「ロシアに亡命しなきゃ」と言って聞かない妹を追って船に乗ると
遭難して無人島に流れ着いてしまった。
住むにはそこそこ環境の整ったこの島、こいしとの再会を果たすと
この島を出るためにあれこれと方法を模索することに。
私達は日本に、幻想郷に帰る事ができるのか…。
私、少女さとりは人の心を読む妖怪である。旧地獄にある地霊殿という屋敷の主をやっていたが、「ロシアに亡命しなきゃ」と言って聞かない私の妹、こいしを追って船に乗り込んだが難破してしまった。
どれほど長い間気を失っていたのか、気が付くと波打ち際に放り出されていた。奇跡的にも怪我はない。少しせき込んだ。思考が正常に作動しだすと、妹の事を思い出してあたりを探し出した。彼女は私の大切な妹なのだ。きっと浜に打ち上げられているに違いない。
もう島を半周ほどしただろうか。姿が見当たらない。私は次第に焦燥感に駆られた。ひょっとしてあの冷たい海の中に沈んでいやしないだろうか。見つからないのではないだろうか。時間の経過、歩いた距離と共にその不安はどんどんと私の中で膨らんでいった。
やがて一周する頃、私は少し離れた所で妹を発見した。案外、私が倒れた所から離れていなかった。私は真逆の方向に歩いていたようだった。ホッと胸をなでおろす。
私は洋ゲーでたまに見る死んだ敵mobの様なアバンギャルドポーズで気を失っている妹を揺さぶった。
「…お姉ちゃん?」
「良かった、もう目を覚まさないかと思った」
こいしは半身を起こして大きく背伸びをすると、あたりを見回す。
「ここはウラジオストク?」
「こいし、よく聞いて。さっきオーストラリア観光のパンフレットを見つけたの」
こいしは何をどうしてロシアに向かおうとしてオーストラリアの方に向かう船に乗ってしまったのか…。それは分からない。でも、今はそれは重要ではない気がした。島はそれほど大きくない。一周した中では島民に会う事はなかった。
浜には数日は食いつなげそうな保存性の高い食料と水、老朽化が進んだ小型の漁船があった。船は長らく使った様子がなく、所有者は既にいないものと思われる。
時計がないので具体的な時間は分からないが、もう午後は回っているだろう。島を探索したいがまずは寝床を探さなきゃいけない。船が寝床として使えるかどうかを確認しなければならない。こいしと共に食料を船に運んだ。
見た目は今にも床が抜けたり触れただけで壊れそうだが、案外と作りは頑丈だった。人の死体はなかった。この船は一体どうしてこんなところにあるんだろう。そこそこ狭いが他の部屋より比較的にきれいで寝床に仕えそうな一室に食料を置いた。
「ここ、無人島なのかな…」
1周した時に建造物などを見かけなかった。舗装された大きな道も。
「お金持ちの別荘があったりしてね」
こいしケタケタと笑っている。
ここでじっとしていても仕方がないので、島を探索に出かけた。最近読んでるミステリー本に花言葉や花や実による毒殺のトリックが出てきてから興味が出て植物に関する本を読んでいた事もあり、食べられるものと食べられないものの見分けが多少はついた。
驚いたのは、独自の進化を遂げた鳥が大量にいる事だった。彼らは警戒心が薄く、興味本位で近づいては周りをうろついたりしていた。体は大きく太っている。愛らしいフォルムではあるが…貴重なたんぱく源だ。
飲用としても扱えそうな水源も発見した。島民はまるで見かけなかったし、人工物らしいものも見つからなかったがしばらく暮らしていく事はできそうだ。
「不幸中の幸いね。こんなに環境に恵まれた島に流されるなんて」
「もうここに住んじゃおうよ」
「だーめ、私達には帰るべき家があるんだから」
今、地霊殿では私たちの家族が待っているのだ。いちはやくここから帰る方法を見つけ出さなければならない。そして妹も守らなきゃいけない。私はこの無人島からの脱出を心に決めた。
その日の夜を迎えた。迷子になった時のために渡しておいた携帯電話を服の中に首からかけていた事が判明。私の携帯電話は壊れてしまっているが、こいしの携帯電話は生きていた。
この携帯電話、実は人間の里にいる時に知り合いの鴉天狗から貰った。「携帯電話は天狗の里で生まれました。カッパの発明品じゃありません。我が種族のオリジナルです。しばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です」とどこかで聞いた様な営業トークを聞かされ最新モデルをお勧めされた。
私の携帯はつい最近買ったばかりだと言うと、私の妹に持たせるべきだと提案して来たのだ。更に、タダでくれると言う。何か裏がありそうで怖かったが、自費で払うには中々躊躇われる値段。心が揺らいだ。
結局折れて携帯電話を貰い、妹に装備させていた。未だに何が狙いなのか分からず怖いが、性能は本物の様だ。
私はこいしから携帯を受け取ると、未開封のメールが大量に届いてる事に気付いた。私からのメールも含まれている。こいし、読んでよ…。
にしても私以外に誰とアドレス交換したんだろう。…例の鴉天狗からだった。
『こいしさん、私とオオバコ相撲しませんか?』
『ニシローランドゴリラの学名知ってますか?ゴリラゴリラゴリラなんですよ。んふふ』
『この間、二枚貝の家にある醤油の中身をコーラとすり替えて来ました。今夜のご飯は豚カツらしいです』
あの鴉天狗、うちの妹に何送ってるんだ。
電波は…繋がってる!残量もある。自宅に電話しようかな。私は鴉天狗に『うちの妹に変なメール送らないでください』とメール打ってから自宅に電話した。しばらくすると応答があった。お燐だ。
『もしもし、こちら地霊殿です』
「もしもし、お燐?私よ」
『さとり様?もう、連絡もなくいなくならないでくださいよ!心配したんですよ?』
「ごめんなさいね。ちょっと訳あってしばらくそっちに帰れないの。こいしも一緒よ。しばらく地霊殿を空ける事になるけど、2人で上手くやってちょうだいね」
『わかりました。できるだけ早く帰って来てくださいね』
「うん、分かってる」
まだもう少し話していたい気持ちはあったが、今は電池を温存しておかなければならない。後ろ髪引かれる思いで電話を切った。辺りは暗くなって良く見えない。そろそろ寝なければならない。幸い、この島の夜は想像してたよりは冷えなかった。
しかし、掛布団がないので冷える。
私はくしゃみをした。
「お姉ちゃん、寒いの?」
「ええ、まあちょっと」
布を擦る音が聞こえると、こいしが私を抱き寄せた。驚いた、こいしがこんな事するだなんて。温かい。私よりもこいしの方が体温は高いんだ。私も彼女の腰に手をまわした。
「これでもう寒くないね」
「うん」
ああ…懐かしい。今よりもっともっと幼い頃はこうして寝ていたかもしれない。なのに、いつの日かもう一緒に寝る事がなくなって。心のどこかで少し寂しかった。
夜が明ければ寝る時のための掛布団の代わりになりそうなものを見つけなければならない。しかし、もしこうしている事ができるのなら…なくてもいいかな、なんて思ったりもした。
今だけは、こいしが私の心を読めなくて嬉しいなんて思った。こんな事、もし聞かれたりしたら恥ずかしい物ね。ふふ。
「お姉ちゃん、何笑ってるのさ」
「いや、別に」
「変なお姉ちゃん」
こうして無人島生活1日目が終了した。明日は何して過ごそう。浜辺にSOSの文字でも書いてみようか。島の探索も終わってない。そっちをやってみてもいいかもしれない。段々と眠くなってきた。おやすみ…。