そこでイキっている海賊諸君、そういうのはいちど世界を救った伝説の戦士に勝ってからやりたまえ 作:巨大ナメクジ
「花子、招待客に漏れはないか?」
「はい、新婦側の列席者は大丈夫そうです。留さんの方もきっと妹さん方を招待してくださいね。」
賀茂花子は幸せの門出を3日後に控えていた。今の世には珍しく祖母が設けた見合いの席で出会った沢代留は花子より1回りほどの年齢差があったが、穏やかな性格の花子と不器用だが気風のよい留は周囲が意外に思うほどに気があった。二人は周囲が大いに祝福する関係となり、半年前から挙式に向けて準備を進めていた。
賀茂家は神の系譜であるといわれるほど古く続く家系であり、その昔は陰陽道に精通したといった謂れが多い家である。賀茂家に生まれた花子は血の運命か少女の頃に花の妖精とともに人々の心を守らんと砂漠の使途と闘った過去を持つ。16歳の時、砂漠の使途を世に放っていたコウヤ博士とその手下達をたった一人で退け花子の伝説の戦士としての使命は成し遂げられた。
唯一の戦友である花の妖精アセピとココロパフュームはこころの大樹へと還り変身能力も無くなった花子は普通の女の子に戻った。
年を重ねこうして人生の伴侶を見つけたいまでも、時々夢に当時のことやきれいに咲き誇るこころの大樹を見ることがある。
「今日もこころの大樹はきれいに咲き誇っています。」
いまだこの景色を見られるのが賀茂の血の力なら花子は賀茂家に生まれてきたことに感謝した。いつものように大樹に背を預けて目が覚めるまでのひとときを過ごそうとしたとき、一陣の風が花子の髪を揺らした。
「こころの大樹がたいへんでふ~!」
「その声は…!もしかしてアセピですか?」
花子にとって忘れられない、幼い少年のような声で気の抜ける話し方をする花の妖精の名を呼んだ。
こころの大樹が一瞬眩い光を放つと、そこにはかつてよりサイズアップした青色の花の妖精が姿を現す。
「花子~こころの大樹が!このままでは消滅してしまうでふ~~!!」
「アセピ!ああ、そんな、こんなにもきれいに花を付けてるのに。どういうこと?」
「ここのことでないでふ~、アセピがいたところの大樹でふ~。」
いま目の前にそびえるこころの大樹ではないという。砂漠の使途との戦いではこの大樹が世界を支える唯一だと花子は聞いていたのに、いったいどういうことなのだろう。
「アセピはたくさんのこころの花の種を生んだから、別の大樹もいけるようになったでふ。でも、そこの大樹はずっと花を咲かせないでふ!このままじゃ心の花も新芽もすべて無くなるでふ~!」
アセピは花子と別れてからずっと別のこころの大樹を守っていたらしい。世界で唯一の別の大樹ということは、アセピは花の力で異世界に渡れるらしい。アセピの話を要約すると、その世界では人々の心の多くは枯れかけているのだが一部の強い心のおかげで大樹はなんとか枯れ果てずにいるが、強い心は欲望の心だからきれいな花が咲かないらしい。大樹が枯れなくても花が付かなければいずれ人々の心は砂漠のように枯れていってしまうのだそう。
「そちらの大樹はまたプリキュアを選ばないの?」
「ずっと花をつけない大樹はもうプリキュアを探す妖精を生む力もないでふ~。」
「そんな…。」
大きくなり少しだけしっかりしたようにみえたアセピは、昔のように涙で顔を濡らしながら花子の胸に飛び込んできた。花子も思わずアセピを抱くが、もうプリキュアになれるような乙女でもなくなってしまった。花子の表情が曇るのと同時にアセピが胸元から花子の顔をのぞき込む。
「花子、また力を貸してほしいでふ…。こっちのこころの大樹もしばらく元気で新しいプリキュアを選んではいないでふ。もう花子しかいないでふ!!」
「ちょっとまってアセピ!私はもう…!」
「お願いでふ花子!!アセピの力で向こうに送るでふ!花子が行けばあっちのこころの大樹も気づいて最後の力でプリキュアを復活させるでふ!!」
胸に抱いていたアセピを中心に風が吹きはじめ思わずアセピを手放した花子はそのまま突風に押されて後ずさる。目も開かぬような嵐の中花子は必死にアセピに呼びかけるがその声が届くことはなかった。
アセピに手を伸ばしたせいで体勢を崩した花子は瞬く間に身体が宙を舞い次の瞬間自分がとんでもないスピードで落ちていることに気づいた。
「きゃああ!!」
驚きの中で必死に目を開くと、いつの間にか視界いっぱいに青空が広がっている。先ほどまであったたくさんの花を付けたこころの大樹も、花の妖精ももうどこにも居ない。眼下には大海原に浮かぶ一つの島が見えた。
とにかく、このまま落ち続けているのはまずい。プリキュアに変身できればここからでも十分着地できるだろうがここには頼りのアセピもココロパフュームもない。真っ逆さまに落ち続ける中花子は走馬灯と呼べる光景を目にした。賀茂家内の派閥争い、うっすらと覚えている母の顔、15歳の春に出会ったアセピ、2年に及ぶ伝説の戦士の使命、コウヤ博士の野望、みんなの心の花、こころの大樹、そして未来を誓う留のこと。
「私はまだ!留さんに何も伝えていない!まだ、死ぬわけにはいきません!!」
もし、まだ私がプリキュアになれるのなら!力を与えてほしいと花子は心の底から願い叫んだ。
「プリキュア オープンマイハート!!」
花子の願いがこころの大樹に捧げられ、合い言葉とともに花子の前にはココロパフュームが現れた。聖なる光包まれた花子はかつてと同じ花のパワーに包まれ、空中で美しいプリキュアの姿に変身した。
「山風に揺れる一輪の花 キュアオーラ!!」
久しぶりの変身であったが花子の身体はばっちり覚えていたらしく、落ちているさなかでもお決まりのポーズと決め台詞をきめてみせた。キュアオーラに変身したことで身体が軽くなり落ちる速度がゆっくりに感じる。アセピがともに居てくれれば妖精マントで空も飛べるようになるが、プリキュアになってもアセピは現れない。
「アセピー!どこにいるんですか-!」
キュアオーラがいくら呼びかけても花の妖精が答えることはなく、いよいよ島が近づいてきたため姿勢を直し、オーラバルーンにより出現した巨大な水風船によってなんとか着地した。2回ほどバルーンに跳ね返ったがハイジャンプからの攻撃はプリキュアの十八番なので華麗に地に足をつくことができた。
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花子が上陸した島は人里がない、無人島であった。プリキュアの力妖精マントでもう一度空を飛び島の端から端まで上から確認したので間違いない。
結局かつての相棒アセピも、こころの大樹も、新たな花の妖精も花子の前には現れなかった。しかし、花子にプリキュアに変身する力は戻っていてココロパフュームや本来花の妖精が持っているプリキュアの種もたしかに花子の手の中にある。プリキュアに選ばれたのなら、プリキュアの使命を全うしなくてはならない。
「こころの大樹を守り抜けば、また花の力で元の世界に戻してくれるはずです。きっと守り抜いてみせます…!!」
「さて、いったいどうしましょう。人が居ないとなるといつまでもここに居るわけにはいきません…。」
花子はおおよそ初めに上陸した位置まで戻っていた。見渡す限り、緑、緑、緑。しかしあたりにある植物は見覚えのないような木の実を付けていたり、かなりの年月を想像させる幹の太さだったり、森というよりジャングルと称するような場所だ。花子の困惑をよそに木々のざわめきや清らかな小鳥の歌声が花子の耳に届く。
また、奇妙なことに此処に戻ってくる途中数羽地に伏せる鳥を見かけた。よからぬ病気を持つ森の可能性も考えられるため、早々にこの島から脱出したい。
「おぉーい!大丈夫かー!」
無人島だと思っていたところに遠くから人の声がした。続けて話し声も聞こえてくるので、花子は声のほうへ向かった。
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「おう、全員いるな。」
「後続の運搬組も無事たどり着けると良いんだがな…。」
「向こうにはヘッセン商会の航海士がいるんだ。心配ないさ。」
浜辺には一クラス分ほどの老若男女が、暗い表情で帆船の周囲に座り込んでいた。テーマパーク以外で初めて本物を見た花子は物珍しさに帆船に目を奪われる。大きな帆が二つあり、しかし張っている帆も船体もかなり傷んでいる。どれほどの航海をしてきたのかはさだかではないが日本の電車や車を見慣れている花子にとってはあれに乗ってきたのかと驚きを与えた。
木の影から彼らをしばらく見ていたが、次の船を待っているのか誰も動こうとしないので花子は思いきって彼らに近づいてみた。
「あの、すみません。」
「あん?…な、誰だ!?」
なるべく静かに一番近くに立っていた中年の男性に声をかけたが、彼は花子を見ると大声を出してしまった。その場にいた全員の視線が花子に向く。
ここは木々が生い茂り凶暴な動物もあまりいないが、狭く近辺の大きな島につながる海流から外れているため無人島であったはず。命からがら海軍が来るまでの一時のためにようやくたどり着いた島に見知らぬ女がいることにある者は絶望しある者は殺気立つ。
「お、おまえ!なんでこの島にいる?!まさかやつらの仲間か!」
「待ってください。私は賀茂花子と申します。実は迷子になっていたので、人に会えて安心しました。」
「迷子ってなに?!」
「此処無人島だぞ!?」
「それでちょっと道を伺いたいのですが。」
「この子本物だ…。」
「まったく口を挟む余地がない。」
初めこそ警戒されたようだが、花子が丁寧に対応()するとすぐに彼らは花子のことを心配しだした。花子が着の身着のままであることや帆船を珍しがった様から、これはやんごとなき娘が心ない人々の事情に巻き込まれたのだと勝手に勘違いした。
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グランドラインの楽園に、一年中暖かい気候を保つ夏島ナウキョキョキャクという舌噛みそうな名前の島がある。名物は島を十字に流れるナウキョ川とキョキャク川の川べりで打ち上げられる圧巻の花火である。ワの国発祥と言われる「ナツマツリ」は毎日開催され三日に一度は見られる河上花火を目当てにたくさんの観光客が訪れるナウキョキョキャクはまたの名を花火島という。花火島から半日ほどでつく小島ニウキャキャは花火師達が暮らす平和な島だった。
「そのなうしかかく?島が海賊…に侵略されたのですね?」
「おまえ最初から言う気ないだろ。」
「ああ、ナウキョキョキャクは完全にやつらが乗っ取っちまったらしい。電伝虫で教えてくれた声も途切れちまって、たまたまニウの方に来ていたヘッセン商会の人たちとこの島まで逃げてきたんだ。」
ヘッセン商会は花火に使う大量の火薬を仕入れる仕事柄、腕の立つ航海士や用心棒も抱え込んでいる大商会で彼らのおかげで花火師達も海賊に襲われる前に逃げおおせることができたらしい。
ヘッセン会長たちが軍にも救援要請の連絡をしてくれているらしく、とりあえず軍が来るまでこの無人島に隠れることとなった。ヘッセン商会のもつ船のほうに荷物すべてを乗せてもらい自分たちを先に逃がしてくれたヘッセン会長にそれはそれは感謝する花火職人達。この場にいるのは花火一徹の権兵衛一家諸君とプリキュア出身のお嬢さん、ソレ騙されてネ?なんていう無粋者はいない。
「その海賊というのはいったい何なんですか?」
「ああ、おそらくだが、『凶賊のフーリガン』だ。」
曰く、大海賊時代の破壊者、目に付くものはすべて壊す凶賊、彼らが通る道には廃墟と残骸しか残らないかつて世界にその名を轟かす大海賊『世界の破壊者 ワールド』の後継者。
それが『凶賊のフーリガン』。フーリガンはその首に3億の懸賞金、副船長『術数のシュリード』は9000万をかけられ、凶賊団はトータルバウンティー5億に上る。かの大海賊は楽園で暴れ回る厄介者であった。力の無い一般人は為す術なく彼らの蛮行を許すことしかできず、海軍が討伐してくれるまで待つほかない。そして一昨昨日凶賊団は花火島に目を付けてしまった。
「嬢ちゃんはもうワールドをしらねぇだろうが、フーリガンはワールドよりやっかいな海賊ってもっぱらの噂だ。能力者っていう話もある。」
「能力者ってなんですか?」
「悪魔の実だよ。此処グランドラインでは話ぐらい聞いたことあるもんだと思うが、もしかしたら嬢ちゃん外の海から来たのか。」
『凶賊のフーリガン』の話も悪魔の実の話もなんなら海賊の話もピンときてない花子を見る花火師達の目は暖かい。また勝手に勘違いが加速した。
日本とはまったく変った常識に困惑する花子は、もしかしたらこころの大樹も一般的な存在かもしれないことを思いついた。悪魔の実とかあるし。
「私探しているものがあるんです。」
「捜し物か?まさか”本当の私☆”とか言わないよな。」
「おいおい家出とか言い出さないでくれよ。」
「家出、もしかしたらそうかもしれません…。」
「もしかしたら家出ってどういうことよ。」
「私、此処にはこころの大樹を探しに来たんです!!」
さきほどまで近づいていた花火師達と花子の心の距離が少し遠のいた。しかし、此処は偉大なる航路。何が起こるかわからない土地に生まれ育つ彼らは柔軟性を持っている。
「こころの大樹かぁ、なかなか忘れないような名前だが聞いたことねぇなぁ。何かの方言っていうことはないのか?」
「おれぁ、船大工のダチに宝樹の話は聞いたことあるぞ。」
「宝樹!その話詳しく聞かせてください!」
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「こっははは~!やはり島を潰した後の酒は特別だっは~!」
「そうでな船長!小賢しいヘッセン共も我らが凶賊団を騙そうとするなんて、余計なことをしなえば死なずにすんでな!!」
先刻、素晴らしい花火により栄え楽園でも有数の観光地の噂を聞き破壊衝動に駆られたフーリガンは凶賊団総勢580名を引き連れ花火島の栄華を破壊し尽くした。半世紀以上の刻をかけ作り上げたあえて屋根の低い町並みもナツマツリの屋台もそこで暮らす島民も客もすべて帰らぬものとなっていた。
バーンディ・ワールドが部下の裏切りにより投獄されワールド海賊団も壊滅した後、ただワールドに追いつこうとそこかしこで見境無く暴れるフーリガンにうまく取り入った『術数のシュリード』。彼がいるからこそ凶賊団はいまだに楽園で暴れ回ることができている。フーリガン一人では早々に海軍の小将以上が複数でかかればすぐにお縄となっていただろうが、シュリードの情報収集能力とフーリガンの悪魔の実の能力をむやみに吹聴しない姿勢が海軍の捕縛網の目をくぐらせた。今日まで参謀の座に腰を据える抜け目のないシュリードは支出なく本命の火薬を手に入れることができたためたいへん機嫌が良かった。当初の予定では花火島にフーリガンが興味を持ったことから彼には勝手に島で暴れてもらい、自身は3つの島を跨いでも名前を聞く大商人ヘッセンと有利な立場で交渉をするつもりであった。しかし、大商人と名高いヘッセンは商人魂か知らないがお得意先をも切り捨て自分たちの利益を優先した。その結果がフーリガンの前に積まれた人肉の山なのだが。彼の能力により原形もとどめずにいる死体がこのまま腐るのを待つ運命とはさすがのシュリードも哀れに思う。
「ニウキャキャにいた島民もヘッセンに言われるがままでいした食料も持でずに無人島に行って、海軍が来るのを待つでなんて馬鹿なやつらでな!」
「こっはは!ログがたまるまでここでゆっくりしても海軍は来ねぇだろだは!」
目当ての火薬も想定以上あったしそれ以外にも十分な商品がある。ログが溜まったら島を吹き飛ばし地図から消すのも一興などと凶賊団の宴は大盛り上がりだ。
沢越止…うっ!!あたまが!