無人の暗闇を駆ける少年、彼を照らすは雷光のみ。
暁光が彼を包む時、その心の奥に意志が宿る。
「歌、お上手なんですね。」
結局、僕は彼女達の歌を三曲ほど歌い上げ、『豊饒の女主人』は一層の盛り上がりを見せていた。シルさんは、僕が改めて食事を楽しもうと席に座りなおしたところで、エプロンを外して僕の隣に座って話を切り出したのだ。女将さん――ミアさんの方を向くと、どうやら彼女がここにいる事は問題ないようだ。
「ありがとうございます。多分、先生が良かったんだと思います。」
「先生、ですか?」
「はい、僕に戦い方を教えてくれた人がいたんですけど、その人といつも一緒にいた女の人が、僕に歌い方を教えてくれたんです。」
思い返す、激動の日々。初めは、一音でも外すと飛んでくるローキックと矯正のための指導が怖く、緊張でガチガチになりながらも始動されていたな、特に彼女が師匠と喧嘩した日には八つ当たりのように厳しくなって、その前後の師匠との訓練がすこし優しくなったな、なんて。ある日の風景を思い出しながら、とりあえず目の前に届いたパスタにあり付く。うん、ミートソース美味しい。
「初めて聞く曲でしたけど、その先生?さんは歌手なんですか?」
「どうでしょう。一応、昔は歌でお金を貰ってた事もあったらしいですよ?」
実際、僕とおじいちゃんと会うまでの間、彼らはそうやって村々を渡り歩いていたらしい。
「本当、自慢の人達です。」
「ふふっ、少し羨ましいです。」
そんな、当たり障りない話の中だった。
「ミア母ちゃーん、来たでー!」
店内に響いた声は、大きな癖のある発音。入口から押し入るように入ってきた女性の後ろから、見目麗しい男女の集団がぞろぞろとついてきた。
「アレは……確か、【ロキ・ファミリア】ですか?」
「ええ。彼らは、ウチの常連なんです。騒がしくなってしまって、申し訳ございません。」
食事に舌鼓を打ちつつ、店内に入ってきた彼らの姿を目で捉える。どうやら相当な大所帯で訪れたらしく、メンバーの一部と思しき人達は外の席に案内されていた。ホント、一流は違うんだな……。
「いやいや、全然!僕は気にしませんよ。……ただ、少し。」
「少し?」
思い返すのは、昨日のダンジョンで出会ったミノタウロス。それと、身体を撫でた突風と、薄暗いダンジョンには似合わない金の髪。店内に残った【ロキ・ファミリア】の面々を見渡せば、まだ脳裏に残るあの金色がそこに居た。
「……いや、何でもありません。気にしないでください。」
「はぁ……?」
とりあえず、今のところ、気にする事は無いのだ。あのイレギュラーだって、特に大きな被害は無かったとエイナさんも言っていたし。無関係、僕は無関係……。
考えを止める為に、手元のグラスを一気に煽る。うん、美味しい。
※※※
「おい、アイズ!あの話を聞かせてやれよ!」
それは、唐突に訪れた。
口を開いたのは、【ロキ・ファミリア】のメンバーの一人、狼人の男。アレは確か、『ベート・ローガ』、Lv.5。今日、ダンジョンに行く前にエイナさんから聞いた情報だと、二つ名は『凶狼』だったはず。何か聞けるかもしれない、と僕は聞き耳を立てた。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あの時いた、白い腰抜け野郎の!」
聞こうとしなければよかった。瞬時に自分の行動を後悔した。
「ミノタウロスって、17階層で襲い掛かってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げていった?」
「それそれ!奇跡みたいにどんどん上へ上がっていってよっ、俺達が泡食って追いかけていった奴!」
フォークを握る力が強くなる。もしかしたら、いや間違いなく隣のシルさんには僕の反応で気づかれるかもしれないけど、そんな事を構う余裕は無い。
「それでよ、いたんだよ!いかにも駆け出しっていうひょろくせえガキが!」
これは、僕の事だ。弱い僕の醜態だ。
「驚いたんだぜ?ミノのやつ、急にどっかへ一心不乱に行ったと思ったら、正規ルートから外れたところで白い髪のガキが壁際で腰抜かしててよ!この世の終わりみたいな顔して、目まで瞑り出してやがんの!」
正直、これ以上聞きたくなかった。
「ふむぅ?それで、その冒険者どうしたん?助かったん?」
「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」
僕にとっては、ただの不幸な出会いの一つ、或いは生死を賭けた決死行だったとしても。
彼らにとってそれは、ただの酒の肴にしかならないのだろう。
「それでそいつ、ミノが切られるや否や、すぐにその場から逃げ出しちまってよ!アイズなんか、声を掛ける間も無くいなくなっちまったんだぜ?うちのお姫様、助けた相手にスルーされてやんのっ!」
店内のいたるところから、笑いを必死に堪えるような声が聞こえてくる。いっそう、手に力が籠っていく。
「アハハハハハハッ、そりゃ確かに笑い話やぁ!冒険者に怖がられてまうアイズたんマジ萌えー!」
そしてその含み笑いも、神ロキの爆笑を皮切りに、隠されないモノになった。店中に響く笑い声。耐えがたいその声に限界だった僕は、ヴァリス硬貨の入った袋をカウンターにおいて、「ごちそうさまでした。」の一言だけ添えて走り出した。
シルさんが大慌てで呼んでくるけど気にしない。一心不乱に店を飛び出す。
「あんな魔物に怖気づくような臆病者に、冒険者なんて向いてねぇ。」
店を出る寸前、背後から聞こえてきた声が僕の胸にストンと落ちた。
※※※
走る、走る、走り続ける。
行き先なんて決めてない。そもそも行き先を決める程この街に詳しくもない。故に、その足は自然とダンジョンの入口まで僕を運んでいた。
「……。」
懐にはナイフが一つ、首にはだいじなペンダント。ズボンのポケットには、いつも通り釘が数本。大丈夫、問題無い。僕はそのまま、ダンジョンの中へ駆け込んでいく。
深夜という事もあり、中に冒険者がいる様子は無かった。しめた、と思いそのままダンジョンの奥を目指して駆け抜ける。魔物が次々と現れるが、即座に首を撥ね、心臓を突き、魔石を穿つ。次第に速さが足りなくなってきたので、体中を流れる電流を加速させ、無理矢理速く体を動かす。体が奥から炙られるような熱さと痛みに支配されるが、その程度の事は気にせず敵を屠る。僅かな理性が一応魔石を拾い集める。
4階層を超えた辺りで敵の数に手数が間に合わなくなってきたので、ポケットから釘を取り出して投げつける。
「迸れ、
叫び声と共に雷撃鱗を放つ。自らを起点として雷が空中を走り抜け、たちまち投げつけた釘に吸い込まれる。当たった敵はジリジリと身を焦がし、灰に変わっていく。
釘には僕の髪の毛を巻き付けてある。師匠曰く、こうして打ち込んでから髪の毛に狙いを付ければ、確実に敵を内側から痛めつけれるらしい。僕は言われた事を思い出しながら、目についた敵から雷撃の餌食にしていく。
誰もいない迷宮の中、暗闇を青白い光が一角を彩る。それは、夜明けまで続いたという。
※※※
結局、釘と魔石を集め、誰も見かけぬままに深夜の迷宮探索は終了した。人に見られてはいけないからと、まだ朝焼けの始まらない街中を、身体に雷撃を流す事で意識を保ちながら駆け抜ける。
廃教会の前までくると、そこにはヘスティア様が待っていた。
「ベル君!?一体こんな時間までどうしたっていうんだい!?」
平和な街へ帰って来た安心感から体の力が抜けていく。膝から崩れ落ちる体をヘスティア様に支えられながら、僕は願いを口にした。
「神様、僕は強くなりたいです。強くなって、誰かを守れるように……。」
そこで、僕は意識を手放した。
「君は、やっぱり男の子だよ、ベル君。キミが望むなら、僕は親として精一杯やってやるよ。」
※※※
ベル・クラネル
Lv.1
力:I91→G214 耐久:I9→H157 器用:H102→G243 敏捷:H179→F306 魔力:I0
≪魔法≫
【】
≪スキル≫
【
・電子を操る。
・『謡精』の加護下で性能向上。
・言葉を紡ぐ事によるコントロールが可能。
・スキルを行使する程、早熟する。
凍結都市のGVに消し炭にされたり、
中村と外村にキレたりしてたら(別ゲー)
遅くなりました。
次は、頑張って、もっと早く書きます。
あ、ちなみに耐久の伸びが良いのは、単に体内に雷流を流して動きを加速させているからです。
肉体が、その負荷に耐えようとしているだけの、当然の事なのです。