇のシェルターが脆くなるらしく、この『愛してるぜ』もなんだかんだ五回目だ。二回目ぐらいの頃は突然の発言にややテンパりもしたが、四回目あたりからはもう冷めたものである。

 ……まぁ、嬉しくないのか、というとそれはまた別の話なのだし、司令官のストレートな愛情表現などそれはそれでレアなのでまぁ━━━

 

「ねぇもっちい~。エロゲーでキス音声を収録してる時の声優さんやディレクターってどんな気持ちなんだろうねー?」

 

「司令官、今ちょっとカンガイみたいなものに耽ってるから黙ってて」

 

 最低で低俗な話題を振ってくる低能になった司令官の顔にビンタする。

 もう嫌になってきたこの酔っ払い。廊下に放置して自室に帰ってやろうか……。

 

「緑のお肌の~提督さんは~♪」

 

「赤な。お鼻な。それだと妖怪人間だよ」

 

 アタシがそんな野心を抱くのも知らず、司令官はいかにも酔っ払いらしいクダラン替え歌を歌い始める。音量調節できてないせいで鼓膜に若干響く。うるさい。

 ていうかツッコミにもそろそろ疲れてきた。アタシは三日月のようにツッコミキャラではないのだが……。

 

「ピンクのお肌の~提督さんは~♪」

 

「余計ヤバくなってんだけど……まぁもういいや」

 

「いっつも望月さんの~♪」

 

「━━━望月さん、の?」

 

 つい耳を澄ませた。

 酔っ払いのレベルの低い替え歌とは言え、まさか自分が歌詞に出るとは思わなかったのだ。

 思わず、次の言葉を心待ちにしてしまう。

 

「……グゥ」

 

「いやそこで寝るなよ!?」

 

 関西のツッコミ役の如く頭を叩く。スパコン!と良い音がしたが、司令官が起きる様子はない。どころか急にスイッチが切れたように口から涎を垂らす始末だ。

 

「うっへへ、もう食べられない……」

 

「伝説の寝言いってんじゃねぇよ!! ピンク(緑)のお肌の提督さんは望月のなんなんだよ!?」

 

「……グゥ」

 

「いや待てって! 寝かさねぇからな!? ピンク(緑)のお肌の提督さんが望月の何なのか言うまで寝かさねぇからな!?」

 

 司令官を激しく揺すってみるが、起きる気配がない。気配がないので尚声を大きくして大きく揺する。

 それでも司令官は起きてくれなかった。ちくしょう、嫁の頼みが聞けんのかこの司令官は!

 

 

 

 ……そんなわけで完全にムキになって騒ぎ続けた結果、後日にこの台詞の断片を聞き取った姉たちによって、アタシと司令官は散々イジられることになるのだが……まぁそれは別の話ということで。というか言いたくない。

 

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