雷霆英蒼   作:神月奈無瀬

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ガンヴォルトは良いぞ、気軽に辛くなれるから。


1.白兎

『ヴヴォオオオオオオオオ!!!』

 

「うわあああああああぁぁ!!!」

 

 拝啓、大好きなおじいちゃん。僕、ベル・クラネルは今、生死の境目を彷徨っています。

 

 後ろから迫る牛頭の怪物『ミノタウロス』に、今僕の手に握られているナイフの刃は通らない。それはズボンのポケットに入れた切り札も同じ事だし、そもそも恩恵を得たばかりの僕では太刀打ちが出来ないどころか、既に命は風前の灯火と言っても過言では無い。

 

 安全装置も無い、神様に禁止されている事も踏まえた僕は、迷宮の中でミノタウロスと命懸けの鬼ごっこに勤しんでいた。

 

 おじいちゃんは、今の僕を見たらどんな反応をするだろう。師匠達なら、今の僕と同じ状況に立たされてどんな行動を選ぶだろう。そんなどうでもいいような現実逃避ばかりが脳裏を掠めるが、どうやらやはり現実は無情らしい。

 

『ヴゥムゥン!』

 

「っ、って!」

 

 ミノタウロスが足を地面に叩きつけ、その勢いで足元の岩までが砕け散る。咄嗟に跳ねるように駆け出した足はそのまま壁を蹴り、地に戻り、また壁を蹴り、天井を逆さに踏み切り、地に戻って歩を進める。直線的だった逃走が三次元の動きになると、困惑か衝撃か、ミノタウロスとの距離が開いた。

 

「このまま行けば……!?」

 

 だが、現実というものは実に非情だ。洞窟中を勢いのままに跳ね回っていた僕の視界には、一面の壁が映る。迷宮にはありきたりな、行き止まりに来てしまったらしい。

 

 思わず壁を蹴っていた足を地に降ろしてしまう。そのまま勢いは死に、僕は結局、逃げ場を失いどうにかする手段も無い、哀れな兎のようになってしまった。

 

『ヴヴォオオオオオオオオ!!!』

 

 再び、牛頭が大きな叫び声を上げる。刹那の内に感じる明確な死のイメージ。即座にフラッシュバックする14年分の記憶。その最後に映ったのが瞳をキラキラと輝かせながら冒険者登録書にサインを書き上げてしまった瞬間の光景だった。

 

 終わった。そう理解した瞬間、

 

 

 

 陽光無き地下迷宮に、一陣の風が吹きすさんだ。

 

 

 

 瞬く間にミノタウロスの特徴的な牛頭が宙を舞う。視界を赤が覆いつくそうとしたので、再び地を蹴り壁を蹴り、動かぬ姿となった怪物の横を抜けて行く。恐怖で竦んだ足は、そのまま僕を迷宮の入り口まで運んで行った。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「大じょ……アレ?」

 

 

 

「なんだぁ……今の……?」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「神様―!戻りましたー!」

 

 迷宮から弾かれるように飛び出した僕はその後迷宮に戻る気も起きず、少ない数の戦利品の換金だけを済ませ拠点である寂れた教会の地下へと帰ってきていた。

 

「おー!おかえりベル君!今日はどうだったんだい?少し帰りが早いような気もするけど」

 

 声を返してくれたのは現在僕だけが所属するファミリアの主にして神であるヘスティア様。現在、アルバイター。今日は仕事が休みだと言っていたので、大方だらだらと過ごしていたのだろう。

 

「ちょっとダンジョンで死にかけまして……」

 

「おいおい、キミがそんな事を言うなんて珍しいじゃないか。ペンダントは持ってなかったのかい?」

 

「丁度ここに置いてっちゃっていました……」

 

 僕が教会らしく自分の罪を懺悔すると、神様は溜め息を吐いて言葉を返した。

 

「勘弁してくれよ、ベル君。僕はキミに死なれたらかなりのショックで一晩中寝込んでしまうかもしれないよ?」

 

 冗談めかしく言葉を紡ぐ神様に、僕は思わず笑ってしまって、

 

「流石にそう簡単に死にたくはありませんよ。次からはちゃんと気をつけます!」

 

と、あの時の恐怖を振り払って告げた。

 

「おう、期待してるぜ!そうだ、折角だし、夕食の前に【ステイタス】の更新を終わらせてしまおうか」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 【ステイタス】とは、神の【恩恵】の一つで、僕達【眷属】の力、技を可視化したもの。冒険者の背中に刻まれた、神との契約の証明でもある。

 

 僕はその場で上に来ていた服を脱ぎ、背中を晒してベッドに飛び込む。すると僕の上に乗った神様が、そっと【ステイタス】の更新を始める。僕の魂に蓄積された【経験値】が何となくあったかくなり、背中に翼でも生えるかのように体が軽くなるのを感じる。

 

「よし、終わりだよ。キミにとって、今日の冒険は良いモノだったんじゃないか?ステイタスが応えているみたいだよ」

 

「ありがとうございます。伸びが良いのは、なんだか凄く嬉しいです」

 

 そんな茶々入れに声を返しつつ、神様がくれた羊皮紙を眺める。羊皮紙には確かに成長を実感させるほどに伸びた【アビリティ】と、神様に【恩恵】を貰うよりも前から僕の力だったモノが【スキル】となって顕在化している事実が刻まれていた。

 

「まったく……レアスキルは諸刃の剣だ。扱いには本気で気をつけてくれよ?」

 

「わかってますよ」

 

 僕の物語に序章を置くなら、多分ここがそうなのだろう。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:I91 耐久:I9 器用:H102 敏捷:H179 魔力:I0

 

 

 

≪魔法≫

 

【】

 

≪スキル≫

 

雷霆英蒼(アームドブルー)

 

・電子を操る。

 

・『謡精』の加護下で性能向上。

 

・言葉を紡ぐ事によるコントロールが可能。

 

 




隠す力は龍の顎の如く。
晒す技は虎の爪の如く。
二人の師を背に、白兎の物語は紡ぎ出される。


逃げる姿は兎のように綺麗なブリッツダッシュ擬きを熟したようです。
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