エーリカ・ハルトマンのD-DAY~個人の戦闘力で戦争を終わらせる方法~   作:両生金魚

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エーリカ・ハルトマンのD-DAY~個人の戦闘力で戦闘を終わらせる方法~

「おぉ……神よ……」

 

ノルマルディア上陸作戦でとある合衆国歩兵の呟いた言葉

 

 

 海を覆い尽くす鉄の船。それらを支援する為に飛び立つ膨大な航空機の群れ。海岸から見れば海面よりも鋼の色が多く見えるであろう見る者に絶望を与える神話的な光景。海からの圧倒的な火力により、哀れな二線級の駐留部隊は即座に叩き潰される。その筈だった。

 

 

『汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ』

 

 オープンチャンネルで流されてきたのは、幼い少女の声。あまりにも戦場に似つかわしく無いその声色が、逆に奴の異常性を際立たせる。

 

『告げる。汝等は帝國の領域を侵犯している』

 

 そしてまた違う少女の声。帝國・戦場・少女。この三つから連想される名を、共和国将兵は骨髄まで知っている。それも、最悪な事に複数を。

 

『帝國の安寧を脅かし続ける諸国兵よ。汝等は何の道理が有りて我らが祖国を蹂躙せんとする?』

 

 三つ、三つだ。ラインで、そして広漠な東部戦線で紡がれる一つの警句が彼らの脳裏を過る。

 

 一人の少女の声を聞いたら死を覚悟しろ

 

 彼女らは死告天使。もしも狙われたなら命は無い。

 

 二人の少女の声を聞いたならば全滅を覚悟しろ

 

 彼女らは狡猾な狩人だ。個としての力は超絶。その上で恐るべき戦術で敵対者の尽くの上を行く。軍事的な全滅を事も無げに積み上げる。

 

 三人の少女の声を聞いたならば……神に祈れ

 

 そして、彼女らは数を増す事にその連携はより強固となる。塹壕も、要塞も、軍艦も、司令部も。彼女らに狙われた標的は尽くが灰燼と化した。

 

 知らないものが聞けば一笑に付すような伝説が身動きの取れない我々を狙っているとすればだ。将兵には、神に祈ること以外に何ができようか? 

 

『サラマンダー戦闘団長より、戦闘団各位。…汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ。ここが汝らの地獄門であると奴らに教育してやれ。』

 

 恐らく今この瞬間、この地は最も信仰心の篤い地であろうと生き残ってしまった兵は語った。

 

 

 

 どうもみなさま朝も早くからおはようございます、(わたくし)は帝国陸軍中佐の地位を頂いておりますエーリカ・ハルトマンと申します。第二次世界大戦中のドイツ空軍という中々ニッチな所がお好きな方なら何となくピンとくる名前でしょう。そう、エーリカとはエーリヒの女性名であります。前世は極東の島国で生まれ育ったのですが……ああいえ、所謂秋津島と呼ばれる場所ではありません。日本という別世界の島国で生まれ育ち、事故で死んでしまった所、なんとかの天照大御神様からこの世界に飛ばされてしまった日本人をフォローしてくれと頼まれまして、このドイツに似た帝国にて再び生を授かった次第であります。

 

 同郷からアブラハムが信仰する神――彼女が言うには存在X――に飛ばされてしまった被害者であるターニャ・デグレチャフとの出会いは士官学校に遡りまして、他にも将来はかの大英雄になるであろうハンナ・ルーデルとの出会いもあり、共に灰色の青春を過ごした挙げ句年端も行かぬ少女三人が戦争に放り込まれました。が、日頃の鍛錬と天照大御神様の御加護と戦友たちの尽力の下に何とかあのカエル食い共を叩きのめし、時代遅れの連中を蹴散らし、更に東から無尽蔵に湧いてくる共産主義者連中をひたすら磨り潰す事が出来ました。そして今、目の前には世界を引っ掻き回す二枚舌の紳士を名乗る外道共と海を隔てた大陸で金儲けだけを考えてる連中とそのおまけの軍勢が、堂々と我がライヒの領海に居座っています。見た感じ史実ノルマンディーより遥に多い数に思えるのですが、やはりWW1が無かった分余裕があるのでしょうかね?

 

「ハルトマン中佐! それにルーデル中佐! 間もなく敵中に突入します!」

 

 おっと、そんな事を考えていたらパイロットから上ずった声が届きました。どうやらこんな物に乗る流石の彼もこの数には思うところが有るのでしょうね。

 

「了解です、進路そのまま。ぶつからない様にだけ気をつけて」

 

「それじゃ張り切っていこうかガーデルマン!」

 

「アイアイマム!」

 

 返事と共にこころなしか身体にかかるGが強くなった気がしました。今私とハンナが乗っているのは超高速戦闘輸送機、通称サジタリウスと言いどこぞのマッドサイエンティストが開発した双発ジェット機なのです。兎に角速さが重視された機体で旋回性能だの航続距離は二の次ですが、速さだけがこの時代を置き去りにしたオーバースペックな機体です。

 

「よーし、じゃあ早速始めるよ!」

 

「ええ、残らず叩き落としてやりましょう」

 

 そう言うと、私もハンナも術式を起動させます。この機体に武装は搭載されていません。なぜなら、私達という最強にして最軽量の武装を運ぶから。……言っててちょっと恥ずかしいですが、事実私達のためだけに巨額の開発費用が投じられて作られてしまったのですよね、これが。

 

 

 

 その光景は正しく悪夢であった。

 

「高速の飛翔体、接近!」

 

「数は!?」

 

「反応、一つだけです!」

 

 その一つだけという言葉を聞き、一部の合衆国の将校は恐怖した。ひょっとすると帝国はもうあの神の火を手に入れたのかと。結論を言えば、彼らの心配は杞憂であった。ただし、与えて来るものは同じく死と絶望であった。

 こちらの大規模な航空編隊の中央を突っ切るようにやって来たその飛翔物は、前後左右に縦横無尽に美しい光を解き放ち、そのどれもが炎の華を咲かせた。

 

「ま、魔導反応確認! 三姉妹の内、二人があの機体に乗り込んでいる模様!」

 

「なんだとっ!?」

 

 三姉妹と聞いて畏れを抱かぬ連合国の将兵は誰も居ない。彼女らに骸にされた帝国の敵は数知れず。それ故に、彼女らが居ない時を狙ったのだ。それなのに

 

「ど、どういう訳だ貴様っ!!!」

 

 情報将校が詰め寄られているが、当然だ。奴らが太鼓判を押したからこそ、この作戦が決行されたのに。こうしている間にも、空では戦闘機・爆撃機・輸送機問わずあらゆる機体がスクラップと化し鉄屑と燃料をばら撒いている。

 

「迎撃は出来んのか!」

 

「無理です! 速すぎてどの機体も追いつけません! 対魔導対空砲も照準を付けられません!」

 

 それは事実上、航空戦力を見殺しにするしか無いという救いようの無い現実。だが、彼らに訪れる試練はこれだけでは無かった。先行した魔導師団が制圧のために向かった先、そこには三姉妹最後の一人と悪魔の二個増強大隊が待ち構えていたのだ。幾ら奴らでもこの数をぶつければという、希望的……いや、楽観的過ぎる考えは、早々に打ち砕かれた。CQに飛び込んでくる通信は、悲鳴、悲鳴、悲鳴、そして断末魔。絶望だけが、目の前に存在した。

 

 

 

 潮と鉄と燃料と火薬の香り漂う海辺からこんにちは、こちらターニャ・デグレチャフ中佐です。存在Xという不愉快な存在からこんな世界に放り込まれて、何の因果かD-DAYを真っ向から受け止める立場になりました。空ではハンナとエーリカが楽しく大輪の花を咲かせていますが、私だけこんな所に配置というのは何かのイジメでしょうか。いや私があそこに行ってもあそこまでの戦果が出せないのは分かっているのですが、全くどうしてこうなった……。

 

 と、自嘲するターニャの横には副官のセレブリャコーフ中尉が、そしてその後ろには精鋭の二個増強大隊が揃っている。本当は三姉妹に一個増強大隊ずつ持たせたかったが、基準をやや甘めにして育てることにしても流石に数が足りなかった模様。だがどいつもこいつも他国のネームドクラスの猛者な上に更に地上には精鋭だけで揃えたサラマンダー戦闘団まで控えている。

 正面から大量の敵魔導師がやって来るが、大隊連中が意気揚々と狩っていく。魔力技量共に敵とは隔絶している。目下の上陸艇も次々と血で染め上げられて戦車はただの障害物と化した。後片付けするのはこちらなんだぞと益も無いことを考えつつ、ターニャも次々と敵を屠り続ける。軍事学上は避けるべき多数の敵を相手に正面から少数で戦うという事態に、最早慣れきっていたのだ。

 

「ああ、始まったか」

 

 空から響く爆発音が消え、艦隊の方を探ってみれば空から一直線に降下してくる魔導反応が二つ。どうやら航空機は粗方片付けたらしい。

 

「中佐、あれは……」

 

「ああ、エーリカとハンナだ。まったく、連合国及び合衆国将兵には同情するよ」

 

 自分なら絶対に戦いたくないとの呟きに、副官は深々と頷いた。

 

 

 空から落ちてきた二人の魔導師は二手に分かれた。片方の魔術師は貫通術式を起動すると、真上から空母を貫き大爆発を起こさせる。それだけでも、あらゆる軍人の常識が揺らぐ光景だ。

 

 だが、もう一人の姉妹は更に恐るべき光景を現出させていた。背負っていた秋津島刀を抜刀すると、それを媒体に魔力を這わせ刀身を身長の何十倍にも伸ばし、振り上げる。

 

「届けっ! 雲耀の彼方までっ! はぁああああああああああああああああっ!」

 

 水平線の彼方まで届くような叫びと共に振り下ろされた剣は、戦艦を真っ二つに()()()()()。あまりに現実離れした光景に、選良であれと教育された高級士官達ですら、その思考が停止する。必死の対空砲火をあざ笑うようにすり抜け、あるいは弾き飛ばし、次々と船が狙われていく。戦艦が、空母が、巡洋艦が、駆逐艦が、次々と爆発、または輪切りにされ沈んでいく、黙示録の様な救いの無い光景。現代文明の叡智全てが魔導に蹂躙されていく様は、神の許の平等を虚ろにした我々への罰の様にも思える。十字架を首から提げている者は知らず知らずの内に手を取り、持たざる不信心者は必死に何度も十字を切る。

 

「おぉ……神よ……どうか我らを救い給え……」

 

 それは、誰が呟いたのか。この光景を見た連合全ての将兵が思ったことか。ここはノルマルディア。今、世界で最も信仰の篤き地である。

 

 今日、この日だけで数千の戦闘艇、万を超える航空機、そして十数万の将兵の命が露と消えた。その報は世界を駆け巡り、それを聞いた全ての指導者がしばし現実を理解できなかった。そして正気に戻った時、連合王国首脳部は恐慌状態に陥った。合衆国では、あまりの損害と1セントの利益も手に入らなかった事から厭戦・反戦感情が爆発し、次期の民主党の当選は絶望的となった。そして連邦ではすり減らされ続けてきた人口と国力が、限界に達しようとしていて、世界中で神に祈る者が増えた。

 

 

 今の、そして未来の歴史家は語る。これは少女三人が終わらせた戦争であると。




幼女戦記は神様転生オリ主が居ても物量に押し潰された物語だけどその物量を蹂躙できる存在が居たらヤバイよねと思って書いてみた。特に反省はしていない。

以下補足

【エーリカ・ハルトマン】
元ネタは撃墜王エーリヒ・ハルトマン。中身は元日本人。天照様よりターニャのフォローに送られた転生者。天照様の加護を授かっているが流石に極東の島国の神の力を借りているというのを公言するのは無茶苦茶にまずいので「我らの慈母よ」と祈りの言葉を唱えている。
三姉妹の内空対空戦闘を得意として最新鋭の戦闘機や戦略爆撃機にすら追いつく速力を持つ。帝国の決戦兵器扱いの内の一人。
なお背負っている刀は秋津島留学の時に導かれて見つけた刀。エーリカの死後国宝として祀られ世界一有名な宝刀になっているが合衆国やら連合国やら共和国の人間からのテロの標的として幾度も狙われる。が、不思議な事に至近距離からの爆破に晒されても傷一つ無かったという。

【ハンナ・ルーデル】
ご存知ルーデルの少女バージョン。勿論他のお方の二次創作に影響されました。得意分野は空対地。東部戦線では既に一人で何十個師団も全滅判定を与えておりお陰で赤い軍勢の士気はどん底で三姉妹の内一人の反応が出ただけでもう前線が崩壊する始末。帝国軍の決戦兵器のうちの一人。

【ターニャ・デグレチャフ】
元ネタ幼女戦記の主人公にして元サラリーマン。存在Xを恨んでいるが、天照様には感謝している。しかしもう少し早く助けてほしかったと思うのは仕方ない事か。
本人はシカゴ学派と言う数値至上主義の考えを持っているがそれを実践できるのはあまりに少数の人間だけだとエーリカ・ハンナの二人から度々軌道修正を受ける。非合理に揉まれ続けて最近はアニメ版並には人の感情が分かってきた模様。
直接戦闘力は他二人に劣るが指揮能力は神がかっている。特に魔導大隊やサラマンダー戦闘団を率いた戦闘能力は他の追随を許さない。

【超高速戦闘輸送機・サジタリウス】
例のマッドサイエンティスト作。エーリカとハンナの二人をいざという時に届けられたら即応戦力として最強じゃね?との発想が何処から出されて満場一致で開発が承認された。
パイロットとエーリカ・ハンナの三人乗りを前提に開発され、とりあえずひたすら速くする事に主眼が置かれた機体。最高時速940Kmであり他の追随を許さない。
武装は?→あの二人なら大丈夫だろ。
脱出装置は?→あの二人なら放り出しても大丈夫だろ。
と完全に個人の能力に依存している機体だがその二人が見事に要求に応えるもんだから困ったもんである。

【ゼートゥーア中将】
度重なる戦争に疲弊しつつも勝って勝って勝ち続ける戦争に実は楽しくて仕方がなかったりする。三人娘が持ってくる様々な理論を読むのも楽しい。
【ルーデドルフ中将】
上に同じ。孫娘の様な三人娘がかわいくて仕方ないらしい。三人がいる時は常に参謀本部にチョコやら牛乳が取り置きしてある。
【レルゲン大佐】
相変わらず胃が痛いがエーリカがフォローしてくれてるので原作よりはマシ……と思いきや政治家連中のお陰で原作より胃がヤバい。最近コンラート参事官と言う仕事上のパートナー兼心の友が出来た。
【ウーガ中佐】
原作同様裏方調整に大活躍。三人娘のお陰で原作より余裕が有る。
【ドクトル】
どんな無茶振りしてもどんな発明をしてもちゃんと動いて爆発さえしなければ生き残る三人娘(主に二人)のお陰で楽しくて楽しくて仕方がない。実はしばしエーリカからアイディアを貰っていると聞いたらターニャが助走をつけて殴りに行きそうなのでそれは話さない。
【連合王国の宰相】
毛が全部抜けた
【合衆国の大統領】
支持率急落。民主党の支持率も急落
【合衆国のお金持ちの皆様】
株価がナイアガラの滝。ついでにどこぞの未来を知ってる少女の合法インサイダー取引によりあらゆる財産を毟られる運命
【東のおじさん】
クーデター一歩手前
【ペド野郎】
残酷な運命5秒前
【後の秋津島】
三姉妹が大人気キャラになる。某運命作品で全員★5だったり履いてないアニメでも大エース扱い。例の刀は最も有名な刀になって擬人化されても一番人気となった。三姉妹+αのカップリング論争は永遠に決着が付きそうにない。
【存在X】
信仰が集まって大変満足と思ってたら天照にしばかれた

好評だったら他の戦線や内地での話も書いてみようか……

見てみたい話の傾向としては

  • ライン戦線での伝説の始まり
  • 東部戦線での死神部隊
  • 戦後、【三姉妹ショック】の狂乱
  • 後方やら政治家達やらの戦争の裏側
  • サラマンダー戦闘団や203部隊のあれこれ
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